第2025話 大陸会議 ――再会――
魔族領にて行われる大陸会議。それにオブザーバーとして参加する事になったカイトであったが、そんな彼はラグナ連邦との会食の予定についてソラと話をすると、今度は表向き護衛としてカイトとソラに同行していたアリスと共に新たにギルドで雇う事になったソーニャを迎えに行く事にする。
そうして、二人がホテルを出発して少し。魔族という文化風習が大きく異なる者たちの中を歩きながら、二人は自分たちが宿泊する『友魔館』と教国の使節団が宿泊するホテルの中間地点にある喫茶店へとたどり着いていた。
「いらっしゃいませー!」
「カイト・天音の名で四人で予約してたんだが、大丈夫か?」
「はい、伺ってます。お二人ですが、後のお二人は?」
「ああ、後で来る」
「わかりました。二名様ご案内でーす!」
「「「いらっしゃいませー!」」」
カイトは応対に出た女の子に予約の旨を伝えると、それを受けて席へと通される。なお、予約はユニオンを介して便利屋に依頼していた。そうしてひとまず席に通されたわけであるが、そこでアリスは少し興味深げに周囲を見回す。
「喫茶店……というのでもっと落ち着いた雰囲気の所を想像していました」
「喫茶店、というよりもレストラン。より正確にはファミリー・レストランという所だろうな」
改めて言うまでもない事ではあるが、魔族領にもマクダウェル領と同じぐらいカイトの影響は垣間見える。なので魔族領にも普通にファミリー・レストランが存在しており、ここはその一つというわけなのだろう。
とはいえ、店構えについてはどこかノスタルジックさがあった為、喫茶店というわけなのだろう。半分喫茶店、半分ファミリー・レストランという所だった。というわけで、カイトはシェイラとソーニャが来るまでの間に飲み物でも頼んでおく事にする。
「アリス、お前も何か頼むか?」
「あ、頂きます……じゃあ、ひとまず紅茶を」
「ん。茶葉はこの中から選んでくれ」
「はい」
カイトの差し出したメニューを見て、アリスは自身の注文を考える。それを横目に、カイトも自身の飲み物を選ぶ事にする。そうして、二人は一旦頼んだドリンクを飲みながらシェイラとソーニャの二人を待つ事にする。
「ふぅ……」
「そう言えば、アリス」
「あ、はい」
「ソーニャはどんな子なんだ? 一応、訳ありとは聞いているが」
「あ……そうですね」
一応、ルクセリオ支部に行った事がない事になっているカイトはソーニャの事を知らない事になっている。なのでギルドマスターとしてソーニャの事を知っておこう、という彼の姿勢は不思議の無いものだった。
「……という感じの人……でしょうか。かなりものすごい霊力を持っています。媒体としての力もかなりのものだったかと」
「すごい霊力ねぇ……」
カイト自身も霊力を持っている事になっており、今回表向きシェイラは霊力を持ち以前に知己を得ている為、冒険部を預け先に選んだとされている。
そして実のところ、カイトの所にソーニャを送る事はルードヴィッヒが後押ししていたりもしたのだが、それはカイトもアリスも知らない事だった。理由はアリスの修行の役に立つから、である。
「まぁ、基本は執務室で待機になるから、何か必要があったら霊力関連で教えを請えば良い」
「良いんですか?」
「良い良い。そこら気にした所で始まらないからな。上手い奴に学べば良いさ」
若干だが驚いた様子のアリスに、カイトは一切気にしない様子で頷いた。彼自身、何人もの相手に師事しているのだ。今更弟子が自分以外の優れた人物から教えを請う事に躊躇いなぞあろうはずがなかった。
「あ、そういえば」
「なんでしょう」
「ティナから伝言を預かっていたのを忘れてた。ほら、盾あっただろう?」
「はい」
盾。それは言うまでもなく、以前の総会の折りにシェイラが持ってきた小型の盾だ。あれは確かにあのままでも使える事は使えたが、アリス当人が居ない事で微調整は出来ていなかった。
そして箱に添えられていた手紙にも最後の微調整はこちらで行って欲しい、という旨が書かれていた。なのでそれの調整をティナがしていたのである。
「あれが戻った頃には使える様になっているだろうから、取りに来いだそうだ。スペックについても大凡はわかったらしい」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ああ……随分すごい物ではあるそうだから、ここからの戦いの役に立つだろう」
「はい」
先にカイトも見抜いていたが、あの盾は初代ルーファウスが使っていた盾を改修したものだ。流石に破損状況がひどすぎたので最盛期の力は出せないが、若干手直しさえすればより上の力を発揮する事が可能だった。あれを使わないのは損。そう判断し、使用に先駆けて解析と修繕にまわしていたのである。
「にしても、ルードヴィッヒさん。あれが何か知らないとはなぁ……剛毅なのかおおらかなのか大雑把なのか」
「あ、あはは……一応すごい盾だとは聞いていたけれど、何かまではわからない、家の蔵に眠っていた物の一つ、と」
「はぁ……」
多分、この三百年のどこかで失伝してしまったんだろうなぁ。カイトはルードヴィッヒが本当に知らなかった場合を考え、そう思う。
まぁ、もしかしたら知っていてはぐらかした可能性は無いではないが、知らなければルーファウスが知らなかった事にも辻褄が合う。こちらの方が可能性としては高いかもしれない。カイトは手紙の内容を聞いてそう思っていた。
「ま、良いか。確かにすごいものではあるからな」
「はい」
兎にも角にも安全性の担保がされていて、使えるのだ。それで十分と言えば十分だった。というわけで、この話に一区切りを付けて更に少し話をしながら待っていると、シェイラがソーニャを連れてやって来た。
「あぁ、居た居た。この二人が、今回貴方の出迎えね」
「あ」
「お久しぶりです」
「お、お久しぶりです……」
どうやらシェイラはソーニャに出向先にアリスが居る事を教えていなかったらしい。鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべていた。
まぁ、確かにアリスが一時的に冒険部に出向していた事は知っていたが、シェイラが伝えなければその後を知っているとは思えない。そして彼女はカイトが教国に居た時分からソーニャの冒険部行きを決めていた。意図的に教えなかった、というわけなのだろう。
「え、えっと……何故アリスが?」
「……教えてないんですか?」
「ええ。そっちの方がびっくり出来るでしょう?」
「「「……」」」
やっぱり何時ものシェイラさんだ。カイト含め三人とも、楽しげなシェイラに深くため息を吐いた。とはいえ、カイトは何時までも呆れてはいられない。というわけで、とりあえず二人に席を勧めた。
「えーっと……とりあえず、先にドリンクだけは頂いておいた。二人は?」
「あ……私もひとまず紅茶を」
「私も同じのを貰うわ」
カイトの問いかけに、ソーニャはアリスの対面になる様に腰掛け、シェイラがカイトの対面になる様に腰掛ける。ソーニャにどこか緊張と不安が見て取れた所を見ると、契約に基づいてシェイラはカイトの事を伝えていないのだと思われた。というわけで、二人分の紅茶が届いた所でカイトは改めて自己紹介を行った。
「まずは、はじめまして。カイト・天音。シェイラさんから頼まれて、君を預かる事になった」
「よろしくおねがいします。ソーニャ・フィロワです」
カイトの自己紹介を受けて、ソーニャが頭を下げる。それにカイトは内心で思わずいたずら心が鎌首をもたげたが、今は抑え込み努めてギルドマスターを演ずる事にした。
「ああ……それで、大凡の話はシェイラさんから聞いている。アリスを受け入れている事、そして君とアリスが知り合いである事、そしてオレ自身が退魔師である事から、君を受け入れる事になった」
「……はい」
自分の話を聞いている。そう言われたソーニャが若干だが警戒を覗かせる。仕方がないといえば、仕方がないだろう。とはいえ、これにカイトは敢えてはっきりと断言した。
「別に気にする事は無い。優れた霊能力者の中には魂を読み取れる者が居る事は聞いている。君がそれというだけだ……それに、何より」
「はぁ……」
「言ってしまえばオレ達日本人にとっちゃ、君たち全員異世界人。そんな奴が居た所で不思議はないし、何よりオレの場合はシャーナ様と関わりがあるからな。今更心が読める程度でだからなんだ、としか言えない」
「シャーナ様……ですか?」
僅かに伺う様に、ソーニャがシェイラを伺い見る。まぁ、幾ら大国とはいえ他大陸。しかも教国は最近まで半ば鎖国状態だ。ソーニャが知らなくても無理はない。
が、シェイラはユニオンの支部長として、他国にもアンテナを持っている。そして総会がラエリアで開かれている以上、知っていなければならない立場だ。
「ラエリアの先代の女王様よ。あの一族の特殊性は、貴方も知っているでしょう?」
「……聞いた事は」
「そういう事ね。私が彼を選んだのは、何よりそこがあったからよ。どのギルドよりも、貴方の特殊性に理解をしてくれるから」
「そういうわけでね。と言っても勿論、誰もが誰も知っているわけじゃない。君とてあまり奇異の目で見られたくはないだろう」
「……はい」
カイトの問いかけに、ソーニャははっきりと頷いた。それを受けて、カイトが明言する。
「そこらを加味して、君には一応オレやアリス、アリスのお兄さんが控える執務室での依頼の選定に携わって欲しい。基本的な業務としては、ユニオンの受付嬢が常連に行うその冒険者に合致した依頼の選定だな」
「伺っています」
「そうか。それなら、詳しい話は省いて良いだろう。まぁ、君が何時もしていた事をこちらでしてもらうだけ、と言って良い」
元々、教国での活動時にはカイト自身がソーニャが受け持ってくれていたのだ。その腕については十分信頼に足るだろう、と判断していた。決して自身の様々な欲望に従っただけの事ではなかった。実際、数日でカイトの趣向に合わせた依頼の選定が行えているなど、事務員としての腕は悪くなかった。
「ああ、一応言っておく事と言えば、基本的に人の出入りは激しい。街の子供達が良く来るからな」
「はぁ……え?」
「……ごめんなさい。私も初耳。マジ? 冒険者のギルドに子供が遊びに来る? 孤児院を持っている<<暁>>ぐらいしか聞かないわよ?」
「ええ。色々とあって元々ギルドホームが街の子供達の遊び場でして。子供達は良く来るんです……とはいえ、別に霊媒体質だろうと子供なら問題無いと聞いているんですが……」
「問題は……無いわね。そうね。良いんじゃない? ソーニャ、問題無いわね?」
「ありません」
おっと、言い切ったな。カイトはどこか気合を入れて頷いたソーニャを内心で笑う。当然であるが、ユニオンの受付嬢の仕事に子供の相手なぞ含まれていない。
それが出来るかどうか、というのはやってみないとわからない、としか言えないのだ。というわけで、カイトは言質を取ったとばかりに頑張ってもらう事にする。
「そうか。それなら、大丈夫だろう」
「はい」
「よし……で、他にもオレとアリス以外にも現段階でわかっている限りだともう一人、霊力を持つ子が居る。が、別に彼女については霊力関連で何かをしている事は無いから、気にしなくて良い」
「はい」
カイトの説明に、ソーニャは一つ頷いた。これは言うまでもなく桜の事だ。というわけで、そこから暫くの間カイトはソーニャに向けて冒険部の活動についての説明と助言を行う事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




