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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第84章 大陸会議編

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第2018話 大陸会議 ――モアナ村――

 皇都での宗矩の尋問に協力する事になり、一旦皇都に渡っていたカイト。そんな彼は同じく尋問に協力してくれる事になっていたリルの要望を受けて、天桜学園の北に出来たマリーシア王国の難民達が立ち上げた村で療養を行っているというルミオらマリーシア王国出身の冒険者達の所へと向かう事になっていた。

 というわけで、村長からの情報提供でルミオとミドの二人が外で剣の稽古をしていると聞いた彼は病院の外の運動場で二人と合流。三人の女の子達が来るまでそこで時間を潰す事になっていた。


「そういえばカイト。そっちの怪我は? 確か途中、大慌てで<<暁>>の人が来て、冒険部のギルドマスターが深手だって言って通してくれって言ってたから気になったんだけど」

「これで大丈夫に見えるか?」

「「おぉう……」」


 少し開いた胸元から見える包帯に、ルミオとミドは思わず頬を引き攣らせる。それに、カイトも肩を竦めた。


「しょうがない、ってかそれしかないんでな。動き回るしかない」

「というわけで、護衛も兼ねているのです」

「護衛が怪我してる護衛対象におんぶされるなんぞ聞いたことねぇよ……」

「定位置でーす」

「「そ、そっすか……」」


 何時もの如くカイトの背にのしかかるソレイユに、二人が只々そう言うだけだ。相手は圧倒的格上。何も言い返せないし、何よりどう反応すれば良いかわかっていなかった。なお、ソレイユはこの状態からでも弓を射る事は出来るらしい。ただしカイトは動きにくいのでやめろ、との事であった。


「まぁ、良いわ。で、そっちは?」

「こっちは……まぁ、そこそこ怪我してて、そこそこ無事って所。一応、ミドは右足吹っ飛んだけどな」

「マジ来るな、あれ……」


 ルミオの言葉に、ミドは少しだけかばう様に右足を動かす。一応理性ではしっかり癒着しているとわかっているのだろうが、どうしても精神的に幻肢痛に似た感覚が襲っているのだろう。

 四肢が吹き飛んだ後にはよくある事で、カイトも手足が吹き飛ぶような戦闘の後にはよくこの違和感を消去する為に一昼夜眠ったという事はあった。というわけで、手足が吹っ飛ぶどころか最近は頭さえ吹っ飛ぶ事も無くはなかったカイトがミドに告げた。


「慣れだ、慣れ。慣れろ。そのうち一日寝れば治る」

「慣れたくねぇよ」

「慣れろ」


 ケラケラケラと笑うカイトであるが、実際には彼は笑うしかない、という所だろう。かれこれ何百という激戦を超えた彼であるが、それを思い返したのであった。というわけで、ユリィがそれを告げた。


「カイトー。やけっぱちになってるよー」

「はぁ……思い出したくもねぇなぁ……」

「だろうな……」


 一応、カイト達の本拠地となる天桜学園のご近所さんという事だし、ソラ達といった冒険部の上層部の半数ほどとルミオらは知り合いだ。なので彼らの事も割とカイトは気にかけていたし、同様にルミオらもカイト達の行動には少し気にかけていた。協同する事もあるからだ。

 というわけで、カイト達が激戦を何度も経験していた事は知っており、そこから手足が吹き飛ぶような戦いを何度も経ていたのだろう、と理解したのである。というわけで、ミドはどこか遠い目のカイトに仕方がない、と肩を叩く。


「とはいえ、全員無事で良かった」

「ああ……そっちは?」

「こっちは……ま、何とか全員生存か」

「怪我人は多いけどね」

「まぁな」


 今回、おそらく全員生存出来たのは宗矩と武蔵、そして何より源次綱が早々に瞬達に助言を残してくれたおかげだろう。この三人の助力が無ければ、確実に死者が出ていた。と、そんな話を交えたカイトであったが、ふと気になったのでソレイユへと問いかける。


「そういや、ソレイユ」

「何ー?」

「お前の所は?」

「あー……ねぇねが本気でやってたから、ウチは無事。全員揃って普通に生還してるよー。何よりウチの、伊達に<<雷鳴騎士団>>なんか言われてないしー」

「あー……あそこは無事か」


 <<雷鳴騎士団>>。それはアイナディスが率いる<<森の小人フォレスト・スピリット>>の主力部隊だ。元々は大戦期にアイナディスにクズハの父が増援として派遣した半軍半冒険者の部隊だったのだが、クズハの父の死去と国の崩壊により指揮系統不在の為彼女の配下となり、そのままクズハの指示――と言う名のティナの指示――で正規にアイナディス配下となり、大戦後にも望んだ者はそのまま冒険者として彼女の麾下に加わっていたのである。


「ま、それなら心配は無いか……お前の弓兵ちゃんズは?」

「あっち今回お留守番ー。後から到着組だし」

「あー……そういや、あの無数の矢は弓兵ちゃんズか」

「そゆこと」


 なるほど、それならあれだけの量も納得だ。カイトは今更ながらに思い出して、納得を得た。と、そんなわけで現状の話し合いを行っていると、メイ、ラム、ロザミアの三人がやって来た。


「あれ? カイト」

「よ。久しぶり。先月ぶりか? 総会じゃ会わなかったもんな」

「それぐらいかしら」


 カイトの問いかけに、ロザミアが一つ笑う。そうして、彼女が一つ問いかけた。


「それで、どうしたの? なんか沢山連れてきて……」

「ああ、お前らに回復薬届けてやってくれって。リルさんがな」

「お祖母様から?」

「ああ」


 カイトはメイの問いかけに、持ってきた包を手渡した。これで、今回の仕事は終わりだった。


「っと……うん。お祖母様の印もある。本物ね。ありがとう、って伝えておいて」

「あいよ。じゃ、確かに渡したぞ」


 包を開くなり浮かび上がった印章を見て頷いたメイに、カイトは一つ頷いた。そうして、一同は用事を終わらせると更に少しの雑談を交えて、病院を後にする事にするのだった。




 さて、『モアナ村』での一仕事を終えたカイトであったが、その後はすぐに帰る、とはしなかった。少し寄っておきたい所があったのである。とはいえ、相手の特性上ソレイユ達には一旦村の喫茶店で待ってもらう事にしていた。


「あ、兄ちゃん!」

「よ」


 カイトを見るなり駆け寄ってきたのは、一人の子供だ。その子を抱き上げ、母親の方へと頭を下げた。


「お久しぶりです、メーアさん」

「お久しぶりです。今日はどうされたんですか?」

「ルミオ達の怪我で、リルさんから回復薬を運んでくれ、と」


 カイトが訪れたのは、かつてマリーシア王国での一件で偶然彼が救った親子の所だった。先に母親の方が言っていたが、結局二人もマクダウェル領で生活する事にしたらしい。曲がりなりにも関わった以上、事ある毎に顔は見せておこう、と判断したのであった。

 とはいえ、ニーアの方が人見知りの気があった為、完全初見となるソレイユは遠慮して貰い、彼女一人にするのも、という事でユリィ達も残ったのであった。


「どうですか、最近」

「ええ。随分と調子も戻ってきました。医者も、もう完治で良いだろう、と」

「それは良かった」


 どうやらメーアの方ももう怪我は完治として良い塩梅になっていたらしい。とはいえ、やはり彼女は一般人。治療こそ地球とは違い大抵の怪我でも後遺症なく完治出来るが、長期に渡る治療が必要な事は多かった。

 というわけで、カイトは少しの間彼女ら親子との雑談に興ずる事にする。そんな彼が気になったのは、何時もは元気なニーアが何時になく可愛らしい服を着せられていた事だった。


「そういえば、えらく可愛らしい服を着せているんですね。ニーアもよく拒まないもんだ」

「ええ……元々はあの人が作っていた服を着せてたんですが……何時までも思い出に囚われても、ね。それに、もう小さくなってきましたし……」

「ご主人が衣服を作られてたんですか?」

「手先が器用な人で。少し夢見がちで思い込みが激しい所が、玉に瑕だったんです」


 驚きを露わにしたカイトの問いかけに、メーアが一つ笑う。やはり夫の事を語る際にはどこか影が見え隠れしていたが、それでももう地球で言えば一年が経過しつつあるのだ。その影も薄れつつあった。

 後に聞いた所によると、どうやら彼女の夫は片手間だが村で唯一の衣装屋も営んでいたらしい。元々二人の出会いも、衣服を作る事で有名だった夫に彼女が服を依頼した事からだそうである。その頃は別に意中の男が居たらしいが、紆余曲折あった、との事であった。


「では、今は市販品を?」

「いえ、あれは私が」

「へー……」


 確かにブランド物ではないかな、とは思ったが、同時にどこか手作りに見える味があった。どうやらこの可愛らしい衣装はメーアの趣味という事なのだろう。


「夫の手伝いをしていると、自然手先が器用になって。あの子にも、前はお父さんが作ってくれてたよ、と言われたので……」

「そうですか……お上手だと思いますよ」

「ありがとうございます」


 カイトの称賛にメーアが少しだけ頬を染める。悪い気はしないらしい。実際、やはり上手い相手の作業を見ていたからだろう。素人と言うには上手く、プロというには完璧とは言い難いという領域だった。と、そんな出来栄えを見て、カイトは一つなるほど、と思った。


(そういえば内職で針子を選んでいたんだったか。そういう理由だったのか。これなら、確かに問題無さそうだな)


 当然の事ではあるが、やはり仕事をしないと人は食べていけない。そして母一人子一人だ。しかも子供はまだ幼く、畑をするにしても些か不便だろう。一応自給自足が出来る程度のスペースはあったが、それでも生活出来るほどではない。

 というわけで、メーアにはカイト――と言ってもマクダウェル家としてだが――が内職を斡旋していたが、その中で彼女は針子を選んでいたのであった。


「そう言えば、内職に針子をされるんでしたか」

「ええ……あの服はその練習、という所で。お仕事を斡旋してくださる事になっている所が一着腕試しに作ってみてくれ、とデザイン案を送ってくださいましたので……」

「なるほど……ふむ……」

「な、何?」


 やはりカイトも貴族として色々と仕立てを見てきているからだろう。デザインには一家言存在しており、気になったらしい。しげしげと見られて、ニーアが少し恥ずかしげな顔をしていた。


「少し色味が女の子女の子してません?」

「ええ……でも一応、ユニセックスの物らしいです。ほら、下もズボンですし……でも、少し裾を下ろすと……ほら。一見するとスカートに見えるでしょう?」

「なるほど……」


 それでニーアも少し恥ずかしそうなのか。カイトはおそらく、というより間違いなく着慣れていない可愛らしいのニーアを見て一つ笑う。とはいえ、母親が母親だからかニーアも十分に器量は良く、こう見てみると幼さがあるからかわんぱく少年というより美少女と言えるかもしれなかった。


「私としては、下ろして欲しいんですけど……この子が嫌がるから」

「……動きにくいもん」

「あはははは……ま、この子ぐらいだと元気の方が良いでしょう」

「そう、ですね」


 カイトの言葉に、メーアも笑う。少なくとも一時期のふさぎ込んでいた頃よりは、今の方がずっと良かった。


「うーん……でもユニセックスならもう少し色味を抑えた方が良いかな……?」

「い、一応、ミカヤ・ララツの作です」

「ああ、あいつの……なるほど、確かにあいつが好みそうな色合いだ」

「……お知り合い、なんですか?」

「ええ……ふーん……」


 確かに言われてみれば、あいつらしいデザインと色合いだ。が、それ故にこそ意見を述べられる立場でもあった。というわけで、カイトは通信機を起動する。折角実物を見ているのだ。見ながらの方が良かった。


『あら、珍しい。また何か怪我?』

「おーう。今大丈夫か?」

『大丈夫じゃなきゃ、取らないわ』

「か」


 ミカヤの言葉に、カイトは一つ笑って今自分がメーアの所に居る事。試作品を見ている事を告げた。が、そうして言われたのは


『ああ、それ……ええ、色合いは変えるわ。元々、色は幾つか用意するものよ?』

「そりゃわかってる……が、これはちょっと、と思ってな」

『ああ……その人に渡したのは、ワンオフ。お試し品。まぁ、形を見る程度ね。腕試しもあったし』

「おいおい……なら尚更、男の子向けじゃないだろ」

『……? 男の子?』

「? 男の子だろ?」


 きょとん。そんな様子のミカヤに、カイトが不思議そうに首を傾げる。確かにニーアの性別を聞いた事は無かったが、そもそも息子から、と母親であるメーア自身が言っていたのだ。実際、今見る以外は少年物を着ていた。が、これにミカヤが告げた。


『……その子、女の子よ? 私の所の資料にもしっかり女の子って書かれてるし……知らなかったの?』

「え!?」

「な、何?」


 仰天した様子で自分を見るカイトに、ニーアが驚いた様子で問いかける。そんな彼なのか彼女なのかを見て、カイトはメーアを見た。


「ニーア……女の子、なんですか?」

「……言って、ませんでしたっけ?」

「息子、と確か……」


 カイトが思い出したのは、メーアが大怪我をして寝ていた時の事だ。あの時、確かに彼女はニーアの事を息子と言っていた。が、これに彼女は大いに目を見開いて何度も頭を下げた。


「あ、あぁ! ごめんなさい! そういえば、そう言ったままでした!」

「え?」

「い、いえ……す、すいません。実は、その……冒険者で男性でしたので……その、女の子と言うより息子と言う方が安全かな、と……咄嗟に……あの人は元々男の子が欲しかった、とあのような服ばかりを着せますものですから、これ幸いと……」

「あ、あぁー……」


 なるほど、確かに言われてみればそれはそうだ。カイトはあの当時、メーアが自身を大いに警戒していただろう事は想像に難くないと理解する。

 そもそもいきなり現れて自分の子供と一緒に居る冒険者の男だ。それを子供から彼が助けてくれたと言われた程度で警戒するな、と言われた方が無理がある。

 しかも折しも領主に裏切られ、夫を殺された直後である。カイトが信頼される道理は一切無かった。が、それでも今更ながらに教えられ、さすがの彼も頬を引き攣らせていた。というわけで、彼も若干しどろもどろにフォローを入れた。


「ま、まぁ……それならに、似合ってる……んじゃない……ですか……ね?」

「あ、あはははは……」

「え、えーっと……まさか男性、なんて事は……」

「ありませんっ!」

「ですよねっ!」


 あはははは。カイトは若干乾いた笑いを浮かべながら、少し拗ねた様子のメーアと笑い合う。どうやら彼女は若干ドジっ子の様子があるらしい。そうして、彼は最後の最後でとんでもない情報を手に、二人の家を後にする事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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