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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第84章 大陸会議編

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第2033話 大陸会議 ――対策――

 カイト達が魔族領にある国際会議場のある街へやって来て翌日の朝。この日は朝から大陸会議が開かれる事になっていたわけであるが、ここに最初からカイト達が参加する事はなかった。

 初日である今日は主に宗矩からの情報収集と、それに伴う各国の方針の策定。そしてそこから大陸全体の方針を決めねばならないのだ。初日にカイト達の出番は皆無となっていた。と言ってもそれは勿論、本来ならばの話である。


「が、そんなもんオレには関係無いんだよなぁ……」

「はははは。ま、お主はマクダウェル公じゃからのう」

「わーってますよ、わーってますとも」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に、カイトは非常に面倒くさい様子でため息を吐いた。現在時刻は昼の13時。午前中に行われた宗矩への尋問は終わり、今は各国が一度本国との連絡を取ったりして今後の方針を定める時間だった。

 そしてその例に漏れず、皇国もまた集まり今後の方針を決めるべく集まっていたのである。というわけで、カイトはもう一人の公爵であるリデル公イリスに問いかけた。彼女は今回総会に出るハイゼンベルグ公ジェイクに代わって各国とのやり取りを担っていたのである。


「で、リデル公。各国の反応はどんなもんよ。正確に言えば、この大陸会議の前の段階で、だがな」

「そうですね……若干、気を引き締めてはいるという所でしょう。先までの反動なのかもしれませんが」

「流石に『リーナイト』が壊滅したとあっては、各国座してはいられなくなったか」

「幸か不幸か、という所じゃのう」


 カイトの言葉にハイゼンベルグ公ジェイクもまた一つ頷く。が、そんな彼の口からはため息がこぼれており、これが決して良い事と捉えているわけではない事を如実に示していた。


「厄介な話だ。『リーナイト』壊滅は劇薬なんだがね」

「なにせ総会の最中の『リーナイト』は下手な小国より遥かに強い戦力を保有しておるからのう」

「それな……それでも壊滅した、ってのは正直中小国にとっては悪夢も良い所だ。というか、下手すると皇国だって落とせるぞ」


 なにせ自国の総戦力より遥かに強いのである。手っ取り早く言ってしまえば貴方達では勝てませんよ、と如実に示されてしまったようなものだった。


「皇国は無理じゃて。儂を筆頭に、間違いなく生半可な力では落とせぬ猛者が多い。が、マギーアあたりは……かのう」

「あそこが見えんな。どう出るか……」

「ひとまず、ウルシアの大陸会議を待つ事で良かろう。今考えた所で何も見えぬよ」

「それも、そうなんだが……」


 大国が一つでも落ちれば、かなりまずい事になりかねない。カイトはそれが分かればこそ、甘い対処をしてくれるなよ、と内心で思う。といっても、流石に大陸間会議での痛手がある。なので大丈夫と信じるしかなかった。


「で、結局の所どうだったんだ?」

「ま、言うまでもない。結局としては武蔵殿の顔を立てるしかなかった、という所」

「まー、オレのお師匠様になっちまうからなぁ」


 当然か。カイトはハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に、笑ってのけぞる様に頷く。と言っても勿論、これは宗矩の事ではない。武蔵が生かして捕らえた、という所が一番の肝だった。そして武蔵はカイトの師。その彼が武勲の対価として宗矩の生存と降伏の受諾を望んだ以上、各国はそれに従うしかない。


「まー、それが出るって事は出るには出たか」

「一応、言ってみただけという所であろうな。わかりやすく言えば憎まれ役を買ったという所でも良いじゃろうて」

「しゃーない。誰かは言わねばならん。そしてウチは言えん。教国も宗教が中心の国として、捕虜を殺して脳みそから直接情報を手に入れろ、は言えん。ラグナ連邦も民衆の手前言いたくない。中堅国のどこか、かね。大方、ラグナ連邦あたりからせっつかされて言わされた形かねぇ」

「あたりじゃ。お主は知らんじゃろうがな」

「そか」


 どうやら己の読みは当たったらしい。カイトはハイゼンベルグ公ジェイクの言葉を素直に受け入れる。とはいえそれは先の通り、武蔵の顔を立てる形で各国宗矩が協力的である事から、と最後の手段で良いだろう、という対応で一致させた。会議にカイト達と同じくオブザーバー参加している武蔵もこの各国の温情に礼を述べ、と宗矩も一つ頭を下げて予定調和的に話は終わりとなったらしい。


「で、宗矩殿はウチ引取で大丈夫そうか?」

「問題はあるまいな。無論、そこらは上手くやれよ、と言うしかないがの」

「勿論、そこらは上手くやるさ。伊達に公爵やってねぇよ。手八丁口八丁はこの業界の常だろう?」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に、カイトは一つ笑う。宗矩の腕は誰もが知っている。かの将軍家の指南役、それも正真正銘将軍の指南役なのだ。その彼から教えを受けられるという事はまさしく値千金。たとえ刀使いでなくとも、生存率を大きく引き上げられるだろう。これを使わない手は無かった。


「じゃのう。衰えてはおらんか」

「地球でも政治家とやり取りせぇの、こっちでもあんたらとやり取りせぇの、衰える暇が無かった」

「はははは……さて。それはともかくとして。次じゃな」

「ああ……リデル公。改めて各国の詳細を聞いておきたい」

「かしこまりました」


 カイトの要望を受けて、リデル公イリスが先程の続きで各国の状況を二人に報告する。そうして一通り聞いて思ったのは、各国共に対応を決めかねている、という所だった。


「まぁ、悪夢といえば悪夢なのでしょう。なにせこちらは落ちているのに、相手は虎視眈々と力を蓄えていたようなものなのですから……そういう意味で言えば、マクダウェル公の弁説にはかなり期待を抱いていた様子」

「オレの、ねぇ……期待されても困るんだがね」


 カイトはどれだけ足掻いても一個人。出来る事には限りがある。が、勇者カイト然りで人々はどこかで万能の英雄を求めるのだろう。カイトはそれに苦笑し、同時にわからないでもない、と首を振る。


「ま、言っても詮無きことか。彼らはオレの様に三百年前から直接こっちに来たわけでもなし。平和も百年続けばそれが普通になり、二百年続けば戦が過去と化す。三百年経ったら、もう戦争なんて言えば笑われる……そのタイミングで事を起こされた。今の現役の大半が過去の戦争を知らん。誰かに期待したくもなるか……そういう意味で言えば、奴らは上手かった」

「む?」


 何か含みのある言い方だな。ハイゼンベルグ公ジェイクはカイトの言葉に不思議なものを感じ、首を傾げる。それに、カイトが告げた。


「大大老の耄碌爺共だ。良くも悪くも、奴らは現役で数少ない大戦を知る者だった。三百年前の戦争を知っている奴がもうどれだけ残っている?」

「儂、お主ら……後、どれぐらいかのう」


 言われてみて、ハイゼンベルグ公ジェイクも今も残る三百年前の生き残り達を指折り数える。これは戦士という意味ではない。政治家として、軍人として現役で生きている者だ。が、数えられるほどには少なかった。


「三百年前のあの大戦……生き残っても多くの者が去った。終わった後にものう」

「そうだ。奴らはそれが上手かった。終わった……オレ達はそう思っちまった。違うかったのにな。そして違うとわかってたのにな」

「まぁ……の」


 どこか苦い顔のカイトに、ハイゼンベルグ公ジェイクも苦味を浮かべる。誰もがわかっていた。倒されたのは魔王ティステニアと大将軍ら、軍団長の大半。<<死魔将(しましょう)>>という大幹部は全員生存していたのだ。

 だが一年探せど見付からず、五年探せど痕跡さえ無く。十年が経過する頃にはカイト達さえもう奴らは現れないだろう、と考える様になった。生きている事はわかっているのに、だ。そして彼らがそう考えた様に、他の多くの者達もそう考えた。


「草の根分けても探し出すべき……だったのかもしれんが……」

「できんかったよ、流石にな。誰もがそれを拒んだ。もうこれ以上奴らに割ける力は無い、と。それより復興に力を割きたい、とな。出て来たら出て来た時に対処しよう。そう考えたんじゃ。儂も、お主もな」

「わーってるよ。今更言っても意味無い事だ、ってのもな」


 結局、全て奴らの手のひらの上だったのかもしれない。カイトはそう思いながら、ハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に肩を竦める。ハイゼンベルグ公ジェイクも指摘していたが、どこの国も二年もすれば<<死魔将(しましょう)>>の追跡を諦めた。軍の部署としては置いておいたが、だ。それより復興に力を割かないと駄目だったからだ。


「……リデル公。大戦を知る隠居した奴らを引っ張り出せる様に各国に伝えてくれ。彼らの知恵が、過去の知恵が必要だ」

「やってはいるでしょう。何時もと各国の動きが違う。マクダウェル公は知りませんでしょうが、若干何時もと違う動きを見せている国はありますわ。明らかに、別の意図が見え隠れしております」

「そうか……」

「お主が表舞台に戻る時も近そうじゃのう」

「だろうな。まだ、早いが」


 今はまだ、冒険部の力が足りていない。自身という主軸が無くては満足には動けない。カイトは二つの立場を行き来する者だからこその苦味を浮かべる。そんな彼に、ハイゼンベルグ公ジェイクは問いかけた。


「そこの点、どうなっておる。戦力としては大分拡充したと思うが」

「指揮系統がな。まだ駄目だ。後一皮剥けると、オレ無しでも大丈夫なんだろうが……ここが厄介でな。これ以上の所になると、ソラにも先輩にも箔が要る。カリスマを確たるものとする箔。多少文句があっても、否を言わせないだけの箔が。格、と言っても良いかもしれんが」

「その点、マクダウェル公には箔と格があると」

「オレに箔はなかったさ。無いが、実績を立てた。実績を立てる者には誰も文句は言えん」


 自身の今までを鑑みて、カイトは自身に箔が付いていたかと言われると首を振る。が、今の彼には確かな実績があった。ここまで数十ヶ月。様々な幸運もあれど誰一人として死者を出さず、格上のギルドとさえ対等に渡り歩いている。

 これを認めない者は冒険部には誰一人としておらず、その手腕を見込んで入団する者も少なくない。無論、同盟とて拠点という所もあるがカイトが居ればこそ結ばれているものだ。その手腕については貴族達さえ認める所であり、これは確かな実績と言い切れた。


「その実績も箔も欠けている、と……マクダウェル公と比べるのは些か酷では?」

「酷、ではあるだろう。が、先代が優れすぎると後代は苦労する。なにせ常に先代と比べられちまうからな。そこで満足に運営するのであれば、箔が要るんだよ。結局な」

「先代が優れると、後進が苦労する典型例ですね」

「優れていない、とは言うつもりはないがな」

「各国、そう判断していますよ。弁説に期待しているわけですし」


 カイトの言葉にリデル公イリスは再度各国がカイトに期待している事を明言する。これに、カイトはため息を吐いた。


「明日以降に期待してくれ、と言ってくれ。会食なぞ入れられても堪らん」

「もうやった後ですからね」

「そういうこった」


 カイトはため息を吐きながら、リデル公イリスの言葉にのけぞる様に背を伸ばす。そうして、彼は椅子から飛び降りる様に立ち上がった。


「あら……行かれるので?」

「ひとまず、この調子なら今日こっちに来いという話は無いだろうさ。各国対応を決めかねている、という所だからな」

「何かする事でも?」

「クラウディアに会ってくる。魔族領の対応を知っておきたい」

「なるほど……って、マクダウェル公。クラウディア様は今確か魔都では?」

「別に距離なぞ問題無い。マーカー付けてるし」


 そもそも魔族領は何かと往来していたのだ。なので魔族領の首都にはカイトもマーカーを設置しており、何かがあった場合には急行出来る様にしておいたのである。


「爺。問題は?」

「無い。頼むぞ」


 カイトの言葉は尤もであった。なのでハイゼンベルグ公ジェイクは一つ頷いて彼を送り出す。そうして、カイトは一旦ホテルを後にして一人クラウディアの所へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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