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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第84章 大陸会議編

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第2017話 大陸会議 ――お隣さん――

 皇都に移送され、調書や検査の間拘束される事になっていた宗矩。そんな彼に軍が行った幾度かの尋問で軍が気になった点を再度聞いてもらいたい、という要望を受けたカイト。彼はその要望に沿って、宗矩の尋問を行う事となる。

 そうして得られた情報を基に千代女と吉乃――というより果心居士――の正体を掴むべく、ティナと共に推測と推論を重ねていた彼であったが、結論は千代女の正体を察したらしいソラの前世からの情報提供を受けるべき、という所だった。というわけで、ソラの前世の目覚めを促す事にした二人は尋問に協力してくれたリルと別れ、一足先にマクスウェルに帰還。冒険部のギルドホームに戻っていた。


「ふーん……って、え? 俺?」

「お前以外に誰が居るんだよ。ぶっちゃけ、あの千代女ってのをオレは見た事がないし、流石にわからん」

「んな事言われても……お前でわかんねぇ奴が俺でわかるかよ」


 尋問の結論を聞いたソラが、カイトの言葉にがっくりと肩を落とす。あの戦いの後も何度か前世との対話を試みようとしている彼であるが、結論から言ってしまえば梨の礫だ。うんともすんとも言わない、という言葉がよく当てはまった。というわけで、ため息まじりに彼は現状をカイトへと語る。


「てーか、マジで何も言わないんだよなぁ……一応、力を貸してくれようって様子は見えるから、前と同じ様に半端で覚醒は出来ると思う」

「そこが、不思議なんだ。おそらくお前の前世は目覚めてはいる。そして力を貸してくれる意思も見える。実際、先輩とか見たらわかるだろ? 基本、認めてくれれば使えるんだよ。今のお前の状況は割とレアだ」

「ウチ、レアな状況起きまくってね?」

「マジでな」


 どこか笑うようなソラの指摘に、カイトもまた楽しげに笑う。実のところ、冒険部はエネフィア全体で見て稀有な事例が幾つも起きている。ソラのこれもそうだし、瞬の因子も非常に稀有な事例だ。

 それ以外にも桜だって非常に稀な桜火龍だし、と非常に稀有な事例が多かった。これが日本人だからなのか、それとも天桜学園の特殊性があっての事かはさすがのカイトにもティナにもわからなかった。そんなカイトであるが、一転して話の軌道修正を行った。


「ま、そりゃどうでも良い……兎にも角にも、お前の前世の某が答えを持っている以上、考えるよりそっちにした方が早いと判断した。頑張ってくれ」

「いや、どうすりゃ良いんだよ」

「何とか、話を聞ける様にしろ。それだけだ」

「無茶言うなよ……」


 カイトの言葉に、ソラは再度がっくりと肩を落とす。それが出来るなら苦労していない。ソラはそう思うばかりであった。そんな彼であったが、一転して気を取り直す。


「で、お前こっからどうすんだ?」

「ああ、会議の前に少しリルさんに頼まれて、村の方まで行こうと思う」

「ん? ルミオ達に会いにか?」

「ああ。回復薬を届けてやって欲しいって」

「そか……まぁ、お前だったらすぐ行って帰ってこれるだろ」


 単なる届け物だ。そして頼んだのはリル。カイトが直々に届けても良い相手だった。というわけで、彼はソラに再度の留守を任せると、早速出立の支度を整える。


「さて……行くなら行くで色々と確認しておかないと」


 別に行って帰るだけではあるが、ついでなので視察も兼ねて現状を確認しておくつもりだったらしい。あそこは新設の村だ。なので最初が重要と考えており、何か問題が起きていないか確認するつもりだった。と、そんなわけでギルドホームの入り口で支度を整えていたわけであるが、そこでソレイユに発見された。


「あ、にぃー!」

「っと! 背後から急に飛びかかるな!」

「えへへー……どこかお出かけ?」

「リルさんに頼まれて、『モアナ村』までな」

「『モアナ村』……えっと……どこ?」

「天桜の北に出来た新しい村だ」


 どうやら殆ど話に出ない事から、ソレイユは天桜学園北にある村の名前を忘れていたらしい。それに、カイトの背におぶさったまま彼女は器用に手を叩いた。


「あー……」

「……え? あれ? お前も行く気?」

「え? 行っちゃ駄目なの?」


 一瞬の沈黙。その後のきょとんとしたカイトの問いかけに、ソレイユは彼の背に乗ったまま問いかける。カイトがきょとん、となったのはソレイユがそのまま自身の背に乗っていたからだ。


「単に荷物届けて帰るだけだぞ? というか、お前用意は?」

「もう終わってまーす」

「相変わらず早い時は早いな……」


 自身の問いかけにわーい、と答えたソレイユに、カイトは肩を落とす。彼女は先の『リーナイト』の一件で減った冒険者達の代役として会議の護衛に駆り出されていたのであった。

 他にもアイナディスも向こうで合流予定だ。フロドの方は残念ながら病院で入院中なので、今回はお留守番だった。なお、正確には退院は可能との事なので、いざという時には屋上から狙撃して冒険部を支援する様に告げていた。


「ま、良いわ。これ以上見付かる前に」

『ん』

「レッツゴー!」

「……はい、行きましょう」


 無意味な考えでしたね。カイトは更に自身の上に乗る日向とユリィ、少し申し訳無さそうに横に座る伊勢にため息を吐いた。どうやら、ここの四人は相変わらず一緒だったようだ。というわけで、カイトは何時ものお散歩面子と共に、到底お散歩とは思えない速度で『モアナ村』へと向かう事にするのだった。




 さて、一応もう午後になっているので駆け足で駆け抜けた一同であるが、そんな彼らは五分ほどで天桜学園と『モアナ村』の分岐点に到着していた。そこにたどり着いて、ソレイユが少しだけ驚いたような顔をする。


「へー……最近見なかったけど、道出来てるんだね」

「ああ……案外、悪くないものだろう?」


 前に言われていたが、マリーシア王国からの難民達はタバコ生産の咎で労役が課されていた。その作業そのものはもう終わっており、道が一本出来上がっていたのであった。


「そだねー……で、こっち? 先に学園?」

「いや、あっちは後。帰りに寄ってく。一応な」


 ソレイユの問いかけに、カイトは『モアナ村』への道に足を向ける。そうして再度駆け足で移動する事暫く。あっという間にマリーシア王国の難民達が作り上げた村が見えてきた。


「大分と、畑が出来てきたねー。じゃがいもかな?」

「最後の収穫かな?」

「たぶんね。あっち、鋤き込み行ってるみたいだし」


 ソレイユとユリィは畑を見ながら、そんな事を話し合う。どうやら畑も一度は収穫を行えていた様子で、畑の中では何人かの村人達が土を見ながら真剣に収穫された野菜を見ながらここならこうした方が良い、などの話し合いを行っていた。

 それを横目に、カイト達は村へと進んでいく。と、そうして村の入り口へたどり着いた所、久方ぶりの人物と再会する事となった。


「ん? あぁ、君か」

「おぉ、君かね」

「おぉ、天音さん」

「ハンニバル将軍。コルネリウスさん。お久しぶりです。村長もお元気そうで」


 相好を崩した二人と村長に、カイトが一つ頭を下げる。本来彼らは『モアナ村』を中心とした西側の巡回を行ってくれていたのであるが、後に聞けばどうやら一時的に村に立ち寄っていたらしい。村の北側に飛空艇を置いていた為、カイト達は気付かなかったようだ。

 ここらは彼らの裁量に任せていた為、何か村で困り事があれば優先的に聞いて解決して良い、としていたのであった。理由はカイトがここに来たもう一つの理由と一緒だ。最初期の段階でコケてほしくない為、である。


「お二人が一緒の所を見ると、何か村で問題でも?」

「ん……あぁ。丁度村の結界に綻びが出たらしくてな。地脈との接続が甘かったらしい」

「む……」


 そんな報告上がってたかな。カイトはハンニバルと頷き合ったコルネリウスの言葉から自身に上がってくる報告書を思い出し、どうだったか思い出す。

 ここら、この村の報告書は自身に優先的に上げるように指示している。と言ってもこれはこの村だけでなく、新設した村については優先的に報告する様に指示している為、ここが特別というわけではない。


「軍に報告は?」

「いや、この程度ならこちらで問題無さそうだったのでな。工兵が今修理中だ」

「なるほど……資材などは問題は?」

「修理キットは用意されているさ。ここら、今の俺達は遊撃隊みたいなものでな。これも出来る」


 まぁ、そこらを含める様に指示したのはオレだけどな。カイトはコルネリウスの返答に内心でそう告げる。そもそも彼らを遊撃隊として動かす事を決めたのも彼だ。そして装備の手配なども彼に報告が上がっていたので、あくまでも知らないという立場で聞いていただけだった。というわけで、彼はコルネリウスの言葉に納得を示した。


「そうですか」

「それで、君は? そっちは……その、ソレイユ・マクガイアとお見受けするんだが」

「そだよー」


 頬を引き攣らせるコルネリウスの問いかけに、ソレイユは特段気にする事なく頷いた。そして当然、彼女である。本来はとんでもない戦闘力の持ち主で、彼女が動いたとあっては何か勘ぐられるのも無理はない。


「あははは……まぁ、オレはルミオ達の見舞いです。リルさんに回復薬を持っていってやって欲しい、と頼まれたので……」

「私達は単なるお散歩ー」

「さ、散歩ですか……」


 ソレイユの返答に、コルネリウスが思わず頬を引き攣らせる。とはいえ、実際の所相手はソレイユ。そうだ、と言われればそう受け入れるしかない。こう見えても、桁が一つ上なのであった。とはいえ、何時までもここで喋ってもいられないので、カイトは手早く要件を終わらせる事にする。


「そういうわけですので、村長さん。ルミオ達、どうしてます?」

「ルミオ達なら、先程医院の横で剣を振るっているのを見ました。ほんの十数分前なので、今もしているでしょう」

「ありがとうございます。では、私はこれで」


 村長からの情報に、カイトは一つ頭を下げてその場を後にする。そうして歩く事少し。村の怪我人達が使う村の病院へとたどり着く。


「結構、大きいんだ」

「村の規模が規模だからな。最初の事もあったし」


 三階建ての建屋を見て驚きを露わにしたソレイユに、カイトは一つ笑う。ここはマリーシア王国の幾つかの村の避難民達を一括で受け入れて出来た村だ。

 なので村の人口としてはマリーシア王国の村二つか三つ分程度の人口はあり、それに合わせて病院も少し大きめになっていたのであった。が、そこには入らず、ひとまず病院の側面を目指す事にする。


「ふっ! はっ!」

「んー……少し左に体幹ズレてるよ」

「あー……やっぱ?」

「まだ痛む?」

「ちょっと」


 病院の側面。入院患者達が少しの運動が出来る程度に設けられているスペースにて、ミドが剣を振るい感覚を確かめ、ルミオの方が見えた点を指摘していた。ルミオの横にも剣がある所を見ると、おそらくお互いに指摘し合って調整をしていた、という所なのだろう。と、そんな二人はカイト達が現れた事に気が付いた。


「あ、カイト」

「よぉ」

「おぅ」


 手を挙げた二人に、カイトもまた手を挙げる。が、そんな彼がユリィは兎も角ソレイユを連れていた事に二人は驚きを隠せなかった。


「ソレイユ……さん?」

「なんで?」

「お散歩ー」


 当然であるが、ソレイユはユニオンでは知らぬ者がまず居ないほどの弓兵だ。先の一件ではルミオ達も当然同じ戦場で戦っていたので、彼女の事は見知っていた。その彼女がここに来ている事に驚くのは当然だろう。


「ま、そういうわけだ」

「お、おぉ……」

「え、えーっと……それで、どうしたのさ?」

「ああ。リルさんから、見舞いの品を持っていってくれ、と頼まれてな。ロザミィ達は?」

「ロザミィなら中。メイとラムが包帯変えてて、俺達は外に出てけって」

「なるほどね。こっち来て正解だった」


 もし村長がこっちに居ると教えてくれていなければ、今頃下手をすると少女らの着替えの真っ最中に遭遇したかもしれなかったのだ。そしてこの場合、その後の被害に遭うのは男であるカイト一人だろう。彼とて頬に紅葉は作りたくなかった。というわけで、彼らは少しの間その場に留まって、ルミオらと共に他の三人が来るのを待つ事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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