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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第86章 草原の中編

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第2093話 草原の中で ――二日目・終わり――

 アストレア家分家アストール伯爵家。そんな家からの依頼により一子ファブリスの飼うペットの調教の手伝いを行う事になっていたカイトとソラであったが、そんな二人は依頼開始二日目になり休暇に入るハンスに変わって本格的な訓練を行う事になっていた。そうして、ファブリスの要請により最初に訓練を開始したソラであったが、彼の方はつづがなく一度目の訓練を終わらせる事になる。


「ふぅ……」

『お見事……だな。上手く避けられたと思ったんだけどなー』

「ありがとうございます」


 ソラの称賛に対して、ファブリスはどこか照れた様子で一つ謝罪する。基本的な訓練の流れなのだが、一度の訓練で行える攻撃行動は三回までになっていた。

 その間一度でも捕縛が出来れば、ノイエの訓練成功。一度も捕縛出来なければ訓練失敗だった。なので今は三度目の攻撃で、ノイエが上手くソラの操る訓練用の魔道具を掴んで持ち上げたのである。


「ノイエ!」

『……』


 ファブリスの言葉に、獲物となる魔道具を捕獲したノイエが舞い降りる。それに、ファブリスは用意させておいた牛肉のブロックを小分けにしたものを取り出すと、ノイエへと与える。


「よくやったね」

『……』


 牛肉の塊を口にしながら、ノイエはどこか上機嫌に主人の称賛に喉を鳴らす。どうやら主従関係はともかくとして、信頼関係はあるらしい。それを見ながら、カイトは僅かな安堵を浮かべていた。


(この様子だと、そこまでキツイ波は来そうにないかな……本来、そこらを見極めて飼育するかしないかを決めるべきなんだが……杞憂だったか)


 当然だが、魔物にだって個体差がある。なので日向の様にのんびりとした竜も居れば、同じ竜でもアイシャの相棒であるミツキの様に真面目な魔物も居る。

 それと同様に本来は飼育に適さないような攻撃的な個体もおり、カイトはノイエはあくまでもレアな魔物として選ばれただけであったため、そこを危惧していたのである。というわけで、ひとまずは安心出来そうと判断した彼はそんなノイエを腕に乗せたファブリスに問いかける。


「ファブリス坊っちゃん。次はどうしますか?」

「えっと……もう一回、ソラさんにお願いして良いですか? もう一回上手く捕まえさせておいて、ノイエに自信を付けさせてやりたいと思います」

「良い事かと」


 ファブリスの返答に、カイトはそれで良しと認める事にする。やはり何度も捕まえられないと、自信を喪失する要因にもなりかねない。それは困るので、最初の内は上手く成功させてやって自信をつけさせてやるのも手は手だった。というわけで、そんな彼はもう一方のソラへと問いかける。


「ソラ。お前もそれで良いか?」

『おう』

「良し……じゃあ、タイミングはまたファブリス坊っちゃんにお願いします」

「はい」


 カイトの促しに、ファブリスが一つ頷いた。そうして、数分の休憩の後にファブリスは再度ノイエを空中へと舞い上がらせて、訓練を再開する事にするのだった。




 さて、訓練開始二日目の午後。ソラの操る四足獣型での訓練から始まった訓練は、その後数度のソラの四足獣型での訓練を経て、カイトの鳥型での訓練へと移行。そこからはソラの四足獣型とを交互に繰り返す形で、進んでいた。


「ふぅ……」

「お疲れ様」

「あ、ありがとうございます」


 ソラのねぎらいに、ファブリスが一つ感謝を述べる。一見するとただノイエに指示を出しているだけに見える彼であるが、その実カイトやソラが動かす魔道具が姿を隠すとそれを探す為に各種の魔術を展開して探索する事になる。

 ノイエの視界を間借りするのはあくまでもその一つに過ぎず、実際にはいくつもの魔術を行使する事も珍しくない。肉体的な疲労であればノイエの方が負担が大きいが、魔術的な負担であればファブリスの方が遥かに負担が掛かっていたのである。それ故に一回の訓練は一時間が限度とされていたのであった。と、そんな二人の所に、訓練の終わりを見て取ったハンスがやって来た。


「良し。坊っちゃん、お疲れ様です。こちらを」

「ハンス……ありがとう」

「へい」


 差し出された回復薬を受け取ったファブリスの言葉に、ハンスが一つ頷いた。そうしてそれをファブリスが口にするのを見ながら、彼は通信機を使いカイトへと告げる。


「カイト。お前さんも戻ってこい」

『ええ……良し。魔道具も回収しました』

「おう」


 ハンスが頷くとほぼ同時。訓練用の魔道具を再度丸めたカイトが<<縮地(しゅくち)>>で移動してくる。そうしてカイトが戻ってきた所で、ハンスが告げた。


「良し……まずは改めてファブリス坊っちゃん。お疲れ様です。これで今日の二時間の訓練は終わりです。ノイエもゆっくり休ませてやってください」

「うん、そうするよ」

「へい。じゃあ、俺達はこのまま残って後片付けやらやりますんで、坊っちゃんはどうされますか?」

「僕ももう少しだけ残ってるよ。ノイエがもう少し外に居たそうだから」


 ハンスの問いかけに、ファブリスがそう明言する。というわけで、少し離れた所で再度ノイエを飛び上がらせて自由にさせてやった彼を横目に、ハンスは改めてカイトとソラに告げる。


「まずは二人共、ご苦労だった。まぁ、調教師として言うならまだまだだが……代役のお前さんらにそこまですげぇってのを求めるのもなんだろう。及第点って所をくれてやる」

「「ありがとうございます」」


 笑うハンスの言葉に、カイトとソラは揃って礼を述べる。どうやら少なくとも却下されるような腕は無かったらしい。


「で、見たらわかったと思うが、ノイエはもう殆ど反抗期は終わってるようなもんだ。さほど問題となる事も無いだろう」


 自由気ままに飛翔するノイエを見ながら、ハンスは一つはっきりと明言する。と言っても勿論完全に安心出来るわけでもないし、そのためにカイトとソラが来ているのだ。その点はその点として存在していた。


「つっても、まだ反抗期は終わったわけじゃない。なんで万が一にも逃げない様に気をつけろ。まぁ、基本は結界があるから逃げ出す事は無いがな。この結界だって完璧じゃない。ノイエが本気でやろうとすりゃ、破壊も不可能じゃぁない。ああ、勿論、結界を解除する場合はファブリス坊っちゃんが出た後でな。今日みたいにまだ外に居る場合は先に訓練で使った道具の片付けをして、最後に結界の解除の順番を徹底しろ」


 ハンスは改めて、カイトとソラに訓練の要点を述べていく。そうしてそれが一通り終わった所で、彼は一つ頷いた。


「こんな所だな。まぁ、こっから一週間の間は頼む。もし何かあったら飼育小屋の奴らに言え。一応規則で飼育小屋には誰かしらは残ってる様にはしてある。奴らも休暇期間の事はわかってるし、その間に冒険者が来るってのも慣れっこだ。俺も言いつけてあるから、手を貸してくれるだろう」

「「はい」」

「良し」


 こんな所だな。ハンスはカイトとソラが頷いた事を受けて、一つ頷いた。なお、他にも調教師が居るのなら別にカイトとソラに頼まなくても良かったのでは、と思うわけであるが、実際には彼らも彼らで受け持ちの魔物達が居る。

 その匂いなどの関係でノイエが嫌がる事がある為、特に反抗期には最初から匂いに慣れさせている受け持ち以外の調教師が関わらない様にされているそうだ。そこで基本は他の魔物の匂いが無い冒険者に頼むのが、通例だそうである。


「じゃあ、後は任せるわ。まぁ、つっても後片付けは手伝うから、もし何かあったら今のうち聞いておけよ」

「「はい」」

「うし。じゃあ、片付けに入っちまうか」

「あ、そっちはもう終わるんで、大丈夫ですよ」

「は?」


 笑って告げたカイトの言葉に、ハンスが思わず目を丸くする。そうして、そんな彼の前でカイトは訓練開始時点で巻き付けておいた魔糸を使い、一気に使った道具類をまとめ上げる。


「……くっ……あっははははは! こりゃ驚いた! お前さん、後片付けに関しちゃ天才的だな!」


 いつもなら十分二十分と掛かる後片付けを一瞬で終わらせたカイトに、ハンスが大笑いする。まさかこうも手早く終わらせるとは、思いもしなかったようだ。実際、今までに頼んだ何人もの冒険者が居たわけであるが、その誰よりも手早く終わらせていたようだ。


「まぁ、早く終わる分にゃ問題はねぇ。そいつ使ってさっさと終わらせちまいな」

「ええ」


 笑うハンスに、カイトもまた笑う。そうして、一同はファブリスがノイエを戻すのを待って結界の基点も回収し、再びアストール伯爵邸へと戻っていくのだった。




 さて、ハンスが参加する二日目の訓練をすべて終えて改めて一日の業務をすべて終わらせた後。カイトとソラは与えられた部屋に戻ってくると、改めてお互いの二日目の家庭教師について話を行っていた。


「で、そっちはどんな感じなんだ?」

「基本、今はまだ打ち込みの練習をしてるって所だな。まぁ、流石に俺も十数歳の子供に負けるこたぁないから問題は無い……かな」


 カイトの問いかけに対して、ソラは一つはっきりと明言する。基本彼とてランクA相当の冒険者だ。そしてファブリスの剣の師匠になるケネスが見て取った通り、十年近くは剣の稽古をしてきている。元々の土台もあり、こちらに来てから培われた実戦的な経験もある。まだ実戦はほとんど経ていないファブリスが相手にならないのは当然だった。


「そうか。こっちは今日でお嬢様の腕を見極めたって所だ。これで問題なく講習に入れるという所かな」

「そういや、お前は錬金術だったよな? あれで実践ってあれか? 魔法陣……いや、この場合は錬成陣か? そんなの作ってなにか化学的な実験みたいな事してたのか?」

「いや、今日は単に錬金術の基礎。分析・分解・再構築の腕を見てただけだ。そんな化け学的な事は一切してない」


 なにか誤解がありそうだな。カイトはソラの様子に笑いながら、一つ首を振る。確かにそれをしないわけではないが、別に錬金術師だからと化学的な実験みたいな事をしなくても良かった。とはいえ、それを知らないソラは興味深げに問いかける。


「なんかすんの?」

「しないさ。流石に……まぁ、勿論化学的な実験もやる事はあるが……錬金術で化学的な合成法とかやる意味もない。というか、それを魔術的に行うのが錬金術だ。わざわざ非魔術で行ってもな。地球の錬金術とごっちゃになってるぞ」

「そなのか」


 驚いた様に、ソラがカイトの返答に目を丸くする。まぁ、そう言ってもソラの誤解もしょうがないとはカイトも思ったらしい。なので一応の明言は行っておく。


「勿論、さっきも言ったが化学的な実験もしないではない。が、考えてもみろ。薬品の合成なんかは薬学の話だ。錬金術師がやる事でもない。錬金術師とは元来、金を錬成する事が目的だからな」

「読んで字の如し、か」

「そういう事だ。金を錬成する為に薬学なんぞ必要無いだろう」


 あくまでも錬金術とは物質の変換を目的とする魔術の一種。ソラの理解に対して、カイトは一つはっきりと頷いた。そんな彼に、ソラが少し釈然としない様子で問いかけた。


「でもなんか腑に落ちないってか……錬金術師って言えばフラスコ振ってるイメージあるな」

「錬金術師がやる化学的な実験はあくまでも<<フラスコの中の小人(ホムンクルス)>>作製の為だ。もしくは、『賢者の石』の作製か」

「『賢者の石』……そういや、色々と聞くけど結局それって何なんだ?」


 『賢者の石』。それは錬金術を扱う創作物では必ずと言って良いほどに語られる物だ。が、その実態はほとんど語られる事なく、真実がどこにあるかは定かではなかった。


「『賢者の石』……地球での伝説では唯一ヘルメス・トリスメギストスが作製に成功した伝説の物質。卑金属を黄金へと変貌させ、不老不死さえもたらすという。様々な手順を経て真紅になった物を『賢者の石』と呼ぶ」

「それは知ってるよ。何かしらで語られるからな。俺が知りたいのは、実際の所……もしかして存在してないのか?」

「まさか。あるよ」


 ソラの疑念に対して、カイトは一つ笑って首を振った。が、そこには多大な苦笑が滲んでおり、なにかの裏があると伺い知れた。


「実際、『賢者の石』は便利な道具ではある。治癒系の魔術の増幅器としては抜群の適性を持つ事もまた事実だ。が、作製の手間を考えればそれぐらいは無いと困る」

「は?」

「この『賢者の石』だが、ティナ曰くこんなもん作るぐらいなら真っ当にやった方が遥かに良い、との事だ。非効率の極み。楽する為の苦労が楽に見合ってない、完全に錬金術師の見栄、という事だそうだ」

「どういう事? てか、ティナちゃん作った事あんの?」

「あいつ、一応錬金術の最奥たるホムンクルス作製まで漕ぎ着けてる。『賢者の石』は何をか言わんやだ。オレもあいつが作った実物を見たことがある」


 ホムンクルスの作製までたどり着いているティナだ。十分に『賢者の石』を作っていた可能性はあっただろう。


「詳しくは省く。あのティナが面倒くさいって放り投げるほどに面倒な手順を踏むアイテムだ……まぁ、聞いたが、実際相当面倒くさいとは思ったな。少なくともオレは作りたくない」

「そんななのか」

「まな……まぁ、それも誰かを犠牲にしない『賢者の石』を作る場合は、だそうだが。あっちは手間は掛からんが犠牲が多すぎる。まぁ、これを言えばあっちパターンでやろうとしてた奴らに怒られるんだろうがな。手間掛かるわ、って」

「……あ、マジで人の命を使ってやるパターンもあるわけな」


 カイトの言葉にソラはあらゆる創作物で語られる誰かの命を犠牲にして作られる『賢者の石』が存在する事を理解する。あくまでもティナが作ったのはそういった他者の犠牲ありきの『賢者の石』ではなく、その犠牲も無く作り上げる『賢者の石』の別解だ。が、それ故にこそこちらであれば非常に手間が掛かる物らしく、ティナも盛大にしかめっ面をしていたそうであった。


「ああ……まぁ、ぶっちゃければそれに腹を立てたどこぞの高名な錬金術師が別解を作ったらしくてな。ただ寿命の関係で完成出来なくて、当時名を馳せていたティナがその研究を引き継いだそうだ。実際、研究を完成させたのはあいつだな」

「まじかよ」


 ティナと言われれば納得は納得だが。ソラはそう思いながらも、案外身近に居た作成者に驚きが隠せなかった。これに、カイトが笑う。


「伊達に天才魔王って言われてない。あいつの魔王の王冠の中央にある真紅の宝玉。あれはぶっちゃければ『賢者の石』だ」

「……マジで?」

「マジ……って、お前見た事ないよな」

「まぁ、無い」


 そう言えば、と思い出したカイトに、ソラも笑って頷いた。そもそもティナ当人が王冠をどこにやったっけ、というほどだ。ソラが見た事があるわけもなかった。


「だろうな……まぁ、話を戻すと単なる錬金術の増幅器と考えて良い。付随して治癒系の魔術の増幅器にもなる、ってだけだ。で、その付随した効果で擬似的な不老不死も出来ますよ、ってだけ」

「どして」

「無限に再生すりゃ、不老不死だろ。頭吹っ飛んでも心臓吹っ飛んでも『賢者の石』の効果で復活出来るからな」

「……そりゃそうだ」


 それは不死身としか言い様がない。そんな事を思ったソラはカイトの言葉に呆気にとられながらも納得する。そうして、この後もしばらく二人は錬金術の話をして、明日に備える事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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