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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第85章 次への一歩編

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第2069話 新たなる活動 ――状況確認――

 転移術の研究に向けて、新しく天桜学園近郊に研究所を建てる事になった冒険部。そんな冒険部の統率を行うカイトはというと、それと並列して瞬の鬼族の力の制御を外側から補佐してくれる『封印の腕輪』の代用品の作製の手配をしたり、領内の冒険者の怪我の状況の把握など忙しく活動をしていた。

 そんなわけで、彼は瞬の『封印の腕輪』がミカヤの助力を得て一段落した事を受けて、改めて冒険者全体の状況把握に務める事になっていた。というわけで、彼が向かったのはここしばらくどちらも忙しく訪れられていなかった冒険者ユニオン協会マクスウェル支部だった。


「ああ、カイトさん。おまたせしました」

「いや、良いさ。現状はわかっている……で、報告は聞いた。上手くいったか」

「はい。おかげで、悪化を食い止める事ができました。また、助言通りこの動きを各地の支部に流し、同様の動きを見せている所がちらほらと」

「そうか……それなら、当初の予想より更に死者を減らす事が出来そうか」

「かと」


 僅かな安堵を滲ませたカイトに、キトラもまた同じ顔で頷いた。今話し合われていたのは、以前にカイトが思いついた神殿都市などに所属する学生達に回復薬を作ってもらう、という手はずだった。

 これについてはカイトが告げた通り功を奏し、冒険者の復帰の早期化に一役買っていた。まぁ、その分手配やらすり合わせやらでユニオンの事務員達は更に忙しくなったが、流石に人命を前に何も言える事はなかった。なお、『リーナイト』から戻ったユリィも現在は学園側で回復薬作製の統率を担っていた。


「で、今日はユニオンマスターへの連絡でしたね」

「流石に、大陸を越えるとなるとウチの通信機じゃどうしようもないからな。復旧はしてるんだろう?」

「はい。『転移門(ゲート)』を使いマクスウェルから持ち込んだ修理キットで修理は終了した、と。今は順次各支部との通信が確保出来るか試している所です」

「そうか……まぁ、予備との通信は可能だろう。そちらを使わせてくれ」

「わかりました。では、こちらへ」


 カイトの要望を受けて、キトラが踵を返す。なお、それなら『転移門(ゲート)』を使えば良いのでは、と思うのであるが、実際には往来が国と冒険者達により監視されているので正体を隠しているカイトではおいそれと使えないらしかった。とまぁ、そういうわけでカイトは通信室に通されて、しばらく待つ事になる。


「……さて、どっちが来るかね」


 まだ『リーナイト』は壊滅状態だ。全ての冒険者達の本拠地にも近いので、ラエリアの冒険者達が全精力を傾けて復興を急いでいるが、それ故にこそ現在はバルフレアその人が総指揮を担っているらしい。なので彼と連絡が取り合えるかは未知数で、おおよそレヴィになる可能性も高かった。そして、案の定だった。通信機のモニターに、彼女が映し出された。


『カイトか。状況確認だな』

「ああ。それと、状況報告でもある」

『良い。どうせ貴様の所の現状なぞ言われなくても見えている。なら、報告を受けるだけ時間の無駄だ。最悪は<<夢渡り(ゆめわたり)>>で情報の共有でも行う』


 カイトの言葉に、レヴィが些かも疲れを見せずに笑う。本当に彼女はまるで疲れ知らずのように、顔色一つ変わっていなかった。


「そうか……ま、そこらはお前に任せる。とりあえず、お前の想定は外れていない」

『それで十分だ……で、まず『リーナイト』だが、ユニオン本部の復興は後少しで終わる。貴様の残したバックアップのおかげで、情報にも不足はない』

「そうか……案外、役に立っただろ?」

『私に言うな。あの当時の奴らにでも言ってやれ』


 楽しげに笑うカイトに、レヴィもまた楽しげに告げる。以前に言われていたが、ユニオンに出された依頼は基本的にはユニオン本部にて一括で管理されている。

 それを全世界的な冒険者のネットワークを介して各支部で必要な分を共有しているだけだ。が、それは逆説的に言えばユニオン本部のデータベースが破壊されてしまうと全部が消えてしまう事にも他ならない。無論、ネットワークも中枢が破壊されてしまうので、検索速度などは一気に落ちる。かなり死活問題だった。


「あははは。ま、オレもそうではあったが、『リーナイト』が陥落する事態なぞ想像もしてなかった。が、可能性としてあった以上、バックアップは設けておくべきだった」

『そうだな……ああ、バックアップだが、『管理者』曰く完全に無事だとの事だ。まぁ、当然だが』

「そうか。それについては疑う余地も無かったが……まぁ、奴らの奇襲でも受けないか、と不安だったが大丈夫だったか」

『別に奴らも依頼情報を抹消したいが為に襲撃したわけではないだろうがな……まぁ、受けたら終わりだが』


 どこにバックアップとやらがあるかは不明だが、どうやらバックアップはさほど厳重な警備をしているわけではないらしい。もし場所などがバレていて、それを狙われた場合はどうしようもない、とレヴィが言外に告げていた。


「それについちゃ、仕方がない。そしてそうなりゃ世界中がしゃーないと諦めるさ。それに、依頼書そのものは残ってるし、物理的なネットワークが破壊されるわけでもない……後、ネットワークを変更しちゃいるんだろうが、各地のバックアップシステムの運用は変えてないだろ?」

『無論だ。それについては変更する意味もなかったのでな。各地のバックアップは各地で設けている。万が一メインのバックアップが破損しても、各拠点で受けた依頼は保持される……が、それを改めて集めてバックアップを復元するとなるとかなりの労力が必要になる。やりたくはない』


 カイトの返答に頷いたレヴィであったが、その顔にはありありと絶対に嫌と書かれていた。この各地のバックアップなのであるが、これを確保しに行く場合は現地まで行って情報を確保しないといけなくなるらしい。

 つまり、世界中にある無数とも言えるユニオン支部全てに冒険者かユニオンの職員が出向かなければならないのである。当然、安全な場所にあるだけではないので非常にコストがかかるのであった。


「それについちゃ、オレは知らん。そっちが考える事だしな」

『ふんっ……もしやってきたら、私は奴らを呪うがな。こちらの事務処理能力に多大な負荷を掛ける行為だ。手としては悪くはない。最悪、ユニオンという組織そのものが瓦解する』

「ははは……まぁ、どっちにしろ壊滅してないから、言っても意味ない事だろ」

『それはそうだがな』


 どうせこんなものはタラレバの話だし、何より現状無事だ。話に意味はない。二人はそう言って一転して笑い合う。そして<<死魔将(しましょう)>>達としても、別にそんな事をしなくてもユニオンに負荷を掛ける方法は幾つもある。

 実際『リーナイト』壊滅だって事務員達にも非常に負荷が掛かっている。そして何より、彼らもユニオンの壊滅は望まない。過度に戦力を減らされると困るのは彼らの側だ。ある程度、復旧が可能な程度な負荷に留めておきたかった事もあった。


「で、改めて現状確認だ」

『ああ……現状だが、先に言った通りユニオンの総体として、組織としての問題はない。無論、各地で怪我を負った冒険者達の治療に時間が掛かっているので、その面での問題はあるがな。が、総会に出席した冒険者なぞ、全体の数割にも満たん。全体的にフォローが可能なレベルでもある……まぁ、有名な冒険者達が軒並み戦闘不能なので、バルフレアの奴は頭を痛めていたがな』

「しゃーない。奴らの狙いは間違いなく、その点にある」


 ため息を吐いたレヴィに、カイトは若干苦笑しながら肩を竦める。総会で、現状が現状だ。有名な冒険者達は軒並み参加していたし、有名なギルドも無論参加していた。そういった有名所が軒並みやられたのだ。遠征隊を組織しようとしていたバルフレアはあまりの被害の多さに頭を痛めていた。


「で、その各地の冒険者の復帰状況は?」

『まぁ、概ね想像通りとはいえる。年単位で復帰が不可能な冒険者は居ないが、現状医者の手が足りないのと、回復薬の供給が追いついていない。と言っても、現状が現状だ』

「結局、各地で同じ状況か」

『当たり前だ。そうなるようにしたからな』


 元々、各地の『転移門(ゲート)』が起動した時点で大怪我を負った冒険者を各地に搬送するように手配していたのはレヴィだ。そしてユニオンには各地の情報が集まっている。

 なので、彼女は各地で受け入れられるけが人の数を各地の医療体制から割り出し、負担がなるべくまんべんなく分散されるように手配していた。というわけで、どこかの地域で起きている状況は基本各地で起きていると考えても良いのであった。


『その点で言えば、やはりマクダウェル領については非常に早いペースで復帰が始まっていると言って良いだろう。まぁ、貴様が医療体制を拡充させている為、と言えば話は早い。というより、エネフィア全体で見た場合、エンテシア皇国は世界中でトップクラスどころか頭一つ抜けた医療体制だ。衛生管理も非常に高い水準で、私としても些か想定以上ではある』

「ま、頑張ったし、頑張ってくれたからな」


 カイトは今は亡き友を思い出し、彼の努力こそが現状を作り出したものだと口にする。エンテシア皇国の医療体制が整っているのは間違いなく、ウィルが皇帝に就任して医療体制の拡充を強固に推し進めたからだ。それがあればこそ、皇国に送られた冒険者の復帰は世界中で見て殊更早かった。


『そうだな。それについては、私も否定しない。が、それが最短だ。とどのつまり、それ以外の所では大国を除けば中小国に送った冒険者達は軒並み復帰していない。仕方がない話だが』

「そうか……全体的に通常に戻るのはどれぐらい先になりそうだ?」

『少なくとも、今後一、二ヶ月の話じゃないな。怪我が治ったとて、その後に武器やらを整える時間も必要だ』

「であれば」

『言わなくてもわかっている。バルフレアの奴には遠征隊は先遣隊を秋の十二月に、本体を冬の一月にするように進言している。相当に苦い顔はされているがな』

「まぁ、受け入れざるをえんだろ。どう足掻いても」


 やはり被害の実態が掴めてくると、どうするかが決まってくる。半月もすればおおよそどの程度復帰に必要かが割り出せており、遠征隊は最低でも更に一ヶ月の延期は必須との事だった。


「武器の慣熟には一ヶ月は欲しい。であれば、遠征隊に参加する志願者を優先に武器を用意したって最速一ヶ月は必須だ。怪我の治療も同じく重傷者と遠征隊志願者を優先したって一ヶ月……三ヶ月はどう考えても必須だ」

『だな……まぁ、秋の十二月出発は万全を期した場合、と言える。急ぐなら、もう少しは早められる』

「後は、冒険者達の風潮がどうなるか、か」

『そこが読めん』


 苦い顔のカイトに、レヴィもまた少しだけ苦い顔になる。そうして、彼女がため息混じりに告げた。


『今回で冒険者達は相当な深手を負った。その反動で、是が非でも探し出そうと思う奴が居ても不思議はない。そこから、反撃の狼煙と各国も捉えるかもしれない。そうなると、拙速になる可能性もある』

「拙速は避けるように、バルフレアにも言っておいてくれ。急ぐにしても準備はしっかり整えておきたい」

『わかっている。まぁ、そこは流石に奴も大丈夫だ。それを避けるのは、奴も理解している』

「だろうな」


 バルフレアは冒険者としては慎重派だ。なので本来は急ぐ事はないのだが、今回の遠征隊はユニオンしか出来ない事と、各国の支援を受けられる内に行わねばならないという制約があった。そこが、彼が急がねばならない最大の理由で、調整が難しい点でもあった。


「……まぁ、頭の痛い問題だ。各国が翻意しても面倒だし、<<死魔将(奴ら)>>の活動が本格化して各国に被害が出始めれば流石に各国も支援だ遠征隊だ、と言っていられない。今しか、時はない。おそらく来年は無いな」

『わかっている。だから、今年中にケリをつけるつもりだ。それ以降になると各地の被害の復興で手が回らん』

「ああ……バルフレアには改めてオレも遠征隊には参加するから、と伝えておいてくれ。無論、可能な限りウチとしても支援するとな」

『助かる。そう伝え、なるべく延期の期間を延ばしつつ、最短で動けるように差配しよう』

「頼んだ」


 兎にも角にも遠征隊を出す事そのものはカイトも同意している。が、急ぐわけにもいかないし、あまりゆっくりする事も出来ない。そこが、難しい所だった。そうして、この後もしばらく間二人は各地の現状を確認しながら、次の一手について話し合う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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