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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第84章 大陸会議編

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第2021話 大陸会議 ――和解の歴史――

 大陸間会議から始まる<<死魔将(しましょう)>>達の襲撃。その中でも一番最近かつ大規模な被害を被る事になった『リーナイト』での一件を受けて、エネフィア全土で大陸毎に集まって行われる大陸会議が開かれる事になっていた。そしてそれはカイト達天桜学園が所属するエネシア大陸でも同じであった。

 そうしてそんなエネシア大陸大陸会議に皇国からの要請でオブザーバー参加する事になったカイトは、同じく邪神復活とマリーシア王国での一件に中心人物として関わる事になったソラと共に、皇国からの使節団に参加していた。


「今回はえらく少ないんだな」

「今回は大陸会議だからな。基本的に大国同士でのあれこれを考えなくて良い。オレ達も参加はオレとお前だけ。後は一応の護衛として、という所だしな」


 艦隊中央に置かれる飛空艇の甲板から艦隊を見るソラの言葉に、カイトは一つ笑う。今回、流石に大陸間会議のような大艦隊が動員されているわけではない。

 基本的な皇国の使節団が派遣される時に動員される艦隊の1.5倍程度だった。通常より多いのは『リーナイト』の一件から一応警戒している姿勢を示す為だ。

 勿論、そういう事なので空母のような開発されたばかりの飛空艇が出ているという事もない。とはいえ、それで軽視されているかというと、そんなわけがない。


「ま、それでも一応全体的にここ数年で新造された新造艦や十分な検証が取れている信用のおける現役の船ばかりだ。ちょっとした戦闘なら可能だ」

「お前も居るし?」

「流石に今回、オレは戦力に数えられてない。これでも怪我人だぞ?」

「そう見えないあたりが怖いな、マジ……」


 今も至って平然と出歩いているわけであるが、基本的にはカイトは大怪我をしている怪我人である。当然、まだまだ包帯でぐるぐる巻きだった。が、それを感じさせないあたり、カイトは怪我に慣れていた。というわけで、そんな彼に呆れたソラは一転して気を取り直し、問いかける。


「で、今回の会場ってどこなんだ?」

「魔族領だ」

「あそこの大会議場か?」

「聞いた事あるのか?」

「お師匠さんからな」


 当然であるが、大陸の各国が集まるのだ。流石に大陸間会議ほどの巨大会議場は必要にならないが、同時に大陸各国の使者や首脳達を受け入れられるだけの大規模な会議場が必要になる。

 そういった会議場は全大陸最大の大きさであるエネシア大陸でも幾つかしかなく、その一つが魔族領にあったのである。他にも以前に教国と皇国の和平が行われたヴェネティスもそうだ。あれと同規模の会議場があるらしい。


「あそことヴェネティスが最終的な候補になったんだが……今回は魔族領になった」

「どして?」

「防衛のし易さから、だな。ヴェネティスにある会議場は川辺というか、川の中洲にある。水攻めされると一発で終わる。観光も兼ねるなら、あっちでも良いんだろうが……流石にな」

「魔族領の会議場はその点に優れてる、か。確かティナちゃんが基礎的な設計をしたんだっけ?」

「ああ」


 カイトは三百年前の大陸会議の事を思い出す。基本的に大陸会議だの大陸間会議だのといった国際的な会議が開かれる事になったのは、彼や彼の仲間達の手腕による所が大きい。特に多くの国が関わる国際会議になると、カイトの名だけは歴史上欠く事の出来ない要因となる。

 となると必然、そこにはティナが関わっている事は多かった。と、そんな事を思い出したソラだが、ふとこの国際会議場の事を思い出してカイトへと疑問を呈した。


「……あれ? でも確か、この国際会議場出来たのって三百年前じゃないんじゃなかったっけ?」

「ああ。ティナが元々設計図を残していたからな」

「通用したのか?」

「伊達に天才やってねぇよ。あいつの設計図が三百年経った今でさえ、解き明かされてないのだって少なくない。いや、実際なぐり書きが多すぎて、ってのもあるし、ウチの技術班が解散してたのも大きいけどな」


 ソラの問いかけに対して、カイトはどこか呆れた様にため息を吐いた。これについては旗が無くなっていた以上、カイト自身もティナも仕方がないと判断していた。<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>はあくまでもカイトを筆頭にした義勇軍だ。

 その設立の最大の要因となる大戦が終わっていた以上、本来はそのまま集まっている意味がない。実際、大戦の終了と共に何人かは帰った。ただ帰れない面子や帰るより残った方が好き勝手出来る、という面子が残っていただけだ。

 比率としては後者の方が多いのは、やはりカイト自身がそうであった様に各国から爪弾きにされたりした者が集まっていたからだろう。各国英雄と持て囃せはしたものの、アクが強いので扱いかねたのである。

 が、それもカイトの帰還と共に各々好き勝手をし始め故郷に戻ったり旅に出たり、としだしたので、結果としてティナの設計図を解き明かせるだけの技術力が集まる事が無かったのであった。


「ふーん……それで、時差があるわけか」

「ああ。良くも悪くもウチに次いでティナの影響が大きいのが、魔族領だからな。変な改良とかせずに、そのまま作ってる」

「でもなんで魔族領に国際会議場の設計図があったんだ? 三百年前なら作れる見込みなかっただろ?」

「ああ、それか」


 確かに、ソラの言う事は尤もだ。三百年前といえばまだ戦争が終わってすぐ。カイトが目を光らせた結果大戦後の魔族との全面戦争が無く、更に彼が別の理由から奴隷制度の撤廃を推し進めた為、魔族の奴隷化という事も無かった。

 が、それでも軋轢が無いわけがなく、ティナの助言を受けたクラウディアは一時的に各国との交流を最低限に留め、国際会議なども必要最低限の参加としていた。なので三百年前時点では使う見込みは一切無かったし、暫く使う見込みは見受けられなかった。その時点から設計していた、というのは中々理解しにくかったようだ。


「三百年前の時点で、百年先を見てたからな。まぁ、今からすれば二百年前か。実際、あいつの読み通り百年もすれば各国大戦は遥か過去のものだ。覚えている奴の方が少ない。ゆっくり魔族との交流を開始すれば、自然国際会議への出席率も増える。となると、魔族領で国際会議を開きたい、という意見も出る。一番各国移動がしやすいからな」

「あー……」


 なるほど。確かに言われてみれば尤もだ。ソラはカイトの言葉に納得を示した。そうして、彼はその理由を口にする。


「魔族領、エネシア大陸の北部の大半占拠してるもんなー」

「そういうこった。移動するのに幾つもの国を跨ぐより、一国で済ませた方が遥かに楽だ。しかも北部がラグナ連邦、教国……は、当時から揉めだしてたから良いんだろうが。どっちにしろ教国が揉めだした事がデカイ」

「教国、ど真ん中に居座ってるもんな」

「そういうこと」


 ソラの言葉に、カイトは笑うしかなかった。エネシア大陸は大陸の両端と真ん中に大国がある。そうである以上は基本的にはこの三国を中心に議論がされる事になるのであるが、この内中央に陣取る教国が各国と揉め出したのだ。中央で大陸の移動ができなくなってしまうのであった。

 が、周辺諸国からしてみれば、様々な面で皇国やラグナ連邦とは取引ややり取りを行いたい。それはたとえ皇国の保護国であろうと、ラグナ連邦の保護国であろうと変わらないのだ。


「ま、海に面する国なら面倒だし危険性も高いが船を出すか、程度で良いんだろうがな。大陸北部に近い国はそうも言っていられん。彼らには陸路しか移動手段がない。わざわざ幾つもの国を経由して海を渡る、なぞ非効率的も良い所だ。なら、魔族領を一気に横断してしまった方が遥かに良い。技術力や治安なら、並の国よりティナやウチと交流してた魔族領の方が高くもあったしな」


 先にも言われていたが、魔族達の交流はあくまでも限定的だ。そしてカイトは三百年前の時点で皇国に自身が窓口となる事を申し出ており、皇国側もウィルの執り成しとティナが居た事からそれを飲まざるを得なかった。

 そしてティナは魔族かつ、先代の魔王だ。自身が開発した技術は魔族を率いるクラウディアらにも融通されており、普及していたのである。結果、当時であれば並の小国より遥かに高い技術を持っていた事も多かったのであった。


「で、それならいっそ魔族領に国際会議場を設けた方が良い、ってなったわけか」

「そういうことだな。まぁ、オレもティナも流石に教国が揉めて大陸が分断されるとは思ってなかったから、設計図を使う事になったのは予定よりも少し早かったらしいが」

「実際、どれぐらいだったんだ?」

「五十年ぐらいか……実際には百五十年は掛かるだろう、と思っていた。が、実際には教国が揉めだしたせいで、過去の恨みなんぞ考えてられるか、状態になっちまった国が多かった。何度かホットな戦争になった時代も多かったしな」


 馬鹿らしい、と呆れるべきなのか、それともありがたい、と考えるべきなのか。カイトは判断が出来ず、僅かな苦笑と呆れを滲ませる。間違いなく、魔族達が受け入れられるきっかけとなったのは教国が全周囲に喧嘩を売り出した事だろう。

 特に皇国、それもマクダウェル家に喧嘩を売った事が大きい。ここはカイトの方針とそれを引き継ぐクズハ達により魔族達を領内に受け入れているわけで、そうなると必然として魔族達が教国との戦いに参加する事になったのである。となるとそこで理解が進み、共生が進んでいく事になったのだ。


「ふーん……で、今から目指すのが、その和解が終わった頃に必要になるだろう、って事でティナちゃんが残した会議場ってわけか」

「そうだ」

「で、お前なんでここに居るわけ?」

「見たいからな」

「なんで?」


 確かに、話を聞く限りカイトが今回の会議場を見れた事は無いだろう。が、それと見たい、という彼の言葉はいまいち繋がりが見いだせなかった。とはいえ、これにカイトは少し笑って、はぐらかした。


「んー……見たいから?」

「なんでだよ」

「さて、な」


 どこか楽しげに、そして嬉しそうにカイトはソラから視線を外して雪化粧が広がる外を見る。やはりマクダウェル領より更に北部の魔族領だ。すでに雪化粧をしている場所は多く、これから向かう会議場もすでに積雪が観測されているとの事だった。無論、それ故に彼らの装備も冬用だった。


「ふーん……」

「……」


 おそらくこれは語られないパターンだな。ソラは付き合いから、それを察したらしい。そして実際、カイトは語らなかった。そんな彼は、自身にとっては数年前の事を思い出していた。


『何作ってるんだ、今度は』

『会議場じゃ』

『会議場? なんの』

『国際会議場じゃ。お主が提唱した大陸間会議。そしてその下部組織にもなる大陸会議……大陸会議の会議場かのう』

『もう幾つもあるだろ』


 大戦が終わり、大陸間会議が出来上がり。その流れもあり様々な国際会議が出来る事になって数年。すでに国際会議という概念も普及しつつあった頃合いだ。その頃から、実はティナは魔族領の国際会議場を作ろうと設計図を温めていた。


『あるのう……が、これは魔族領の会議場じゃ』

『魔族領の? なんで今から』

『……百年後か、二百年後か。現実的には百五十年後とかじゃろうが……その時には、魔族と他種族の真の意味での和解も成し遂げておろう。今から、それを見据えて動いておきたくてな』

『……そか』


 あの当時はまだ、いろいろな問題があった。カイトは当時を思い出し、今に思い馳せる。あの当時は遥か彼方の未来だったはずが、今は逆に遥か過去だ。それが少しだけ、面白かった。そうして、そんな彼が見ている前でゆっくりと、ティナが作った国際会議場がはっきりと見える様になってきた。


「あれが……なんか地球のドームに似てね? というか、大陸間会議の会議場にも似てね?」

「設計者は同じだからな」


 ソラの言葉に、カイトは少し楽しげに笑う。どちらにもティナの影響はあった事は事実だ。なので似ているのは当然だった。そうして、そんな二人の見守る前で会議場はだんだんと大きくなり、それに反比例するかの様に飛空艇はゆっくりと速度を落としていくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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