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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第86章 草原の中編

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第2129話 幕間 ――会議――

 アストレア公フィリップからの要請を受けて、アストレア領で発見されたという遺跡への調査の支援を行う事になったカイトとソラ。そんな二人は現場の総司令官だというエフゲニーという軍の少佐と共に、現場の者たちが集まる会議に出席する事になる。そうして会議室代わりに使われるテントに入って早々に二人に向けられたのは、どちらかというと敵意混じりの視線だった。


「っ」


 若干の敵意と猜疑心に満ちた視線を受け、ソラは若干だが腹に力を入れる。今回、矢面に立つのは基本はカイトだ。が、ここで彼がしくじればカイトの動きにも影響が出る。

 更に言うと神剣<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>まで腰に帯びている以上、シャムロックの評判にも繋がるのだ。決してこの程度で緊張やらを見せるわけにはいかなかった。その一方のカイトはというと、まるでこの程度はそよ風でさえないとばかりに平然としていた。それどころか彼は敵意や猜疑心に満ちた視線をまるで懐かしい物かの様に悠然と歩いていく。


「すまない、またせたな。天音くん、天城くん。二人はそちらの席へ」

「「ありがとうございます」」


 エフゲニーの指示に従って、カイトとソラは会議室の端に用意された席に腰掛ける事にする。が、その前に会議室に入っていた冒険者らしい壮年の男が口を開いた。


「その前に、少佐。一個確認させて貰っても良いですかね?」

「ああ」

「そのガキが、今回の作戦に参加するっていう冒険者ですか?」


 盛大に嫌そうな顔で、壮年の冒険者がカイトとソラを見ながら問いかける。これに、エフゲニーははっきりと頷いた。


「ああ。艦隊総司令とアストレア公からの書類にある風貌と完全に一致する。この二人で間違いない」

「この二人がねぇ……随分と若い様子ですが、大丈夫なんですかね」


 エフゲニーの返答に対して、壮年の冒険者が問いかける。これに、エフゲニーは一つ頷いた。


「アストレア公がそう判断されたのだ。意外に何か問題が?」

「そりゃ、お宅らに問題はねぇんでしょうがね。こちとら現場の最前線で危険を冒して動いてるんだ。足手まといが増えられても困るんですよ。しかも、片方のガキは怪我してるじゃねぇか」

「む?」


 どうやらエフゲニーはカイトがあまりに平然としているものだから、彼が大怪我をしている事に気が付いていなかったらしい。それほどまでにカイトの動きは自然としていて、これに気付くほどなのだからこの壮年の冒険者も年並には経験を積んでいる様子だった。というわけで、ここからは自分が矢面に立つべきだろう、とカイトが視線でエフゲニーの許可を得て口を開いた。


「怪我については否定しませんよ。無論、私としても前線にはなるべく出るつもりはない。私はあくまで、そちらの支援として来ただけです。貴方とてこの依頼を受けている以上、邪神の特殊能力はご存知でしょう?」

「無論、聞いてるとも。奴らはこちらを洗脳するってな」


 当然だが、遺跡の調査任務を請け負っているのだ。必然として事前知識として洗脳される可能性は十分承知しており、一応の対策も打っていた。


「だがだからだ。何故今更お前らが寄越されたか、ってのがどうにも解せない。何か裏があるんじゃねぇか? まさか日本人ってのは洗脳が効かないのか?」

「そこは私にもわかりかねますが……少なくとも私とこいつに限って言えば、洗脳が通用しない事だけは確かですよ」

「ほぅ」


 はっきりと断言しやがったな。カイトの断言に、壮年の冒険者はわずかに目を見開く。


「そこまで大言壮語をするんだったら、当然自信があるって事で良いんだよな?」

「もちろん」

「「「っ」」」


 壮年の冒険者の問いかけを受けたカイトが、立て掛けた大鎌を一振りする。そうして迸った濃密な死の気配に、その場の誰しもが思わず息を呑んだ。そして僅かな冷や汗を流した壮年の冒険者が、カイトへと告げる。


「ほぉ……そいつぁ、さぞ名のある得物だろうな」

「死神の鎌……旧文明において月の女神であり死の神でもある女神の神器です……本物、ですよ」

「わかるぜ、そりゃな」


 こんな濃密な死の気配だ。それはもはや概念として死の概念を有する武器としか考えられず、冒険者達は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。そうしてわずかに解き放たれた濃密な死の気配に、壮年の冒険者も納得を示す。


「なるほど……思い出した。そっちの小僧は新聞で一回見たな。神剣を授けられたって小僧だ」


 そういえば。壮年の冒険者の言葉に、他の冒険者達もそう言えば、とソラの事を見た記憶があった事を思い出す。収穫祭が行われてもう数ヶ月だ。

 大々的に報道されようと人々の記憶が薄れるのは仕方がない事だろう。続報が無かった事から、ソラの事も若干忘れられかけていた様子だった。まぁ、それ故の神器だし、その効果はあった。


「ええ……オレが月の女神。こいつが太陽神……どちらも神器持ちです。神器持ちに洗脳は効きません。他の神の加護が乗っかりますからね」

「「「……」」」


 あれ。なんでこのタイミングで若干沈黙が生ずるんだろう。ソラはカイトの言葉に沈黙を露わにした冒険者達に内心で首を傾げる。そうして、若干の荒々しい笑みを先の壮年の冒険者が浮かべる。


「……なるほど。流石はアストレア公ってわけか。良いぜ。お前さんらの参加を俺は認める。他はどうだ」

「異論無しだ」

「こっちもな……いいぜ。そりゃそうだ。俺達が関わってる案件はんな楽な話じゃない」

「だな……悪いな。そうだ。そりゃぁ、そうだ……当然、そこは勘案するよな」


 どうやら冒険者達にとって、カイトとソラが来た事に納得ができたらしい。最初の時の敵対的な雰囲気に対して、どこか受け入れるようなムードが蔓延する。そうして、先の壮年の冒険者が告げた。


「良いぜ。万が一の場合、俺達の背中はお前らに預ける。万が一の時に文句はねぇ。そこらはわかった上で、この依頼を受けてるからな」

「おっしゃ。ぬるい依頼だって勘違いしちまってたが、いっちょ明日からは気合入れてやっか」

「おう」


 決まり決まり。冒険者達は口々にカイトとソラに向けて笑いながら、首を鳴らし肩を回し気合を入れる。と、その中の一人が楽しげにカイトへと問いかける。


「一応、聞いとくけどよ。そいつ、刃こぼれとかしてねぇよな?」

「ご安心を……命ずる、殺せ」


 そこらにあった使い捨てのコップを放り投げたカイトが、死神の鎌の力を解き放ち白銀の光を放つ。それを受けたコップは白銀の光に飲み込まれて、消え去った。


「ふゅー……」

「良いねぇ……痛みさえ無いか」

「一発で逝けるな」

「ええ……最悪の場合は、遺跡ごとこいつが消し飛ばすのでご安心を」

「ほぉ……」

「へぇ……」


 獰猛で楽しげに笑いながら、冒険者達はカイトの言葉にソラを見る。そうして、話は終わりと立ち上がった冒険者が彼の肩を叩いた。


「万が一の場合は、一発でやってくれ。迷わずな」

「は、はぁ……」

「じゃ、明日からはよろしく頼むわ」


 何がなんだかさっぱりわからないが、ソラのことも見込まれたらしい。彼はそれを理解する。そうして入ってきた時とは一変、冒険者達はどこか気軽にカイトとソラを受け入れて会議室を後にしていった。というわけでソラは唐突に終わった会議に困惑気味に口を開いた。


「……え、何。もう終わり?」

「ああ、問題なくオレ達は受け入れられて終わりだ」

「何があったわけ?」


 カイトが死神の鎌を提示しただけで、冒険者達は全てを察して二人の介在を了承したのだ。ソラには何がなんだかわからなかったらしい。とはいえ、これも仕方がない事だ。こればかりはどれだけ勉強しようとわからない。冒険者という存在に長く触れ合って初めて分かる事だ。というわけで、カイトが教えてくれた。


「オレとお前は万が一の場合、彼らを殺す為に来たと思われている」

「へ?」

「実際、事実は事実だ。万が一の場合には、オレ達が彼らを殺す」

「マジで?」


 困惑から一転、驚愕をソラが浮かべる。これに、カイトは若干の冷酷さを垣間見せる。


「誰かが、万が一の場合には彼らを殺す必要がある。洗脳対策だってまだ完全じゃない。それどころか、効果が立証されているものでもない。そもそも旧文明だって開発段階だったんだ。絶対視は出来ん……万が一、彼らが操られた場合には誰かがケリをつける必要がある。そんな時、神器持ちでもなければ殺しきれんよ」

「……」


 ごくり。ソラはカイトの冷酷な言葉に、思わず生唾を飲む。が、これが政治的な判断だ。救えないなら、殺すしかない。被害を広げるわけにはいかないのだ。それが、公爵として、為政者としての結論だった。と、そんな冷酷さを見せたカイトであったが、一転笑った。


「ま、そう言っても今回はそうなる可能性は非常に低い。そこまで身構える必要はない」

「だと、良いんだがな」

「あら……万が一の場合は私が上から砲撃でも良いけど」


 若干気疲れした様子のソラに対して、入り口側からカナタの声が響いた。それに、テントに残っていた全員がそちらを見る。


「カナタか。試験は?」

「問題無し。相変わらず良い腕ね」


 カイトの問いかけに対して、カナタは外装を格納したカプセルをくるくると回す。これを使って、単騎で彼女はマクスウェルから移動してきたらしい。


「で、今日のおめかしは?」

「広域破壊用の超弩級ライフル。ホタルから借りてきた縮退砲。それと、いつもの近接用兵装一式」

「十分だ。基本は縮退砲で片付けろ。流石に超弩級ライフル……超弩級ライフル? 何だ、それ」


 聞いてないぞ。カイトは危うくスルー仕掛けた存在に、思わず確認を入れる。これにカナタが困った様に笑う。


「超々長距離射撃用のライフルよ。ただ大きすぎて形状がもうライフルというより砲台だけど。ホタルに聞いたのだけれど、対衛星兵器用に開発された物が魔導機用にあるとの事だけれど、それの携帯版……だそうよ。あれが携帯用かどうか、は不明だけれど」

「またか……」


 また隠れて何か色々と開発しているらしい。カイトはカナタの若干困ったような笑い顔に、深くため息を吐いた。ここしばらくマクスウェルから離れていたが、そろそろ一度締めておくか。カイトはそんな事を考えながら、一つ確認しておく。


「威力はどっちがヤバい」

こっち(ライフル)。安全を鑑みて一キロは離れろ、と言われてるもの」

「ですよねー……そっちは使うな」

「そうね」


 流石にカナタもこれを使うのはどうか、と思っていたらしい。素直に同意していた。というわけで手早く打ち合わせを終わらせた後、彼女がカイトの横に控える。それを見て、エフゲニーが問いかけた。


「彼女が、先に報告のあった旧文明の生き残り。<<天使の子供達エンジェリック・チルドレン>>か?」

「ええ。色々とあってウチで引き取っている子です……戦闘力は、ピカイチです」

「そ、そうか」


 旧文明は独特な装備をしているんだな。エフゲニーはカナタの地球で言えば近未来的な装備を見ながら、若干困惑を浮かべていた。まぁ、こういった装備はマクスウェルも<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>近辺なら見慣れるが、そうでなければ困惑も致し方がないだろう。そんな彼は気を取り直し、カイトへと問いかける。


「とりあえず……これで君側の役者は揃った、で良いのか?」

「ええ。明日からの調査には問題なく取り掛かる事が出来るかと。無論、彼女にも洗脳は効きません。そもそも彼女はそれに対応する対応策を施された存在ですからね」

「そうか……では、明日からは頼む」


 カイトの返答に、エフゲニーが一つ頷いた。これについてはアストレア公フィリップがそうだと告げている以上、彼には信じるしかない。というわけで、彼らもまた打ち合わせを終わらせて、明日に備えて休みを取る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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