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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第87章 馬車の旅路編

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第2135話 馬車での旅路 ――申請――

 アストレア家からの依頼を終えてマクスウェルへと帰還したカイト。そんな彼はアストレア家からの帰路でのソラとのやり取りを受け、ひとまず皇都の中央研究所の大実験場を借り受ける手はずを整える。

 それも終わらせ更に一通りの仕事を終わらせた彼は瞬の所へ赴くと、ルーファウス、リィルらと模擬戦をしていた瞬と僅かな模擬戦を繰り広げる事になっていた。そうして、模擬戦の後。カイトは少しの間他のギルドメンバー達との間で試合を行うと、再び執務室に戻って仕事に取り掛かっていた。


「ふーん……お前の所にもやっぱりリデル家からの招待状が届いていたのか」

『とーぜんじゃろ。余と灯里殿の二名にのう』

「灯里さんにもか……まぁ、当然っちゃ当然か」


 現状、冒険部の技術班こと研究班のトップは学生側のトップがティナ、それら全てを取りまとめるのが灯里となっている。なので彼女らにコンベンションへの招待状が来ていても不思議はなかった。


『で、何じゃ。お主がそれを言うという事は、お主にも来たのか』

「いや、来たってか来る。リデル家ってかイリスが出すとの事だ」

『まぁ、必要っちゃ必要かのう』


 確かにカイトとの関わりを持っておかねばならないのは、現在五つの公爵家にとって必須と言える。というわけで、現状はその繋がり作りに余念がない。それについてはティナもわかっており、必要な事と認めていた。


「しゃーない。とりあえずそっちについちゃ行くしかない……で、一応先に聞いておきたいんだけど、何か見繕ってるのか?」

『今のとこは無いのう。そもそも、ウチは自分の所で作っておるからのう』

「まぁ、そこばっかりはなぁ……」


 こればかりはウチの特異性もあるか。カイトはティナの言葉に仕方がない、とため息を吐いた。マクダウェル家にせよ冒険部にせよ、地球の技術もある関係からどうしても色々と自作しなければ対応出来ない事が多かった。

 自作しようにも純粋科学の再現は一筋縄ではいかないし、装置を作る為に装置を作る必要などもあった。勿論、此方側の技術に頼らねばならない事も少なくない。そうなってくると、やはり必然としてこういったコンベンションへの参加は必要だった。


「まぁ、これに関しちゃオレも行くわ。どーせ、ウチのも何人も行くだろ」

『まぁの。ま、久方ぶりに呑気に三人で旅もよかろう』

「灯里さんが居るのが、胃が痛いんだがね……」


 基本、灯里のスペックは信頼に足るとしてカイトもティナも彼女に全幅の信頼を置いている。が、同時に彼女の性格に関しては、一切の信頼をしていないのであった。ノリと勢いだけで大抵の事は成し遂げてしまう未確認生物(カイトの天敵)は伊達ではなかった。


「なーんで私が居ると胃が痛いの?」

「そりゃ、あんたが予想の斜め上を行くからだろ……え?」


 おかしい。聞こえてはならない声が聞こえた気がする。通話中なので展開されていた結界の中にも関わらず聞こえてきた声に、カイトは思わずきょとん、と首を傾げる。そして直後。いつもの通り、カイトの首が締められる。


「あんたが言うなー?」

「ぐぶっ……ぢょ、ダップダップ!」

『いつもの事じゃのう……』


 ふぅ。ティナは丁度良いのでこの間にコーヒーを飲んでおく事にしたらしい。モニターの先で繰り広げられるじゃれ合いを横目に、カップに注いだコーヒーを飲んでおく。そうしてコップ一杯を飲み終わった所で、次の一杯を簡易で拵えた小間使の使い魔に注がせながら口を開いた。


『終わったか?』

「はぁ……ああ。で?」

「んー?」

「何しに来たって聞いてんだろ。わざわざ通話中に割り込んでまで……」


 こてん、と小首を傾げた灯里に、カイトが呆れ気味に問いかける。こんな彼女でもこんな事をする時はきちんと時と場合を弁えている。

 そしてカイトもよほど緊急の話でもない限り、冒険部の執務室で公爵としての話をおおっぴらにはしない。するにしても強度の高い結界を展開する。なので別に割り込まれても問題はないが、割り込んだ以上は気になった。


「ああ、ティナちゃん居たから丁度良いかなーと思って。これにサインちょーだい」

『「ん?」』


 ティナが居るなら丁度良い。ということは何か冒険部の研究開発に関わる話か。カイトとティナはそう理解して、ひとまず差し出された書類を確認する事にする。そうして見た書類であったが、確かに丁度良い所の書類だった。


「ああ、これか。丁度この話をしてた所なんだ」

「どゆこと?」

「丁度、オレの所にもこのコンベンションへの招待があってな」


 再度小首を傾げた灯里に、カイトが先のパーティでリデル公イリスからコンベンションへの招待があった事を語る。


「というわけで、今丁度その話をティナとしてた所だったんだ」

「なるほど。そりゃ、ベストタイミングで」

「そーいうこと。ま、そういう事なんでこれについちゃ問題なく通すよ」

「サンキュ」


 先にも話していたことであるが、コンベンションへの参加は冒険部としてもマクダウェル公爵家としても是非にでもしておきたい所であった。なのでこれについてはギルドマスターとして許可を下ろす事が確定であり、この場でサインもしたい所だった。勿論、一応書類の精査は行うが。


「まぁ、流石に一応書類を一読はしておくから、そのまま待っておいてくれ。どうせだ。ティナ、読んでおく時間は?」

『構わんよ。さっきも言ったが今はデータの解析中で、待ち時間じゃからのう』

「すまん」


 なら、さっさと読んじまって書類にサインするか。カイトは提出された申請書に目を通す事にする。と言っても内容としては旅費や目的などが書かれているだけだ。

 敢えて言えば企業の出張の申請書も変わらない。事務方や技術者系で動くギルドメンバーが依頼でなく動く場合に必要な書類だった。というわけで、そんな書類に目を通すカイトに、灯里が告げる。


「大変ねー、そういった書類が必要なのって」

「別に赤さえ出さなければ、本来は必要無いんだがな。が、あったら商人ギルドからの受けが良いし、ユニオンからの評判も良くなる。あって損はない」

「監査とかあるの?」

「基本、収支で監査はない。だがギルドの運営であまり大きく赤を出すと、入る事もある。借金取りがギルドに来たりすると、それはそれで面倒になるからな」

「あー……」


 方や裏で厄介な相手と繋がっているだろう組織と、方や武力行使も辞さない事が少なくない組織だ。戦争になっても面倒だ。勿論、借金を理由に冒険者を小間使いにされても、ユニオンの組織としてあまり良い顔は出来ない。

 下手を打つと、先のラグナ連邦の地下組織のような感じにもなりかねないからだ。そうならない様に運営が危ぶまれるギルドに対しては調査が入る事があるらしかった。


「ま、その点で言えばウチはそこらの心配はされていない。ある程度の定期的な収入はあるし、技術開発も行ってる。土台としているのもマクスウェルという大陸でも有数の都市だし、同盟も結んでいるから揉める可能性も少ないからな」

「そういえば、そこらあんた上手くやってんのよね」

「伊達に領主やってないからな……」

『余とウィルが常に無駄遣い見張っておったからのう』

「誰が一番の浪費家だと思っとるんだ……」


 書類の精査を行いながら、カイトはボソリとティナの言葉に呟いた。が、これにティナは反論する。


『人聞きの悪い。余はこれでも倹約家じゃぞ。余が魔族領を統治した百年。一度たりとも赤字なぞ無かったからのう』

「その割には研究だなんだ、でとんでもない額が申請されるんだがな……」

『ありゃ、研究で必要な経費じゃ』


 小さい貴族なら財政が傾きかねない金額を経費と言って良いのかね。カイトはティナの再度の反論に対して、内心でそう思う。が、書類の精査に集中していたからか口にはしなかった。無論、しても意味がない事をわかっていた事も大きい。


「……良し。まぁ、飛空艇とホテルについてはこっちでなんとかする。その二つは省いておいてくれ」

「なんとかする?」

「リデル公が用意してくれる事になってる。一応、オレを招く事になったからな。そこらできちんとした所は見繕われる。そこに部屋を用意してくれる様にこちらで差配しておく」


 カイトとしても灯里とティナが招待されていなければ、二人について連れて行くつもりだった。なのですでに彼女らが泊まる為のスペースについては確保する様に伝達しており、経費で申請される必要はなかった。というわけで、そんな彼に灯里が問いかけた。


「じゃあ高級ホテルになりそう?」

「そう思って良いだろう……」

「よっしゃ」

「あはは……まぁ、後の事はそっちに任せる。オレは所詮専門外。口出しするわけにもな」

「そうしなさい。ま、こっちはこっちでやっとくわ」

「ああ」


 餅は餅屋。灯里とてカイトに研究に関する事で口出しされても困る。というわけで、カイトは申請書が適切に処理するだけであった。と、そんな彼であったがついでなので一応聞いておく事にした。


「そういえば、研究所の設営状況はどうなってる?」

「ああ、そっちは……どうなってんのー?」

『む? ああ、研究所の設営か。まぁ、コンベンションで良いものがあればそれが届く頃には完成しよう』

「そうか」


 とりあえずそういう事なら、問題はなさそうか。何か遅れが出ていれば出ていたでそれに向けて対処をせねばならなかったが、その心配はなさそうだった。というわけで、カイトは続けて灯里に問いかける。


「で、灯里さん。転移術の解析というか資料については?」

「ああ、そっちはもう終わったわよ。と言っても、実験的な使用もまだしてないから、一応一読したかな、ぐらい。後は実際実験してみてだけど……」

「その資材と設備も集めないと、か」


 灯里の言葉の先を読んで、カイトが口にする。それに灯里もはっきりと頷いた。


「そういう事ねー。一応、基礎研究の基礎研究として空間の安定化を行う魔道具の開発してるけど、まだ安定には程遠いわね」

「しゃーない。空間の安定が簡単にできりゃ、今頃冒険者の多くが転移術を使える様になってる。とりあえずそっちの準備に今は注力してくれ」

「りょーかい」


 兎にも角にも転移術の基礎研究が出来る様にならなければ、冒険部として次に進むことは出来ないのだ。そのための研究所であるし、今灯里達が作っている空間を安定させる為の魔道具もその一環だ。

 研究所の設営がどうしても時間が掛かる以上、今は出来る事をしてもらうしかなかった。そしてこれについては、そもそも灯里は地球でも日本有数の研究者なのだ。カイトとしては何ら一切不安はなかった。


「良し。そうなると、しばらくは待ちの時間か。まぁ、こっちはこっちで依頼を受けてになるが」

「じゃあ、リーシャちゃんの所行ってあげなさいな。あんた、身体まだ治ってないんでしょ」

「ま、そうだがね……そうだな。一度、行っておくか」

「そーしなさい。あんた無茶するときはとことん無茶するんだから。労れる所で労ること」


 どこか諦めたような顔をしたカイトに、灯里は優しく諭す様に告げる。そもそも彼が依頼に出たのは、今回の相手がアストレア家の分家でもかなり上の方に居るというアストール家だからだ。本来彼は寝て治療に努めるべきなのであった。


「ティナ。他に何かあるか?」

『特には無いのう……む。こちらも丁度分析が終わったようじゃ。これでお開きで良いじゃろうて』

「良し……ああ、灯里さん。この書類はまた第二執務室を通して戻す様にしておく。渡航費用とホテル代無しの奴で再提出してくれ」

「はーい」


 カイトの指示に、灯里が先程とは一転したいつもの調子で頷いた。そうして、三人はそれぞれがそれぞれのするべき事をするべく動く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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