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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第84章 大陸会議編

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第2022話 大陸会議 ――魔王達――

 ラエリアは『リーナイト』で起きた一件をきっかけとして開かれる事になった各大陸での大陸会議。それはエネシア大陸でも開かれる事になっており、カイトとソラは皇国からの要請でオブザーバーとして参加する事になっていた。

 というわけで、使節団に参加していた二人は使節団の飛空艇の甲板から、三百年前にティナが設計したという会議場を見ながら、時間を過ごしていた。そうして、使節団が会議場のある街に到着して少し。二人は充てがわれたホテルの一室に入っていた。


「ふぅ……」

「てかなにげに今更だけど、お前と一緒の部屋って初めてだよな」

「まぁ……そうだが。なんだよ、今更」

「いや、だから今更だって話だろ」

「まぁ、そうだけどな」


 今更といえば今更だ。カイトはソラの言葉に一つ頷いた。基本的に彼は色々とあって個室に入っているか、ユリィが一緒なので彼女と同室だ。なのでソラと一緒の部屋になるというのは案外なかったのである。


「そういや、ここって魔族領なんだよな?」

「ああ。それがどうした?」

「いや、来た事無いからさ。窓の外とかって見て良いのか?」

「それは好きにしろ、としか」

「おっしゃ」


 カイトの許可を受けて、ソラは一度外を見る。そうして見えたのは、多種多様な魔族達が出歩く姿だった。当然だが外はエルフ達異族より魔族の方が圧倒的に多く、ブロンザイトと共に出歩いたソラや果ては<<(あかつき)>>に留学していた瞬でさえ見たことのないような魔族も数多く歩いていた。


「はー……やっぱ魔族領って感じだよなー……」

「魔族領だからな」

「ま、そりゃそうだ、って言われればそりゃそうだ、なんだけどさ……魔族が多いから」

「まぁ……魔族領だからな」


 ソラの言葉にカイトは魔族領だから、という言葉しか返せない。そもそも魔族達が領有する土地だから、魔族領だ。それ以外のなんでもない。と、そんな所でソラはかねてより疑問だった事を口にする。


「そう言えばさ。魔族領ってなんで魔族領って言うんだ?」

「魔族達の領土だから。当たり前だろ?」

「いや、そりゃわかるよ……国名無いのか?」

「ああ、それか」


 何を当たり前な。そんな様子の自身の返答に頷いたソラであるが、そんな彼の問いかけにカイトも道理を見て頷いた。確かに魔族領とは言うが、実際にはきちんと首都もあり国としての体裁も整った一国家だ。国家としての基礎についてはティナが拵えていたし、基本的な統治機構そのものについてはティステニアを操った者も継承していた。

 ティナいわく、ティステニアの統治があくまでも自身の後継である事を示す為、もしくは裏で操っている者が居ると勘付かれない様にするためではないか、との事である。

 そして当然、魔族達が攻め込んだ形だ。被害も殆ど無い。なので実は案外魔族領の統治機構はティナの手腕もありしっかりとしており、国として見れば十分真っ当な国と言い切れた。なのに、名前は聞かないのだ。ソラが疑問を得ていても不思議はなかった。とはいえ、それ故にこそカイトは笑った。


「実は無いんだなぁ、これが」

「へ?」

「決めそこねた、ってのが大きい。ブロンザイト殿から習ったかもしれないが、ティナの魔族統一はあと一歩の所で未完だった。織田信長と一緒だな。統一魔帝、なぞと言われているが実際には完璧に統一を成し遂げているわけじゃないんだ。勿論、統一と言って良い領域にはなってたから、統一魔帝の称号は全く妥当ではある」

「そうなのか? お師匠さんは全部統一した、って言ってたぞ?」

「ああ……まぁ、間違いじゃないから、詳細をぶっ飛ばした場合はそれで良いんだけどな」


 驚いた様な顔でどこか興味深い様子のソラに、カイトは数度頷いてそれもまた間違いではない、と明言しておく。


「実際、現在の魔族領の大凡すべての領土はティナが制圧して統治機構を敷いた領土だ。ぶっちゃけ、一代で成し遂げた制圧規模としては、イスカンダルやチンギス・ハンと並べる領域だろうさ」

「……あれ全部?」

「そ、あれ全部」


 一度ソラは自身の脳内にエネシア大陸の大陸図を思い浮かべ、思わず絶句していた。ユーラシア大陸より遥か広大な面積を誇るエネシア大陸の北部の大半が、魔族領なのだ。

 その領土面積は地球最大の領土面積を誇るロシアをも遥かに上回っている。それを、たった一人で制圧してしまったのである。何人も居るという魔王達を更に上回る魔帝と呼ばれるのも無理は無かった。


「歴代の魔王達が成し遂げんとして、ついぞ出来なかったという魔族領統一。それを史上初めて遂げたのが、あいつだ。偉業であれば、秦の始皇帝と比べて良いだろうさ。あいつこそ、最初の統一者だからな」

「はー……」


 元々すごいすごいとは言われていたし、技術者としてぶっ飛んでいる事はソラも知っている。が、逆にカイトの影に徹するからか統治者として優れている点というのはカイト以外には中々に見えないもので、こうやって魔族領に来て、ソラは彼女の凄さを改めて知ったらしい。というわけで、折角なので彼はそのまま魔族について聞いてみる事にする。


「そういや、魔王は歴代何人か居るんだよな?」

「ああ。旧文明時代より更に前。もはや伝説上と言われる『炎魔王(えんまおう)』。知略を用いて統一を目指した『賢魔王(けんまおう)』……最も最近であれば、ティナの前に魔族統一を目指そうとした『友魔王(ゆうまおう)』だな」

「『友魔王(ゆうまおう)』? なんか変わった名前だな」

「言ってやるな。ティナが拗ねる」


 少しおかしそうに笑ったソラに、カイトも楽しげに笑う。が、これにソラが不思議そうな顔を浮かべる。


「どういう事だ?」

「ティナの友達だったそうだ。諸国漫遊、というか自由気ままに諸国を見て回っていた時代に、偶然に出会ったらしい。実際には弱小なので魔王と言うより一部族の長なんだろうが……その理念と信念にティナは敬意を表して、彼女に『友魔王(ゆうまおう)』……我が友にして全ての魔族の友という意味を込めてそう諡を捧げたらしい」

「つまり知り合い、ってわけか?」

「あいつが魔族の統一を始める切っ掛け、という所か。当然だが、あいつだってなんのきっかけも無く始めたわけじゃないさ。友の遺志を引き継いで、魔族の統一事業を開始したらしい」

「はー……ティナちゃんだからてっきりノリと勢いでやったと思ってたわ」

「あはははは。今のあいつなら、やりかねんけどな」


 おそらくそれをティナ自身に言えばお主が一番そういうわ、と言われるんだろうが。カイトはそう思いながら、結局似た者夫婦なのだろう、と自身を考える。と、そんな事を考えた彼であるが、ついでなので教えておく事にした。


「そうだ。このホテルの名、覚えているか?」

「このホテル……ああ、『友魔館(ゆうまかん)』? あ」


 自分で言ってみて、ソラはすぐに理解したらしい。そんな彼に、カイトもまた一つ笑った。


「そ、『友魔館(ゆうまかん)』。基本的にこの街で国際会議の要人達を迎えるようなホテルには歴代の魔王達の名が冠されている。この『友魔館(ゆうまかん)』や『光魔館(こうまかん)』、『刃魔館(じんまかん)』など、と言った具合にな」

「ず、随分魔王って多いんだな」

「統一出来なかった、ってだけで国家としての体裁を作れた奴は居るからな……今のお前ならわかるだろうが、中国と思え。統一こそ出来なかったが、国としての体裁はあるって感じだ。その中でもある程度の領土を得た者を、通例として魔王と言う」

「あ、大体理解出来たわ。三国志とか、って感じか」

「まー、そんな所だな」


 幾つかの国があり、それぞれが王様を名乗っている。ソラは古代中国の勢力図を思い浮かべ、ティナが統一するより前の魔族領をそう理解したらしい。そして実際、それで良いとの事だ。というわけで、そんな話を聞いたソラがどこか楽しげに告げた。


「にしても、そう言われるとやっぱ魔王って単なる称号ってイメージになってくるな」

「だから何時も言ってるだろ? 魔王ってのは魔族の王様ってだけ。そして王様ってのは指導者だ。誰が好き好んで率いている民草をいたずらに死なせるかよ。ゲームとかのイメージの魔王なんぞ本当に極稀にしか存在せん」

「だーろうなー」


 やはりブロンザイトの下で様々な知恵を手に入れたからだろう。その中には為政に関する事も含まれており、ソラにも無茶をすれば簡単に民からそっぽを向かれる事がわかっていたらしい。というわけで、物語の魔王が実際には物語の中の物だと理解した彼は、少し興味深げにその現実に存在する魔王達について問いかけた。


「そういや、実際の所さ。ティナちゃんより前の魔王達ってどんなのなんだ? さっき『友魔王(ゆうまおう)』ってのが居るってのは聞いたけどさ。結局、今のエネフィアで魔王だ魔帝だ、って言うとティステニア? だかなんだかっていうティナちゃんの弟とティナちゃんしか言われないからさ」

「まぁ、そらしょうがないけどな……ふむ。確かに、丁度良いと言えば丁度良いのかもなぁ……」


 どうせ今日大陸会議が開かれるわけではない。開幕は明日だ。前日着で良いのは皇国からここまでが近いからだ。というわけで、カイトは予定を見直して問題無さそうだ、と判断。サブマスターとしての仕事にも役に立つだろう、と歴代の魔王達について語る事にする。


「まぁ、流石に全員の解説はせん。オレも全員を完璧に把握してるわけじゃない。そこらが詳しく聞きたければティナに聞け、って話だし」

「そりゃな。とりあえず、魔族達と関わる上で常識的な範疇を教えといてくれ」

「それ、言い始めると全員になるから」

「どして」

「魔族って一言で言うが、実際にはとんでもなく多い。なんで、魔王を排出した種族だとそれを知っていて当然になってくる。よほど小さな種族だと特徴的になるから逆に知っておいた方が良くなるし、大規模な勢力を持つ種族ならこちらも知っておく必要がある……な?」

「あー……」


 カイトの指摘を聞いて、ソラはなるほど、と頷くしか出来なかった。言い始めるときりがない、と言うべきなのだろう。というわけで、ソラは諦めてひとまず現状で知っておくべき所にしておいてもらう事にした。


「じゃあ、とりあえず知っとくべき所だけで」

「それが良いだろうさ……まず、当然だが知っておくべきなのはクラウディアとティナの二人。この二人はまず知っておかないと駄目だ」

「そりゃ……当代と魔帝とさえ言われてるんだしな」


 そしてこの二人の事については、ソラも前々から頭に叩き込んでいる。理由は言うまでもなく、方やカイトと懇意にして自分達も関わる可能性が高いからで、もう一方のティナは言うまでもないだろう。何より、聞きたければ彼女自身に聞いた方が正確かつ確実だ。


「で、それ以外となるとまずは先の『友魔王(ゆうまおう)』。こちらはティナが統一事業に乗り出すきっかけとなり、全ての魔族に友愛という概念をもたらすきっかけの存在として、敬愛されている事が多い。勢力としては小規模で国としての体裁が成せていたとは言い切れないが、彼女だけは例外として魔王と扱われる」

「さっきの例外ってわけか」

「そういう事だな。正式名称は『友魔王(ゆうまおう)』アモル。彼女は知っておいて損はない。実際、貴族の中でもオレ達の関連を調べていたりする奴なら、常識的に知っているものと捉えている奴もいる」

「りょーかい」


 あのティナに多大な影響を与えたというのだ。そしてティナの人気はソラもまた知っている。なら、その彼女に影響を与えた人物は把握しておくべきだろう。が、そう語ったカイトは一転、少し苦笑した。


「が、まぁ……ティナの前ではあまり言ってやるな」

「なんで」

「当人がすごい恥ずかしがるから。実際、オレだって聞いたのはアモルの墓の前だ。その墓だってクラウディアが教えてくれなきゃわかんなかったぐらいだからな」

「そ、そか」


 という事はあまりアモルについては聞かない方が良さそうか。ソラはカイトの言葉からそう判断する。そうして、暫くの間二人は歴代の魔王達の中で特に知っておくべき相手についての勉強会を行う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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