表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第86章 草原の中編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2145/3932

第2106話 草原の中で ――親子並んで――

 訓練の最中に入ってきたアストール軍からの連絡で、一旦訓練を中断して魔物達との戦いを行う事になったカイト。そんな彼はファブリスとノイエの防衛をソラに任せると、自身は『ワイズ・オーガ』なる魔物が率いる魔物の群れと『ランド・ワーム』なる巨大な魔物へと迎撃を行う事となる。

 と、そんな二つの迎撃が終わった頃に、ソラは本来アストール軍本隊が抑え込む筈のウルフ型の魔物による奇襲を受ける事になってしまう。そうして、それがノイエによる<<光の矢(アロー・レイ)>>による支援にて討伐された後、カイトは改めてソラとファブリスの所へと戻っていた。


「坊っちゃん。ノイエの状態はどうですか?」

「えっと……大丈夫そうです。でも少し眠そう……かもしれません」

「仕方がないでしょう。使った事がない魔術を行使して、坊っちゃんを守ってくれていたのですから」


 少し心配そうなファブリスに対して、カイトは無理もない、と慰めを送る。と言っても単に魔力を過度に消費した上、大規模な戦闘が周囲で起きていた事により心労が祟っての事だと言って良いだろう。肉体的にも魔力的にも十分問題無い範疇にカイトの目には映っていた。


「そう……なのかな」

「ええ……とはいえ、もう今日はこのまま休ませてあげて良いでしょう。別に訓練は今日必ずしなければならないものではない。今日は休み、明日また行えばよい」

「はい」

「はい……」


 ファブリスの返答に頷き、カイトは少し離れた所に立つ馬車の御者に一つ頷いた。このまま帰らせる、という意味だった。


「ソラ。お前はこのまま坊っちゃんと共に馬車で街に戻れ」

「お前は?」

「オレ? オレは適当に軍の支援をしてくる。このまま荒らされても明日以降に響くからな」

「りょーかい」


 カイトの指示に、ソラは一つ頷いて了承を示した。せっかく良い場所という事で場所の確保をしてくれているのだ。それを荒らされては、明日以降にまたハイネスらに探してもらわねばならなくなってしまう。それは手間だし、向こうの事情だからとてそう何度も何度も延期は受けたくなかった。

 そうして馬車に乗って遠ざかっていく二人を見送ると、カイトは一つ首を鳴らす。実のところ、彼が残ったのには一つには先の理由もあるが、最大の物は別にあった。


「さて……ここしばらくお上品にやってたから運動するか」


 ここ一週間近く、基本的に関わっていたのは貴族とその家族達だ。それに合わせて貴族としての振る舞いを演じていたが、それはそれでストレスだったらしい。どこか獰猛に牙を剥いて、カイトは暴れる魔物達の掃討に向かう事にするのだった。




 さて、それから数時間。監督権限で今日の訓練を取りやめにしたカイトは、ソラと共に事の経緯と次第をアストール伯へと報告するべく彼の所へとやって来ていた。


「なるほど。軍にはキツく言い聞かせておこう。が、こう言ってはなんだが、彼らも血気盛んでね。そこは理解してやって欲しい」

「いえ……演習に影響されて魔物の群れが動く事はよくある事です。たまさか、今回は大きな群れに遭遇してしまった、という所でしょう。そこから乱戦にもつれ込んでしまったのだと」

「そう言ってくれると有り難い」


 カイトの執り成しに、アストール伯は一つ礼を述べる。あの後軍の支援に乗り出したカイトが見た光景なのであるが、結論から言えばかなりの混戦状態だったらしい。見ればいくつもの群れが入り乱れ、魔物の群れ同士の戦いさえ起きていた様子だった。

 本来は鷲騎士達もそうならない様に動けた筈なのだが、些か彼らも調子に乗ったらしい。この程度なら行けるだろう、逆に訓練相手にちょうど良い、と見境なしに手を出した結果、ああなっていた様子だった。カイトはそんな彼らに一応のフォローを入れておいた、という所だろう。


「それで、ノイエの事は聞いた。ファブリス、やはりノイエは良い鷲だな」

「ありがとうございます」


 事の経緯もあることなので一応参加させておくか。そう判断したアストール伯に呼ばれたファブリスは、父の称賛に嬉しそうに頭を下げる。それに、アストール伯も頷いた。


「ああ……それでカイトくん。今日の午後の訓練の取りやめ、確かに聞いた。それで良いだろう。ファブリス、お前も自由時間にするが……何か予定はあるのか?」

「いえ……ですが、剣の稽古をしたいな、とは」

「ほう……随分とやる気だな」


 どこかやる気を漲らせるファブリスに、アストール伯は若干驚いたような顔を浮かべる。これに、ファブリスが告げた。


「ノイエに恥じない騎士になりたいと思いました。だから、彼女が休んでいる間に剣の稽古を少しでもやりたいんです」

「そうか……ソラくん。申し訳ないが、ケネスは午後は予定が空けられなくてね。君単独になってしまうが……頼まれてくれるか?」

「はい」


 ソラとしても別に剣の稽古があったとて別に問題はなかった。なのでアストール伯の申し出に彼は二つ返事で頷くと、そんな彼にアストール伯は喜色を浮かべた。


「ありがとう。これについては依頼とは別と考えてくれ」

「はい」


 依頼とは別、という事は報酬に上乗せするという意味。ソラはアストール伯の言外の言葉をそう理解する。というわけで、手早くそこらの話を片付けたアストール伯であったが、ふと思い立った様にカイトへと問いかけた。


「そうだ……それなら、一つカイトくんに頼みたい」

「はぁ……なんでしょうか」

「どうせならリリーも一緒に剣の稽古を受けておかせたくてね。せっかくファブリスに錬金術の指南を受けさせたのだ。どうせなら、逆も経験させておこうかと」

「まぁ、私は構いませんが……」


 別にカイトとしても午後の訓練が取りやめになった以上、暇は暇だ。どうせなので街でも見て回るか、程度にしか考えていないが、仕事があるならそれはそれで良い。が、それはあくまでも彼は、なのであってリリーがなんというかは話が別だった。


「お嬢様の方は大丈夫ですか?」

「問題は無い。騎士の家に生まれた以上、万が一の際には剣を取って戦う事が騎士の家に生まれた者の宿命だ。そこに男も女も、腕の良し悪しも関係はない。戦わねばならない、というだけだ。錬金術はその上でのオプションに過ぎないからね」


 カイトの問いかけに対して、アストール伯は貴族としての顔でそう明言する。それに、カイトもそれならと頷いた。


「なら、問題ありません。こちらについては別に腕をあわせる必要も無い事でしょう」

「ああ……ああ、ソラくんには言っているのだが、別に本気でやってくれる必要はない。単に君に打ち込ませるから、それをいなして悪い点を見付けて指摘してやってくれれば良い」

「それで良いのですか?」

「無論だとも。敵がどんな流派を使ってくるか、なぞこちらが選べる事ではない。故にどんな敵を相手にしても戦える様に、多くの流派との戦いを経験させておく事に意味がある」


 ある意味では軽い仕事に過ぎない話を聞いて驚きを露わにしたカイトに、アストール伯はそれで良いとはっきり明言する。そしてこれについては確かに、とカイトも納得した。


「確かにそうですね。仮想敵を想定する事は良い事ですが、同時にそれに縛られかねない。誰を相手にしても戦える様にするのが、本来の正しき騎士の姿ですか」

「そういう事だ。では、二人共頼むよ」

「「はい」」


 アストール伯の言葉に、カイトとソラは揃って頷いた。そうして、二人は午後の訓練に向けて支度に取り掛かるのだった。




 さて、アストール伯からの要請を受けて数時間。カイトとソラは今度はアストール伯爵邸の敷地内にある訓練場にやって来ていた。無論、その前にはやる気十分なファブリスと、最悪の展開になった、と若干ファブリスを恨めしげに見ているリリーも一緒だ。だが、そんな所には更に一人増えていた。


「アストール伯……どうされたんですか、伯までそんな格好で……」

「あっははは……実はさっき昼食の際に妻に少し貴方もファブがやる気になっているのに、少しは見習ったらどうですか、と言われてしまってね。これは引けないぞ、となったのさ」


 この展開は流石に想定出来ていなかったらしいカイトに対して、アストール伯が少しだけ照れ臭そうに笑う。そんな彼が屋敷のバルコニーを指差せば、先に紹介を受けていた第二夫人と共にお腹の大きな夫人が一緒だった。


「そういうわけですまないが、私も参加させてもらうよ」

「まぁ……構いませんが……ソラも、良いよな?」

「あ、あぁ……」


 別にカイトとしては誰が居ようとやる事は一緒なので問題にはならなかった。ソラにしてもそうだ。なので二人共困惑気味ながら、アストール伯の申し出に頷いていた。

 なお、実際の所としてはその昼食の際に最近運動なさってませんね、という一言でアストール伯が若干腹の肉が気になったらしい。彼の体格から考えれば気の所為や気にしすぎ、と言っても良いのだろうが、年齢も相まって思い当たる節があったのだろう。というわけで、こちらもなにげにファブリス並にやる気を漲らせるアストール伯が問いかけた。


「それで、どういう形で訓練をするつもりなんだ?」

「ええ、それについては基本的には交代交代で打ち込んでもらおうかな、と思っていたのですが……三人になると、一人休憩二人打ち込み、という形で良いかと」

「なるほど……確かにそれは道理だ」


 おそらくカイトもソラも自分達三人を一斉に相手にしても戦えてしまうのだろうが。アストール伯は二人の伝え聞く実力を鑑みてそう思ったが、同時にこれが訓練である事も履き違えていなかった。故に彼は自分が先に出る事にする。


「では、まずは私がソラくんに相手を頼もうかな。ファブもいつもソラくんと稽古をしていたから、たまにはカイトくんに相手をしてもらってからで良いだろう」

「はい」

「ご随意に」


 どうやらファブリスにもリリーにも――そもそもリリーはやる気もなかったが――異論は無いらしい。一歩進み出たアストール伯の言葉に頷いて、ファブリスも剣の柄を強く握りしめカイトの前へと進み出る。そうして、彼がカイトへと一つ頭を下げる。


「お願いします」

「こちらこそ、お願いします」


 ファブリスに対して、カイトもまた頭を下げる。今回は基本的に彼は攻め込まない。初手は様子見で、ファブリスの癖を指摘するだけだ。というわけで、やる気十分なファブリスが


「はぁ!」


 力強い一撃がファブリスにより放たれる。とはいえ、この程度ではカイトはびくともしない。故に一切の衝撃も受けていない様子のカイトに、ファブリスが驚きを浮かべる。


「え?」

「力みすぎです。気合が十分なのは良い事ですが、それでは最後まで保ちませんよ」

「っ」


 笑うカイトの圧倒的な余裕を見て、ファブリスは一度距離を取って深呼吸。逸る気持ちを宥める。そうして、彼は再度地面を蹴った。


「はっ!」


 なるほど。上半身のバネを使った一撃か。カイトは地面を蹴って遠心力を利用する様に放たれた剣戟を見て、これが鷲騎士達の基本的な剣技である事を理解する。


「ふっ」


 放たれた一撃に対して、カイトは軽く滑らせる様に軌道を逸らす。これにファブリスは弧を描く様に後ろに回ろうとして、そこにカイトが足を差し込んだ。


「わ、わわわわわっ!」

「足元がお留守です。回り込む場合はもう少し距離を取った方が良い」

「は、はい!」


 カイトの指南に、たたらを踏んだファブリスが一つ頷く。そうして、彼は再度距離を取ってカイトへと何度となく打ち込んでいく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ