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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第86章 草原の中編

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第2089話 草原の中で ――実習――

 アストール家からの依頼によりアストール伯の子供であるリリーとファブリスに家庭教師を行う事になったカイトとソラ。そんな二人はカイトはリリーへと錬金術の講習を行う事になり、ソラはファブリスへと剣の稽古の手伝いを行う事になっていた。

 そうしてそれぞれの一度目の家庭教師の後。今日は今の訓練になって初日でノイエも疲れているだろうから、と午後の訓練は一旦は三十分延期となった事で合流する事になっていた。


「こっちはなんとか俺でも対応出来そうかな。幸いケネスさんも協力的だから、問題なさそうだし」

「そうか。こっちはこっちで錬金術の講習だったおかげで、さほど苦労はしない」

「錬金術ってかお前だから苦労しない、って気もすっけどな……」


 こちらも問題ない、と明言したカイトに、ソラがため息を吐いて首を振る。ケネスとはファブリスに剣の稽古をしていた老齢の男性だ。アストール家に仕えた騎士の一人で、引退した後に先代のアストール伯の時代の人物だそうだが、腕が良かったのでファブリスに稽古を付けてもらっているらしい。とまぁ、それはさておき。ため息を吐いたソラに、カイトは首を振る。


「そうでもない。まぁ、そこまで錬金術が戦闘向けじゃないから冒険部じゃ習得してない方が多いんだが……実は地球出身のオレ達と錬金術の相性は悪くなくてな」

「化学技術知ってるから?」

「そ」

「だよな……え? マジなの?」


 適当に言った答えが正解だった為、ソラが思わず真顔でカイトへと確認する。そんな彼に、カイトは笑って頷いた。


「ああ。実際の所、これは本当に正解なんだ。錬金術で把握すべきなのは、化け学的な構成要素……例えば炭素窒素水素だの……まぁ、早い話が水兵リーベ、だな」

「僕の船?」

「そ。流石に忘れちゃいないか」

「てーか、そのために記憶補佐する魔術覚えたしなー」


 ケタケタケタ。ソラはカイトの言葉に少し楽しげに応じた。と言っても、魔術の程度の関係から何でもかんでも覚えていられるわけでもなく、ソラ達が覚えられているのはこういった学術的な側面だけだ。仕事に関係がある部分、と言っても良いだろう。


「あははは……まぁ、そんな化学知識と、魔術の知識……火属性、土属性といった具合だな。この両方を解析で読み取れるのが、非常に重要だ。が、この化学的な知識についてはエネフィアはまだまだ未発達だ。それに対して地球は魔術的な知識こそ不十分だが、科学知識に関しては進んでいる。どっちも学んでるオレ達は錬金術には適性が高いってわけだ」

「なるほどな……もしかして灯里さんがそこら長けてるのは」

「ああ、あれは例外。あの人はガチで才能あるパターン。あれはエネフィアでも五本の指に入れる領域だぞ」


 あれ扱いかよ。相変わらず灯里に関しては身内と捉えているからかぞんざいなカイトに、ソラはわずかにたたらを踏む。とはいえ、その一方のカイトは盛大にあきれていた。


「灯里さん、錬金術に関してはガチで錬金術使ってバトれる領域だから。それこそ錬成陣無しで瞬間錬金が出来る領域」

「ぱんっ、ってやって終われる領域?」

「ぱんっ、ってやって終わっちゃう領域。天才級でもないと無理な領域。ぶっちゃけ、とりあえず出来そうかも、って思ってやったの見てオレとティナがガチでビビった。あの人、本気で出来そうだからやってみた、で出来る事が多すぎるんだよ……」

「うーわ」


 本当に天才なのか。ソラは伝え聞く灯里の腕に、思わずドン引きする。なお、ティナ曰く彼女が本気で極めようとすると正真正銘のホムンクルスを作れるそうである。が、それを聞いた当人はホムンクルスは世話と責任が面倒なので作りたくないわー、との事であった。


「まー、あの人の出来そうだから、は洞察力があっての賜物だ。他の奴が真似して出来るこっちゃねぇな。つっても、流石に錬金術についちゃ本気でやってみただけ、らしいが。本人も出来るとは思ってなかったらしいな」

「はー……ま、まぁ……それはともかく。それで錬金術に適性あるわけか」

「ああ。基本、ここ()にぶち込んだ学術的な知識を使えば、大半の物質については理解可能だ。それこそ解析の魔術の精度を更に上げて原子核だのまで見通せば、物質名がわからなくてもなんとかはなる。知識は単にどの程度簡単に出来るか、という所だな」

「へー……ん? ってことは、エネフィアの錬金術師達って……」


 もしかして。ソラはカイトの言葉を噛み砕いてみて、ふと思い当たる所があったらしい。それに、カイトは少し興味深げに先を促してみた。


「言ってみ?」

「えっと……もしかして力技で足りない部分を補ってるのか?」

「イグザクトリー。そのとおり。よく気付いたな」

「どの程度簡単に、って事は逆に言えば力技出来るんじゃないか、って思った」

「そういうことだな」


 ソラの言葉に、カイトは同意して一つ頷いた。そしてそれで、ソラも何故アストール伯がカイトに家庭教師を頼んだのか理解できたようだ。


「それで、アストール伯はお前に頼んだのか」

「そだな。勿論、口実でもあるんだろうが」


 知識が手に入れば儲けもの。そうでなくてもカイト達をパーティに引き込む口実に使える。アストール伯の考えはそんな所だった。というわけで、その後もしばらく二人は夕食までの間、今回の依頼についての打ち合わせを行う事になるのだった。




 アストール家に到着して二日目。朝の九時になり、カイトとソラは改めてファブリスとノイエの訓練に付き合う事となる。

 とはいえ、今日は一日目と異なり、ハンスは基本は手を出さず見守る形を取り、ソラとカイトが訓練用の魔道具を操る形となっていた。とはいえ、やはり最初からハンスも無責任に任せるつもりはなく、一応の程度は見ておくつもりだった。


「さて……じゃあ、まずはどっちがやる?」

「じゃあ、俺から」


 ハンスの問いかけに、ソラは自ら進み出る。昨日の仕事の後、ソラはカイトからあの訓練用の魔道具のプロトタイプとでも言うべき魔道具を借りて練習したらしい。

 彼も彼で根は真面目だ。故に仕事となって一応の練習はしたらしかった。勿論それでも付け焼き刃にしかならないが、後は冒険者の性能をフルに発揮してなんとかするしかなかった。


「そか……じゃあ、まずは四足獣だな。カイト。少し準備するから、手伝え」

「はい」


 ハンスの申し出に応じて、カイトは彼が持ってきたいくつかの資材を彼の指示に従って配置する。そうして、しばらくすると全周百メートル程度の即席のドッグランが出来上がった。途中には障害物競走の様にいくつもの障害物が置いてあり、ジャンプや器用に避けないと抜けられない形だった。


「よし。こんなもんだろ。ソラ、お前さんはこのコースをまずは三周しろ。一周あたり一分が目安だ」

「うっす」


 ハンスの言葉に応じて、ソラは訓練用の魔道具のコントローラーとなる球状の魔道具を握りしめる。すると、コントローラーが淡い緑色に光り輝いて球状化していた魔道具が展開する。そうして、昨日ハンスがした様に四足獣の形態へと変貌する。


「ここまでは、問題無いよな」


 ひとまず起動と変形は上手くいった。ソラは内心で僅かな安堵を浮かべる。基本的にこの魔道具は魔力、即ち意思の力で動かしている。なので自らの意思に従って変形も移動も行われる事になる。

 が、幼少期のクズハが難儀したというように、そこそこの難易度があるのであった。とはいえ、立ち上がってしまえば、後はなんとかなる。故にソラは若干荒いながらもコースを三周し終えた。


「こんな所……っすかね」

「まぁ、悪くはないだろう。じゃあ、次だ。もう一回、コースを三周しろ。が、今度は俺が攻撃するから、それを避けながら三周しろ。今度は障害物を避けるだけでなくて、必要に応じて飛び跳ねたりして良い。制限時間は一分半だ」

「マジすか」

「当たり前だろ。さっきのは単に腕を見たってだけだ。実際にゃノイエから逃げつつ、飛び跳ねたりせにゃならん。どうするか、ってのはお前さんに任せるけどな」

「……うっす。了解っす」


 確かに、ハンスの言う事は尤もだった。故にソラもまたその言葉に納得し、再度球状化していた訓練用の魔道具のコントローラーに魔力を通して四足獣の形状に変化させる。そうして、彼は改めて意識を集中した。


「ふぅ……」


 右に動く時は右に。左に動く時は左に。ソラは再度淡い緑色の光を纏うコントローラーを握りしめ、操作の基本を思い出す。


(なるべく雑念無く、動かしたい方向にだけ意識を向ける)


 雑念が入ると、それが動きのノイズとなり不格好な動きをしてしまう。ソラは昨日カイトから教えてもらったアドバイスを改めてしっかりと認識する。一見すると簡単な操作に見えるが、この雑念や余念がかなり面倒らしい。

 それ以外にも操作に悩むと、それが動きに現れる。ここら、カイト曰く剣と一緒との事で彼は剣の訓練に見立てると良い、と教えてくれていた。


(悩まず、自然な動きで。自分があの上に乗っているイメージで……)


 ゆっくりと、四足獣型に変化した魔道具が走り始める。そうして走って早々に、ハンスが火球を投射した。


「っ!」


 放たれた火球を認識すると、ソラは即座にジャンプのイメージをコントローラへと送る。すると、四足獣型の魔道具は一度屈んで、大きく前に飛び跳ねた。


「ほぉ……瞬発力は悪くねぇな。じゃあ、これはどうだ?」


 ソラの反射神経に良しと判断を下したハンスは、その次とばかりになにかの魔術を展開する。そうしてその数瞬の後。唐突に四足獣型の魔道具の周囲に影が舞い降りる。それを見て、ソラは口を開いた。


「加速しろ!」


 少しでも操作に迷ったのなら、声を発して自らの認識を確たる物にしても良い。ソラはそんなカイトのアドバイスに従って、指示を声にする。

 そうして加速しろという指示を自らの耳で聞いたソラは、それを基にイメージを更に強固な物にする。そしてそれを受けてコントローラは反応し、四足獣型の魔道具が土埃を上げて急加速した。その、直後。先程まで四足獣が居た場所に丁度ノイエほどの岩石が落着する。


「そうだ。襲いかかってくるノイエを避ける判断は一瞬でしなくちゃなんねぇ。ダッシュで逃げても良いし、勿論逆に急停止して逃げても良い」

「うっす」


 ハンスの助言を、ソラはしっかりと胸に刻む。そうして、そんなハンスの妨害を時に加速し、時に急減速し、時にスライディングの様に滑らせて回避し続け、ソラはなんとか三周を終える事になる。


「良し。これで十分だろ。まぁ、俺の代役で一週間程度ならその程度で十分だ。ノイエの方もまだ慣れてないからな。最初からそう飛ばすのもあれだろう」

「うっす」


 とりあえずなんとか及第点はもらえたか。ソラは冒険者として培ってきた身体技能を応用してなんとか得られた及第点に、僅かな安堵を浮かべる。これがハンスや他の調教師達ならこんな力技じみた事をせずとも良いのだろうが、それは流石に望むべくも無いだろう。と、そんな事をソラが考えていると、ハンスがカイトへとコントローラを投げ渡す。


「で、次はお前さんだ」

「はい。どうすれば良いですか?」

「まぁ、お前さんに今更ソラみたいな操作の確認なんぞ必要はないだろう。昨日見てもいるしな」


 カイトの問いかけに対して、ハンスはため息混じりに肩を竦める。そもそも昨日の時点でカイトがこの魔道具を使えている事はわかっていた。そしてハンスは――これを訓練に使う事について――専門家だ。故にカイトの操作がたしかに遊びだが、付け焼き刃ではなくきちんと使えている事を理解していた。なので今更操作の確認は不要と思ったらしい。


「ってわけで、お前さんは俺が攻撃するから、ソラと同じく一分半、こっからここまでのさっきソラの小僧に作ったドッグラン上空に留まれば合格だ」

「はい」


 ハンスの指示にカイトは一つ頷いて、渡されたコントローラに魔力を通す。すると、先のソラの時とは違いコントローラが淡い水色に発光する。発光する色で形態がわかるらしい。


「まぁ、変形と速度についちゃ合格点だ。じゃあ、こっからが本番だ。気合い入れろよ」

「はい」


 ハンスの激励に、カイトは一つ頷いてコントローラを握りしめる。そうして、それから五分ほどの時間を掛けて、カイトもまたハンスの試験に合格する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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