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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第86章 草原の中編

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第2111話 草原の中で ――幻獣――

 ふとした事から、今の自分が何をしたいか考える事になったソラ。そんな彼やそんな彼を見守るカイトを乗せた馬車はそのまま何事もなく、アストールへとたどり着いた。そうして、更に半日。二人は最後の家庭教師の時間を終わらせると、一応アストール伯へと断りを入れて外に出ていた。というわけで外に出た二人であるが、そこでソラが驚きを浮かべる事になる。


「ほわー……すげー」

「ん?」

「ほら。ああやって普通に鷲獅子(グリフォン)が飛んでるのって結構すごくね?」

「ああ、なるほど……」


 確かに言われてみれば、カイトも凄いと思えた。とはいえ、逆にここでカイトはそんなソラに驚きを得ていた。


「というか、お前……気付いてなかったのか? 割と外を見る機会あったと思うんだがな」

「いや、見てたけどよ……ほら、改めてしっかり見てみると、ここまで多いと結構驚かね?」

「んー……そんなもんかねぇ……」

「そりゃ、お前はわかんねぇんだろうけどさ……」


 当たり前といえば当たり前なのかもしれない。ソラはカイトの反応が薄い理由が三百年前にあると思っていた。


「三百年前ってもっとすごかったんだろ?」

「あー……そうだな。もっとすごかった」


 なるほど、それで自分も感慨が薄いのか。ソラの指摘でカイトも自分の反応が薄い理由に納得する。


「……懐かしいな。昔、マクダウェルに来た騎士達が思いっきり驚きまくってた。そんなぐらいには、竜騎士達が飛び回っていた」

「だろうよ」

「あはは」


 どこか釈然としないというか不満げなソラに対して、カイトは心のどこかにあるこの程度で、という気持ちを自覚して、困り顔で笑うだけだ。実際、三百年前はこんな光景が目ではないぐらいにマクスウェルには竜騎士達が飛び回っていたのだ。


「このアストールも三百年前はもっとすごかった。鷲獅子(グリフォン)達がものすごい勢いで飛んでてさ……懐かしいなぁ……アストレア領に初めて来た時、アストール家の鷲獅子(グリフォン)編隊に出迎えられたんだっけか」

鷲獅子(グリフォン)編隊?」

「ほら、国防軍の曲芸飛行とかやってる部隊あるだろ? あれに似た部隊がアストール家にはあってさ……多分、今もあるんじゃないか? 花形だし」

「へー」


 それは一度見てみたいな。ソラはカイトの語る内容に、わずかに目を輝かせる。実際、これについてはかなり曲芸じみた動きをする者たちらしく、カイトとしても機会があれば見ておいた方が良いと言っていた。そんな彼が、ソラへと先を促した。


「ま、とりあえず今は色々と見たいものもあるし、そっち見る方が優先だろう。せっかく来た他領地だ。今はアストール領を楽しもうぜ」

「それもそうだな」


 確かに上の光景にも心惹かれるが、せっかく来た異郷の地だ。この場所でしか楽しめないものを楽しむのも一興だろう。そうして、二人はアストール領最後の一夜を思う存分楽しんで、明日に備える事にするのだった。




 さて、明けて翌日。二人はアストール伯らと共に、アストレアへ向けて出発する事になる。その出発前の事だ。出発前にアストール伯は屋敷の前に立っていた。そんな光景を見ながら、ソラが小声でカイトへと問いかける。


「……何をしようとしているんだ?」

「おそらく、鷲獅子(グリフォン)を呼ぼうというわけなんだろう。幻獣級にもなれば、普通に次元は越えてくる。主人と認めた奴の呼び出しなら、どこに居ても聞けるだけの何かしらもあるだろう」

「お前の所の……えっと……エドナさんみたいに?」

「ああ……あいつも呼べばすぐに来てくれるだろう。それと同じ具合にな」


 小声のソラの問いかけに、カイトもまた少しだけ声のトーンを落として頷いた。どうやってお互いに連絡を取るのか、というのは主従によって異なる。なのでカイトもあくまでも想像でしかなかった。

 と、そうして二人の見守る前で、アストール伯が胸元から小さな金属製の笛を取り出した。大きさは小指の指ほど。音を変えるような穴もない。それに口に当てて、彼は音を鳴らした。


「「っ」」


 ぴぃー、という笛の音が響き渡る。どうやら特殊な加工を施されているらしく、音には魔力が乗っていた。そうして、数秒。彼方から何かが近付いてくる気配があった。


「何だ? 何かが……来る……?」

「この圧……間違いなく幻獣だな」


 圧の迫ってくる方向を見るカイトとソラであるが、その反応は正反対だ。ソラは若干身構えていたが、一方のカイトはどこか楽しげに見極めてやる、という様子があった。そうして更に数十秒。一同の前に、一体の鷲獅子(グリフォン)が舞い降りた。


「やぁ、ルフトゥ。元気にしていたかい?」

『ああ、ルフレオ。そちらは』

「無論、元気だ。と言っても、最近書類仕事が忙しくてね。また君に乗って運動したい所だよ」

『我は貴様の鷲獅子(グリフォン)だ。好きにすると良い』


 現れた鷲獅子(グリフォン)から放たれる声にはやはり幻獣というだけあって威厳があった。しかしその声には同時に、アストール伯への親しげな色があった。

 深い絆で結ばれている。それが悟れるだけの信頼感とでも言うべきものだろう。それが感じられた。と、そんなルフトゥがファブリスの横に居るノイエに気が付いた。


『ふむ……中々に育っているな』

「ああ。まぁ、まだまだ君には遠く及ばない。あまり、驚かせないようにね」

『子供を驚かせる趣味はない』


 アストール伯のどこか冗談めかした言葉に、ルフトゥは楽しげに笑う。その一方のノイエはというとやはり幻獣を前にしたからか、かなり萎縮している様に思えた。流石に反抗期の魔物も幻獣を相手にはしたくないらしかった。と、そんなルフトゥがノイエから視線を外し、アストール伯へと問いかける。


『それで、またアストレア家の呼び出しか』

「頼まれてくれるかい?」

『良いだろう。あそこに集まる者たちとの語らいは我としても悪い事ではない』


 これは当然ではあったのだが、やはりアストレア家ほどの家が集めるのだ。各地で幻獣を相棒にするような冒険者も呼ばれる事があり、ルフトゥもそういった幻獣との語らいを持てる時間は有意義だそうだ。アストール伯の問いかけに快諾を示していた。と、そんな彼であったが、そこまで話してふとカイトとソラに気が付いた。


『む? この二人は』

「ああ、今回ノイエの訓練を手伝ってくれた冒険者だ。アストレアは帰り道でね。二人共、かなり有名な冒険者でアストレア家からもお呼びが掛かったんだ。それで、一緒にね」

『……』


 アストール伯の言葉を聞きながら、ルフトゥは少しだけ目を細めてカイトとソラの二人を見る。そうして、彼はすぐにカイトの異質さに気が付いた。


『……何者だ?』

「私はカイト・天音。こっちはサブマスターでソラ・天城です」

『……そうか』


 カイトの返答はルフトゥにとって、正確に答えたものではなかった。が、それでも十分だったらしい。一つ笑って頷いた。


『では、ゆくか。あまりのんびりしても居られまい。我が来るとなれば、移動するだけでも威圧してしまうだろう』

「すまないね、苦労を掛けて」

『良い。弱き者に配慮するのは強者の義務だ』


 アストール伯のねぎらいに、ルフトゥが一つ笑って背を向ける。そうして、一同はアストール家が用意した飛空艇に乗り込んだ。

 と、そうして乗り込んでしばらく。半日ほどの移動の最中に、カイトとソラはアストール伯から呼び出しを受ける事になる。とはいえ、呼び出された二人がアストール伯と共に向かった先は、ルフトゥの為に専用に設けられたスペースだった。


「悪いね。ルフトゥがどうしても君達と話したいと言うものだからね。珍しい事だよ、彼が自分から話したい、というなんて」

「はぁ……」

「まぁ、彼としても日本人というか異世界人なんて初めて見るだろうからね。そんな緊張せずに話してくれれば良いよ。ああ見えて、案外気さくな奴なんだ」


 どうやらファブリスがノイエを慕う様に、アストール伯も幼少期から寝食を共にしたルフトゥに対してはどこか子供っぽい顔が覗くらしい。

 最後尾の専用の部屋に向かう最中にルフトゥの事を語る彼の顔は非常に楽しげだった。そうして、そんな彼の自慢話にも似た話を聞きながら歩く事少し。この飛空艇の中でも特別広い一室にたどり着いた。


「ルフトゥ、入るよ。二人も連れてきた」

『ああ、すまない。入ってくれ』

「ああ……ほら、二人共入ってくれ」


 ルフトゥの許可を得て扉を開いたアストール伯に促され、カイトとソラの二人も部屋に入る。そうして入った部屋では、ルフトゥが膝を折ってくつろいでいた。


『二人共、よく来た。ルフレオも助かった』

「ああ……それで私は先に言った通り、一旦離れるよ。また来るから」

『ああ、すまなかったな』

「いいさ。君の頼みならね」


 後に聞くと、どうやらアストール伯は仕事の合間にルフトゥの頼みだから、と自ら動いてくれていたらしい。ルフトゥのねぎらいに笑って快諾を示したものの、かなり急ぎ足でその場を後にする。

 とはいえ、実のところアストール伯が仕事の時間というのはルフトゥもわかって、敢えてこの時間に動いてくれる様に仕向けていた。そうして、そんな彼が常にはアストール伯が来た時に使うソファを顎で示す。


『そこのソファを使うと良い。ルフレオが常には使うものだが……使う者もいない。良いだろう』

「はぁ……」


 ルフトゥに促され、ソラは若干の困惑気味にソファに腰掛ける。その一方、カイトは特に迷いもなく腰掛けていた。そうして二人が腰掛けた所で、改めてルフトゥが先と同じ問いかけを行った。


『それで、問おう。何者だ、小僧共。二人共、こちらに来て半年やそこらの小僧が出せる圧ではあるまい。だがかと言って、ノイエの様子を見るにルフレオに害を為すようにも見えなかった』


 やはり同じく魔物に端を発する存在だからだろう。ルフトゥにはノイエの様子から二人が悪い人物ではないが、何か事情を抱えているものだろうと思ったようだ。故にアストール伯の前では詳しい事は問いかけず、今のこの時間に問いかける事にしたようだ。

 それにこの部屋にはアストール伯の意向――相棒が隠すというのなら、それを覗くような真似はしたくないという意向――で監視カメラの類は一切設けられておらず、ここでなら普通に話せるだろう、と判断したのであった。そうして、そんなルフトゥの問いかけにソラがおずおずと口を開いた。


「あ……その、俺はちょっと理由があって」

『ふむ……話せ』

「はい」


 おそらくどちらかは何か特殊な事情があるんだろう。ソラはルフトゥの圧に若干押され気味になりながらも、自身が少し前まで経験した事をかいつまんで語っていく。


『なるほど……それは苦労したな』

「……はい」

『うむ』


 やはり幻獣とは人とは少し違うのだろう。ソラはおそらく鷲獅子(グリフォン)として見れば、老人にもならないだろう若輩にも関わらず感じられる徳と風格、そしてそれから来る柔らかな包容力をそう思う。


『が、なるほど。その苦労は小僧。貴様の血肉になっている。貴様の師が貴様の魂に知恵を授けたのなら、その苦労は貴様の血肉を育てた。誇ると良い』

「ありがとうございます」

『うむ……それで、もう一人の小僧……と言うべきかどうかは我にもわからぬが。何者だ? 我さえ感じられるこの畏怖……並々ならぬ者ではない。英雄……そう言うが良いだろう。おおよそ、小僧らとは思えん』


 どこか畏怖さえ滲ませて、ルフトゥがカイトへと問いかける。これに、カイトは隠し通せる事ではないと最初から諦めていた。故に、彼は公爵としての、勇者としての風格を露わにする。


「何者、と言われれば……おそらく、聞いているはずだ。日向と伊勢からな。幻獣があの二人に会っていないとは思わん」

『……なるほど。それでか』


 どうやら流石は幻獣らしい。風格を切り替えたカイトの一言だけで、彼が何者で自身が感じる畏怖が何かを理解したらしい。


『納得だ。我も生まれぬ前故、どれほど誇張されていたかと思ったが……誇張ではなかったか』

「そういう事だ」

『光栄だ。神獣方さえ頭を垂れるという英傑と会えて』

「こちらこそ、幻獣と語らえて光栄だ。そしてよければ、話を聞かせて欲しい」

『無論だ』


 どうやらカイトが伝説の勇者カイトだとわかり、ルフトゥも彼が対等に語らって良い相手だと判断したようだ。カイトの申し出を快諾する。そうして、それからしばらくの間二人はルフトゥとの語らいの時間を得る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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