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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第84章 大陸会議編

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第2041話 大陸会議 ――助言――

 クロサイトからの助言とも苦言とも付かぬ言葉を受けて、大陸会議の開始前に起きた一幕を思い出したソラ。そんな彼は、『第五列(クインタ)』の事をぼかしつつもクロサイトへと起きた事を語っていた。


「……というわけです。領地を経営するのに、調査員を派遣するまでは多分俺でも考え付いたと思うんです。でもそれ以上は、どうやっても考えつかなかった」

「ふむ……それはそうであろうな。先に言うたが、お主がカイト殿と同じ領域を求めるのは高望みというものよ」


 こればかりは、改めて言うまでもないことではある。ソラとカイトの才覚を比べると、実際カイトの方が高い。というより、ここら彼が統治者向きであるという事があった。


「そも、これはおそらくカイト殿自身は気付かれておらん事なのであろうが……大凡、統治者としての彼は傑物と言って良い。一つ、問おう。ソラくん。君は武勲で立身出世した者が何時までも統治者を出来ると思うかね?」

「え? そりゃ、まぁ……出来てるんで、出来るんじゃないでしょうか」


 クロサイトの問いかけに、ソラは不思議そうに頷いた。これについて誰を思い浮かべたか、というと言うまでもなくカイトだ。彼は言うまでもなくかつての大戦で武勲を上げて、皇国で貴族に封ぜられた。

 それも一切の地位を持たない状態――無論、元宰相であるヘルメス翁の養子という立場はあるが――から大貴族だ。そして今でも彼の公爵としての地位は通用していると言うし、実際クズハとアウラの努力の甲斐もあって今では世界最大の貴族の一人とも言われている。出来ると言うしかない。そしてこれに、クロサイトも笑った。


「うむ……出来ておるな。が、おそらくエネフィアの有史上、ここまで満足に成し遂げられたのは彼だけよ。というより、当然の事なのよ。武勲を、それも貴族に封ぜられるほどの武勲を上げる、という事はそれだけ凄まじい戦果を上げられたということ。つまり、軍事の面では素晴らしい才覚を有しているわけよ」

「はぁ……」


 それはそうなのだろう。実際、カイトの戦闘力と軍団の長としての能力は非常に高いらしい。ソラは後者については伝え聞くしかなかったため、クロサイトの言葉に生返事をするしかなかった。


「が、それはあくまでも軍事。平時の民を治める能力とは決定的に違う。軍を率いられる事と民を率いられる事は違う。(すい)に求められる物と、王に求められる物は違う。それは良いな?」

「はい」

「うむ……故に、幾ら武勲を上げられようとそれは軍事の……(すい)としての能力が高いだけに過ぎぬ。統治者に求められる物を有するか、というのは別問題となろう」


 それはそうだな。実際、これについてはソラもブロンザイトから何度となく言われており、今更言われるまでもない事だった。とはいえ、だからこそとクロサイトは語る。


「故に軍事に長けた者が満足に統治を行えるか、というとそうではないのよ。どこかで必ず、粗が出る。そしてその粗を貴族達は突く。なにせ疎ましいからのう」

「疎ましい、ですか?」

「当たり前であろう? 日本には出る杭は打たれる、という言葉があるという。が、それはどの世界でも変わらぬ。唐突に現れた星には誰しもが嫉妬を抱く。妬ましい、疎ましい、とな」


 これもわかる気はする。ソラはそう思う。謂わばこういった武勲を立てて出世したものは大半がぽっと出で、その癖目立つのだ。自分たちにとって疎ましい存在だ。

 消してしまいたい、と思うのは至極当然の流れだろう。それがどれだけ人として忌むべき感情であり、本来は同胞として迎え入れそのような事をするべきではない、とわかるはずなのに、である。が、それがまた人の世の常でもあった。


「実際、カイト殿自身もその憂き目にあった。それはお主も知ろう……ま、今思えばそれはもしやすると、後ろで彼奴らの手引きがあったのやもしれんが……」

「え?」

「む……ああ、いや。今の事は忘れてくれ」


 しまった。ついうっかり口をついて出た言葉に、クロサイトは慌てて首を振る。これはカイトの来歴を知る多くの者たちが一度は考えた事だった。

 <<死魔将(しましょう)>>達にとって暗躍する上で一番誰が邪魔かというと、言うまでもなくカイトだ。その彼を裏で貴族たちをけしかけて消そうとするのは至極当然の話だろう。三百年後の今に活動を再開した彼らに対して、誰もがそう思うのは無理もない事だった。実際、カイトの帰還を知らない各国は彼が地球に帰る事になったのは<<死魔将(しましょう)>>達の策略だったのでは、と思っている。


「は、はぁ……」

「うむ。それで、本来はありえぬのよ。どこかで粗を突かれ、追いやられる。それが世の常……その道理さえ覆しておる以上、彼はそれが出来るだけの布陣を構築したと言える」

「布陣、ですか?」

「うむ。軍としての布陣ではなく、統治者としての布陣……のう、ソラくん。カイト殿がどのような布陣を敷いたか。お主は知っておるか?」

「それは……当然統治者として、ですよね?」

「そうだとも」


 軍として、というのは今この場では関係がない。であれば、クロサイトの問いかけは統治者としての彼がどのような布陣を敷いたか、という所だろう。故に自身の問いかけに頷いたクロサイトの問いに、ソラは改めて少し考える。


(そういや……そこらなんにも聞いた事なかったっけ)


 基本的に冒険部は冒険者集団だからだろう。言ってしまえば軍と似ている。故に軍略家などについては、ソラもカイトから聞いて教わった事もある。

 が、それ以外。例えば内政に関する事に優れた者からの話というのは、ほとんど聞いた事がなかった。あっても、カイトがそう言えば誰々が何か言っていたな、という時に内政面で補佐してくれている人で、と聞いた程度だ。


「……すいません。ほとんどわかりません」

「で、あろうな。が、これについては気にする必要はあるまい。これはあくまでも統治者となる上での事。軍略、冒険者としての組織運営にはさほどの意味はない」


 なので、今までは気にする必要はなかった。クロサイトはソラへとそう告げる。


「これはあくまでももしお主がどこかに仕官する場合は、という所であろうな。為政者となるのであれば、優れた人材を登用せねばならぬというわけよ」

「はぁ……」

「で、その登用については、今のお主にも言えよう。人材の登用……してみれば良い」

「人材の登用……ですか?」

「うむ。かつてカイト殿がされた様にのう。そうよ。一度、カイト殿の道筋を辿ってみるのは良いかもしれんな」


 楽しげに笑いながら、クロサイトはソラへと一つ助言を述べる。なお、こんな事を言っているのは、別に彼が大使からの依頼で彼のヘッドハントを考えているからではない。兄が満足に育成出来なかったソラという原石を見て、少し力を貸してやろう、と思っただけに過ぎなかった。後は、酒に酔ったという所だろう。


「カイトの道筋……」

「うむ。彼と同じ様に、自分の部隊を構築してみれば良い。無論、かつてのカイト殿とは違いお主の場合はサブマスターという所があろう。なので完全に同じ事はできんし、活動を考えれば各地を渡り歩く事も出来まい。とはいえ、お主自身にもそこまで手広くやれる余裕はあるまいて。出来る範囲で、やってみるのが良かろう」


 どうなのだろうか。ソラはクロサイトの助言に、少しだけ悩む。自分だけの部隊。そう言われて、少し心惹かれている自分が居る事に彼は気付いていた。そんな彼の様子に、クロサイトが告げる。


「その中で、より大きな事をしたくなるかもしれまい。そうなれば、冒険者としての活動以外の道もあろう。それが仕官の道であれ、臣下の道であれ……上手くやれば帰還への道のりを支援してやる事もできよう」

「支援?」

「うむ……今、カイト殿がしている事をお主もやるのよ。いや、カイト殿が出来ぬ事をお主なら出来る様になるかもしれん。なにせ彼はまだ帰っておらぬ。故に、表立っては動けん。が、お主がそうなるのであれば、表立って支援する事もできようて」

「……」


 確かに、それも手といえば手なのかもしれない。今の所冒険部の背後にはマクダウェル家が居るわけであるが、それで十分に足りているかと言われればそうではない。出来ない事は沢山あるのだ。

 そこを補佐するのであれば、冒険部の、冒険者の活動から退いてどこかに仕官して、裏方に回るのも手ではあるだろう。そんな事を考えたソラであるが、それ故にこそクロサイトは告げる。


「ま、急ぐ必要はあるまい。これはあくまでもお主の幾つかある未来への展望というに過ぎぬ。そこからどれが良いか、と選ぶのはお主よ。この手もある、というに過ぎぬのだからのう」

「……そうですね。ありがとうございます。少し考えたいと思います」


 今まで、冒険者としての道しか自分には無い様に思っていた。ソラはそう思う。が、実際には幾つもの道があるのだ。とはいえ、これは彼一人で決められる事ではない。

 相棒(トリン)の事もあるし、カイトとも相談が必要だろう。他にも、彼自身がまだまだ若く血気盛んという事もあるし、冒険者として旅をするのが嫌いというわけでもない。そして選択肢が幾つもある事に気が付いたのは、たった今だ。何か決めるには、あまりに時間が足りていなかった。


「それで良い。ま、こんな老いぼれの言葉が何か助言になれば幸いよ」

「いえ……ありがとうございました。久方ぶりにお師匠さんの事を思い出しました」

「それは良かった」


 ソラの感謝に対して、クロサイトが朗らかに笑う。その笑った顔がどこかブロンザイトに似ていたと思ったのは、兄弟だからなのか、それとも同じく長い年月を歩んだ者だからなのかは、ソラにはわからなかった。そうして、それから少しの間ソラはクロサイトから幾つもの事を教わりながら、食事を食べる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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