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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十章 遠征編

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第197話 ダンジョン探索――入口前――

 迷宮(ダンジョン)調査の依頼を受けた翌日。カイトはユリィを引き連れて件の迷宮(ダンジョン)に朝一でやってきていた。さすがにどれだけ時間が掛かるか分からない以上、朝一から行動せざるを得ないのである。


「これはユリシア殿!」


 そう言って迷宮(ダンジョン)を監視しているユニオンの職員がユリィに敬礼する。どうやらすでにユリィが行くことは連絡が行ってたらしい。おそらくキラトが前もって連絡を送っていたのだろう。


「此度はありがとうございます!それで、あの、そちらは?」


 ユリィの隣にさも当然とばかりに居た蒼い髪の男――カイト――に職員が尋ねた。


「此方は私の仲間です。力量については少なくとも、私と同程度との認識で結構です。」

「は?」


 かつての勇者の仲間と同等の力量と言われ、呆然としているが、それを無視して二人は迷宮(ダンジョン)へと進んだ。


「……あ!では、よろしくお願いたします!」


 危うくそのままスルーしそうになった職員達だが、二人が迷宮(ダンジョン)へ侵入する直前、なんとか敬礼する。


「あいよー。」


 カイトは気の抜けた返事をして、迷宮(ダンジョン)へと挑むのであった。




「こんなもんかな。」

「危険性はそこまで高くはなかったか。」


 そうして、数時間後、二人は三周し終えて報告書の記載を確認する。一応、中で得られた情報は自動で記入される様になっているのだが、確認するに越したことはない。

 尚、確認しながら内容をコピーする程度は役得として許されているので、二人共遠慮無くメモに書き写させてもらうことにしている。この情報をユニオンで買おうとすると、それなりにお金を取られるのである。


「……あれ?こんな魔物出てたっけ?」

「3階の小部屋で居ただろ。瞬殺したけどな。」

「カイトの速度だとわかんないよー。」


 ユリィがカイトの言葉に不満気に告げる。幾ら300年で強くなったとは言え、それでもまだユリィでは全力のカイトの速度には追いつけないのだった。そうして他の部分も確認し、最後にボス部屋の魔物を確認する。


「ボス部屋は……アイス・リザード、オーク三体、マッド・ハンター。問題ないな。」

「うん。三回分記録されてるね。」

「クリア後に何処に出るかも記載されているな……意外と時間がかからなかったな。」


 時計で時間を確認すると、今はまだ昼過ぎというところである。


「まあ、こんなものじゃないかなー。レベル低かったし。」


二人の概算ではあるが大凡レベル25と言った所である。この程度では肩慣らしにもならなかった。尚、レベル25はおおよそランクD程度の冒険者が挑むのに丁度良いレベルである。


「まあ、それもそうか。昼飯食って帰るか。」

「えー、たまにはちょっとぶらぶらして帰ろー。デート、デートー。」


 そう言って腕に絡みついてくるユリィ。少々歩きにくかった。そんなユリィの言葉に、カイトが少し考えこむ。ユリィはこんな風に何時も一緒に居るので、時間が空いた時に即座に声を掛けられるのであった。桜達もこれでは椿に頼んでデートの予定までスケジュールに組み込みたくもなるだろう。


「デートね……まあ、時間余ってるし、デートして帰るか。」

「わーい!」


 そんなこんなで夕方まで二人でぶらぶらと出歩いて、ギルドホームへと戻るのであった。




 翌朝、戻って早々に調査結果をミレイに提出する。


「はい、確認致しました。で、どうでしたか?」

「まあ、レベル25と言ったところか。あまり高難易度じゃないな。あとで全員連れて行こうと思う。」

「妥当な所ですね。では、依頼料については後日支部で受け取ってください。」


 そう言って依頼達成の証明書をカイトに手渡す。後はこれをユニオン支部に提出し依頼料を受け取れば依頼は終了である。


「了解した。いい儲けになった。」

「今度奢ってくださいね?」


 カイトの言葉に、ミレイはにこやかに笑ってそう言う。それに、カイトも笑って応じる。纏まったお金が入って懐が潤ったので、気分が良くなっているのであった。


「ああ。今度夕食でも食べに行くか。」

「あ、いいねー。ちょっと小洒落たお店でもいいかも。」

「ありがとうございます。」


 ユリィも同じく懐が温まったおかげで機嫌がよく、ディナーの誘いに乗る。そんな二人に礼を言うミレイの言葉を背に、二人は受付を後にするのであった。

 尚、カイトの後ろの生徒は何が起こっているかわからず、カイトが今度は受付のミレイを口説いていた、とまたいらぬ噂が立てられるのはご愛嬌である。


「久々にまとまった額が手に入ったな。」

「ちょっと悪い気もするけどねー。」


 二人にとってはそこら辺の散歩と変わらぬノリでミスリル銀貨100枚である。元手がかかっていないので、ほぼ全部が利益として計上できた。とは言え、半分は赤貧に喘ぐ冒険部に寄付するが。


「ただいま。」


 二人は執務室の扉を開けて、中に入る。すると中には丁度全員揃っている様子であった。


「おーす。お帰り。」

「お帰りなさいませ。」

「で、どうだった?」


 そわそわとしたソラが、カイトに問いかける。そんなソラの姿にカイトは苦笑しつつ、念の為に欠員が無いか確認した。


「ああ、丁度全員揃っているな?」

「はい。これからみんなで依頼でも受けに行こうか、と話していた所です。」

「じゃあ、丁度良い。これからさっき終わらせた迷宮(ダンジョン)へ行くか?」

「え!?いいのか?」


 そわそわとカイトの話を聞くのを待っていたソラが食いついてきた。実は彼は朝からずっと依頼にも出ず執務室に待機して、中がどんな様子だったのかを聞こうとカイトの帰還を待ちわびていたのである。


「ああ。丁度レベルがソラ達とマッチしていた。初探索には丁度いいだろう。一昨日も説明が中途半端で終わったからな。」

「ご主人様、お昼ごはんはどうなさいますか?」


 カイトの言葉を聞いて、椿が問いかける。それを受けてカイトは少しだけ考え込んだ。別に食べて行っても良いが、同時に向こうで食べても良いかと思ったのである。


「んー……向こうで食べるか。丁度良い草原があったからな。天気も良いし、ピクニック気分で大丈夫だろう。」

「分かりました。では、準備いたしますね。」

「ああ、頼む。」


 そう言って厨房へと向かう椿を見送り、カイトは説明を追加するのであった。


「場所はここから1時間足らずで着く。そこまで気合入れた装備で無くて大丈夫だ。ただ、連戦が確定するから、スタミナだけには気を付けてくれ。」

「おけおけ。んじゃ、用意してくるな。」


 そう言って執務室から外にでるソラに続いて、全員が外に出るのであった。


「アル、ティーネ。悪いが同行頼んだ。」

「うん。丁度僕らも武器の調子を確かめたかったしね。」

「それもそうね。」


 カイトの言葉を聞いて、アルとティーネが用意を整えに執務室を後にする。尚、リィルは現在数日掛かりの討伐系の依頼を受けた生徒達に同行し武器の調子を確認している為、今はマクスウェルに居なかった。




「でだ、ここが件の迷宮(ダンジョン)の入り口だ。」


 報告書を提出したばかりなので、まだ情報が出回っていない。それ故に今はまだユニオンの職員達だけであった。そういうわけで、カイト達を発見したユニオンの職員の一人が近づいてきた。


「これはユリシア殿!何か御用ですか?……それにそちらはアルフォンス殿にティーネ殿まで……」


 集団に公爵家の二人がいた事を目ざとく見付ける。まあ職員とは言え曲がりなりにも冒険者だ。気付かない方が可怪しいだろう。そんな職員に対して、ユリィが外向きの柔和な表情を浮かべて告げた。


「はい。また入らせていただきますね。彼等は迷宮(ダンジョン)に初めて、と言うことですので、その鍛錬を行いたいのです。」

「そうでしたか。お疲れ様です。では、ご武運を。」


 ユリィの言葉を聞いて、ユニオン職員柔和な表情を浮かべ、激励を述べて立ち去る。そうして立ち去った後、周囲を見回していた瑞樹が口を開いた。


「あまり人は居ませんわね。」

「まだ報告書を提出したばかりだからな。冒険者には情報が出回っていない。明日以降はもっとヒトが増える。」

「それ、中でブッキングしないのか?」

「ああ、それは問題ない。」


 瞬の疑問に答えて、異空間の入り口にカイトが立った。本来ならば入口を塞ぐ行為なので他の冒険者の邪魔になるのだが、誰も居ないので問題無い。


「後は触れるだけで中に入れるんだが……この迷宮(ダンジョン)だとなるべく同時に触れた方が良い。」

「何?一緒じゃないと別の所に出るの?」

「イエス、オフコース。」


 我が意を得たり、という顔でカイトは人差し指で魅衣を指さして同意する。


「説明していなかったが、迷宮(ダンジョン)の構造は2パターンあってな。固定型とランダム型だ。では、予習してたかどうか……はい翔。」

「げ……固定型は内部構造が固定で、ランダム型は毎度毎度異なる……のか?」


 自分が当てられるとは思っていなかった翔が顔を引き攣らせる。時折カイトはこうやって無作為に問題を飛ばすので、実は全員冒険者としての予習はそれなりに欠かせなかった。


「正解。」

「ゲームやっててよかったぜ……」


 にこやかに笑って正解と告げたカイトに、翔がほっと一息吐いた。それに一つ頷いて、カイトは説明を再開する。


「というわけで、ここはランダム型だ。一緒に入らないと別々の場所か、最悪別の構造体に入れられるから気を付けてくれ。固定型だと同時に入らなくても同じ場所に出るから安心だ。物によっちゃ入った所に出入り口がある場合もあるな。」

「出入口があるなら安心だな。」


 誤って入ってしまっても出れるなら安心である、そう判断した瞬だったが、カイトはそれに首を横に振る。


「いや、出入口があるのは多くが固定型だけだ。しかも固定型は多くが時代変化型。冒険者の多くが自然発生型に挑戦することを考えれば、退路の確保が重要となってくる。」


 そう言ってカイトは一つの赤い宝玉を取り出した。大きさは握りこぶし大だ。


「これが迷宮(ダンジョン)脱出用の宝玉、<<帰還の宝玉>>だ。同時に入った奴の誰か一人が使えば全員が脱出できるという優れ物だ。道中で何らかの理由ではぐれてどうしようもなくなった場合は、これで脱出して外で合流するのも手だな。」

「これは余のお手製じゃな。」


 尚、そんなことが出来るのはティナや極限られた魔術師だけなので、本来は迷宮(ダンジョン)の中から取ってくるしか無い。とは言え、大抵の迷宮(ダンジョン)にはあるので、かなりの普及率を誇っている為、買ってもそこまで高くはない。


「へぇー……」


 そう言ってまじまじと宝玉を回し見る一同。


「なんか、落としただけで割れそうだな。」


 赤いガラス玉の様な見た目にソラが呟く。


「そこまでやわじゃない。落としただけで割れるようなら戦闘中に使えなくなる可能性が出てくるからな。」


 カイトが苦笑しつつ、最後に見ていた凛から宝玉を受け取った。


「まあ、大抵入り口に何故か安置されているから、そこから持っていけばいい。次に来た時にはなぜか補給されているから、遠慮はするな。こいつはアル、ティーネの二人に予備を渡しておく。」

「うん。」

「ありがとう。」


 そうして二人に予備の宝玉を渡して、カイトは最後の注意事項を述べる。


「もしはぐれた場合は使ってくれ。全員、二人からはぐれないように。脱出する方法はこれを使うか、入り口に出口があるか、最後のボス部屋まで到着してその次の宝物庫のアイテムを回収して脱出するか、の3つしかない。はぐれたら後は進むだけだから、気をつけろよ。」


 全員が頷いたのを見て、カイトは異空間への入り口へと向き直した。


「さて、オレみたいに全員手を出してくれ。」


 カイトの言葉に合わせ、全員が異世界の入り口へと手を触れた。すると、異世界の入り口は魔力を放ちながら少しだけ蠢き、光を放った。そうして、光が消えた時には、この世界から彼等の存在は消滅していたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第198話『ダンジョン探索』

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