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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第84章 大陸会議編

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第2012話 大陸会議 ――夜会を終えて――

 昨今の情勢を受けて開かれる事になった大陸会議。その大陸会議の開幕を前に開かれた夜会に参加していたカイトは、ひとまず自身が『リーナイト』で得た所感を皇帝レオンハルトや自身と同格となる他の二大公五公爵達へと語る事となる。

 そうしてそんな彼からの報告を受け、夜会は本題となる大陸会議の同行者を確定。更に同時に大陸間会議の再開幕については開幕しない方向で話を進める事で決定する。そうして暫く。大陸会議に関する幾つかの話を終えたところで、夜会はひとまず重要な議題を終えていた。


「ふぅ……これで、何とかか」

「かと」


 一息ついた皇帝レオンハルトの言葉に、ハイゼンベルグ公ジェイクもまた頷いた。やはり誰も彼もが一日を終えた後に、この夜会に臨んでいる。なので疲れが見え隠れしている者も少なくなかった。というわけで、本題が終わったと場には少しだけ弛緩した空気が流れていた。


「そういえば、マクダウェル公。『大地の賢人』殿はどうであった?」

「ああ、『大地の賢人』殿ですか? 彼なら、何時も通りといえば何時も通りかと」


 皇帝レオンハルトの言葉に、カイトは一つ笑う。他大陸では一般には知られていない『大地の賢人』であるが、それでも各国の要人ともなると知っていない方が少なくなる。特に彼は大国であるラエリアの開祖を養育した国父なのだ。それを知らない、というのは些か良い事ではないだろう。


「そうか……確か転移術を手に入れに向かったのであったな」

「ええ……それがとんだ大騒動になりましたがね」

「公らしくはあるな」


 どこか呆れる様に笑うカイトに、皇帝レオンハルトは楽しげに笑う。と、そんなところにふと、アストレア公フィリップが口を開いた。


「そうだ。マクダウェル公」

「どうした?」

「アストール家は知っているか?」

「……知らん、と言いたいな」


 もう大凡察した。カイトはアストレア公フィリップの言葉に、盛大にため息を吐いて首を振る。アストール家というのは、アストレア家の分家だ。そしてここから最近依頼を受けたギルドを、彼は知っていた。このタイミングでその話が出るという事は、確実にその関連だった。


「その様子だと、聞いたか」

「ああ。この間の総会で、アストール家が雇ったギルドと話をした。それで?」

「話をしたい、そうだ。貴公のところに」

「あっちにしてやってくれ……」

「あちらはハンターギルド。狩りは可能だが、それ以外はな。無論、彼らにも話したのだろうが」


 特大のため息を吐いたカイトに対して、アストレア公フィリップが若干笑いながら告げる。これに、皇帝レオンハルトが楽しげに問いかけた。


「何かあったか?」

「……特段陛下にお聞かせする内容ではないです」

「はははは。公がそういう時は決まって、何か楽しい事になりそうでな。アストレア公。聞いても?」

「まぁ、構いませんが……」

「む……公も若干乗り気ではないな」


 この場で出すのだから、別に聞かれても問題は無い話題。そう判断した皇帝レオンハルトであったし、実際そうではあった。が、面白いか、と言われれば困るしかないのも、無理はなかった。


「乗り気、と言われましても。特に聞いて面白い話とは私も思いませんので……」

「それは聞いてから、決まる事だろう」

「……それも確かに」


 現状、アストレア公フィリップ自身は面白くないと思っていても、皇帝レオンハルトが面白くないと思うかどうかは別の話だ。というわけで、彼は事の次第と依頼の内容を語る。


「以前、マクダウェル公がアストール家というアストレア家の分家より依頼を受けた冒険者達と共に行動した事がありまして」

「それは聞いた事がある。確か月の女神復活に際しての事であったな」

「……ええ」


 どこか不貞腐れた様子で、カイトは皇帝レオンハルトの言葉に頷いた。あの時、カイトはイングヴェイ達と出会い、ロック鳥の亜種である『ダイヤモンド・ロック鳥』の雛の捕獲に協力した。それ以降、面倒事になっている事はイングヴェイから聞いていた。


「そこで、この度アストール家が礼を言いたいと申しておりまして」

「「「……」」」


 絶対にそれだけじゃ終わらないな。カイトを筆頭に、その場の全員はそれを即座に理解する。言葉の裏の更にそのまた裏が読めねば、大貴族なぞやってられなかった。というわけで、この場の面子に隠すまでもないか、とアストレア公フィリップもはっきりと明言した。


「まぁ、それは建前でしょう……近々、アストレア家主催で行われるパーティはご存知ですか?」

「ああ、聞いている……なるほど、読めたぞ」

「と、いうわけかと」


 楽しげに笑う皇帝レオンハルトに、アストレア公フィリップは一つ頷いた。どうやら中々に楽しめたらしい。というわけで、彼が依頼内容を口にした。


「大凡、以前捕らえた雛の調教に付き合って欲しい、というところか……マクダウェル公の正体を彼らは?」

「無論、知りません。マクダウェル公の正体は国家機密。彼らは知る立場にはありません」


 アストレア家の分家とはいえ、分家だ。本家が知るすべてを知らされるわけではない。これがよしんば天道家の様に無数の分家が存在し、分家にも幹部格と言えるような差がある場合はまた話は違うだろうが、大凡大事な事の大半は話していないと考えてよかった。というわけで、アストレア公フィリップの言葉に皇帝レオンハルトは笑ってその更に裏を読みぬいた。


「となると、その更に裏も読めるな。大凡、その夜会に同伴してもらいたいわけか……確かアストール家の子はまだ二桁にならなかったか?」

「いえ、もう十二です。十分、ペットを飼っても良い歳ではあります」

「そんなか。時が経つのは早いものだ」


 どこか驚いたような、それでいて嘆くような皇帝レオンハルトはアストレア公フィリップの言葉に嘆息する。どうやら否が応でも自分が年を取ったのを自覚せねばならなかったらしい。と、そんな彼は一転、一つ咳払いをした。


「ん……それは良いな。その年齢であればよほど聡くなければ、裏なぞ察せられまい」

「ええ……ただ、聡くはある様子。大凡裏で何かの意図が働いただろう、ぐらいは察せられるでしょう」

「そうか……まぁ、そういうことであれば、マクダウェル公。別に公としても受けても良いのではないか?」

「別に受ける事そのものに否やはありませんが……それで面倒が引き起こされそうなので、いやなのですよ。特に今、こちらの動きとして色々と動いている事もある。が、相手の格を鑑みれば、私が動くしかない。そうなると、また面倒だ」

「日程については、こちらで調整はしよう」


 カイトの苦言にも似た言葉に対して、アストレア公フィリップがため息混じりに一つ明言する。そもそもが彼が主催するパーティだ。調整なぞどうにでもなった。そもそもまだ招待状は送っていない段階だろう。開きますよ、という話を出しておいて、様子を見ている形だ。日程をカイトの都合に合わせてやる事は造作も無いことだった。とはいえ、そうなると、カイトも受けざるを得ない。


「つまり、受けろと」

「如何に私でも同じ公爵に命令なぞせん」

「あはははは……だ、そうだぜ、爺」

「儂はお主の後見人でもあるからの」


 カイトのどこか冗談めかした言葉に、ハイゼンベルグ公ジェイクが楽しげに笑う。これについてはそのままだろう。そうして気を取り直した彼は、一つ息を吐いた。


「はぁ……ま、良いさ。こちらも縁を得ておいて悪い話はない。特に貴族界隈とはな。そしてアストレア公としても、オレが来たとなれば一つ花は添えられる」

「理解、感謝する」


 カイトの受諾の意向に対して、アストレア公フィリップは一つ頭を下げる。とはいえ、これは持ちつ持たれつ、というところが大きい。故に、カイトは首を振る。


「持ちつ持たれつ、というところだ。そちらは夜会の目玉。こちらは貴族達との縁」

「そして、それを見通せるだけの目」

「うるせぇよ」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に、カイトは一つ笑う。無論、それもある。縁が得難く、そして組織運営において重要な物である事は誰もがわかっている事だ。そしてそれを実践できているのであれば、誰もが一目置くだろう。こういったパーティこそ、その絶好の好機だ。好機を逃さない、というところを示しておけば、カイトの統治能力の高さを間接的に示せるのである。


「で、アストレア公。他には?」

「無論、全員に送る……陛下は除くが」

「送っても構わんぞ? そして出ても構わんぞ?」

「おやめください……」


 楽しげな皇帝レオンハルトに、アストレア公フィリップは盛大にため息を吐いた。どうやら彼はこの場では珍しい常識人側らしい。なお、何故彼が拒絶したか、というと彼が来るほど大仰なものではないからだ。言えば単に貴族達が集まって少しの交流会を、という程度に過ぎない。皇帝レオンハルトに来てもらいたいほど、大きな物ではなかった。無論、主催者がアストレア家である事を鑑みれば、来ても問題はない。


「あら……少し陛下が来てくれれば、とも思ったのですが。数名、新しく陛下にご紹介させて頂きたい商人が居まして」

「ほぅ……リデル公が見繕うほどなのだから、良い商人なのだろうな」

「ええ。陛下の奥方数人は気に入られるかと」

「そうか……まぁ、そちらについては縁があれば、紹介してくれ。良き商品であれば、皇室御用達も考えよう」

「ありがとうございます」


 皇帝レオンハルトの言葉に、リデル公イリスは頭を下げる。そしてそういうわけなので、彼女はアストレア公フィリップへと告げる。


「アストレア公。私は一応参加の方向で。公にも数名、紹介しておきたい商人が。可能ならマクダウェル公にも」

「かしこまった」

「アイマム。どうせだ。全部一気に終わらせちまおう」


 どうせパーティで忙しいのなぞ、貴族として出た時は何時もの事だった。なら、カイトとしては今更だし、どうせなら別のところで時間を使われるよりこの面倒なパーティで一気に終わらせよう、という心算だった。というわけで、そんな彼が問いかける。


「アベル。あんたは?」

「ウチは不参加だ。そもそも今回のパーティにウチが参加すると若干よく無いだろう」

「? そう言えば、アストレア公。パーティはどんなパーティなんだ?」


 今更ではあったが、カイトはよく考えてみればこのパーティがどのようなものかわかっていなかった。アストレア公の申し出なのでどのようなパーティでも受けるしかない、という事があったので受けただけだ。というわけで、詳細の説明を求めた彼の要請にアストレア公フィリップが告げる。


「まぁ、言ってしまえばペット愛好家達が集まる集会みたいなものだ。ブランシェット家が遠慮したのは、それ故だ」

「ああ、なるほど。確かにブランシェット家は高位の獣人。しかも肉食獣系だ。あまり、よくはないか」


 ここらはソラが体質として竜殺しの力を持っているのと似ていた。飼い主の中には弱いペットをペットとしている者も居る。庇護する事を重要視している、とでも言えば良いだろう。そんな中に獣人の中でも高位の獣人に連なるブランシェット家が加われば、厄介になりかねなかった。


「ということは、カナンも置いていくか……いや、後は依頼次第かね」

「そこらの依頼については、後ほどアストール家から正式な使者を立てる。そこで聞いてくれ」

「あいさー……ま、その前に大陸会議だがね」

「そうだな……マクダウェル公。ひとまず、公とハイゼンベルグ公は参加を頼む。他の者達は留守を頼む」

「「「かしこまりました」」」


 カイトの一言をきっかけに、全員が再度気を引き締める。そうして、一度は弛緩した空気はそれを境に再び引き締められ、夜会の名を呈した会議は夜遅くまで続く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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