第2128話 幕間 ――遺跡へ――
アストール家からの依頼でのパーティでの一仕事を終えたカイトとソラ。そんな二人はアストール家の面々とパーティ会場で別れると、その後はホテルに戻って今度はアストレア家からの依頼となる遺跡の調査への立ち会いに関する資料を読み込む事となる。そうして、二人がパーティから帰って数日。カイトとソラはアストレア家が用意した飛空艇の艦長室に入っていた。
「まさか伝説の勇者とご一緒出来るとは……光栄です」
「よしてくれ。そこまで御大層なものじゃないし、今は色々なしがらみから表立って動けるわけでもない。単なる傭兵と一緒だ」
「それでも、貴方が世界の裏で戦ってくれていると知っただけ十分気が休まります」
実際の所、前線で戦う兵士達にはかなり絶望に近い状況があるらしい。それはそうだ。なにせ大陸間会議では大国の一つと言われるマギーアが半壊。冒険者達の総会では『リーナイト』が全壊だ。
全体的な被害こそ軽微ではあるが、それがたった数十人で成し遂げられるのだ。そして当然、まだまだ戦力を隠し持っていると予想されている。
それと戦わねばならない、という精神的な重圧はとんでもないもので、内在的に兵士の誰しもには何時死んでも不思議はない、という死への恐怖が存在していたのである。
「そうか……それなら幸いだ」
「ええ……それで総司令部より話は聞いています。万が一の場合、指揮権を貴方にお渡しする事に一切の異論はありません」
「ありがとう。まぁ、何も無いとは思うが……」
「万が一、というのは万が一には起きるという事ですよ」
「ああ……その万が一に備えておかねば、後で痛い目に遭う。それは嫌というほど、経験したよ」
「あはは」
カイトの経歴というのは、エネフィアであれば誰でも知っている事だ。なので彼の言葉が嘘ではない事は艦隊の総指揮官――同時にこの飛空艇の艦長でもある――も理解しており、笑うしかできなかったようだ。そうして少しの話を終わらせたカイトは、改めて艦長へと告げる。
「では、私と彼の両名が先遣隊と共に中へ突入する。その後、万が一に備え艦隊は距離を取って待機。指定時刻になり次第、突入を開始する」
「はっ……では、ご武運を」
「ああ……そちらも頼む」
万が一の場合の指揮権の委譲についての打ち合わせを終わらせると、カイトはソラと共に艦長室を後にする。これでひとまずしておかねばならない打ち合わせは終了だ。
「お前、本当に公爵なんだな」
「なんだ、いきなり」
「いや……ああやって公爵閣下として扱われてるの見ると、なんかふとな」
やはり基本的にソラが見るカイトというのは、単なる『天音カイト』という姿が基本だ。公爵としての立場で指示を出したとて、根本にはそこがある。なので話をしているのはカイトという認識があり、マクダウェル公カイトとして色々な話をする姿を見るのは稀だった。
「まぁ、必要に応じてあれで話さにゃならんのは事実だ」
「あれが威厳ってやつなんかね」
「さぁなぁ……威厳を纏っているか否か、ってのはどうやっても自分じゃわからないもんだ。こればかりは、お前がそう感じたならそうなんだろう」
敢えて言えば威風堂々。そんな様が見えたカイトの様子から、ソラはあれが威厳なんだろうという感想を得ていたようだ。とはいえ、流石にこれが威厳やカリスマ性なのか、と言われればカイトにはなんとも言えない。
だから参考になったのなら幸いだ、と思うだけであった。というわけでそんな会話を繰り広げながら再度一介の冒険者に立ち戻ったカイトとソラは、揚陸艇のあるエリアへと移動する。そうしてたどり着いた所では、軍の小型揚陸艇を管理する技術者が待っていてくれた。
「お待ちしておりました」
「ありがとうございます……これで?」
「ええ。揚陸艇の操作については、こちらから行います。座っているだけで大丈夫ですよ」
カイトの確認に対して、技術者が一つ頷いた。そんな三人の前には以前の通信機作成の際にカイトが降下で使用したと同じような小型の揚陸艇――と言ってもあれよりも更に小型だが――があり、今回はすでに安全が確保されている事もあって飛空艇から遠隔操作して降下出来るようだ。
「わかりました。では、お願いします」
「はい……では、シートベルトをしっかりと身に着けてください」
カイトの依頼に対して、技術者は揚陸艇の横にあったコンソールを動かしながら一つ頷いた。それを横目に、カイトとソラは背中合わせに揚陸艇に腰掛けた。そうして腰掛けた所で、ソラがシートベルトを着用しながらふと呟く。
「こんなのもあるんだな。前みたいにボードで降りるかと思った」
「流石にあれをいつもいつも使っちゃいられん。費用対効果が悪いからな」
「使い捨てだからなー」
そういう事だ。ソラの言葉にカイトもまた笑って同意する。と、そうして話しながら待っていると揚陸艇がふわりと浮かび上がり、格納庫から外に出る事になった。
「おっと……思ったより揺れるな」
「ふむ……バランサーがあまり良くない……わけではなさそうか。整備不良というより、腕だろう」
「ふーん……」
そこまで警戒する必要もない場だ。ソラとしても見た事がない物体だった事もあり、興味があった様子である。触れる所に触れてみて、色々と確認している様子であった。というわけで、そんなこんなで待つ事数分なのであるが、降りた所でソラがふとカイトへと問いかける。
「そういやさ。この揚陸艇」
「ん?」
「なんで開放型なんだ?」
「開放型……そういえば、確かにそうだなぁ……」
ソラに問われて、カイトは防ぐものがない揚陸艇――勿論短時間なら結界を展開する事は可能――を見る。
「一応結界の展開は可能だが……あ、いや、そっか」
「ん?」
「強化ガラスとか強化プラスチックとかの透明度の高い素材、エネフィアじゃあまり一般的じゃないんだ。というより、殆ど無いな。開発はされてるが……まだまだこういった揚陸艇に使う分の量産はできていない」
「あ、なるほど」
一応防御には問題が無い様子だし、開放型になっている事で乗り降りはしやすい。不満があるとすれば降下中には野ざらしになってしまうので寒さが厳しい事だが、それも障壁で防いでしまえば問題ない。
しかも揚陸艇なので使っても長くて十分も掛からない。なんとかしなければならないほどの問題か、と言われれば首を傾げるだけであった。そんな話をしながら二人は今回調査を行う事になっている遺跡を見る事になった。
「で、これがか」
「ああ……よっと」
「ん?」
「神器だ神器。お前も一応腰に<<偉大なる太陽>>を帯びとけ」
唐突に死神の鎌を取り出したカイトであるが、そんな彼は何故かソラへも神剣を取り出しておく様に口にする。それに、ソラが不思議そうな顔で神剣を取り出した。
「まぁ、良いけどさ……鞘持って来てるし」
一応、エルネストが持っていた本来の<<偉大なる太陽>>の鞘は二千年近くの間で失われていた為、新しくオーアら――正確には鞘作りの専門家だが――が拵えた物を使っている。
素材もシャムロックが寄越してくれた神域で育った神木の枝を切り出した物で、装飾にも拘った一品だ。これだけでも十分優れた武具の役割を果たしてくれるらしく、万が一の切り札としてソラは腰には不必要に帯びない様にしていた。というわけで、それをソラは今腰に帯びていた片手剣と入れ替える。
「良し……で、なんで?」
「必要だから」
「ふーん……」
何故必要か、まではわからないがカイトが必要というのだ。であれば必要な事に違いないのだろう。ソラはそう判断し、素直に<<偉大なる太陽>>を腰に帯びておく。と、そうしてその場で待機する事しばらく。軍で現地調査の指揮を執るというテントへと通される事になった。
「おまたせしました。これから少佐の所へご案内します」
「お願いします」
「はい」
カイトの返事に軍の兵士は一つ頷く。そんな彼であるが、やはりカイトの持つ死神の鎌とソラの持つ<<偉大なる太陽>>に視線が向いており、驚きと感嘆の入り乱れた様子があった。
「さてと……」
これが有用にならないと良いんだがな。カイトはくるくると死神の鎌を弄びながら、内心でそう考える。そうして二人は案内されたテントの中に入る事になる。
「失礼します。少佐、例の二人をお連れしました」
「ああ、待っていたよ……聞いていたより随分大人びているな」
案内の兵士の言葉を受けて、軍の少佐らしい壮年の男が立ち上がる。とはいえ、そんな彼もやはり軍の少佐にまで登り詰めているからか、カイトとソラの持つ得物がそれぞれ並外れた物だと理解したようだ。
「ほぅ……噂には聞いていたが。ふむ……そちらの君が、ソラ・天城くんかね?」
「あ、はい。よろしくおねがいします」
「ああ……なるほど。随分と素晴らしい。これが歴史に埋もれたという神剣<<偉大なる太陽>>か。一度抜いて見せてくれるか?」
「はぁ……」
別に抜くぐらいであれば問題はない。ソラは軍の少佐の言葉に若干困惑しながらも、<<偉大なる太陽>>を抜き放つ。それを見て、彼は一つ頷いた。
「ふむ……本物か。では、そちらもか」
「公にはされていませんが」
「なるほど。どうやら君は物の使い方を理解している類らしい……安心したよ」
カイトの返答に、軍の少佐は僅かな感心を浮かべる。そうしてそんな彼が敬礼と共に自己紹介した。
「エフゲニー・ボロノフだ。階級は少佐。本作戦における実務側での総指揮を任されている」
「カイト・天音です」
「ソラ・天城です」
エフゲニー。そう名乗った軍の少佐に、カイトとソラもまた自己紹介を返す。そうしてそんな彼の案内を受けて、二人は会議室代わりに使われているというテントへ案内される事となった。と、その道中の事だ。カイトがエフゲニーへと問いかける。
「これは、役に立ちそうですかね?」
「さて……そこらは私より君の方がわかりそうなものだが」
「なら、一応このままにしておいた方が良いでしょうね」
エフゲニーの返答に、カイトは敢えて死神の鎌を見せる様に持っておく。そうしてその様子で、ソラも大凡を理解したらしい。
「あー……もうちょっと見える位置に動かしとこ」
「そうしとけ」
「めんどいな、ここら」
「しゃーない。どうしても舐められたら終わりの商売でもあるからな」
カイトとしてもソラとしても、別段相手の領分を侵そうと思っていない。が、相手がどう捉えるか、というのはそれとは別問題だ。
特に今回の場合、現場からの要請ではなくアストレア公フィリップがカイト達の助力を決めた形で、現場からしてみれば何故こんな奴らが唐突に、となっても無理ない状況だ。故にカイトはアストレア公フィリップの判断が正しいものであると示すべく、神器を出したのであった。
「では、こちらだ。まぁ、君達に何か言う必要もないだろう。そちらで必要と思われる対応をしてくれれば良い。もし何か支援が必要なら、こちらに話を振ってくれ。可能な限り支援しよう」
会議室代わりのテントの前に立ち、覆いを動かす前にエフゲニーが二人へと告げる。一応、彼としてもすでに神器を二つも見ていた以上、アストレア公フィリップの判断が正しいと思わざるを得ない。
となると素直に彼の指示に従って、カイト達が円滑に動ける様に差配するだけであった。そうして、カイトとソラはエフゲニーと共にテントの中に入る事にするのだった。
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