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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第84章 大陸会議編

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第2044話 大陸会議 ――三日目――

 クロサイトの助言、カイトからの指南を受けたソラ。そんな彼は自身の次のステップとして、自分だけの部隊を構築する事を考える様になる。

 そんな考えを相棒であるトリンに相談したわけであるが、そこで更にトリンからの助言を受けて、彼は改めて次のステップを考える事となっていた。そうして、明けて翌日の朝。カイトはソラに状況を聞いていた。


「で、結論は出たのか?」

「いや、全然。一応、どうしたいか、ってのは考えたけど……まーったくわかんね」

「わからんねぇ……何がわからん?」


 幸い、二人共今日は午後からの参加となっていた。なのでまだ時間はあり、話をする時間は大丈夫だったのだろう。


「色々とわかんねー。そもそも部隊構築、ってなっても現状俺が欲しい、ってトリンぐらいだし……というか、何が必要なのかがさっぱりわからん」

「なるほど……確かに、それはそうだろうな」


 そもそも冒険部で必要なものは全てカイトとティナが指示し、組織している。故にソラはカイトが作った土台を彼の助言に従って動かせば良いだけだった。が、組織を自身で構築するとなると、今度はそれが無いのだ。何が必要なのか、とわからない事だらけになるのは当然だった。


「なにが必要か、と言われても、必要なのを考えてみれば良い。組織として動くならな」

「それなら考えた。要は会社とかと一緒だろ? 経理に総務に……」

「なんだ。わかってるじゃないか。そうだ。それだけだ」

「え?」


 こんなものは誰もが考え付く事でしかない。そんな考えがソラの頭を過ぎる。が、それは当然なのだ。


「オレやお前が知る組織の体系ってのは、もう人類が長い間掛けて培ってきた結論だ。それを、オレ達は受け取っている。簡単に言ってしまえば答えだ。答えがある以上変に奇をてらうより、そのままにした方が遥かに良い」

「なるほどな……」


 確かに、言われてみれば納得出来る。そもそも例えばヴィクトル商会ならカイトからの情報提供もあり地球の企業と同じような企業体制を取っているし、給与体系は完全に同じだと聞いている。

 それこそサリアの意向も相まって有給休暇に夏冬には長期休暇、通勤手当や家族手当と言った至極馴染みのある手当から、エネフィア独自の事情から警備員には危険手当が標準的に含まれている。それは三百年前からほとんど変わっていない、との事であった。


「料理に似てる……んかね。由利が時折料理音痴に対してレシピ通りに作らないからー、とか言ってるの聞いてた」

「そうだな。それと同じだ。レシピという答えがあるのに、下手に慣れてない奴が改良を加えようとすると上手く行かないもんだ。なら最初はレシピ通りに作って、慣れてきた頃合いに自分に合わせた特色を出せば良い」

「……ん、りょーかい」


 それならなんとかなりそうかな。ソラはカイトの言葉に、一度難しく考えずにひとまず先人たちの教え通りにしてみる事にする。と、そんな彼の様子を見て、カイトが問いかけた。


「なんだ。結局、自分で組織作るのか?」

「いや、流石にそこまでは考えてねぇよ。単にやるならどうするか、って考えてるだけ」

「そうか……まぁ、難しく考える必要はない。分隊、という考え方も出来るからな。そこらはオレにはできんからな」

「出来ない? ああ、お前そっか……そうだよな。お前は全体を率いる役目なんだもんな」


 言われてみて、ソラもカイトの立場を思い出したようだ。確かに、カイトはどうやっても分隊を率いれない。というより、彼が分隊を率いる場合は分隊というより別働隊だ。必然、その状況に合わせた部隊の構築を行う為、ソラの様に自身の部隊とは言い難い。


「ま、そういう事だ。そこらについては、お前の判断に任せる。したいようにやれば良いさ」

「おう。ま、色々と考えてみるよ」

「そーしろ。その中で見える事もあるだろうさ」


 兎にも角にも、今はまだ道が示されたばかりだ。何が出来るか、何がしたいか、と考えられない事も多いだろう。何より、今すぐ決めねばならない事ではない。トリンは確かにカイトが引退後を考えている、と言っていたし、カイト自身何時かは一線を退く事を考えているが、それは間違いなく今ではない。考える時間はまだまだあった。と、そんな事を話しながら時間を潰していると、出発の時間になっていた。


「それはともかく、とりあえずは行くか。今日で終わりだし、特に何かを言う事は無いだろうが……」

「よく考えれば、そもそも大陸間会議の時にも聞かれてるもんな」


 そもそもカイト達が帰還する事を目的としている、というのは冒険部が発足するより前から言われていた事だ。なので各国はそれを理解しているし、建前上それを拒んだり非難する事は当時のラエリア王国の大大老達も、マギーア王国の王達もしていない事だった。

 というわけで、そうである以上カイト達も聞かれた事には素直に答えていたので、基本的に聞きたい事はあの時の時点で答えている。そして各国、あの段階で地球との公的なやり取りは見据えていた。大凡、基本的な知識は共有しているものの筈だった。


「ああ……まぁ、それでも聞きたい事などはあるだろうからな。一応、参加しておくのが筋だろう。じゃあ、行くか」

「おう」


 カイトの言葉に、ソラもまた頷いた。そうして、二人はホテルを後にして国際会議場へと向かう事にするのだった。




 さて、当然といえば当然の話なのであるが。先にカイトが言っていた通り、基本的な情報としてはすでに共有していたし、何より皇国は一足先に国と国としてのやり取りを交わしていた。なので基本は皇国が前面に立ち、応対を行っていた。


『うむ。通信機についての性能は我が国が保証しよう。今の所十数度、あちらの外交官とやり取りを行っているが……今の所表示に従って行えている。聞けば、カイトさえ知らぬ英傑達が此度の案件には協力していた』

『確か、ハイゼンベルグ公はかの勇者の後見人でしたな。そのあなたも何も聞いていないと?』

『無論じゃ。そも、あの当時のあれは正真正銘単なる一人の少年。それを時の皇帝陛下が戦力不足に悩んだ末、出征したまでのこと。そしてあれが偶然にも万に一つの生存の可能性を引き寄せ、ついぞ成し遂げた結果よ。故に彼は魔術について何も知らなかったし、英雄達については伝説としてしか知らなかった。何か知らぬか、と聞いた事はあったが、スカサハやギルガメッシュなぞという英傑は一切話した事はなかった』


 というか、当たり前過ぎるだろ。カイトは自分がすごすぎた結果まるで全知全能の様に思われている風がある問いかけに対して、思わず内心で笑う。

 まだ、ギルガメッシュは良いだろう。彼は世界史に記されている。が、スカサハらケルトの英雄なぞ、日本の中学生の何割が知っているか、と言われれば一割も居ないだろう。

 それを当時のカイトが知っていたか、と言われると彼は首を振る。あの当時の彼はあくまで一般的な中学生でしかない。地球に帰って調べ直し、知った事だ。エネフィアで語られるわけがない。


『が、このスカサハの腕は凄まじいと言って良い。こちらの天才達と比べて、肩を並べられる。いや、一部では上回っている、というのが我が国の専門家の意見じゃ。その彼女や地球の魔女が中心となり製作したかの通信機は十分な性能を有している、と断言しよう』

『ふむ……』

『むぅ……』


 ハイゼンベルグ公ジェイクの報告に、各国の大使達は一つ唸る。やはり相手が厄介な腕を持っているとなると、対応に困るのは無理の無い事だ。とはいえ、そこについては相手が難敵なら難敵で考える事も出来る。故に、今は先に済ませておく話があった。というわけで、ムルシアはこれは後で考えよう、と口を開く。


『まぁ、それは良いでしょう。ハイゼンベルグ公。それで、よろしいか?』

『何かね?』

『その通信機の事です。まずこれについては、各国への情報共有を感謝します』

『いやいや。これについては元々取り決めていた事。我が国はその務めを果たしただけの事じゃ』


 ムルシアの社交辞令から入った言葉に対して、ハイゼンベルグ公ジェイクは一つ笑って首を振る。これに、ムルシアも頷いて話を進めた。


『そうですね……それで、一つ。些か早計というか、勝手に作り勝手にやり取りをやる必要は無かったのではないか、と思う次第』

『それについては、予め各国に通達を出しておろう』

『無論、それについては受け取っています。私が言いたいのは、まず各国で意見を一致させた上で、大陸間なり大陸なりで代表を出して会談に臨むべきだったのでは、という所です』

『それについては先にも述べた通り、皇帝陛下による会談はあくまでも試験的なもの。公的な会談と言うにはあまりに準備が整っていなかった。その上で、どうしても先方には国家元首が居る可能性があった為、我が国も大事を取って皇帝陛下が出られたまでの事である』


 ムルシアの言葉に対して、ハイゼンベルグ公ジェイクはあくまでも先のソラの父と皇帝レオンハルトのやり取りは半ば偶発的に起きたものだ、と明言する。無論、カイトが居る事によりそれが内々でわかっていた事であっても、それが公的ではない以上はこれが答えだった。そうして、彼は更に続ける。


『そもそも、我が国としても相手方に国家元首が居るかどうかはわかりかねた。一応、試験的に運用した際にやり取りは行ったが、それはあくまでも彼らが作った物での事。その際には政治的なやり取りは一切行わず、我らとしても一切会話の内容に関与していない。あくまでも我らは通信機の作製が完了し、性能が十分であると証明されたという話を受け、改めてこちらでも作っただけに過ぎぬ』

『ふむ……天音くん。そこらの話、相違は?』

「ありません。元々、設計図については私に向けて届けられた物。故にまず私は内容物を確認し、それが通信機である事を把握。その後、コピーを確保した後にマクダウェル家のクズハ様に提出させて頂きました」


 コピーを取ったのは、あくまでも皇国を完全に信頼していない、という立場の上だ。なのでこれについては完成した今、必要無いだろうとこともなげにカイトは明かす。何より各国すでにコピーを受け取っている為、誰も気にしなかった。そうして、そんな彼は更に続けた。


「そして皇帝陛下より、法律に逸脱しない範疇であれば帰還に向けた活動の一切を保証して頂いております。故に、設計図を提出後一部地球での技術でしか成し得ない部分については改良・改変を加えつつ、通信機を作製。初起動に際して報告はしましたし、一応マクダウェル家の役人の立ち会いも受けましたが、それだけです」

『そもそも、成功するかどうかさえわからない技術じゃ。我らも成功するかもしれない、とは思っておたが、同時に失敗するかもしれない、とも思っておった。故に成功した時点でどうするか、と考え、その中で皇帝陛下にご同席頂くのが最良と判断したまで。日本国もそう判断したのじゃろうて』


 ハイゼンベルグ公ジェイクはあくまでも今回はお互いの考えが一致した結果、偶然に両国の首脳が顔を合わせる結果となっただけに過ぎない旨を明言する。やはりどんな世界でも一番最初、というのは歴史に残る事だ。それを皇国が勝手にされては面白くない、という国は少なくない。

 皇国としてもそれは考慮に入れていたが、相手にソラの父が居るのがわかっていて出ないわけにはいかなかった。無論、皇国としても国家の偉業として第一に連絡を取った、というのは欲しかった事もある。というわけで、暫くの間はカイトは皇国の思惑やら各国の思惑やらに巻き込まれながら、オブザーバーとしての役目を果たす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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