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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第84章 大陸会議編

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第2023話 大陸会議 ――連邦の切り札――

 ティナが三百年前に設計し、来たるべき日の為に残されていた国際会議場の設計図。クラウディア達に託されたそれを使って設けられた国際会議場にて行われる事になった大陸会議に参加するべく皇国の使節団に参加していたカイトとソラであったが、到着して初日は流石に会議が開かれる事はない為、オブザーバーである二人はホテルにて待機――無論、その護衛の面子も全員待機――となっていた。

 というわけで、空いた時間を使ってカイトはティナより前の歴代の魔王達についての講習をソラへと行っていたわけであるが、それもそこそこに彼は一度今回の使節団の団長となるハイゼンベルグ公ジェイクの所へと顔を出していた。彼に呼ばれたのだ。


「と言う感じか」

「なるほどのう。まぁ、学ぼうとする事は良い事ではないか」

「まな」


 別に急ぐわけではないらしいので、ひとまず本題に入る前に二人は到着してから今までの所についてを少しだけ話し合っていた。というわけで、話は丁度ソラの勉強会だったらしい。そうしてその話をそこそこで終わらせると、カイトは琥珀色の液体を傾けながら本題に入る事にした。


「で……爺さん。流石にそろそろ各国の使節団がどうなってるか掴めてるだろ?」

「うむ……さて、どこから聞きたい?」


 カイトの言葉を聞いて、ハイゼンベルグ公ジェイクは用意していた書類を取り出した。今回の大陸会議では数百年ぶりにエネシア大陸の三大国が勢揃いするのだ。そしてそれに伴い三カ国の保護国も使節団を出す事になっていて、よほどの事態があった国以外は勢揃いしていた。

 となると、知っておいた方が良い所の一つや二つは平然と存在していたのである。というわけで、ハイゼンベルグ公ジェイクの問いかけにカイトは笑う。


「そりゃ、まずラグナ連邦と教国の二カ国だろ。今ここにオレが居るのはこの二カ国の使節団の事を聞きに来た、と言っても間違いじゃあねぇな」

「ま、そうじゃな」


 ここは皇国とさえ対等に渡り合える大国だ。昨今ではカイトとティナの帰還もあり技術大国と言われる皇国が一歩先んじているが、それでも無視出来るわけではなかった。


「どちらが先に聞きたい」

「じゃ、教国で。サブの思考回路で考える必要が出るかもしれんからな」

「よかろう。では、教国じゃ……教国じゃが、今回事前情報では参加すると言われていた教皇ユナルが不参加じゃ」

「む?」


 のっけからデカイ情報が来たぞ。カイトはハイゼンベルグ公ジェイクの報告に、思わず目を見開いた。そしてこれにハイゼンベルグ公ジェイクもまた頷いた。


「うむ。わかっておる……とはいえ、理由としてはウチと一緒、という所じゃ」

「それを踏まえた上で、確か参加としていたんじゃなかったか?」

「そうじゃな……が、枢機卿達が反対し、結局はそれに折れた形との事じゃ」

「なるほどねぇ……まぁ、わからないでもないか」


 そもそも武人として名を馳せた皇帝レオンハルトさえ、『リーナイト』の一件を受けて大陸会議への参加を見送った。実際、カイトとしても参加不参加を具申するのであれば、不参加を告げただろう。勿論、彼としても襲撃は無いだろうが、としつつもである。今行くのは流石に少し稚拙に映りかねないのでは、と判断したのである。


「となると、来たのは何時もの枢機卿か?」

「うむ。あれが基本的に対外的なやり取りをしておったからのう」


 基本全周囲に冷戦状態だった教国であるが、当然対外的な窓口が無かったわけではない。なので今回もそういった対外的な窓口を担っていた枢機卿が今回の使節団のリーダーだったらしい。


「ま、そういう事であれば、特に気にする事も無さそうか。基本的な性質は爺のが良く知ってるだろうしな」

「うむ。もう十数年の付き合いになる。彼がまだ先代の枢機卿の付き人をしておった頃からじゃからな」


 今回来ているという枢機卿はカイトも前に聞いた事があった枢機卿だ。名をピーリスと言い、先の教国と皇国の和平の場にも参加していた。


「じゃあ、そっちは任せる。こっちが直接関わる事も無いだろうしな」

「うむ……が、報告はそちらに送ろう。ルーファウス・ヴァイスリッターの事もあろう」

「頼む」


 ということは、教国の事については殆ど気にする必要はないか。カイトはそう判断する。元々こちらは何かを気にする意味も無いのだ。なにせ先の教国入りの際に受けた被害がある。流石に現状で何か動けるか、と言われるとカイトも首を振るしかなかった。


「となると、後は……」

「ラグナ連邦であろうな。こちらも勿論、大統領は来ておらん。使節団のリーダーはムルシア」

「副大統領か」


 ぱさり、と投げ渡された書類の一番上に添付されていた写真を見て、カイトは今回の使節団を率いているのが以前にソラがラグナ連邦で出会ったムルシアという副大統領であると理解する。

 とはいえ、こちらは皇国と同じく、元々わかっていた。教国のようなドタキャンもない。なので問題は特に無かった。が、同行している部隊が中々な癖者だった。


「で……わざわざオレに来いと言ったんだ。当然、何か目的があっての事だよな?」

「無論じゃ……ほれ」

「これは?」

「此度の副大統領の護衛達よ」

「ふーん……ほぉ、これは中々……」


 さて、どんな奴が来た事か。そんな様子で楽しげに笑ったカイトであったが、渡された報告書を見てその顔はどこか獰猛な闘士の笑みに変わる。服装こそ自身が知る物ではなくなっていたが、自身が見知った紋様が護衛達の腕にはあった。


「<<湖上の猟犬(ラーゴ・ソルダード)>>……ラグナ連邦の虎の子。間違いなく、精鋭部隊」


 カイトが見たのは、湖に似た意匠の上に犬の横顔――牙を剥いた獰猛な犬だ――がある紋様だ。これこそ、皇国と共にエネシア大陸において大国と言われるラグナ連邦が誇る特殊部隊にして、精鋭部隊。カイト達マクダウェル家、ルーファウスの実家ヴァイスリッター本家と並び手を出してはならない、と言われる大統領直属の部隊だった。そんなカイトの称賛に、ハイゼンベルグ公ジェイクが笑う。


「えらく買うのう」

「買うさ。三百年前の大戦を駆け抜けたのなら、ヴァイスリッター家と<<湖上の猟犬(ラーゴ・ソルダード)>>を侮るバカはいない……あくまで、兵士達の戦闘力の平均値ってのは平均値ってだけだ。上にランクSがいようと、下に数万人ランクD相当の兵士がいれば平均はそちらに寄る……ここだけは、並の兵士相手と考えるべきじゃないからな。いや、熟練の冒険者を相手にする、と考えても良い」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に、カイトは一切の掛け値なしの言葉を口にする。そしてその言葉に、ハイゼンベルグ公ジェイクもまた同意する。


「……ま、それもそうじゃのう。この二つだけは、手を出さぬ方が良い」

「クラウディアも良く認めたもんだ。ガチの特殊部隊、それも精鋭じゃねぇか」

「そこは、儂にはわからぬ。お主の方が聞きやすかろう」

「それはそうだがね」


 実際、クラウディアとハイゼンベルグ公ジェイクは単なる隣国のおえらいさん同士、というぐらいの関わりしかない。そもそも中津国と同じく魔族領は三百年前の経緯とティナが居る事から、カイト達マクダウェル家が窓口となる事が多く、パイプであればカイトの方が強いのだ。

 というわけで、クズハ達がカイトの代行となってからもハイゼンベルグ公ジェイクは基本二人に任せ、適時助言をするぐらいしかしていなかった。

 他方、カイトは何をか言わんやである。考えるまでもなく、ティナの伴侶であるカイトにならクラウディアは普通に国家機密さえ明かすだろう。


「……さて、中々に面白い布陣にはなっているが……」


 どうしたもんかね。カイトは<<湖上の猟犬(ラーゴ・ソルダード)>>の隊服に身を包む兵士達を見ながら、次の一手を考える。


(大凡、『リーナイト』での一件を警戒しての事だとは思うが……いや、確か前のラグナ連邦の腐敗撲滅運動で副大統領は実務を担当したんだったか。となると、報復を警戒しての事か……? どちらでも、押し通せるが……表向き『リーナイト』の一件を、として本音はこっちの可能性があるな)


 先のソラの報告書や皇国のスパイ達からの報告をカイトは思い出し、何があり得るだろうか、と考える。やはり他国に出るのだ。色々と仕掛けやすい状況とは言える。

 そしてムルシアは現大統領とは公私ともに長い付き合いらしい。腹心の中の腹心だそうだ。現大統領にとって失うには非常に痛い駒だろう、というのはハイゼンベルグ公ジェイクの言葉である。

 と、そんな事を多角的に考えていた彼であったが、この時点ですでにハイゼンベルグ公ジェイクの本題は見抜いていたのでこの推察はサブの思考回路に任せ話を進める事にした。


「……で、爺。オレへの要件の一つはこの副大統領からの会談申し込み、って所か?」

「良くわかったのう。先のブロンザイト殿の弔問に関して、との事じゃ」

「断れないな」

「それが、政治じゃ。如何に相手に断らせないか。それが肝要じゃ」


 笑うカイトに、ハイゼンベルグ公ジェイクは政治の道理を説く。これはカイトもわかっていた。そしてこう言う時点で、答えも決まっていた。


「受ける以外に何か楽が出来る手があれば、良いんだがね」

「無いのう。ま、すでに受諾で返答もしておいてやった」

「助かる。時間は?」

「今宵、会食を行いたいと」

「わーい、ガチ最悪」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に、カイトは笑いながら諸手を挙げて肩を竦める。大国からの会食の申し込みだ。単なる一組織に過ぎない彼に断れる道理はなかった。

 とはいえ、幸いと言えば幸い、これに参加する必要があるのはカイトとソラの二人だけだ。他は出席させる必要はない。というわけで、半ばやけっぱちにカイトは会食の参加者の推測を行う。


「たーぶん、来るよなー」

「来るのう」

「見て来るかー」

「そうしとくれ。三百年前ならまだしも、現在では<<湖上の猟犬(ラーゴ・ソルダード)>>が他国で動く事はあまり無い。情報が少しでも欲しい。軍部からの依頼でもある」


 諦め気味なカイトに対して、ハイゼンベルグ公ジェイクは笑って軍からの要望を伝える。それに、カイトはため息を吐いた。


「はぁ……会食の申し込みは入るだろうな、とは思っていたが。まさか初手からラグナ連邦が来るとは思わんかった」

「儂もこれには意表を突かれた……が、来た以上受けぬ道理はあるまい?」

「まぁな……ま、せいぜい副大統領の腹の中と当代の<<湖上の猟犬(ラーゴ・ソルダード)>>の腕前とやらを見ながら飯でも食ってくる。ま、昼に入れてこなかっただけまだ好印象か。どっちにしろ、昼は神殿都市の新支部長との会食あるしな」

「そうせい。今更お主に会食で緊張するようなちゃちな心臓はなかろうて」


 まるで緊張なぞ感じさせないカイトに、ハイゼンベルグ公ジェイクも少し軽い様子でそう告げる。そして彼の言う通り、常日頃から大精霊だ古龍(エルダー・ドラゴン)達だと飲食を共にし、皇帝レオンハルトを筆頭にした高位の貴族達とも話をするのだ。

 勿論、必要とあらば冒険部のカイトとしてもマクダウェル公カイトとしても会食も行っている。地球では各国首脳や代表が参加するパーティに何度も参加した。今更、一国の副大統領と会食をする程度で緊張なぞあろう筈もなかった。と、そんな彼にハイゼンベルグ公ジェイクは必要ないだろうが、と一応の確認だけは取っておいた。


「っと、そうじゃ……別に要らんじゃろうが、礼服は?」

「持ってるよ。そこで手抜かり出ると?」

「ソラくんは?」

「こっちも、由利とナナミに最終チェックさせてる。問題無い」

「そうか。ま、愚問じゃったか」


 先にもカイト自身が言っていたが、彼はこの大陸会議の間に必ずどこかからの会食の申し出があるだろうな、と思っていた。なのでそれはソラにも伝えており、予め用意していたし、させていたのであった。そうして、二人は更に暫くの間各国の使節団の事を話し合う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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