第2042話 大陸会議 ――為政者として――
クロサイトとの会食で様々な選択肢が自身にはある事に気付かされたソラ。そんな彼はその後も暫くクロサイトとの会食を兼ねて教えを受ける事になっていた。そうして、それから少し。ソラは幾つもの事を考えながら、ホテルへと戻ってきていた。
「よぉ、おかえり……どした? 眉の根を付けて」
「んー……まぁ、色々と」
「あはははは。大凡、クロサイト殿から色々と指南されたか」
「誰と会ったかわかってたのか?」
元々、今回の会食はカイトも予想外の物で、彼が出ていく直前まで色々と調べてはいたものの何故ラリマー王国が会食を望んだかわからないままだった。が、戻って早々これである。ソラが訝しんだのも無理はない。というわけで、相変わらず夜だからかウィスキーを片手のカイトが自身がこう思った理由を告げる。
「いや、お前の表情が第一と、ハイゼンベルグの爺からラリマー王国に今クロサイト殿が仕官されていると聞いてな。そこからラリマー王国の思惑などを考えて、クロサイト殿が相手だろうと考えただけだ」
「はぁ……」
「な、なんだよ」
自身の推測を聞くなりため息を吐いたソラに、カイトは思わず憮然とした表情で問いかける。とはいえ、流石にこの態度は自分も無いと思ったのか、ソラは先程あった事を彼へと話す事にした。
「と、いうわけだ」
「あー……なるほどね。まぁ、妥当っちゃ妥当か。そろそろあっても不思議はないかなー、とかは思ってたが」
「え?」
自分がヘッドハントを受けた事を聞いたカイトの反応に、ソラが思わず目を丸くする。これに、カイトはどこか朗らかに、それでいて呆れた様に笑った。
「何だ。案外自己評価低かったのな、お前。お前はお前が思う以上に、優れてるぞ」
「え、あ、お、おぅ……」
やはり親友と思う男から素直に称賛を述べられては、ソラも恥ずかしかったらしい。頬を赤くしてそっぽを向く。そんな彼に、カイトは教えてくれた。
「そうだな。まず桜はオレの関係でヘッドハントは無理と各国知っている。なので桜に関しては確定でヘッドハントは来ない……が、当然お前と先輩は違う。ヘッドハント可能だ」
「まぁ……それはわかるよ」
「ああ……で、お前だが……クロサイトさんの言う通り、お前はお前が思う以上によくやっている。これは確かにオレやティナという比較対象が悪い。オレやティナを比較対象にしようとするべきじゃないな」
こればかりは、仕方がない事なのだろう。カイトはクロサイト同様ソラの自己評価が低い理由を自身にあると認識する。こればかりはソラに言われなければ気付かなかった事だったので、今言われて彼もそう思ったらしかった。というわけで、彼は少しだけ笑って告げる。
「おそらく、オレは統治者としての才覚はあったんだろう。そしてオレはある人の背を追いかけて、ずっと彼ならどうするか、と考えて組織を運営してきた。その人の背があるオレと、何も無いお前じゃ比較にならんのは当然だ」
「ある人? ティナちゃんとかじゃなくて?」
「ああ……先生だ」
「先生……ギルガメッシュ王か?」
「ああ……オレが最も尊敬する人」
カイトが単に先生とだけ言う時、それは大抵がギルガメッシュを指し示す。ソラはそれを知っていた。
「彼ならどうするか……それを考えて、色々とやってた。あははは。これ言ったら大笑いされたがな」
どこか恥ずかしげに、カイトはかつてギルガメッシュと今生で再開した時の事を語る。なお、ギルガメッシュが大笑いしたのは、どれだけ離れていようと、そしてたとえ統治者としての自身を見ていなくとも自身の背を見ていた彼を嬉しく思ったからだ。
「そういう意味で言えば、お前がもしオレと同じ事をするのならオレならどうしただろうか、と考えるのが一番良いのかもしれないが……やめといた方が良い」
「どして」
カイト自身がそうした様に、自身もまたカイトを真似てみる。そう考えていたソラであるが、そんなカイトの助言に首を傾げる。これに、カイトは告げた。
「当てにならんからだ。オレが先生を想像したのは、先生が想像出来たからだ。それは彼ならこの場合にどう考えただろうか、とわかるほどに彼の事を理解しているから出来る事だ。そしてそれが出来たのも、彼から何十年と教えを受けて、そして共に暮せばこそ出来た事でもある。何十、何百と共に旅したしな」
「だから無理、と」
「ああ。お前、さっき言ったろ? お前が何考えてるかわからね、って」
「……ああ」
「だから、無理なのさ。考えてわからないなら、真似ようとして真似られるわけがない」
なるほど、確かに道理ではある。実際、ソラも何度かカイトならどうしただろうか、と考えようとして、無理だった事はある。勿論、簡単な事なら真似る事は出来るが、部隊の運営をゼロから行う場合にどう考えるだろうか、と問われたら全くわからない。あまりに情報が少なすぎるのである。
「こればっかりは、オレも悪いとは思うよ。どうしても遠征隊だなんだ、となるとお前や先輩に部隊長を任せる事も多かったからなぁ……何度か横で指揮を見せておくべきだったか」
「あ、いや……お前が気にする事じゃねぇよ。出来たわけないし……」
僅かな申し訳無さを滲ませるカイトに、ソラは慌てて首を振る。ここら、言われて気付いたが少し放任主義になってしまっていたか、と彼も自省したらしい。
冒険部全体に関わる事ならやはりカイトが直接指揮を執っていたが、それ以外の遠征なら自身は補佐役を与えたり注意点を述べて後はおまかせ、としている所は多かった。
自身の横で指導を見せる事が少なかったのである。勿論、それはソラが言う通り、状況や彼の立場、率いる冒険部の規模を鑑みれば仕方がない事ではあったが、だ。というわけで、慌ててフォローを入れたソラに、カイトが感謝を述べる。
「すまん……まぁ、そういうわけで、流石にちょっとオレを真似るのは難しい。土壇場で、無理が生ずる。やめとけ……それに、お前はもっと真似られる相手が居るだろうに」
「え?」
「トリンだ。彼を真似て考えろ。それが一番だ。軍略なら性質も相まってブロンザイト殿より劣るが、それでもお前よりはるかに上だ」
「あ……そっか」
何もカイトを真似る必要はなかった。カイトの助言に、ソラは改めて目を見開く。というわけで、部隊の指揮に関して誰を真似るか、と決めた彼は次の一手として、これを問いかけた。
「なぁ……一つ良いか?」
「おう。暇だしな。聞きたい事あったら、今の内に聞いておけ。あんま、こんな機会無かったしな」
「ああ……なぁ、お前どうやって人材を登用してるんだ?」
「ん? それかぁ……それなぁ……」
さっきよりは随分と簡単な話のハズなのに、カイトはソラの問いかけに困った様に笑っていた。そうして、彼は困り顔で答えた。
「ぶっちゃけ、こいつすげぇ、と思ったら登用する。今回のソーニャだってそうだ。オレが欲しい、と思った人材ってこいつが必要、と思ったんじゃなくて、こいつすげぇ、と思ったからが大きい。ほら、オレ本質的にはあんま優れてる所ないからさ」
「嫌味か」
「あははは」
ここら、類は友を呼ぶとばかりに自分とソラは似ていたんだろうな。カイトはソラのツッコミにそう思う。幾分今でこそ自己評価は正確になっているが、それでもカイトは自身が決して優れた人物ではない、と思っている。
そしてこの理由は当然、ソラと同じく彼が見てきた人物達がそれぞれの分野で天才や一角の人物と言われる者たちだったからだ。それ故に彼は上を知るからこそ、自分が優れていないと思ってしまうのである。これもまた、比較対象が悪かった。
「でもま、それって結構重要なんだぜ? 自分よりすごい奴、ってのはつまり自分には出来ない事を出来る奴なんだ。それを登用する、ってのは自分には出来ない事が組織として出来る様になるに等しい」
それ、お師匠さんも重要って言ってたなぁ。同時に出来ないとも言ってたけど。ソラはカイトの言葉に、ブロンザイトの言葉を思い出した。とはいえ、それを実践しているのが、カイトである。
「実際、領地経営をやってみるとわかる。手が幾らあっても足りん。有能な奴は何人でも欲しい。正直、他人妬んでる暇あったら、一人でも多く人材集めてやらんと自分が苦しむ。ぶっちゃけ、戦時より平時の方が遥かに忙しい。狡兎死して走狗烹らる? 煮るんだったらくれ。こっちゃ人手不足に喘いでるんだよ。狡兎より羊の方が多いしめんどうなんだよ」
「お、おぉ……」
苦労してんなぁ。ソラは真顔で怒涛の如く愚痴るカイトに、思わず気圧される。まぁ、伊達に何も無しで義勇軍だけを率いて世界でも有数の広さを持つ領地の経営を始めさせられたわけではないのだろう。
今でこそ人材がある程度揃っているのでまだマシだそうだが、三百年前はあのティナでさえ人材不足に喘ぐ状況だったそうである。めぼしい人材を手当り次第に集める癖のようなものがカイトには根付いている様子だった。と、そんな彼はかなり胡乱げになりながらも、話の軌道修正を行った。
「まー、そりゃどうでも良いんだよ」
「お、おぉ……お前が良いなら……」
「とりあえず、狡兎死して走狗烹らるはやんな。まぁ、エネフィアでそれやった瞬間、国終わるけどな。盾消えるから」
あははははは。カイトは楽しげに笑う。実際、エネフィアには無数の魔物が居るわけで、たとえ戦争が終わろうと次に待つのは魔物との戦いだ。走狗を煮る意味が一切無いのである。
というより、カイトの言う通りエネフィアでは走狗とは自らの盾でもある。事実、三百年前当時では彼こそが走狗であり、盾だった。故のマクダウェル領だ。皇国は誰よりもカイトが重要である事を知っていたのである。
「で、それはさておいても。自分よりすごいな、という点を一つでも見付けたら即座に引き込め。隠者なら頭下げてでも来てもらえ」
「そーいやお前、お師匠さんも来てくれって言ったってな」
「おう。てーか、大半の賢者には一度は来てくれないか、って言ってるぞ」
一切憚る事なく、カイトはソラに告げる。と、そんな彼にソラはふと思い、問いかけてみた。
「最近だと誰か来てもらったのか?」
「ん? 最近ねぇ……最近だとお前が知る所でコレットかな。情報分析と経理のプロ」
「あー……」
そう言えばコレットさん、マクダウェル領にヘッドハントされたんだっけ。ソラはカイトの言葉にそれを思い出した。
「って、そうじゃなくて。コレットさん、賢者じゃないだろ?」
「まぁ、そうっちゃそうか……となると、誰か居たかな……最近……あ、リルさんかな」
「ああ、あの人……賢者って感じしないけど、かなりすごい人なんだろ?」
「彼女の登用に成功したって歴史的快挙レベルのすごい人物。あの時の状況が状況じゃなかったら、オレ多分数日は飲みまくった」
あのティナをして、リルは即座の弟子入りをさせた賢者である。確かに一部の魔術であればティナが勝るだろうが、リルの知っている範囲は彼女をしてそもそも想像さえさせなかった分野も少なくない。
実際、精霊学――大精霊を筆頭にした精霊に関する学問――に関してはカイトと共に居た筈の彼女をして上回ると言わしめており、時系統魔術や空間魔術に関しても自身より上と言わしめていた。ティナいわく、おそらく明確に上回れるのは戦闘系とゴーレム関連ぐらいだろう、との事である。
「そ、そんななのか……」
「ぶっちゃけるぞ? 彼女のマクダウェル家への参画は正直、地球への帰還事業の見通しを十年は早めた。そのレベル」
「うわぁ……」
そこまですごいのか。ソラは若干の興奮をにじませたカイトに、思わず頬を引き攣らせる。やはりリルは基本公爵家の人員だからだろう。ソラはリルの凄さがわからなかったらしかった。
「正直、世界間での転移術を多用された彼女の見識はオレ達にとって何よりも必要なものだ。その助言は物凄い貴重で、そして重要だ」
「なるほど……」
確かに、そう言われてみればリルが加わった事で十年早まった、というカイトの言葉もうなずけた。今後必要になってくるだろう世界間転移術の実験において、彼女はその実験データを幾つも持っているに等しいのである。
「後は……そだな。地球だと将にはなるが、隠形鬼とその配下の忍達が最近のでかい収穫か。まさか手に入るとは思ってなかったから、嬉しい収穫だった」
「隠形鬼? てか、忍者……?」
マジで言ってんのか。さすがにエネフィアで過ごそうと、忍者だなんだは信じられなかったらしい。
「ああ。藤原千方の四鬼、と言われる有名な鬼だ。ほら、忍者で影忍とか言うだろう? その大本が、彼女だ。正真正銘、忍者の開祖の一人と言って良いんだろうな」
「へー……」
そんなすごいのか。ソラはカイトから聞かされた人材登用の結果に、思わず目を見開いた。そうして、彼はそれから暫くの間、カイトからどうやってそういった者たちを登用していったのか、という所を聞いて参考にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




