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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第86章 草原の中編

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第2084話 草原の中で ――調練の開始――

 アストール家からの依頼を受けてアストール家の一子ファブリスの飼う『ダイヤモンド・ロック鳥』の雛ノイエの調練を手伝う事になったカイトとソラ。そんな二人は更にアストール伯からの追加での要望を受けて、ファブリスの姉のリリー。ファブリスの家庭教師を一週間だけだが行う事となる。

 というわけで、ひとまずノイエの調教師であるハンスという男からその引き継ぎを受けた二人は種々の支度を整え、実際の作業に備える事で一日目を終える事になる。

 そうして翌日の朝。カイトとソラは朝の十時からノイエの調練を行うという事で、一度アストールの街から少し離れた草原に出ていた。と言っても二人が出たのはその一時間ほど前。朝九時だった。


「ここらで良いか……良し。天候も良いし、絶好の訓練日和だな」


 馬車に揺られ草原へとやって来た後。ハンスは草原に降り立って一つ上機嫌に頷いた。晴天というわけではないが、雲も少なく気温も低くはない。長袖なら丁度よい気温という所で、日向で運動するには丁度よい状態だった。というわけで状況が良好である事を確認すると、ハンスは改めてカイトとソラへと向き直る。


「で、俺達調教師がまずやる事は、ファブリス坊っちゃんが来る前に訓練場の支度を整える事だ。お前らもまずやる事はこれになる。これはノイエが不意に逃げ出したり、離れたりして迷子になるのを防ぐ意味合いもある」

「首輪は万が一のもん、ってわけですね」

「そーいうこったな」


 ソラの言葉に対して、ハンスは我が意を得たり、と一つ頷いた。あくまでも首輪は非常用。使わないで良いのなら使わない方が良い。なのでそれ以外にもいくつか万が一の策を用意しているのであった。というわけで、ハンスは馬車に積み込んでおいた旗を取り出した。


「こいつは簡易の結界を展開する為のものだ。が、普通の結界とは異なって、周囲に結界の効果範囲をわかる様にしてる」

「訓練の邪魔をされない様に、ですか?」

「それもある。それもあるが、何よりこいつの結界にゃ特徴があってな……」


 どうすっかな。ハンスはソラの問いかけを一部認めながらも、どうするか考える。そうして少しして、彼は一つ頷いた。


「そうだな。お前らも一度見ておいた方がわかりやすいか。こっから一キロぐらい離れるのにどれぐらい時間が要る?」

「オレは一秒以内でいけますが」

「俺は流石に十秒ほどは欲しいっすね。今日はこの鎧なんで……まぁ、やれと言われりゃ俺も三秒ぐらいでいけますけど」


 いつも通りの軽装のカイトに対して、ソラは昨日までとは違い重鎧を身に纏った戦闘用の装備だ。街の外に出るという事で戦闘も普通にありえるし、そういう時にファブリスとノイエを守るのも二人の仕事――勿論軍も居るが――だった。とはいえ、そんな二人の返答にハンスは思わず驚きを浮かべていた。


「お、おぉ……ソラ。お前さんも欲しいってだけでやれんだな」

「まぁ、一応<<縮地(しゅくち)>>は出来ますんで」

「お、おぉ……」


 もしかしてこいつら。自分達が相当にぶっ飛んだ事を言っている事に気付いていないのだろうか。ハンスは一瞬で移動出来ると普通にのたまったカイトと、それよりは遅いが重鎧を着込みながらも一キロなら即座に移動が可能と言っているソラの凄さをエネフィアで生きる者だからこそ理解していた。そしてそれ故に頬を引き攣らせた彼であったが、一転して気を取り直した。


「まぁ、それなら一度街の方に行ってくれ。三十秒ほどしたら俺が結界を展開する。別に急ぐ必要もねぇからな。で、解除されたら戻ってこい」

「「はい」」


 ハンスの指示に、カイトとソラは一つうなずく。そうして二人が一キロほど距離を取った所で、ハンスが結界を展開する。すると、結界の各所に鷲に似た意匠が刻まれた特徴的な紋様が現れた。


「あれは……」

「アストール家の家紋だ。今回の様にペットなどの調練を行うにあたって広大な敷地を必要とする場合、貴族達は結界に自分の家紋を刻んでおくのが通例だ」

「この家が調練してますよ、って示す為か」

「そういうことだな。当然だがなにかはしておかないと、魔物と勘違いされて攻撃されても文句は言えない。それはどっちにとってもトラブルの火種になりかねないからな。こうするのが、誰にとっても良いんだ」


 そりゃそうか。ソラとしても間違って攻撃してお尋ね者になぞなりたくない。なので彼もこれが誰にとっても必要な策だと理解して、一つ頷いた。そうして結界に刻まれた鷲の紋章を把握した二人は、結界の消失に伴ってハンスの所へと移動した。


「見えたか?」

「「はい」」

「よし。まぁ、結界を展開している限り、どこの馬鹿も手は出さん。実際、特にアストール家だと本家がアストレア家だからな。アストール家の家紋を展開している結界に手を出せば、そりゃ流石にアストレア家が出て来る話だ。誰も手は出さんから、主に気を付けるべきは魔物だけだな」


 大国であるエンテシア皇国において五つしかない公爵家の一角だ。そのつながりにはランクSやそれに匹敵する冒険者が数十人どころか百人単位で存在している。

 それこそ公爵家と繋がりを持ちたい、と望んでいるランクS冒険者だって居るだろう。アストレア家を怒らせる、というのはとどのつまり公爵家が御用達にしている冒険者だけでなく、その彼らから狙われるという事にも等しい。分家とはいえ結界を展開している所に手を出すのは到底正気の沙汰ではなかった。というわけで、気を付けるべき相手に言及したハンスにカイトが問いかける。


「わかりました。じゃあ、もし魔物が出た場合は普通に討伐した方が良いですか? それとも軍に預けるべきですか?」

「普通の奴らなら軍に任せて坊っちゃんらの護りに、って言うんだろうが……お前さんらならやっちまって問題無いだろ。そっちの方が確実そうだ……が、ソラの小僧は坊っちゃんの護りの方が良いんじゃねぇか?」

「そうですね。それは勿論……ソラもそれで良いな?」

「おう」


 ハンスの提起に対して、カイトとソラはそうする事を明言する。実際、ソラには遠距離攻撃はさほど無い。それに対してカイトはよりどりみどりだ。なのでカイトが攻めて、ソラが護りに就くのは正しい判断だろう。というわけで、カイトとソラはもし魔物の襲撃があった場合にはそうする事を決定する。そんな二人に、ハンスもまた頷いた。


「うし。じゃあ、実際のこいつの展開方法やその他の道具の使い方のレクチャーをしちまうか」

「「お願いします」」


 ハンスの言葉に、カイトとソラは一つ頷いた。そうして、二人は改めてハンスから実際の作業についてを学んでいく事にするのだった。




 さて、二人が草原に出てから一時間。おおよその道具の使い方をマスターした所で、三人の所に一台の馬車が近付いてきた。その側面には三人が乗っていたと同じアストール家の紋様が刻まれており、しかしそこには若干だが違う形があった。アストール家の親族が乗っている事を示した紋様だった。御者席には昨日カイトとソラをアストール邸まで案内したアルトゥールが座っていた。


「おっと……丁度坊っちゃんも来たな。お前ら、どうだ?」

「……良し。大丈夫っす」

「私も問題無いかと」


 どうやらアストール家が使っていた物はヴィクトル商会が特注で拵えたものだったらしい。その根本にはカイトやティナの意見があった為、カイトとしてもソラとしても特段使い方に困らなかったようだ。

 そしてそれについてはハンスも彼らがマクスウェルから来てヴィクトル商会ともつながりがある事を聞いており、特段不安視はしていなかった。


「そか。まぁ、そういった魔道具に関しちゃお前らの方が専門だろう。俺も殊更不安視はしてねぇ。ただ、うっかりミスとかだけはしないようにな」

「「はい」」

「よし。じゃあ、馬車が止まり次第結界の展開の準備だ」

「「はい」」


 ハンスの指示に、カイトとソラが揃って頷いた。そうしてファブリスが乗っているだろう馬車を少し待っていると、数分で三人の前に馬車が停車する。


「到着致しました」

「ああ、ありがとう」

「旦那……どうしたんですかい、わざわざこっちまで……」


 アストゥールが開いた扉から現れたアストール伯に、ハンスが思わず驚いた様に目を見開いた。どうやら彼が来る事は聞いていなかったらしい。

 といっても彼だけではなく後ろからはファブリスが一体の鷲と共に降りており、単に一緒に来た様子だった。とはいえ、そんなファブリスとノイエを見てハンスは先に、と指示を出す。


「っと、すんません。先に。おい、ソラ」

「はい」


 ハンスの指示を受けて、ソラが即座に結界を展開する。この結界だが完全に出入りが出来ないわけではなく、アストール家の馬車については出入りが出来る様に加工がされている。馬についても同じ効力のある首輪を取り付けられており、問題なく出入り出来た。なのでアストール伯の出入りには問題が無い為、ノイエが逃げない様に先に結界を展開したのであった。


「ああ、良いさ……っと、三人とも、おはよう。いや、少し時間が出来たのでね。たまさかハンスの調練の具合と引き継ぎがうまくいったか、と見ておこうと思ってね。無論、ノイエがどの程度やれるのか、と直接見ておきたい所もある」

「はぁ……まぁ、俺はかまいませんが」


 どうせやる事は変わらないし、なんだったらハンスはアストール伯の相棒の調練も行った。若い頃にはアストール家専属の先代の調教師の長に教えを受けており、アストール伯の父の相棒の世話もした事がある。今更、緊張も何もない。なので気にしているのはアストール伯の方の時間だった。


「ああ、午前だけさ。流石に午後は時間が無い。まぁ、単に見せて貰うだけだから、そんな気にしないでくれ」

「はぁ……」


 要は居るだけという事か。ハンスは自分に対してはそうなのだろう、と理解する。とはいえ、これはあくまでもハンスに対して。カイトとソラはしっかりこの裏を理解していた。というわけで、カイトは内心で若干苦笑しながらソラと念話で話をしていた。


『なるほど。それで昨日書類仕事を急いでいたわけか』

『こっちに来る為か?』

『そういう事だな。まぁ、口実作りで良いのかもしれんが』


 口実作り。それが何の口実かというと、言うまでもなくアストレア家主催で開かれるパーティだ。これについてはまだアストール伯からはまだ何も言われていない。

 が、アストレア家がすでにカイト達に対して通達を出すだろう、という事を伝えており、仕事をいくつか見て話を出した、という口実を作る為だと考えられたのである。と、そんなアストール伯はカイト達に対して気軽さを滲ませて告げる。


「まぁ、君達も気にしないで良い。私はあくまでもノイエの調教とハンスの引き継ぎがうまく出来ているか、と知りたいだけだからね。基本は馬車で座って眺めるだけだ」

「はぁ……」


 流石にこの場でアストレア家からアストール家の思惑を聞いています、とは毛ほども悟られてはならないだろう。なのでカイトはあくまでも素直にアストール伯の言葉に若干の困惑を滲ませながらうなずくだけだ。

 そうしてそんな三人に父が居るからか若干の緊張を見せるファブリスに背を向けて、アストール伯は挨拶を済ませるとさっさと馬車へと戻っていった。どうやら突っ立っていると邪魔になると判断したらしい。実際、それはそうでもあった。それを見送って、ハンスが若干やりにくそうにカイトとソラに告げた。


「あー……まぁ、旦那が来られたのは若干予定外だったが……俺達がやる事は変わらねぇ。坊っちゃん。まずはノイエを二人に見せてやってください」

「はい……これが、ノイエだよ」


 ハンスの指示を受けて、ファブリスは改めて自身の相棒となった『ダイヤモンド・ロック鳥』をカイトとソラの二人へと見せる。それはすでに雛と呼ぶには相応しくないほどの威容を誇っており、羽がまるでダイヤモンドの様にきらめいていた。それに、カイトが思わず目を輝かせた。


「すげ……この毛艶。凄い可愛がってるんですね。この輝き……はー……」

「勿論。毎日ブラッシングしてるよ」

「はー……」

「「……」」


 大人びた様に見えて、意外と子供っぽい所があるのか。目を輝かせるカイトに、ソラとハンスはそう思う。とはいえ、これはファブリスには好印象だったらしく、彼は随分と上機嫌だった。

 そうして、そんなカイトとそんな彼の態度に上機嫌なファブリス、そして自分が褒められたとわかっていたのか若干誇らしげなノイエと共に、ノイエの訓練が開始される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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