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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第85章 次への一歩編

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第2065話 新たなる活動 ――転移術・支度――

 転移術の研究に向けて本格的に動き出した冒険部。その活動を開始するにあたって、ひとまず上層部一同は集まって今後何が必要かを確認する会議を行う事になっていた。そうして一旦は横道に逸れた話題であったが、改めてティナは本題となる転移術研究の開始に必要な物を告げる事にしていた。


「さて、先にも述べた通り、まずやらねばならん事は空間と次元の解析となる。では、これに何が必要かというと、空間と次元を安定化させる事じゃな」

「? ですが空間と次元の安定化は三と四だったのでは?」

「うむ。これは若干本末転倒と言うしかないんじゃが、安定化させた上で解析するわけじゃ」


 そう言えば大陸会議の時にカイトも言っていたな。ソラは瑞樹とティナの会話を聞いて、少し前のカイトとの会話を思い出す。その時にもカイトが空間を安定化させて変化を見せる事で、空間の解析を容易にすると言っていた。そしてそれと同じことをティナは一同へと説明する。


「というわけで、安定した状態……つまりゼロベースで見る事で変化をわかりやすくするわけじゃな。なのでまずは外側から安定化させてやる事が必要になるわけじゃ。で、そこがわかってから次に自分の力で安定化させる、というわけじゃ」

「先のオレ達の転移先の次元と空間を安定化させる、というのはこの最初の四つの行程を省くわけだ」

「なるほど……空間と次元が安定している事がわかっていれば、改めて解析の必要も安定化の必要も無いですものね」

「そういう事だな」


 自身の補足説明を聞いて意図を理解した瑞樹の言葉に、カイトは一つ頷いた。やはり刻一刻と移り変わる次空間の解析は容易ではなく、これをいかに簡易にするか、となると外側から安定化させておく事が考えられたらしい。というわけで、その言葉を聞いたティナが先へと話を進める事にした。


「まぁ、それについてはそれで良かろう。兎にも角にも重要なのは、空間を安定させる事。それをせぬ事には何も始まらん」

「はーい。というわけで、も一回こっち注目」


 ぱんぱん。教師モードで、灯里が侃々諤々と話をしようとしていた上層部の注目を集める。というわけで、注目が集まった所でティナが話を進めた。


「さて。では空間と次元の安定に何が必要かというと、結構広い空間を拵える必要がある。まぁ、安定化させるだけであれば、さほど広さはいらんが……転移術の研究となると、今後を見据えて場所を確保しておきたいからのう」

「というわけで、一条くん」

「はい、なんですか?」

「君はカイトが腕輪を拵えるまで暇でしょ?」

「まぁ、そうですが……」


 一応、鬼族の力を使わなければ戦闘行動をしても良い、というのがリーシャとジュリエットの言葉だ。とはいえ、それは難しい事なので、緊急事態でもなければ瞬は戦闘行動を控えるように、という指示が出ていた。

 まぁ、急造品で良いならそう掛からず出来上がる、というのがカイトの言葉だ。なのでその間は我慢するしかないな、と瞬も諦めていた。


「君は一度志願者を募って学園に戻って、学園南方の一角の区画整理を行う事。そこに、実験施設を構築します」

「わかりました」


 あの付近であれば、確かに戦闘はさほど考えられない。そして同時に学園付近である事もあり、長時間作業をするにも向いている。何より、街から離れている事もあって空いた土地だ。大規模な研究施設を設置するには良い場所だった。


「ですが、南側ですか?」

「ああ、うん。ほら、他は大抵使えないから」

「あ……そういえばそうでしたね」


 灯里の指摘に、瞬はそういえば、と思い出す。基本マクスウェルで活動するのだ。なので変な話であるが、本拠地である学園周辺の事は時折忘れてしまう様子だった。


「まぁ、それと共にやはり周囲に強大な魔物が出ぬというのが有り難くてのう。基本、あの周辺はランクC以下の魔物しか出ん。となると、空間に影響を及ぼすほどの魔術も滅多な事では行使されんのよ」

「で、現在までの所学園から南方のマクシミリアン領に至る街道は無いから、人通りもない。研究施設を設置するには丁度よいのね」

「移動は若干手間になるものの、ですか」

「それ故に学園の南にした。学園を拠点に使えるからのう」


 灯里の言葉に対する自身の指摘に、ティナが学園付近に設置した理由を告げる。なお、これ以外にも理由としては流石にマクスウェル近郊にそんな大規模な施設を置くわけにもいかないから、という事もあった。と、そんな彼女の言葉に、瞬も納得する。


「なるほど……」

「うむ。で、カイト。お主は一旦は封印の腕輪の調整になる……で良いな?」

「流石にな。後々の作業効率を考えれば、先にこっちの手配を行っておきたい」


 現状、瞬が行う整地作業は一週間程度は最低でも要する見込みだ。その後は実際の建築に入り、とする事になるのであるが、整地が終わった後は基本的には他の面子と同じ様に各所との調整か商人達から材料の仕入れとなる。この内、瞬は実働部隊を率いての仕入れ担当となるのは道理だろう。それまでの間に急造品ぐらいはなんとかしておきたい所だった。


「そうじゃのう……ま、それはそれで良いじゃろ。全員が全員こちらに取り掛かりになってもそれはそれで事じゃからの。というわけで、桜。お主は引き続き仕入れ全体の統率を取れ」

「はい」

「うむ。で、ほかも引き続き今まで通りじゃな。まぁ、元々ここについては最初からわかっとったのでそうなるように手配はしておった。というわけで、これについてはそのまま引き続き、と考えて良い」


 そもそもの話であるが、ティナは魔術においては天才と言われた女だ。故に転移術は他人に教えられる領域にまで習得できており、最初から言われている通り何が必要で何をすれば良いかとわかっている。なので彼女はカイト不在の間に予め内々に通達を出しており、後は実行に移すだけだった。


「さて。それでは改めて、第一段階に必要となる物のリストを各員に配布する。しっかり頭に叩き込め」


 ティナはそう言うと、各自に予め作っておいた資料を配布する。そうして見た資料に、カイトはどこか遠い目をした。そんな彼に、ソラと瞬が声を潜める。


「……そんなやばいんっすかね」

「なんだろう。なにせ転移術だ。魔法一歩手前と言われるほどだ。相当……なのだろうな」


 ほとんど聞いた事もない素材が書かれたリストを見ながら、瞬もソラも若干だが真剣さを覗かせる。が、これについては実は全くの別だった。


(これ無しでやってたのか、オレ達……いや、しゃーないんだけどさ……)


 カイトの遠い目の理由は、これであった。改めて言うまでもないが、彼が転移術を学んでいた時代は物資が無い時代だ。おまけに、戦時中という事で今より遥かに空間は揺れていた。

 更に彼の場合は旅をしながら、練習していたのである。今回のような万全の準備ができているわけもなく、彼の習得が困難になっていたのはそこもあった。とはいえ、そんな彼の表情の意味は誰も理解するわけがなく、故にソラが真剣な顔で問いかける。


「カイト。こんなかで難易度高いのってなんだ? なるべく、俺が行った方が良いだろ?」

「ん? あ、ああ。そうだな……ティナ。この中で一般の流通網に引っかからない物が幾つかあるが、その中でも現在で難易度が高いのは?」

「そうじゃのう……まぁ、『次空石』が今若干高騰しておるとは聞いとるよ」

「あー……無菌室作るのに必須だもんなぁ……」


 どうしたものか。カイトは『次空石』なる物質の存在とその用途を思い出して、若干だがため息を吐いた。これに、ソラが問いかける。


「何なんだ、その『次空石』って」

「低純度の『次空石』は加工して空間を隔離する為に使われて、高純度の物は次元を隔離する為に使われる素材だな。これを加工して、というわけだ」

「……どこで使うんだ、そんなもの」

「元々はオレ達のように転移術の研究を行う為に使われたり、お貴族様の屋敷とかに転移術で入られないようにする防御用の結界を展開する為の物だった」

「なるほど……軍用品だったわけか」


 それは確かに手に入りにくいだろう。ソラはカイトから教えられた用途を聞いて、なるほど、と頷いた。元々転移術が教えられない、とされていた理由は軍事技術への転用が可能だから、というのがお題目にあった。『次空石』を使えば安定化もさせられるが、逆に防ぐ事もできたのだろう。と、そんなソラの言葉に、ティナもまた頷いた。


「そうじゃのう。故に管理は厳重にされておったが、今は実は比較的身近になっておる」

「? 軍用品だろ? ああ、街の結界とか?」

「いや、そうではない。この低純度の『次空石』はこやつ(カイト)が考案……と言って良いかはわからぬがこちらの技術で再現した無菌室の作製に使われる。なので低純度の物は比較的出回っておるんじゃ。まぁ、それでも今回の『リーナイト』の一件で需要増が見込まれる為、こちらも若干出回りにくくなってしまっておるがのう」

「あー……」


 それでさっきのカイトの顔なのか。一同はカイトが『次空石』の名を聞くなり顔をしかめたのを思い出し、その理由に納得する。とはいえ、それだけではないのもまた事実だった。


「まぁ、それについてはどうでも良いだろう。低純度は割とどうにかなる。重要なのは高純度の方だ。こちらは基本軍用品にしか使われん。無菌室作るのに次元の連続性を気にする必要はないからな。無論、『次空石』の産出される鉱山は公爵以上の貴族の軍か近衛兵団が管理する為、取りに行くのも難しい」

「となると、どうするんだ?」

「いや、オレ公爵だから」


 ソラの問いかけに、カイトは思わず真顔でツッコんだ。公爵以上の貴族の軍か、近衛兵団が管理である。そしてカイトは公爵である。とどのつまり、領内の『次空石』の鉱山は彼が管理しているも同然だった。故に、彼が明言する。


「こちらについてはオレがなんとか出来る。流石に持ってこさせるわけにもいかないから、お前に取りに行って貰うのは確定だ。まぁ、幸いといえば鉱山に入る必要はない、という所ぐらいか」

「なんだ……それなら、俺じゃなくて良くないか?」

「管理上の関係でサブマスターが出向かにゃならん。と言っても、申請書書いたり色々としないといけないから、行くのは後で良いだろう。最悪は最後でも問題はない。確保出来るのは確定だからな」

「軍用品にも転用出来るから、申請しないとダメなのか」

「そういうことだな」


 どうやら今から行きます、と言ってなんとかなるものではなかったらしい。ソラはカイトの語った理由に納得し、その理由を口にする。そんな彼の言葉に同意し、カイトは更に話を進めた。


「で、他には……別に建物の建材はどうでも良いだろうが……ふむ。配線系はどうするつもりだ?」

「配線は基本こちらで作るしかあるまい。いつもどおり、錬金術じゃな」

「ということは、灯里さんか」

「イエス」


 カイトの言葉に、灯里が楽しげに笑う。これについては彼女以上の適役が居ないのだから、それで良いだろう。なお、配線が必要なのは研究所全体を外の影響から守る必要があるからだ。単なる結界より高性能な物を作る必要があるそうだった。


「となると……後はまぁ、適時現状を流通から確認し、という所か」

「じゃのう。魔石やらについては前の通信機と同じく、手に入る時は手に入るし、手に入らん時は手に入らん。アンテナを張って、とするしかない」

「か……良し。じゃあ、これから素材の事について説明し、誰がどの素材を手に入れるか決めるとしよう」


 ひとまず、今の所取り立てて入手が厳しい物は『次空石』だけか。カイトはそう判断する。そうして、そんな彼は改めて各員へと作業の割り振りを行う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。


 ※時空石と次空石

 作中この二つが出ておりますが、誤字ではなく別物です。ご指摘がありましたので、念の為。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この低純度の『次空石』はこやつカイトが無菌室の作製に使われる。 とありますが、カイトが「提案した」か「考案した」が入るのではないでしょうか。 [一言] 既に説明されいるかもしれません…
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