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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第84章 大陸会議編

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第2024話 大陸会議 ――再会――

 大陸会議を前にしてハイゼンベルグ公ジェイクからの呼び出しを受けたカイト。そんな彼はハイゼンベルグ公ジェイクと共に各国から送られてきた使節団の概要を確認すると、少し急ぎ足でソラの所へと戻っていた。理由は勿論、ラグナ連邦からの会食の申し出に対して用意をさせる為だった。


「……マジ?」

「嘘を言う必要も無いし、んな馬鹿げた嘘に使う時間も無い」

「うへぇ……まぁ、何度か会ってるからまだ良いんだけどさ……」


 カイトからラグナ連邦からの会食の申し出を聞いたソラは、相手がまだ自身がブロンザイトと共に何度か会っていた――ムルシア側が紹介を望んだ――ムルシアだからか若干は気楽に構えられたらしい。無論、それでも彼の顔にはありありと面倒くさいな、という様子が見て取れた。


「確か、一度会食もしていたんだったな?」

「お師匠さんに参加しろ、って言われたからな。その時にムルシアさんと顔も合わせた」

「そうか。なら、問題は無いだろう。まぁ……話題はわかるだろう?」

「まぁ……な」


 ソラからすれば一年先の話に思うが、実際にはムルシアらからしてみればあの後すぐにブロンザイトが謀略により死去したのだ。一応大国として弔辞は送ったが、連邦そのものが<<黒き湖の底(ブラック・ラグーン)>>壊滅後すぐであった事とブロンザイト側が遺言で各国に弔問の使者は不要と言い残していた事により弔事の使者は立てていなかった。

 が、それ故にこそ、ラグナ連邦もソラほどブロンザイト死去に関する話の詳細を掴めていない。そこを聞きたかったのだろう、というのはソラもすぐに理解出来た。というわけで、彼はカイトへと助言を乞う。


「どの程度話せば良い?」

「全部話す必要はない。聞きたいのはおそらくどういう経緯であそこに向かい、どういう経緯でああなったか。あの事件は不可避だったのか……とかだな。無論、ブロンザイト殿の思惑を知りたい、というのもあるだろう……勿論、彼の死に対して改めて弔辞を、という事もあるがな」

「そか……脱出に際しての事とかは話す必要は?」

「さほど無いな。ぶっちゃけ、あまり突っ込まれても面倒ではあるんだが……まぁ、流石にウチが関わっていた事は周知の事実。そこらに関しちゃ、おそらくこっちに飛んでくるから気にするな。お前は中での事を聞かれたら答えられる範囲で答えれば良い」

「りょーかい」


 その程度なら何か困る事ではないし、以前の会食の折りにムルシアと話もしていたおかげで大体の人となりはわかっている。あの頃より自身が成長しているのである以上、ソラとしても若干は気負いなくやれた。


「で、お前はこっから会食までどうすんの?」

「とりまソーニャたんのお迎え」

「……は?」

「っと。なんでもない」


 相当にいたずらっ子の顔をしていたぞ、こいつ。しかも言うに事欠いてソーニャたんである。ソラが仰天したのは、無理ない事だった。とまぁ、そんなわけなのであるが、カイトは一転気を引き締める。


「とりあえず、前に言っていたギルドの受付嬢を連れてくる。神殿都市の新支部長が一緒でな。そっちが教国で支部長やってた人で、前に暗躍した時に会ったんだよ」

「神殿都市の新支部長? 教国から?」

「ああ、お前は総会に参加してないからわからんよな」


 そもそもソラは総会時には残留組だったのだ。なのであそこであった出来事については引き継ぎを受けている分については知っているが、それ以外の事になると知らない。

 神殿都市の新支部長、即ちシェイラの事を知るのは冒険部ではカイトを除けばユリィと瞬だけだ。そして神殿都市関連になると<<(あかつき)>>の関係から瞬が中心となる為、引き継ぎもされていなかった。


「流石に神殿都市の支部長が歳でな。今年で支部長職は引退するんだ。その代わり、教国のルクセリオ支部の支部長が新しく転任してくる」

「……なんか裏ありそー」

「あるぞ、普通に」

「おい! お前領主だろ!?」


 良いのか、それで。楽しげに笑いながらシェイラ赴任の裏には何かがある事を明言したカイトに、ソラが思わず声を荒げる。が、ここでソラはカイトは自身の数段上の策士だという事を思い出す事になった。


「きちんと手は打った。制約も交わしたからな」

「制約?」

「オレの正体を外に伝えない」

「……なんでそれ? 普通裏話せ、とかじゃないのか?」


 確かにカイトにとって自身が諜報員の任を受けていたとバレない事が重要というのはわかる。表向きの態度だけかもしれないが、好意的に動いてくれている国を相手に裏で諜報活動をしていました、は言い難いだろう。それが政治だと言われればそれまでであるが、である。それはソラにもわかった。が、ここでカイトは奇策を弄していた。


「おいおい……言ったろ? オレの正体を外に伝えない、って」

「? だから諜報員だった、って話だろ?」

「オレの、正体だ」

「……あ」


 そういう事か。ソラは楽しげに敢えて強調したカイトの言葉の妙に気付いて、思わず目を見開いた。そう、彼は一言も自身が諜報員である事を外に漏らすな、とは言っていないのだ。彼が言ったのはあくまでも自身の正体をバラさない、という事のみだ。


「お前の正体……つまり、この中にはお前が勇者カイトだってのも内包されちまうのか」

「そういう事。ここでオレにとって重要なのは、オレが勇者カイトである事だ。それさえバレなければ、最悪は問題無い。いっそ、裏で何を企もうがこっちに引き入れちまった時点で地の利がある。そして神殿都市は殊更こちらの影響力が強い場所だ。人の利もまたこちらにある。勿論、人の往来にせよ情報の伝達にせよ、ウチを介さずに外とやり取りをする事は不可能だ」

「一人だけなら何とかなる、って判断か」

「ああ。シェイラさんだけなら、何とか与する事が出来る……それに、まぁ……そこまで悪い人じゃない。裏があっても、その裏も誰が企んでるかわかっている。そしてその裏で企んでる奴も割と話はわかる奴だ。協力した方が得……かもしれないって事もある」

「まーた厄介そうな……」


 話を聞く限り、ソラとしてはあまり関わりたくない話だ。どう転ぶかわからないが、それ故にこそひとまずは様子見が最適。そういう事は往々にしてあるもので、今回もそれだった。


「あはははは……はぁ。ローラントの奴が何を企んでるか、って所だが……というか、あいつの正体が何か、ってのもわかんねーんだよなぁ……」

「ルーファウスに聞くのは? あいつ、一応本来はアルと同じ正規の騎士だろ?」

「もうやったよ。シェイラさんは知ってるけど、ローラントっていう冒険者は知らない、だそうだ。騎士としてもローラントという名の騎士は知らないそうだ」


 ソラの問いかけに、カイトは肩を竦める。まぁ、当然といえば当然の事ではあるが、ローラントも冒険者として活動する時は半ば偽名に近い名で活動している。

 いわばカイトが冒険者として登録している名であるフロイライン姓にも近い。あれも本名であるが、別名というわけだ。そしてそれ故にこそ一般的には知られていない物である為、ルーファウスも知らなかったのである。


「容姿伝えてみるとかは?」

「おいおい……どこで会ったんだ、って問われたらまずいだろ」

「あ、そっか」


 一応カイトは冒険部の統率者として、基本的には研究所にて活動していた事になっている。そしてそれは冒険部がルクセリオ支部にて依頼を受諾していた時も変わらない。その彼が外の冒険者であるローラントとどの様にして出会ったのか、と言われるとこれは流石に無理だ。

 なので彼はアリスと一緒に行動したというローラントという冒険者はどんな奴だったのか、とアリスに聞く素振りを見せ、アーサー王伝説を絡め――正体を偽って活動した騎士が居る――ルーファウスにも話を振ったのである。あくまでも、彼は一切知らないという立場を貫く必要があったのだ。


「どうしてもアリスからの又聞き形式になっちまうから、そこまで突っ込んだ問いかけは出来なくてな。勿論、あまり興味を見せるのもまずい。ここが、限度だった」

「そか……ま、お前が言うんだとそうなんだろうな」


 ここらの詳しい事はソラにはわからないが、少なくとも自身より賢いカイトが無理だと判断した以上は無理なのだろう、ぐらいはわかった。というわけで、この話についてはこれで終わりとなる。と、そうして暫く話していると、どうやら良い塩梅に時間が経過したらしい。扉がノックされた。


「っと……出るよ」

「あ、悪い」


 ちょうど扉に近かったソラが立ち上がり、扉の前に立つ。ここらやはり彼は基本的には盾役となる事が求められている為、少し遠くてもホテルや旅館の扉は自身が開ける癖が付いていたようだ。とはいえ、開けた扉の前に立っていたのは、アリスだった。


「アリスちゃん?」

「はい……カイトさんは居ますか?」

「ん?……ああ、もうそんな時間か」


 アリスの声を聞いたカイトは時計を見て、今の時間を確認する。そもそも彼女が今回の旅路に同行している理由は、ソーニャを迎えに行く為だ。ソーニャとしても新天地に渡る前に知り合いが一人でも居た方がやりやすいだろう。シェイラとしても次の赴任先にはアリスが居る事を伝えているとの事で、安心した様子を見せていた、との事であった。


「はい。兄さんの所にも連絡が来たそうで、教国の使節団もホテルに到着されたそうです」

「よし……じゃあ、行ってくる。後は任せた」

「おーう。どれぐらいで戻る?」

「とりあえず、一時間か二時間か、って所。後は向こうの支部長さんとの話次第、かな」

「りょーかい。まー、何も無いだろ」

「起きてくれても困る」


 かなり肩の力を抜いた様子のソラの言葉に、カイトもまた楽しげに笑う。流石に現状で何か起きてもらうのはカイトとしても困る。というわけで、カイトはアリスと共に一度ホテルを後にする事にした。

 とはいえ、『友魔館(ゆうまかん)』で合流というわけではなく、教国の使節団が宿泊するホテルとこの『友魔館(ゆうまかん)』の中間地点あたりにある喫茶店で合流だった。なので二人は一度連れ立って外に出る事になるが、そこでアリスが半ば興味深げ、半ば恥ずかしげに周囲を見回していた。


「そういえば、アリスも魔族領は初めてだったな?」

「はい」

「……気になるのか?」

「……そういうわけでは、無いんですけど……」


 アリスは時折ちらりと道行く女性に目を向けては顔を赤らめ、しかし興味深げに視線を注ぐ。ここは魔族領。そしてソラも見た事のないような魔族が沢山なのだ。

 そうなると当然、教国とも皇国とも異なる文化風習がそこにはある。その中には当然、クラウディアを筆頭にした淫魔族と呼ばれる者たちもおり、彼女らが際どい服を着て歩いていたのである。なお、女性以外にも地球であればインキュバスと呼ばれる者も居るのだが、そちらは幸か不幸か見受けられなかった。


「……寒く無い……んでしょうか」

「さ、さぁ……流石にオレも着た事は無いし……た、多分寒くない……んじゃないかな?」

「そう……でしょうか……」

「……別に着てみたい、ってわけじゃない……よな?」

「ち、違います!」


 じー、と気になるのか淫魔達を見ていたからか、誤解されてしまったらしい。アリスは顔を真っ赤に染めて首を振る。それに、カイトもそうだよな、と笑った。


「そ、そうだよな。まぁ、ちょっと見てみたくはあったが……」

「え?」

「あ、いや、悪い!」

「うぅ……」


 アリスのような基本清楚な女の子がああいった服を着ている姿を見てみたい。そんな欲望が漏れてしまったカイトは慌てて謝罪したが、アリスは顔を真っ赤に染めていた。そもそも気にしていたのは彼女だ。少し自分が着た姿を想像してしまったようだ。そうして、そんな彼女にカイトは何とか話題転換を図りつつ、喫茶店へと向かう事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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