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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第86章 草原の中編

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第2125話 草原の中で ――再会――

 アストレア家で開かれていたパーティの中で現れた白幻竜。その背に乗っていたアストレア公フィリップの妻シンディの先輩の獣医師や学者達と共に現れたのは、カイトの仲間にして<<無冠の部隊(ノーオーダーズ)>>の隊長の一人竜騎士デュランであった。

 そんな彼の出現をきっかけとしてカイト達は彼の所へ、テオとペトラはリデル公イリスとの話し合いがあるとの事でそちらへと向かう事になる。その道中。ファブリスはソラへとデュランの伝説を語っていた。


「彼で最も有名な話はやっぱりあの白幻竜を狙う百の盗賊達との激闘です。あれは彼と相棒の白幻竜を語る上で決して欠かせない話です」

「お、おぉ……」


 興奮気味にデュランの伝説を語るファブリスに、ソラは気圧された様子で頷いた。聞いた事はなかったらしい。が、そんな様子のソラにファブリスは驚いた様子で問いかける。


「ソラさん……知らないんですか?」

「あ、ああ……何なんだ、その百の盗賊って」

「百個の盗賊団から狙われたあの白幻竜を守りながら、最後に勇者カイトと出会うまでのお話です。最後は連合を組んだ盗賊団を勇者カイトと共に壊滅させるんです」

「……え゛」


 百個の盗賊団から白幻竜を守りながら旅をした挙げ句、カイトと共に百個全部を壊滅させた。そんな話を聞いて、ソラは思わず固まるしかなかった。まぁ、カイトの実力もデュランの実力も共に知るソラとしては普通に出来るだろう、とは思っても実際にやられてしまっては唖然とするしかなかったようだ。というわけで、頬を引き攣らせる彼が当の本人へと問いかけた。


「百個……マジ?」

「まさか……百個は盛りすぎだ。せいぜい七十で、ウチ十ぐらいは悪徳貴族の私兵だ。最後に徒党を組んだのも盗賊じゃなくて悪徳貴族達だな」

「余計すごくなった!?」


 悪徳貴族とはいえ、曲がりなりにも相手は正規軍である。それを十個まとめてぶっ潰すあたりカイトらしいと言えばカイトらしいが、その実力は間違いなく盗賊なぞ及ばない。と、そんなカイトとソラに、ファブリスもまた頷いた。


「あはは……そうですね。多分、キリが良いから百個と言ってるだけだと僕も思います……でも七十だともう一緒のような気も……」

「あはは……ですね。実際、百でも問題は無いでしょう。どこかで統廃合したり、元々連合を組んだりした所もあるでしょうから」


 実際、十とは言ったものの狙う貴族や盗賊を軒並み撃退していたらしく、そこの関わりで更に多くの貴族から狙われたらしい。公になっているのが十個だけ、という事らしかった。そうして、彼は目を細めその時を思い出す。


『……あんたが、デュランか? 白幻竜の雛を捕まえているっていう』

『……ちっ』

『っと! 待った待った! オレはあんたに増援をしてくれ、と頼まれた側だ! 軍にはあんたに接触する為に参加してるだけだ! 敵じゃない! というか、敵ならこんな奇妙な面子で来るわけないだろ!?』

『あ?』


 確かにそれはそうだが。たった一人で数十の盗賊を壊滅させ、いくつもの貴族を相手取って戦っていた男がカイトの言葉に警戒を露わにする。その横には日向と同じくのんきな様子で宙を浮かぶ白幻竜の姿があった。そののんきな姿を見ながら、カイトが告げる。それは明らかに懐いている様子で、どう見ても無理やり捕らえているようには見えなかった。


『あんたその子の母親から、その子を預かったんだろ?』

『……誰から聞いた?』

『その子の母親から聞いた。と言っても、霊体だが』

『あぁ?』


 不思議な事を言う奴だ。デュランがしかめっ面でカイトの言葉に疑いの眼差しを向ける。とはいえ、それはそうだ。この当時カイトが死者と話せる事なぞ知られていない。彼が疑うのも無理はなかった。


(あいつホントに言葉が足りてないっていうか……面倒くさがりというか。誤解されやすいというか、それを解く事をしないっていうか……)


 やれやれ。カイトは自身の記憶として十年以上も昔の事を思い出し、内心に苦笑いを浮かべる。そもそも先の貴族とて何人かは悪徳貴族に騙されて、デュランが希少な白幻竜を捕縛した悪い冒険者だと思わされた事もあった。

 カイトとデュランが二人で連合を撃破したのではなく、彼らが囮となっている間に他の面子が悪徳貴族を捕縛し、それに騙された貴族達を止めるべく動いていたのである。と、ファブリスの語る伝説を聞きそんな事を思い出しながら歩く事少し。気付けば、彼の所へとたどり着いた。


「デュランさん。お久しぶりっす」

「ソラか。久しぶりだな」

「うっす」


 件のデュランなる人物であるが、風貌としては荒々しい戦士というのが相応しい風貌だ。筋骨隆々ではあるがどちらかと言えばバランタイン達の様に巨漢というわけではなく、彫刻の様に整った肉体と言える。顔立ちは以前カイトが言っていた通り確かに悪くはなく、野性味のあふれる顔立ちだろう。


「また腕を上げたな。身のこなしが変わった」

「うっす。まぁ……借り物を自分の物にしてるだけっすけどね」

「エルネストだったか? すごい剣士が居たもんだ」


 どうやらソラからエルネストの事を聞いていたらしい。デュランはわずかに感心した様に笑う。


「また時間を見付けたら来い。手合わせをしよう」

「うっす。お願いします」


 考えるまでもなく、デュランはソラと瞬が揃って相手になって敵わない相手だ。なのでソラとしても全力で胸を借りられる事を有り難く思っており、素直にその言葉を受け入れていた。


「で……そっちは?」

「あ……はじめます……はじめまして。ファブリス・アストールです」

「姉のリリー・アストールです」

「ああ、お前らが……」


 まさか初手で来るとは思っていなかった。デュランは若干どうするかな、という様子を見せる。と、そんな対応に困る彼に、ふと先の金髪の女性が振り向いた。


「あれ?」

「ん?」

「お知り合い?」

「ああ、まぁ……ソラは話したか?」

「ああ、貴方が」


 どうやら金髪の女性とデュランは知り合いだったらしい。彼の言葉に得心が行ったのか、少しだけ目を見開いて驚きを露わにしていた。というわけで、そんな様子の二人にソラが問いかける。


「えっと……貴女は?」

「リーリエ・カエルムです」

「あ……ありがとうございます。ソラ・天城です……カエルム?」

「「リーリエ?」」


 まぁ、案の定というかなんというか、流石にリリーとファブリスがその名を知らない事はなかったらしい。ソラが家名に首を傾げたのに対して、二人は名に目を見開いていた。と、そんな所にユリィの声が響いてきた。


「おーい、リーリエー。順番来たよー。そこの唐変木連れて来てー」

「あ、はーい! ユリシア先生! すぐ行きまーす! ごめんね! ちょっとシンディに挨拶に行ってくる! ほら、行きましょ」

「お、おぉ……また後でな……って、ユリィ! 今お前、俺の事唐変木とか言わなかったか!?」

「なんのことー?」


 ユリィの呼び声にリーリエがデュランを連れて行ったわけであるが、一方のデュランは彼女の言葉に今更気が付いたらしい。その一方のユリィはユリィで楽しげに嘯いていた。そうして離れていく二人を見ながら、カイトは笑った。


「尻に敷かれてるなー」

「今のがデュランさんの奥さん……か?」

「ああ。在学中に猛アタック掛けて、口説き落としたらしいな。種族は見た通りエルフ。それもハイ・エルフだ」

「マジで?」

「マジだそうだ」


 ハイ・エルフが外に出た挙げ句に猛アタックである。前代未聞の珍事として当時は有名になったらしい。なお、リーリエは良家の令嬢なのだ――流石に王族ではないが――が、相手が竜騎士として伝説的なデュランなので最終的に結婚は認められたそうである。と、そんな彼にファブリスが問いかける。


「カイトさんもお知り合いなんですか?」

「ん? ええ……まぁ、合縁奇縁と。時々手合わせをさせて頂いております」

「はー……」


 どうやら結果的にこの返答はファブリスのカイトへの評価を高める結果となったらしい。カイトもソラも相当にすごいのだ、と思うに至ったようだ。と、そんな話を少しした頃に、デュランが早々に戻ってきた。


「……はぁ」

「……逃げたか」

「うるせぇ。俺はこういうの苦手なんだよ」


 苦笑混じりのカイトの言葉に、デュランが若干ぶっきらぼうに答える。が、むべなるかな。そもそも口下手な彼が貴族相手におべんちゃらを使いこなせるのなら、そもそも三百年前の大騒動なぞ起きていない。というわけでそんな彼に呆れながらも、カイトはウェイターに声を掛けた。


「はぁ……ウェイター」

「なんでしょう」

「カエルムさんに酒を。ワインで」

「かしこまりました……こちらをどうぞ」

「ありがとう」


 ワインを受け取ったデュランが礼を述べる。別に口下手だからと礼を述べられないわけではない。というわけで、彼は受け取った酒を一気に呷った。


「はぁー……はぁ。良い酒だ」

「そりゃ、公爵家の酒だからね。で、なんで来たのさ。来る性格じゃないでしょ。ウチ以外のパーティへの参加率最下位集団の一人なのに」

「いや……一応、俺が原因……うおぁ!」


 小型化して現れたユリィに、デュランが奇声を上げる。と、そんな彼女を見てリリーとファブリスの二人が頭を下げた。


「「ユリシア先生」」

「はい。お二人も元気でしたか?」

「「はい、先生」」

「はい……で、なんで?」


 学園長モードで二人に応じたユリィであるが、やはり身内の前なので即座に戻っていた。


「なんでって……一応俺が原因の一端……みたいなもんなんだろう?」

「で、来たの?」

「……おう」


 どうやら一応責任を感じていたらしい。ユリィの問いかけに少し恥ずかしげにそっぽを向く。が、これにユリィが素でツッコんだ。


「何もできないでしょ、デュランだと」

「ぐっ……」

「はぁ……まぁ、良いけどさ。とりあえずアストール家の二人はこれで大丈夫だろうけど、一応ソルテール家の二人も紹介しておくね」

「……すまん」


 少し恥ずかしげに、デュランがユリィへと頭を下げる。カイトと長い付き合いである以上、必然彼女ともまた長い付き合いだ。彼の性格は熟知していたのであった。


「また来る。騒がせたな」

「では、失礼します」

「はい」


 そそくさとその場を後にしたデュランとユリィに、カイトが代表して頷いた。そうして同じく二人が去っていくのを見守った後、リリーが若干呆気にとられた様に口を開く。


「ど、怒涛のように去られましたね……」

「あんなものでしょう、彼の場合は……私としては来るとは思っていなかったのでそこに驚くばかりでしたが」

「そんなに珍しいのですか?」

「ええ……あまり好きではない、と」


 リリーの問いかけに対して、カイトはどこか呆れた様に笑う。いい加減慣れれば良いのに、とは思うが、こればかりは当人の適性などが絡む。カイトもユリィももう諦めていた。そうして、デュランとユリィが去っていった事でカイト達も再びパーティへと戻る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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