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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第84章 大陸会議編

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第2010話 大陸会議 ――夜会へ――

 『リーナイト』を筆頭にしたラエリアで負った怪我の治療に務めながら、方や冒険部ギルドマスターとして。方やエンテシア皇国のマクダウェル公カイトとして各種の手配を行っていた。

 そうして、彼がマクスウェルのギルドホームに帰還し、数日。幾つかの手配を終わらせて、カイトはソラ達の出発を見送ると再度医務室へと入っていた。


「……はい。灯里様はもう大丈夫でしょう」

「おっしゃい。ありがとねー」

「はい」


 何時もの通りといえば何時もの通りの軽い灯里の言葉に、リーシャもまた笑って頷いた。なお、灯里がここまで軽いのは彼女が<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>技術班の半一員として活動しているからだ。

 しかも二人共カイトに最も近い者の一人でもある。結果、リーシャとも付き合う様になり、というわけであった。とまぁ、それはさておいて。そんな彼女は包帯でぐるぐる巻きのカイトを見る。


「で。カイトはまだ駄目?」

「……はぁ。駄目ですね。これはそもそも、仕方がない話ではあるのですが……」

「ふーん……」

「リーシャ……頼むから、灯里さんの前で迂闊な事を言わないでくれ。ガチで面倒事が発生する」


 傷に触らない様に上体を起こした姿勢でベッドに腰掛けるカイトが、読んでいた報告書から顔を上げる。どうやら灯里の視線に気付いたらしい。そんな彼に、灯里が姉としての顔を覗かせた。


「心配してるんだから、そんな顔しない」

「わかってるよ……だが、オレだって話せる事話せない事色々とあるんだよ」

「わかってる。だから、でしょ? 無理はしない。あんたが傷つくとそれだけで悲しむ子も居るんだから」


 こつん、とカイトの額に自身の額をくっつけて、灯里が諭す様に告げる。これに、カイトは少しだけ恥ずかしげに顔を退けた。


「わかってる。だからこうやって怪我の治療してるだろ? それに何より、オレが怪我を負う事は前提だ。その上で万全に生還出来る様に手配も整えている」

「ま、そりゃそうだけどね」


 元々言われている事であるが、マクスウェルの医療体制はエネフィア随一だ。そこにカイトの指南による衛生環境が整備されている事もあり、魔術を使う事も鑑みれば医療水準は地球をも上回ると言って良いだろう。

 地球では後遺症が確定や完治の見込み無しと言われるような怪我でも、数ヶ月で治癒してしまうような体制をカイトは整えていた。これについてはカイトの功績と言ってよく、灯里もその点については信用していた。そしてそれについてはリーシャが誰よりも実感していた。


「確かに医療水準の向上はカイト様が来られた後と前では格段の差があります。無菌室の考案など、現時点で行われている医療水準は間違いなく地球にも勝らずとも劣るまい、と断言致します」

「お前の手があれば、地球をも上回るさ……だから、オレも無茶出来る」

「ありがとうございます……ですが、無茶は控えて頂ければ」

「無理はしない。それで勘弁してくれ」


 リーシャの苦言に対して、カイトは一つ笑う。そうしてひとしきり雑談を交わしながらカイト専用に調合された軟膏を塗りこちらも専用の調合がされた回復薬を浸した包帯の交換を行いながら、カイトは灯里と話す事にする。


「で、灯里さん。一応聞いておくが、まだ解析には取り掛かっていないな?」

「やってないよー。私も流石に脳みそ無事じゃないかも、って状況で同じ事しないわ」

「ま、してたらまた説教だからな」

「流石にこっちじゃ駄目ねー」


 笑うカイトの言葉に、灯里もまた笑う。一応ラエリアでは殆ど誰も居なかったのでお説教も良かったが、ギルドホームというか天桜学園の近くであれは教師という建前もあり勘弁願いたかったようだ。とはいえ、それもここまでだ。


「あははは……さて。灯里さん。一応、ティナが連絡取れる様にはしてくれているが、それでも転移術は最高難易度の魔術だ。間違っても、間違っても誰か使用してみよう、なんて馬鹿を言い出さない様に細心の注意を払ってくれ」


 カイトは間違っても、というところを強く念押しして、決して転移術の行使を試みる事の無い様に言い伝える。転移術は何度も言われていたが、カイト自身さえティナからの教授があって何とか習得出来た超上位の魔術だ。

 これを今の冒険部で使える者は、と言われると誰も居ない。難易度が違いすぎるのだ。そして彼のこの危惧は理解出来ずとも、灯里にも高難易度の魔術である事は理解出来ている。


「石の中に居る、は嫌だもんね」

「そういうこった。ま、現実じゃ石の中に飛ばされた程度じゃどうにもならんがな」


 実際、魔術の中には相手を石化させるような魔術もあるし、今の様に身体を石で覆い尽くして行動不能にさせてしまうような魔術もある。この場合魔術なので普通に力技でやっても対応は難しい事も多いが、単なる物理的な石であれば、中に入ってしまったところで魔力を全身から放出する事で砕く事も可能だ。どうにかなるのである。


「ま、それでも転移術の事故は色々とヤバい。臓器を置き忘れましたなぞ、笑い事じゃすまん。基本は使わせるな、の一言に尽きる」

「わかってる。私もやんない」

「やったらガチ転移出来ない身体にしてやるから、覚えとけ」


 カイトは灯里を信用している。そして灯里もカイトの手前、滅多なことでは危険な事はしない。が、一応言い含めておく事は重要だろう。とはいえ、そんな彼の言葉に、灯里が首を傾げた。


「そんなの出来るの?」

「お、おう……爺さんも言ってたろ? 転移術は言うほど便利でもないし、誰でもどんな状況でも使えるわけじゃないって」

「へー」

「カイト様。あまりそういう事を言うのは、やめた方が良いかと」


 そうなんだー。そんな呑気な灯里に、リーシャがどこか笑いながらカイトへと苦言に似た言葉を呈する。これに、灯里が興味を持った。


「どういう事?」

「いえ……転移術は基本、妊婦は使わない様に、という鉄則がありまして」

「……おい」

「まー、そういうわけだ。身体には気を遣いましょう、ってわけ」

「あんたね……」


 楽しげなカイトに、灯里はがっくりと肩を落とす。とはいえ、これは言うまでもない冗談だ。というわけで、カイトは灯里に告げる。


「ま、まさかそんな感心したような顔をされるとは思ってなかった。転移術の基礎の基礎だからな……とはいえ、その様子だと、約束は守ってるか」

「うー……」

「あはは……ま、とりあえず。本当に使うな。それしか言えん。実験的でさえ、現状転移術成功の見込みは無い。あればかりは本気でゆっくりとやればどうにかなる、ってもんじゃない。転移先の情報を一瞬で見抜く為の高度な<<遠見(とおみ)>>系の魔術を併用したり、空間転移の術式を構築したり、その他諸々の魔術をすべて同時に、なおかつ一瞬で展開する必要がある」


 転移術を使う者として、一転真剣な顔を浮かべるカイトは灯里へと転移術の要点を語る。実際、これ以外にも様々な注意点やデメリットがあったりするらしく、そこらは後はクリスタルの情報を見てくれ、というところだった。そんな彼の言葉に、灯里も気を取り直して学者モードに入った。


「わかってる。まぁ、どっちにしろ暫くの間はクリスタルの解析に総動員で動くから、そっち問題無いでしょ。解析前に転移術、なんてまず不可能だし。そもそも術式もわかんないもんね」

「そだな……ああ、そうだ。一応、灯里さんには教えておく。ギルドホーム内部では転移術は使用できない様にしてる」

「でしょうね」

「流石」


 自身の言葉に特段の驚きを浮かべる事もなく、それどころか当然と受け入れた灯里にカイトは一つ頷いた。彼女がこの程度を理解していない筈がないと思っていた。

 とはいえ、勿論それだとカイト達自身が困る事も多い。というわけで、カイトも意図も語る事なく、これで終わりとしておいた。そもそもこれはティナが張った仕掛けだ。解説を頼まれたところで無理だった。無論、そこも灯里もわかっていたが。


「で、それはともかく。大陸会議ってどれぐらいで終わるの?」

「今回は緊急会議だから、二日だ。本ちゃんはまた別に行われる。『リーナイト』の一件やらなにやらがあるからな」

「えらく短いのね」

「長くはできん。というより、各国で共同歩調を取る為の打ち合わせみたいなもんだ。ウチはこーする、お宅はどうする、って感じのな」

「事務官とかでよくない?」


 そんなものの為にわざわざ各国の首脳達が集まるのか。灯里は緊急招集とはいえ、必要があるのか疑問でならなかった。そしてこれに、カイトは笑う。


「わかってる。実務で考えれば無駄だ……が、王様や大統領らが集まって会議を開いた、というだけで民衆からの印象は違う。そういう意味じゃ、無駄にゃならん」

「ああ、そっか。そっちの面じゃ確かに、意味があるわね」

「そういうこと……それに、最終的な調印とかはどうしても首脳が集まらにゃならん。集まるのも必要な事だ」

「また狙われないの?」

「あり得る……あり得るなぁ……」


 どうやらカイトはまた狙われるかもしれない、という点を危惧しながらも、集まった場合に得られるメリットを考えて会議の開催で合意していたらしい。遠い目をして襲撃から目を逸らしていた。


「とはいえ、ここで襲われるかも、と怯えて会談を開かないと逆に民衆に不安を与えちまう。それは最悪だ。なんとか、今はまだ持ちこたえてるって段階だ。『リーナイト』が壊滅的な被害を受けたからこそ、各大陸は大陸会議を開かにゃならんと考えてる」

「あー……なるほどねぇ……」

「面倒だろ? ここで逃げたら、負けだ。やるしかない」

「で、カイトも来い、と」

「そういうこと」


 もし万が一襲われる事があっても、カイトが居れば何とか返り討ちに出来る可能性はある。その彼が最初から大怪我を負った状態というのが頭の痛いところではあったが、それでも彼の戦闘力は群を抜く。

 現状でさえ、本気で戦えばクオンより強いのだ。何かと彼が出なければならないのは、仕方がない事だった。そして彼自身も慣れていた。


「ま、昔からこういう非常事態じゃ何時もの事だった。重要な会議には必ず同席しろ、ってな。慣れてるよ。最強は、伊達じゃないのさ」

「便利屋扱いされてる気もするけどねー」

「実際、ウィルの奴には勇者なぞ便利屋だ、と言われたけどな」


 これはあくまでもウィルだから許される事。あけすけに述べられている意見に、カイトは笑う。というわけで、ひとしきり笑った後、彼は改めて告げる。


「兎にも角にも、大陸会議にゃ同席だ。他にもバーンタインの名代で息子のオーグダインが出席するし、今回の会議で神殿都市支部の新支部長が参加し、その後こちらに来る事になっている。色々な面でもあっちに行っておきたい」

「ふーん……あ、そういえば。カイト」

「何だ?」

「噂聞いたんだけど、事務員の子、一人見付かったんだって?」

「ああ。その子も会議で引き取ってくる」


 どうやら灯里もソーニャの事を聞いたらしい。カイトは一つ笑って頷いた。先にシェイラが来る事を述べたが、それと共にソーニャを引き取る事になっていた。その面からも彼は大陸会議に参加するつもりだったのである。


「そうなの?」

「ああ。他国の子でな」

「またどっかからヘッドハントしてきたの?」

「そんなところ」

「ふーん……」


 嘘だな。カイトの返答に灯里は彼の表情を見るだけで察したらしい。まぁ、そう言ってもここらは流石に彼女も国同士のやり取りや裏工作などが絡んでおり、語れない事もあるだろう、と理解していた。なのでこれについては興味が無かった事もあり、さほど突っ込む事はなかった。


「まぁ、それは良いかな。どうせ私依頼受ける事無いし」

「そだな。灯里さんには裏方で研究してもらう方がオレとしてもありがたい」

「リーシャちゃーん。足手まといって言われたー」

「い、いえ、そういう事ではないかと……」


 何時もの通りといえば何時もの通りの灯里に、リーシャが頬を引き攣らせる。とはいえ、実際足手まといというわけではなく、リーシャと灯里、ティナは強大な力を持っていても後ろでカイトの補佐をしてくれる方が遥かに良いのだ。戦いとは純粋な戦闘だけではない、とよく分かる面子だった。というわけで、その後は暫くの間呑気におしゃべりをしながら、カイトは治療を受ける事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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