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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第86章 草原の中編

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第2124話 草原の中で ――軋轢――

 アストレア公フィリップの妻シンディ。獣医師でもある彼女の提案をきっかけとして、カイトはソラとファブリスとの会話を行うソルテール家の兄妹であるテオとペトラの二人と話をする事になる。そうしてある意味では事務的となる会話をテオとカイトが繰り広げた後、カイトは更に会話を広げペトラへと話を向けていた。


「ということは、収穫祭より随分と前に来たのですね」

「はい……まぁ、飛空艇を開発する当家としては別に育てた所で特段の意味もない事ではあるのですが……慈悲の精神と共に、飛空艇開発において主導的役割を果たした勇者カイトの加護にあやかる意味を含め、誰か一人は竜をペットとして飼う事になっているのです」

「それで、君が……」


 そして空竜をペットとした、もしくは捕獲の目処が立った事を聞きつけたアストール家が広く依頼を出し、『ダイヤモンド・ロック鳥』の雛を捕獲するに至ったわけか。カイトはペトラの言葉に納得を得る。

 そうでもないとわざわざ『ダイヤモンド・ロック鳥』のような非常にレアな魔物を捕まえさせようとは思わないからだ。というわけで、そんな納得を得たカイトに、ペトラは更に事の裏を語る。


「ええ……これは全くの偶然だったのですが、懇意にさせて頂いている冒険者ギルドの方が幸運にもこの子を無傷での捕獲に成功したそうです。それで、私の所へ」

「何故テオではなく、貴方に?」

「あはは。実は僕の方はすでに飼っていてね。が、ここまでレアな魔物は滅多にお目にかかれないだろう、とわざわざ持ち込んでくれたんだ。それで父も空竜ほどの竜をみすみす逃すのは、と即決してね。流石に少し早かったから、父も直々に世話をしたよ」

「あはは……」


 基本的に貴族の子供と言えど、多頭飼育はあまり良い顔をされない。どれだけ従者を控えさせようと、あくまでも飼うのは子供その人。生業とするならまだしも、基本的にはその人が自分で育てる事が暗黙的なルールとされている。なので一人一頭が限度というのが一般的な決まりだった。

 というわけで、少し早いがペトラにどうだろうか、と持ち込まれたそうである。と、そんなソルテール家の裏事情を語ったテオであったが、そこでファブリスを――正確には腕のノイエ――見た。


「にしても、驚いたよ。まさか『ダイヤモンド・ロック鳥』を持ってくるなんてね」

「良い子ですよ、ノイエも」

「そうだろうね。一切暴れる様子は見えない」

「ええ」


 やはりソルテール家とアストール家の軋轢があるからだろう。若干声のトーンが強めだったテオに対して、ファブリスもまた若干声のトーンは強めだった。喧嘩腰とまではいかないでも、いつもの彼らしからぬ様子ではあっただろう。


「そうかい? そうだ。今度の競技大会には出るのかな?」

「一応、そのつもりです」

「あ……」


 馬鹿。リリーのものすごい小さい心の声が、カイトには聞こえた気がした。どうやら出るか出ないかはまだ未定段階だったらしい。


「そうか。実はペトラもそのつもりでね。そのために訓練も積んでいる。一昨日の訓練もすごい熱が入っていたみたいでね。僕も期待しているよ」

「ありがとうございます、お兄様」

「ああ……ノイエにも、期待させて貰って良いかな?」

「勿論です」


 馬鹿。再度のリリーの内心の声と彼女のため息が、カイトには聞こえた気がした。どうやら年相応のやんちゃさはファブリスにもあったようだ。どこか挑発的な言葉にうっかり乗せられてしまった、という所だろう。

 意外なことにソルテール家との軋轢はリリーよりファブリスに受け継がれていたらしかった。と、そんな所に、空気を変える事になる一言が放たれる。


「……ごめん。競技大会って何?」

「ん? ああ、ごめん。そうだね。君達にはわからないよね」


 うっかり内輪ネタをしてしまったかもしれない。ソラの問いかけに、テオが先程までのどこか居丈高な口調から貴族の令息のそれへと戻す。そうして彼が教えてくれた。


「まぁ、これはものの道理なんだけど……練習を重ねていると、どこかで披露出来る場所が必要とは思わないかな?」

「まぁ……そりゃあった方が良いよな。ウチでもそういう場を設けているし……」

「だろう?」


 ソラの同意にテオもまた一つ頷く。実は冒険部として、二ヶ月に一回ぐらいのペースで訓練の成果を試す場として闘技大会じみた大会を設けている。賞品などは一切無く参加するしないは自由だが、割と参加者は多いらしい。やはり腕試しの場を求めるのは、訓練をする者として自然な流れだった。

 なお、流石にカイトと瞬、ソラの三人については別格として自主的に参加はしていない。が、可能な限り観戦はする様にしているらしかった。


「それを披露する場が初夏と初冬に設けられていてね。通例、どちらかには参加する事になっているんだ」


 なっているではないのですけど。テオの言葉にリリーは内心ツッコミを入れる。が、これもまた事実といえば事実なので、指摘もしなかった。というより、指摘してさらなる面倒を呼び込むのも面倒だったのでこの場では敢えて指摘しなかっただけである。


「へー……ということはテオも?」

「いや……いや、参加はするけどね。ただ僕と相棒は年齢制限で別の階級になる。流石に誰もが同じ階級で戦うと、それこそ学園長……ユリシア様が来られたらそれで一発終わっちゃうからね」

「あはは……そりゃそうだな。前の竜騎士レースで思い知ったよ」

「あはは。そうだね。特にカイトなら、そうかもしれない」


 自分の冗談に笑うソラに、テオもまた笑って頷いた。なお、ソルテール家がマクダウェル家と懇意にしている事と飛空艇開発を頻繁に行っている為か、テオもペトラもマクスウェルの魔導学園の生徒らしい。なのでユリィの事は学園長か先生と呼ぶらしかった。


「まぁ、そういうわけでね。ペトラもそこに参加する予定だし、ファブリスくんもそうだ、というわけ」

「へー……あ、もしかしてあの訓練も全部競技大会に出る為の?」

「あ……はい。あれも競技大会の練習の一環です」

「へー」


 そうだったのか。ソラは今更ながら知った事実に、驚いたようでいて感心した様子を見せる。


「へぇ……それは期待が持てそうだ」

「ええ……期待して貰って大丈夫です」

「……はぁ」

「あはは……」


 深い溜息を吐いたリリーに、カイトは僅かな苦笑を浮かべる。完全に乗せられてしまっていた。まぁ、それはカイトもわかっちゃいたが、この状況だ。どうする事もできなかっただろう。

 というより、口を挟めばより面倒になる可能性もあった。これがベストといえばベストだろう。と、それにどこか挑発的な様子でテオが頷いた。


「そうか……では……ん? 何かあったかい?」

「ああ、いや……カイト。何か感じないか?」

「ああ、これか? 多分、先程シンディ様が仰られてた先輩達だろう」


 ソラの問いかけに対して、カイトもまた彼と同じ方向を見ながらそう述べる。テオが訝しんだのは、自分の言葉の最中に彼がふと変な方向を見始めたからだ。そうして、ソラがわずかに警戒心を見せる。


「……相当、強いな」

「強いな。おそらく幻獣でも相当な格を有する」

「「「っ」」」


 カイトの言葉に、テオ達も何があったのかを理解したらしい。それにテオは懇意にしているという冒険者を見るとやはり彼もカイトと同じ方を若干警戒した様子で見ており、二人の感覚が正しい事が証明されていた。そうして、数瞬。沈黙のままに時が流れ、純白の何かが会場の真上に停止した。


「なんだ、あれ……」

「あれは……おいおい。来るなんて聞いてないぞ」

「知ってるのか?」

「お前も知ってるよ。正確にはあれの飼い主だが」


 驚いた様子の自身の呟きを聞いたソラに、カイトは少しだけ困ったような顔を浮かべる。これに、ソラが首を傾げた。


「どういう事だ?」

「まぁ、見てればわかるだろう……ほー……すごいな。図鑑やら学術書に顔写真が乗ってるのを見た事があるのがちらほら……」

「そうなのか?」


 純白の幻獣の背からゆっくりと降りてくる礼服姿の集団をどうやらカイトは各種の資料で見知っていたらしい。流石は公爵家のパーティか、と感心した様子を見せていた。


「ああ……ほら、あの先頭の初老の男性。彼は現代の魔獣研究の第一人者だ。他にもあの後ろの若い女性。あっちは若くは見えるが、滅多に表舞台には出てこない隠者だ。テオとペトラは、知ってると思う」

「ええ……逆に私としてはカイト様がご存知の方が驚きです」

「ああ……滅多に表舞台に立たれる方じゃないんだが」


 どうやらそれほどに有名ではあるが、知っているのが普通ではない人物らしい。カイトの発言を認める様に、テオとペトラが驚きを浮かべていた。


「なるほど。ノイエとラオムが一度に見れるとなると、流石にあのクラスがお目にかかれる事態というわけか」

「それほどだった、と」

「それほどさ。『ダイヤモンド・ロック鳥』の雛も空竜の子も共に長く旅をした冒険者でも、どれだけ高位の冒険者でもお目にかかった事がないような存在だ……見れるのなら、どんな隠者だろうと引っ張り出せるだろうな」


 リリーの問いかけに、カイトは思わず素の口調ではっきりと断言する。それはそうだ、といえばそれはそうだ。そもそも世界中の珍しい物を見て来ている彼でさえ、見た事がないと断ずる二体だ。来ない道理がなかった。と、そんな事を話している前で案の定ユリィがシンディの先輩の獣医師や研究者達へと挨拶をしていた。


「……で、誰があの純白の……なんだ、あれ」

「白幻竜だ」

「あれも竜種なのか?」


 カイトの返答に、ソラは驚いた様子で上を見る。彼が驚いた様に、浮かぶ巨大な純白の何かは純白の体毛で覆われた六枚羽の獣にも竜にも見える存在だ。が、竜のような威圧感はなく、どちらかといえば獣の母とでも言うような慈母の様相を感じさせた。


「ああ……ノイエやラオムと同じく最高位のレアリティを持つ竜の一体。エドナは知っているな?」

「ああ」

「あれと同じく、魔物に属するか別種の生命体とするかで紛糾した一体だ。その実例だな」

「うはぁ……」


 どうやら流石は世界最高峰の学者達が乗ってきた存在という所だろう。乗り入れも最高位の存在らしかった。と、そんな学者達が降りて、その最後に若い金色の髪の女性が降りた。それに、ソラがわずかに首を傾げる。


「ん?」

「どうした?」

「どっかで……見た気が……」

「だろうな」


 どうやらカイトにはソラがどこで見て、そしてどうして見たかもわかっていたらしい。困惑する彼に対して納得というか当然というような様子を見せていた。

 と、その金髪の女性が降りた後に、明らかに学者ではない様子――無論礼服ではあるが――の男性が降りると、白幻竜とやらが小型化し六枚羽の子竜へと変貌した。そうしてその男性を見て、ソラが思わず声を上げた。


「あ!」

「ど、どうしたんだい?」

「え? あ、あれデュランさんだよな?」


 テオの問いかけを無視し、ソラが驚いた様子でカイトへと確認を取る。これに、カイトは笑って頷いた。


「ああ……聞いた事無かったか? 竜騎士デュランって」

「マジで? 白銀卿は聞いた事あるけど……鎧姿以外初めて見た……」


 最後に降りた男性が、どうやら先にアストール家とソルテール家の軋轢の原因となった女性を仕留めていたというデュランなる男だったらしい。確かにその姿は学者というよりカイトの仲間という方が相応しく、礼服もどこか着慣れない様子があった。と、そんなカイトの言葉に、テオが驚きを浮かべる。


「竜騎士デュラン……あれが?」

「ああ……<<無冠の部隊(ノーオーダーズ)>>の隊長の一人竜騎士デュラン。白銀卿(はくぎんきょう)……<<白銀卿(ロード・シルバー)>>だ」

「あれが……」

「わー……」


 どうやらリリーもファブリスもデュランの名は聞き及んでいたらしい。とはいえ、それも当然で彼らの家に運ばれた騎士の絵というのが、そのデュランをモチーフにした物だったとの事であった。それ故にかファブリスは若干年頃の子供の様に、目を輝かせていた。と、そんな彼がカイトとソラへと問いかける。


「竜騎士デュランと知り合いなんですか!?」

「あ、ああ……俺、何度か<<無冠の部隊(ノーオーダーズ)>>の訓練に参加させて貰ってさ。そこで何回か……」

「「「え゛」」」


 ソラの発言に、ファブリス達だけではなく周囲の全てが思わず彼の方を振り向いた。当然である。とはいえ、それ故に周囲もソラの実力の高さがそこでの訓練に裏打ちされた物だと納得していた。


「え、あ……えっと……ま、まぁ……だから何回か話した事あってさ。あ、どもっす」


 どうやら向こう側がソラの存在に気が付いたらしい。わずかに笑って手を挙げていた。それにソラも一応の立場として小さく頭を下げる。そんな様子に、ファブリスが目を輝かせる。


「是非、紹介してください!」

「え、あ、まぁ……よいんじゃないかな」


 まさかここまで乗り気になるとは。ソラは前のめりなファブリスに思わず気圧される。どうやらそこまでの人物とは彼は知らなかったらしい。とはいえ、それ故にこそ彼は思わずカイトへと問いかける。


「良い……よな?」

「好きにしろよ。別に向こうも拒まんだろう」


 それどころかこの場だ。来てくれて有り難いとさえ言うだろう。カイトはソラの問いかけに内心で笑いながら、頷いた。付き合いであれば彼の方が遥かに長いのだ。どういう性格なのかはよく理解していた。無論、それ故に来るとは思わなかったらしいが。


「二人はどうする?」

「可能なら、是非紹介して貰いたかったけれど……あはは。流石に遠慮しておくよ。実はリデル公と話す予定でね。流石にそちらをすっぽかせないさ」

「そうか……まぁ、ならまた機会があれば」

「ああ。その時は是非」


 カイトの返答に、テオが一つ手を差し出す。握手という事らしい。そうして、カイトとテオ、ソラが握手を交わしてその場はお開きとなるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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