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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第86章 草原の中編

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第2102話 草原の中で ――錬金術――

 アストレア公爵家分家のアストール家からの依頼により、アストール伯の長男ファブリスとそのペットであるノイエという『ダイヤモンド・ロック鳥』の子供の調教の手伝いを行う事になっていたカイトとソラ。

 そんな二人は仕事開始三日目になり、アストール伯からの要望で訓練場所を変えて訓練を開始する事になる。そうして、訓練場所を変えてから更に二日が経過していた。というわけで、この日もこの日でカイトは午前中の訓練を終えると午後になりリリーの家庭教師の時間となっていた。


「ふぅ……そういえばカイトさん」

「どうしました?」

「ファブの訓練はどうなっているんですか?」

「ノイエの、ですか?」

「ああ、いえ……すいません。そちらではなく、剣の訓練もなさっていると伺いました。そちらはどうなっているのかな、と」


 カイトの問いかけに、リリーは一つ笑って首を振る。これに、カイトは隠す必要もないか、と普通に答えた。


「さて……どうなのでしょう。少なくとも筋は悪くないとは聞いているのですが……」

「何か含みがありますね」

「あはは……そうですね。含みが出てしまうのは仕方がない事かと」

「それは、どういう……」


 カイトの言葉の意図が掴めず、リリーは不思議そうに首を傾げる。それに、カイトは物の道理を告げた。


「アストール家は鷲騎士の名家と伺っております。その鷲騎士の主戦場は空戦。大空を駆ける『鷲獅子(グリフォン)』達に跨ってこそ。いわば本来の訓練は馬上で行うべきではあるのです。無論、だからといって陸上での戦闘を疎かにして良い話となるわけではないですが……」

「本来の戦場に近い評価を見れていないので、先の反応と」

「ええ」


 自身の言葉の先を読んだリリーに、カイトは一つ頷いた。まさにその通りで、今後ファブリスは確実に『鷲獅子(グリフォン)』の上で戦う事になる。その『鷲獅子(グリフォン)』が彼が共に暮すノイエになるのか、それともまた別のものになるのかはわからないが、それだけは確定だった。と、そんな事を語る彼であったが、一転笑った。


「とはいえ、それでも彼の剣の腕は悪くはないでしょう。惜しむらくは、現時点では体躯に恵まれていないという所でしょうが……」

「そ、それはまぁ……しょうがないかな、と」

「? 何かあったのですか?」


 どこか楽しげに視線を逸したリリーに、カイトは不思議そうに首を傾げる。これに、彼女は笑いながら教えてくれた。


「そう言えばカイトさんはクレールお母様に会った事はなかったのですね」

「ええ。第二夫人は身重なので、と」

「ええ。もう少しで生まれるのでは、というのが医師の見立てです」


 クレールというのが第二夫人の名らしい。そして身重というのはよほど厄介な身の上などにない限りは隠す必要も無いし、調べるとすぐに分かる事だ。リリーも特段隠さなくてよかったのか、普通に明かしてくれていた。


「それで、それがどうかされましたか?」

「ええ……ファブの母は若干、低身長なのです。どうやらあの子もその血を引いているみたいで……年齢に比べて若干、背が低いんです」

「なるほど」


 それは少し気にしていそうだな。カイトはアストール伯を思い出して、そう思う。実際、後に公爵に復帰したカイトがリリーから聞いた所によると、気にしていたそうである。特にカイトもソラも、そして彼の父であるアストール伯も男性からしても高身長の部類に立つ。この時期の彼は特に気にしていたそうであった。


「まぁ、よく寝てよく食べて、しっかりと運動してという所ですか。流石に後は、どうすれば良いかはわかりません。大きくなる奴は伸びるし、伸びない奴は伸びない。身体だけは、どうしようもないですからね」

「そうですね……」


 どうやらリリーもリリーで何か思う所があるらしい。カイトの言葉に彼女はわずかに遠い目をする。なお、そんな彼女が気にしている点はというと、どうやら胸を気にしていたらしい。とはいえ、それがカイトにわかるはずもない。そしてリリーとしても何かを言うつもりはない。なので彼女は一転気を取り直して、カイトに再度問いかける。


「そう言えばふとした興味なのですが、もし私とファブが戦った場合、どちらが勝つと思いますか?」

「それはどういう意味ですか?」

「そのままの意味です。錬金術と剣……どちらが勝つか、少し興味があります」

「それはわかりませんよ。錬金術も剣術も所詮は道具。道具の良し悪しはあれど、道具の使い手の良し悪しを覆せるほどではない。無論、道具の良し悪しがダメというわけではないですけどね」


 錬金術と剣術。これが相争った場合にどうなるか、は流石にカイトにもわからない。どちらが優れているか、というのはカイトにも未知だ。とはいえ、これにリリーが告げる。


「武器を分解出来る錬金術の方が有利に思いますが」

「ふふ……そうですね。確かにそう思います……そうですね。じゃあ、一つ試してみましょう」


 リリーの問いかけに、カイトは笑いながら彼女の机の上を見る。そうして何もめぼしい物が無かったので、更に周囲を確認して今日も今日とて同席しているレイラを見た。


「レイラさん。予備のレターナイフはありますか?」

「何をなさるつもりですか?」

「お嬢様の言葉が正しいか、試して頂こうかと」

「なら、こちらで十分かと」


 カイトの求めに応じて、レイラは仕事道具の一つとして持っていたレターナイフを取り出した。このレターナイフは刃の部分に特殊な刻印が刻まれており、魔力で発生させた刃を使って切り裂くものだ。人体という概念に対しては切り裂けない様に加工されており、彼女のような貴族に仕える者が貴族の前で出す為のものだった。


「ええ……では、お嬢様。私の持っているこのレターナイフを分解してみてください」

「ええ……」


 何故そんな事を。そう思うリリーであったが、カイトの指示に素直に従う。そうしてカイトの持つレターナイフを分解してみようとして、分析を実施。難なく分析を終える。が、そこから先だ。分解に取り掛かろうとしたタイミングで、彼女は思わず目を見開いた。


「……あれ?」

「無理でしょう? 錬金術も万能ではない。分解出来る物、出来ない物。分解出来る状況、出来ない状況といろいろとあるのです」

「一体何が?」

「分析された直後に、剣気と呼ばれる特殊な力場をナイフに纏わせたのです。剣の剣という概念を強固にする物……とでも言えば良いでしょうか。勿論、これを上回れば十分に分解可能ですけどね」


 ぶんっ。カイトは敢えて可視化する様に、レターナイフに剣気を纏わせる。それはまさしく、レターナイフが何かのオーラを纏っているようであった。


「これが剣気です。剣士のみならず、おおよそすべての近接戦闘を行う戦士達は各々の武器にこうやって気を纏わせています」

「気? それは中津国の……?」

「ああ、そうはそうなのですが……まぁ、似て非なるもの、と言っても良いでしょう。いえ、実際には同じ物なのですが。これはもう無意識的なので、誰も気を使っていると思っていないでしょう。実際、優れた冒険者で剣気を知っていても、これが気と知らない者も少なくない」


 ここらは少し複雑な話になってしまう。カイトは少し困り顔で、リリーの問いかけに首を振る。そうして彼はレターナイフから気を霧散させると、レイラへと返却した。


「ありがとうございます……それで今見た通り、同格の相手であれば錬金術はおおよそ通用しないでしょう」

「なるほど……それで、錬金術の先生は基本的に相手の武器を狙っても意味がない、と仰ってたわけですか……」

「ああ、そういう」


 なるほど、それでさっきの問いかけか。カイトは先ほどの問いかけの真意を理解して、リリーのつぶやきに納得する。それにリリーも頷いた。


「ええ……疑問だったのです。錬金術を使えるのなら、相手の武器を破壊した方が手っ取り早いんじゃないか、と。勿論、それが可能なだけの分解の手腕と身体性能は求められるでしょうから、簡単でも無いでしょうが」

「そのとおりです」


 そこがわかっているのなら問題はないか。カイトはリリーの言葉に深く頷いて同意する。そうして、彼は告げた。


「分解が可能な距離には限度がある。そして今見た通り、敵の武器を分解するには通常より遥かに距離は短くなります。それこそ、ゼロ距離と言われる程度には近付かないとダメな事もあるでしょう。ですが……」

「ですが?」

「ゼロ距離なら、錬金術は最強に至る可能性はあります。お嬢様の言われた通り、武器を破壊出来ますからね。まぁ、それも緋々色金(ヒヒイロカネ)なら難しいでしょうけども」

緋々色金(ヒヒイロカネ)……錬金術でも分解や形状変化が難しいとされる伝説の物質ですね」

「ええ」


 流石に緋々色金(ヒヒイロカネ)は知っているか。カイトはリリーの言葉に一つ頷いた。そんな彼に、リリーは問いかける。


「そう言えば……ふと疑問に思ったのですが、緋々色金(ヒヒイロカネ)を筆頭にした魔導金属は何故錬金術の効果が薄いのですか?」

「ふむ……興味深い質問です」


 いえ、普通に答えるんですか。リリーの純粋な疑問に対して一つ悩む姿勢を見せたカイトに、レイラは遠目に思わず驚きを露わにする。リリーも会話の流れで普通に問いかけているだけなので気付いていなかったが、普通これは専門の家庭教師に問いかける内容だ。カイトに問いかけて答えられる内容ではなかった。そしてカイト自身、普通に流れで答えていた。


「基本的に魔導金属とはどのような物質か、ご存知ですか?」

「魔導金属は魔力を得ると本来の性質を露わにする特殊な物質です。金属である事もあるし、鉱物である事もある。はっきりとは一概に言えません」

「はい。そして例えば魔法銀(ミスリル)と銀の様に、通常物質と似た科学的性質を示す物も少なくない。電気伝導性、熱伝導性、電気抵抗など……そういった具合ですね」

「……はぁ」

「……すいません。これは流石にわからない話でしたね」


 うっかり学術的な話をしてしまったからか、リリーは呆気にとられて困惑気味だった。それにカイトも一つ謝罪し、今のは忘れて貰う様にする。というわけで、彼はわかりやすく噛み砕いて再度話をした。


「例えば熱の伝えやすさ。例えば、電気の通しやすさ。そういった物が通常物質と似た性質を持つという意味です」

「ああ、そういう……」


 流石に電気抵抗などと言われても、リリーどころかエネフィアの優れた学者達ではわからない。が、こう言われればリリーでも理解できた。


「とはいえ、その通常物質との最たる差はこの魔力を得た場合に特異な性質を示す、という所です。錬金術とて魔術の一種。魔力を用いて行われる物に大差がありません」

「あ……そっか。だからその時点で魔力を得て反応。魔力に対する防御力が底上げされてしまうんですね」

「そういう事です。そして当然、敵の武器や防具であればその時点で魔力的な防御力は遥かに底上げされます。結果、錬金術でも魔導物質は分解し難いわけですね」

「なるほど……ありがとうございました」


 どうやらリリーも今の解説である程度の納得は得られたらしい。無論、それでもどういう反応を示した結果、その魔力的な防御力が底上げされるのか、というのはわかっていない。

 が、それは流石に彼女もカイトに問いかける内容ではないと思ったらしかった。そうして、それからもしばらくの間二人は様々な金属に対する錬金術の反応や分解などについての話をしながら、家庭教師の時間を過ごす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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