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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第85章 次への一歩編

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第2250話 血の猛り ――前日――

 カイト達が遭遇した、暴走した瞬。その彼はカイト達が帰国する前日に、瑞樹の進言により桜に冒険部の統率を引き継いで怪我の予後を確認するという部長連率いる遠征隊に参加。藤堂、綾崎らと共にマクスウェルから少し離れた草原地帯の北端。少し離れれば森林地帯や荒野地帯に移動出来る場所にやって来ていた。


「よし。これで、司令部も完成だな」


 馬車を利用した簡易の野営地を設営して、瞬は一つ頷いた。今回は別に依頼で来ているわけでもないし、本格的な遠征隊というわけでもない。なので野営地はあくまでも数日寝泊まり出来れば良い程度で、基本は馬車を寝室として利用。司令部も馬車を簡易に展開した物だった。


「にしても……」

「どうしました?」

「いや、今回はほとんど必要無いな、と思ってな。一応、控えてはくれるが……」


 基本的に今回の様に広範囲に散って活動する場合、冒険部では司令部を設営してそこに魔術師達が待機。周囲の偵察を行い、遭難や不意打ちが起きない様にしてくれていた。冒険部における死傷率が低いのには、これも一因にあった。と、そんな瞬と藤堂の二人に、綾崎が告げる。


「まぁ、今回は基本的には腕試しというよりも、腕が鈍っていないか確認する向きが強い。どうしても強い所までは行かないからな」

「ああ。まぁ、一応大丈夫そうか、と思えば森や荒野に行くのも手だろうが……」


 流石に誰もが怪我を負って期間の差こそあれ入院させられていたのだ。結果、誰もが今回は腕試しを行うつもりはなく、これからの日々に備えた練習と位置付けていた。なので多くの者がこの草原で軽く弱い魔物と戦って現状を確認し、という程度に留めるつもりらしかった。


「とはいえ、瞬。お前は大丈夫だろう。そもそもそこまで怪我を負っていなかっただろう」

「まぁな」


 実際、瞬としても流石に十数時間にも及ぶ戦いで怪我は負っていた。負っていたが、やはり<<原初の魂(オリジン)>>を使える事と鬼の血が使える事により、彼は人並み以上に頑丈だ。

 特に鬼の血の方は魔力をほとんど消費しない為、多少手傷を貰ったら一旦引いて治療して、を繰り返したおかげで彼は殊更怪我を負っていなかった。と、そんな話をしながら今度は司令部の内装を整え、としているとすぐに昼を過ぎた。


「さて……これでひとまず良いか」


 昼ごはんを食べて、一つ腹ごなしで軽く準備運動をして。瞬は問題なく動ける状態に持っていって、一つ頷いた。


「……」


 これから戦いに臨むのにあたり、瞬は一度だけ目を閉じる。そうして、彼は何時も愛用する槍を編み出した。


「よし。問題無いな」


 手に感じる重さ。質感。そういった物を確認し、瞬は一つ頷いた。魔力で槍を編むのに重要なのは、一に才能二に練習となる。そのうち練習で練習で掴むべきなのは、この実体感とでも言うべきそこに槍がある、という感覚だ。

 これを落としてしまうと実体化の精度が落ちてしまうので、例え怪我で腕が動かせなくても、槍だけは作って身体に触れさせねばならなかった。


「何時も思うんですが、中々に便利ですよね、それ……」

「そうでもない。今回のような長期戦だと、槍を編む魔力も馬鹿にならんからな」

「それはまぁ、そうでしょうが……」


 それでも、今回の一件で武器を失った身としては便利に思える。実際、藤堂としてはあの時名も知らぬ誰かが助けてくれなければ、最後まで戦い抜く事は不可能だっただろう、と思っていた。それほどまでに武器の喪失というのは重大な事態なのだ。


「まぁ、それは良い。お前の方はどうだ?」

「ええ。少し重いですが……十分、扱えます」

「元々のはもう少し軽かったのか?」

「ええ。というより、少しだけ長いんです。まぁ、そもそも私専用に作ってもらったものではないので仕方がない事ですが」


 それで何度も調子を整えていたのか。瞬は藤堂が刀を構えるのを見て、確かに数センチほど何時もより間合いが伸びている事に気が付いた。

 本来ここらもしっかり調整し慣らすのが良いのだろうが、残念ながら武器を喪失した、という冒険者は冒険部でも大量に居る。マクスウェル全体であれば更に増える。武器を手に入れるのも、今は一苦労だった。


「ふむ……そういえば、素材はどうなんだ? そこが何より重要だろう」

「素材は高純度の魔法銀(ミスリル)だそうです。おかげで魔力の面での取り回しは良いですよ」

「なるほどな……」


 確かに言われてみれば、何時もとは少し輝きが違う。瞬は良くも悪くもワンランク上の品を手にれられた様子だ、と理解する。


「まぁ、それは良いか。で、ここからどうする?」

「とりあえず、俺達も草原で一旦調子を確認しつつ、明日から本格的に行動するつもりだ」

「そうか……なら、行くか」


 とりあえず、瞬としても部長達の腕がどの程度になっているか、というのを確認する必要がある。そして各部の部長達にしても今の自分達がどうなっているのか、というのを確認する必要があった。というわけで、瞬は部長達と共に草原へと足を踏み入れるのだった。




 さて、草原での訓練を開始して一日。初日を現状の確認に費やした遠征隊であったが、明けて翌日からはそれぞれ自身の現状に見合った訓練に臨む事になっていた。というわけで、冒険部でも腕利きの集まりとなる部長連はそれなりに怪我が癒えていた事もあり、荒野地帯での訓練に臨んでいた。


「ふっ!」


 今日からは本格的な訓練という事もあり、瞬も本気で事に臨んでいた。そんな彼の前に居たのは、後にカイトが荒野地帯で強敵と行っていた『タイガー』種の魔物。『荒野の虎(ランド・タイガー)』と呼ばれる淡黄色の体毛を持つ虎に似た魔物だった。

 冒険者で扱う魔物のランクで言うとランクはB。瞬やこの場の部長達であれば、順当に戦えば問題なく倒せる相手だった。そして実際、ほとんど問題なく戦える瞬にとっては敵ではなく、故に基本は彼が戦っていた。


「ふむ……」


 自身の一突きを急停止して避けた『荒野の虎(ランド・タイガー)』を見て、瞬はわずかに感心する。やはり壁を突破した魔物というだけの事はあり、生半可な力ではない様子だった。と、その次の瞬間だ。彼は寒気を感じて、とっさにその場から飛び跳ねる。


「っ! 危なかったか」


 迸った斬撃に、瞬は内心の冷や汗を拭う。やはりランクBの魔物だ。普通に斬撃を背後に放ってきたり、分身を生み出したりしていた。今回の場合は『荒野の虎(ランド・タイガー)』は急停止と同時に自身に薄く幻影を展開。その場に居る様に見せかけて、一瞬で彼に肉薄していたのである。


「が……その程度なら砂漠で見た!」


 身を屈め再度跳躍するような姿勢を取る『荒野の虎(ランド・タイガー)』に対して、瞬は上空から急降下。飛び蹴りに似た蹴りを叩き込む。そうして、飛び蹴りを受けた『荒野の虎(ランド・タイガー)』は地面へと強く叩きつけられる。


「っと!」


 地面へと『荒野の虎(ランド・タイガー)』を叩きつけた瞬であるが、やはり咄嗟の跳躍と『荒野の虎(ランド・タイガー)』の跳躍に間に合わせるべく急遽急降下を行った事で十分な威力は得られていなかった。なので流石に『荒野の虎(ランド・タイガー)』を倒すには至らず、その復帰に合わせて勢いを利用してこちらも跳躍を行う。


「ふぅ……」


 空中で身を翻し、瞬は一度だけ呼吸を整える。そうして、彼は<<雷炎武(らいえんぶ)>>を始動。こちらに向けて跳躍をしようとした『荒野の虎(ランド・タイガー)』に向けて、真っ向から向かい合う。


「はぁ!」


 一直線にこちらへと向かってくる『荒野の虎(ランド・タイガー)』に向けて、瞬は思いっきり槍を振り下ろす。そうして、『荒野の虎(ランド・タイガー)』と彼の槍が真正面から衝突。『荒野の虎(ランド・タイガー)』は跡形もなく消し飛んだ。


「っ」


 跡形もなく消し飛んだ『荒野の虎(ランド・タイガー)』を確認すると同時に、瞬は槍を消滅させる。地面にダメージを与えない為だ。そうして消滅とほぼ同時に彼は再度身を翻し、地面へと器用に着地した。


「よし。問題無いな……若干高くなった出力をどうするか、と考えていたが……」


 因子さえ使わなければ何時も通りか。瞬は何度か拳を握りしめ、返ってくる感触が何時もと同様である事を把握する。ここ暫く難戦続きだった為、大抵鬼族の力を展開していたが、今回は単なる訓練。何時もと同じ様に戦う事を主眼としている為、慣れない鬼族の力はあまり使わない様にしていた。

 そして検査によって鬼族の因子が強くなっていた為、その関係で腕力が爆発的に増大していたのでは、という推測も立てられていた。使わなければ何時も通り戦えるし、更に力が必要な場合は因子を使えば良いと判断。結果、何時もの様に戦う事も出来る様になっていたのであった。


「なるほど、やはり鬼族の因子が関係していたか」

「問題無いのか?」

「ああ。これなら、何時も通り戦える」


 それどころか、自分からしてみれば一つ常時で使える札が増えたようなものか。綾崎の問いかけに瞬は現状を肯定的に捉えることにする。そして実際、普通にはそれで良い。カイトも特段理由がなければ龍族としての力を隠していないし、肉体的な強度の高さを得る為に基本は使っている。


「と言っても、流石に今回常時展開はしないがな。流石に慣れていない。まぁ、時々は使っていくし、数が多ければ使う」

「そうか」


 結局、何時も通りという所か。綾崎も瞬の様子から、特段気にする必要も無いか、と判断する。そうしてそんな風に各々自身の状態を確認しつつ、戦闘を繰り返す。


「藤堂も問題無さそうか。というより、この様子なら何時もより切れ味が良さそうか」

「か」


 綾崎の見立てに、瞬もまた一つ同意する。どうやら藤堂が貰ったという刀は武器技(アーツ)こそ保有していないものの切れ味としては業物と言って良い領域だったらしい。素材も相まって魔力の通りも良く、十分な威力を有していた。


「ふぅ……」


 黙想し、精神を集中させた藤堂が一息ついてこちらへと戻ってくる。そんな彼に、綾崎が称賛を述べる。


「カウンターで一閃か。相変わらず見事なものだった」

「ありがとうございます。あの戦いで一時とはいえ宗矩様に教えを請えたのが幸いでした」

「そう言えば、彼はどうするんだろうな」


 先にカイトも言っていたが、宗矩がこの後どうなるのか、というのはまだ冒険部でも公表されていない。なので藤堂だけでなく綾崎達も知らず、一同彼がどうなるのか、と少しばかり心配を覗かせていた。それに、瞬が問いかける。


「まぁ、彼ならさほど心配しないで良いだろう。カイトも裏で動いている様子だし、武蔵さんも動いているんだろう?」

「とは聞いているよ」


 基本的にこの場の面子で一番武蔵に関わっているのは藤堂だ。なので彼の方が武蔵の動向については詳しく、彼が内々に動いていた事は知っていた。が、実際に捕えられた後にどうなるか、というのは各国の意向が大きく、今回の大陸会議でその最終的なジャッジが出ると聞かされていた。


「とりあえず、これで一巡だ。ひとまず戻って休憩して、また午後にしよう」

「それもそうか」

「戻るか」


 瞬の提案に、部長連の面々は一つ頷いた。一応昨日の時点で各々の状態は確認していたが、やはり強い敵と戦う事で見えた点がある。そこを踏まえて、午後から動くつもりだった。そうして、一同は改めて拠点へと戻る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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