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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第84章 大陸会議編

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第2038話 大陸会議 ――誘い――

 大陸会議二日目。邪神や<<死魔将(しましょう)>>に対する対策会議となったこの日からオブザーバーとしての役割を果たすべく大陸会議に参加したカイトとソラ。そんな二人はひとまずつつがなく二日目の会議を終えたわけであるが、そこにやって来たのはラリマー王国なる王国の使者だった。

 そんな使者が告げたのは、大使がどうしてかカイトではなくソラとの会食を望んでいる、という事であった。そうしてラリマー王国からの使者への返答をどうするか悩んだカイトとソラであったが、それと時同じくしてやってきたハイゼンベルグ公ジェイクの呼び出しを受けカイトは公爵としての仕事へ、ソラはひとまず会食を受諾する事に決定する。というわけで、会合に出たカイトであるが、ひとまずハイゼンベルグ公ジェイクに現状を説明していた。


「なんじゃ、そんな事か。別に驚く事もあるまい」

「なんだ。妙に訳知り顔だな」

「ああ、そうか。そう言えばお主は知らんでも無理無いのか。お主が最後にラリマーと関わったのは三百年前じゃからのう」

「まぁ、そうだが……あそこの獣人達に頼まれて土地を蘇らせたのが、最後だったと思う」


 どうやら裏さえ知っていれば、ラリマー王国がカイトではなくソラを呼ぼうとした理由はすぐに理解出来たらしい。


「儂の記憶でもそれが最後じゃな。それ以降、特段語る意味もなかったので何も言っておらんかったからのう」

「おう……」


 ラリマー王国に何があったんだろうか。カイトはハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に首を傾げながらも、そうなのか、と理解しておく。そうして、少し。カイトは彼からその事情を聞いていた。


「あぁ、それか! そういえば一度聞いてたなぁ!」

「そういうことよ。聞けば、納得であろう?」

「ああ、納得した。確かにオレ向きじゃあないわな」


 それで何か引っかかってたのか。カイトはハイゼンベルグ公ジェイクの言葉で思い出せたラリマー王国とソラの繋がりに、深く頷いた。


「ま、それならそれでオレが何か言う必要も無いか。あいつが考える事だし、話してみて初めて気づく事もある」

「さて、そこは儂には何も言えぬな」

「あははは……で、そうだ。そう言えば爺」

「ん?」


 この流れかつカイトの顔は笑っていたので、ハイゼンベルグ公ジェイクとしても特に思う事はなかったらしい。そして案の定、そこまで真剣な話題ではなかった。


「あんた何時までその格好なんだ?」

「あぁ、それか……まぁ、来年まではこのままでいようと思う。で、それはともかく。今日の会議を聞いて、お主はどう思う?」

「どう、ねぇ……流石に各国本気で危機感を抱き出した、って所なんだろうが」


 あの『リーナイト』が完全壊滅だ。幸い人的被害こそ抑えられていたが、それでも街一つが壊滅したという事実は変えられない。そしてその街は冒険者の総本山である『リーナイト』。初代ユニオンマスターの名を冠する街だ。そこが、落ちたのだ。この意味する所はあまりに大きかった。


「各国、ひとまず軍備の増強に務める事になりそうか。後は軍事同盟の締結……忙しい事になりそうだな」

「なろうな。すでに軍事同盟の締結に関した話し合いを持ちたい、と内々に言っておる国は幾つもある」

「はぁ……ま、オレにはさほど関係は無いか」


 どうせカイトはまだ表に出られない身だ。なら、暫くは呑気に引っ込んでいるだけであった。とはいえ、それでも公爵である以上は為政者としても幾つもの事を考えねばならない立場だ。というわけで、彼はそこから暫くはハイゼンベルグ公ジェイクと共に、それから少ししてやって来た各国とのやり取りを行っていたリデル公イリスと共に今後の方針を話し合う事にするのだった。




 さて、カイトが皇国としての動きを話し合っていた一方、その頃。ソラはというと、ラリマー王国からの要請を受ける形でホテルを後にしていた。


「えっと……」


 カイトが密かに送ってきたラリマー王国の資料を読みながら、ソラは改めて相手方の情報を頭に叩き込む。


(ラリマー王国……カイトが言ってた通り、草原の中にある国。土地としてはかなり肥沃で、それ故に三百年前の戦争でも早々に落とされた国……って、マジかよ。うへぇ……)


 エグいなぁ。ソラは三百年前の戦いで取った<<死魔将(しましょう)>>達の手に顔を顰める。まず真っ先に食料を断ったのだ。どれだけ人がいようと、食料が無ければ動けない。戦略の基本中の基本だった。

 それを、まだどの国も油断している段階で行ったのだ。あまりに見事としか言い様がなかった。しかもここで上手かったのは、この国が交通の要所でもあった事だ。当時は陸路しか輸送手段は無い。結果、ここが落ちた事で増援は一気に送りにくくなり、そして食料確保も難しくなった。


(いや、まぁ良いか。今考えるべきこと……だよな。そうだよな……当然、糧食を邪教徒達も奴らも狙ってくるよな)


 それはこれが報告書に記されているわけだ。ソラは報告書に記されていたこの情報の意味を理解する。また同じ事をされるのではないか。それを警戒しているのである。であれば、その中に聞きたい事もあった。


(えっと……となると……)


 自分に何が出来るのか。ソラは馬車に揺られながら、ラリマー王国の狙いや思惑、求める事などを考える。そうして考える事少し。昨日ラグナ連邦と会食を行ったとはまた別の高級レストランにたどり着いた。


「お待たせ致しました」

「あ、ありがとうございます」


 ソラは御者に礼を言うと、カイトに倣ってチップを渡しレストランの中へと入る。そうして入って早々、支配人らしい壮年の男性が出迎えてくれた。


「ソラ・アマシロ様ですね?」

「はい」

「お待ちしておりました。クロサイト様がお待ちです」

「クロサイト?」


 確かラリマー王国の使者の名前はローディンという名だったはずだ。ソラは支配人の言葉に訝しみを浮かべる。が、これに支配人は一つ頷いた。


「はい。こちらへ」

「は、はぁ……」


 どうなっているんだろうか。ソラは支配人に案内され奥の会食用の個室に向かいながら、状況に困惑する。


(確か……ラリマー王国の大使ってシュタール・ローディンってハーフドワーフの男性だった……よな? この店もカイトが調べてくれてるし……でもなんか、クロサイトって名前聞いた事がるんだよなぁ……)


 騙されている。そのパターンは無いだろう。ソラは現状を改めて考えて、自分が担がされているだけである可能性を切り捨てる。とはいえ、それなら今度は気になるのは、クロサイトなる人物が誰なのだろうか、という所だった。


(いや、もうここまで来たら後は入りゃわかるか)

「こちらとなります」


 どうやら覚悟を決めたとほぼ同時のタイミングで、部屋に到着したらしい。扉が開いて、中へと通される事になる。


「失礼します」

「おぉ、良く来てくれたね」

「お招き頂きありがとうございます」


 ソラは部屋の中で自身を待っていてくれたクロサイトなる人物に頭を下げる。と、そうして改めてクロサイトなる人物を見て、彼は僅かに目を見開いた。


「貴方は……」

「覚えていてくれたかな? 一度しか会っていなかったのだが……」

「あぁ、思い出しました。そうだ。クロサイト……どこかで聞いたと思ったんです」


 思い出した。ソラは自身を見て微笑む老年の男性に、一つ頷いて喜色を浮かべる。確かに、クロサイトは見た事があったのだ。


「貴方でしたか。お久しぶりです。お師匠さんのお葬式以来ですから、三ヶ月か四ヶ月ぶりぐらいですか?」

「うむ……兄さんの葬式以来であるから、それぐらいであろうか。にしても、見違えたではないか」


 笑ったソラの言葉にクロサイトもまた応ずる。ソラが師と言う人物。それはブロンザイト一人しかいない。その彼を兄と言い、そして彼と葬式で顔を会わせていたという。であれば、答えは限られる。

 彼はブロンザイトの弟の一人だった。実際、彼の容姿はブロンザイトを少し若くして髪色などを少し赤茶色に近づけたような容姿で、ソラもひと目見て彼の事を思い出した様子だった。


「ラリマー王国に仕えていらっしゃったんですか?」

「うむ。あの時はさる国としか言っていなかったか?」

「ええ……トリンはまだ草原の国に、って言ってたのは覚えてたんですけど……ラリマーとは思わなかったです」


 ソラは改めてクロサイトと握手を交わし、彼に勧められて対面の席に腰掛ける。そうして腰掛けた所で、クロサイトが問いかける。


「何か、飲むかね?」

「そうですね……キールで」

「では、儂もキールで」


 キール。それはカシスとワインのカクテルだ。カイトより事前情報としてこのレストランは肉系が有名な店で、おそらくメニューも肉料理が中心になるだろう、との事だった。なので肉に合わせた食前酒を注文しておこう、という所だった。とはいえ、それ故にこそクロサイトの注文に僅かな驚きを見せる。


「はははは。流石に兄さんの事はわかっているかね」

「え、えぇ……お師匠さん。本当に弱かったですから」

「のう。あの兄は本当に酒に弱かった」


 くすくすくす。クロサイトは楽しげに、亡き兄を偲ぶ様に笑う。この後年にソラがブロンザイトの何回忌かに参加した折りであるが、どうやら彼の兄妹で酒が一切飲めないのはブロンザイトただ一人だったらしい。娘のマリンと揃って驚いていた姿があった。そうして、ブロンザイトの思い出話をしながら少し待っていると、赤銅色の液体がやって来た。


「では、亡き兄に」

「お師匠さんに」


 今のこの二人を結ぶのは、今は死んだブロンザイトだ。故に二人は彼に向けて僅かにグラスを掲げる。そうして、一口キールを口にする。


「ふぅ……うむ」

「ふぅ……にしても、驚きました。まさか貴方だったなんて……シュタール・ローディンは珠族の隠し名ですか?」

「ああ、いや……シュタール殿はまた別におられるよ。ただ、此度は儂が話すが良いと思って、儂が話しに来た」

「そうなんですか」


 どうやら大使が話をしたい、と言うのは自分達の早とちりだったらしい。ソラはそもそもクロサイトが呼んでいたのだと理解する。というわけで、ソラは少しの雑談の後、メインディッシュが来た頃合いで本題に入る事にした。


「それで、どういった御用ですか?」

「うむ……そうじゃな。一つ、お主に提案があってのう」

「提案?」


 てっきり邪神対策に関した話が聞きたいか、地球に関する話が聞きたいと思っていた。そんなソラは逆に言われた言葉に困惑を浮かべる。そうして、そんな彼にクロサイトは提案を行う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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