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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第84章 大陸会議編

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第2009話 大陸会議 ――せわしなく――

 『リーナイト』を筆頭にしたアニエス大陸でのあれこれを終わらせて、本拠地であるマクスウェルに帰還したカイト。そんな彼はひとまずソラを筆頭に『リーナイト』での一件で怪我を負った面子の交代要員としてやって来た面子に指示を出すと、灯里と共にリーシャよりのお叱りを受けながら医務室にて自身の治療に取り掛かる事になっていた。

 そんな治療の傍らリーシャよりこちらに送られた怪我人達の状況を聞いたカイトは、ひとまず医務室から通信を繋いで執務室に居る椿や桜ら残留の面子と情報を共有していた。


「ふむ……やはり怪我人が多いのと、ソラ達が出たのがネックだったか」

『はい……ひとまず統率については問題ありませんし、私もサブマスターなので対外的にも問題はありませんでしたが……やはり街は混乱した感じがありました』

『そうですわね……公爵家からこちらにも見回りの支援要請が依頼として出ましたわ』

「しょうがない。公爵邸には『転移門(ゲート)』が設置されていて、オレの本拠地でもある。見せかけだけでも、厳重な警備が必要なんだ」


 カイトは深い溜息を吐きながら、現状について首を振る。ここは何より人類の希望にも等しいのだ。象徴的な意味であれば、対外的な面も含めればマクスウェルだけは落ちてはならない場所だった。

 緊急事態かつレヴィの指示とは言え『転移門(ゲート)』を開く以上、万が一にはここに直接攻め込まれる可能性だってある。それによる陥落を防ぐ為にも、総戦力をここに集結する必要があった。なので実際にはあちらに飛んだ面子以外にも冒険部も総出で街の警戒に当たっており、全体的に情報は共有されていたのである。


『わかっています……そしてそちらについては特に問題も無く、というところです』

「そうか。なら良いか……ふぅ……」

『お疲れ、ですわね』

「しょうがない。戻ってから休む間も無しだ」


 瑞樹の言葉に、カイトは少しだけ柔らかな表情を浮かべる。彼の言う通り、これはしょうがない。『リーナイト』での一件を受けて、各国はただでさえ難航していた対策会議を更に難航させる事になっている。

 それは皇国も変わらず、大陸会議の前にはまた夜会が開かれる事になっており、カイトも現地で直に見た者として皇帝レオンハルトより来る様に命令があった。当然だが、こちらの支度などもある為、彼は実際には目に見える以上に忙しいのであった。


「というわけで、また少ししたら出る。おそらく他にも幾つものギルドが招集されるだろうが……まぁ、オレが出ないわけにもいかないからな」

『わかってます……ああ、そうだ。そう言えば先の薬草の話。今しがた、ソラくんが俺が行こうか、と』

「ふむ……」


 確かに、現状冒険部の上層部で一番身動きが取りやすいのはソラだろう。カイトはまず組織的な理由とこれから皇都に行く用意もしなければならない以上は論外だし、桜は遠征隊向きではない。となると、後は瑞樹か彼――魅衣らその他面子はそもそも指揮官向きではない――だったが、カイトとしては折角帰った以上瑞樹とも過ごす時間を作っておきたいところではあった。


「そうだな。悪いが、頼まれてくれるか、と告げてくれ。現状、オレが動くのもまずい。が、座視も出来ん。とはいえ、少し考える」

『何か気になる事でも?』

「ああ……ああ、そうだ。アルは戻ってるか?」

『いえ、まだの様子ですが……』

「そうか。戻ったら、連絡を入れる様に伝えてくれ」


 少し周囲を見回す様子の桜に、カイトは一つ言伝を頼む。アルとリィルはそのまま公爵軍兼皇国軍としてシアの護衛で一度皇都へと向かっており、シアは皇都でカイトに先んじて夜会の調整や皇帝レオンハルトへ報告を行ったりしていた。その後公爵家の艦隊は即座にマクダウェルに帰還する事になっていた。


『わかりました。他には何か?』

「ああ。ソラに、飛空艇の用意をこちらで整える、軍との共同作戦になる、と伝えてくれ」

『軍と?』


 それで、彼なのか。桜はアルに言伝を頼んだカイトの意図を理解する。そうして、カイトはその意図を語った。


「ああ。今回、言うまでもないが怪我を負っているのはウチ以外もそうでな。結構な量が必要になる。それを運ぶとなると、輸送艇の方が効率が良い。今は時間が惜しいからな」

『わかりました。では、その様に』

「頼む……さて、そうなると……やる事が山程あるな……」


 一度、何をどう終わらせていくか考えた方が良いか。カイトは効率的に業務を終わらせるべく、一度山積する仕事を洗い直す事にする。


「薬草収集はソラに任せた……怪我人の状況は確認済み……あぁ、そうだ。ユニオンにマクダウェル領のギルドの被害状況を報告させて……ああ、そうなると同盟にも被害状況の伝達をさせないと……確かエルは無事だし、セレスも無事はわかってるんだが……他がな……あ、そうなると……」

「何よりも優先するべきは、お身体の調整かと」

「……わかってるよ」


 リーシャのたしなめに、カイトは一つ頷いて思考を切り上げる。やるべき事は確かに山積しているが、彼が何より為すべき事はまず身体を治す事だろう。彼こそが、唯一いかなる状況をも覆せる切り札なのだ。その彼が本気を出せない状況では、如何ともし難いものがあった。というわけで、彼はその日一日怪我の治療に努める事になるのだった。




 さて、明けて翌日。カイトは朝一番から各所への手配を進めると、それと共にマクスウェル支部に連絡を入れていた。やはり事態が事態。特に被害を受けたのがユニオンという事で、ユニオン全体が上へ下への大騒動だった。

 が、それを受けてのカイト(領主)の要請という事もあり、支部長であるキトラはすぐに動いていた。と言っても、流石に応対は通信機越しで、直接は会えない状況だった。


『被害状況としては、まだマクスウェル支部はマシというところでしょう。ついで、御老体曰く神殿都市の冒険者はこの程度では落ちん、と』

「そうか……それは幸いだった」


 カイトは深く息を吐いて、ひとまず自身の抱える二大都市がさほど大きな被害を負っていない事に安堵する。特に神殿都市はバーンタインの指示でピュリ率いる本隊が参加していなかった事もあり、被害は軽微だったらしい。そしてマクスウェルは最大手はカイト率いる冒険部となり、ここも被害はさほどではない。


「まぁ、それはとりあえず横に置いておこう。それで、どの程度必要だ?」

『はい。それについてですが、領内各地から寄せられた要望を確認。現状、回復薬の備蓄を使い切れば、なんとか事足りると判断されています』

「備蓄全部、か」

『はい』


 嫌になる。そんな顔のカイトに、キトラが笑う。当然であるが、ユニオンとて組織だ。なので何かがあった時に備えて、備蓄は用意している。そしてその備蓄をすべて出しきれば、なんとか事足りるである。つまり逆説的に言ってしまえば被害が軽微であると言われるマクダウェル領でこれなのである。他も厳しいだろう。というわけで、カイトは彼へと明言した。


「すでに軍を動かし、各地へ素材収集の為の部隊の派遣の準備を整えている。また、合わせてユニオンの無事な冒険者にも緊急依頼を発令したい」

『承りましょう。そもそも、こちらの問題ですしね』

「頼む。無事な人員は一人でも動員し、なるべく犠牲者を減らしたい」


 ひとまず、これで足りない人員の確保は出来そうか。カイトは懸案事項の一つに解決の目処が立った事に安堵する。というわけで、彼はこの案件の話を進める事にする。


「それで、回復薬の量産体制。これについてだが、一つ妙案がある」

『妙案……ですか』

「ああ。リーシャの伝手で魔導学園と神殿都市の学院の薬学科を動員しようと思う。低級の回復薬なら、学生たちでも事足りる。中級になれば教職員が可能だろう。最上位は諦めるしかないが……急場しのぎにはなる」

『なるほど……確かに妙案ですね』


 ひとまず、先のカイトの手配により回復薬の素材となる薬草の入手の目処は立っている。そしてこちらについては何か考える必要もなく、冒険者なら一般的な依頼だ。なので基本は誰でも受けられる。

 だが、回復薬の作成ともなると誰でも受けられるわけではないし、何より調合の器具も必要だ。そこらを複合的に考えた場合、器具があり作成もしたことがある者たちを動員する事にしたのであった。が、これで万事解決というわけではない。


「ああ……それに伴い、指導教官が数名欲しい。どうしても学生となると、腕にムラが出る。そのムラをなるべく減らしたい」

『わかりました。神殿都市と協議し、早急に人員を見繕います』

「頼む。こちらも両都市の学院には話を通す。すでにユリィも動いているから、ほぼ確定で動けるだろう」

『わかりました』


 ひとまず、これで最大の懸案事項となる回復薬の確保は出来そうか。カイトとキトラは最大の懸案事項が何とかなりそうである、と判断。即座に行動に入る事にする。が、その直前。カイトはついでなので、と少しだけ肩の力を抜いて口を開いた。



「……あぁ、そうだ。そういえばついでなんで、一つ良いか?」

『どうしました?』

「以前話していた受付嬢の増員。こちらで一人目処が立った」

『はぁ……学園からですか?』

「いや、元々別支部で受付嬢をしていた子だ。保護者の方からウチに預けたい、とな」


 元々ローラントが掴んでいた様に、カイトは冒険部の規模拡大に伴い支援の面子の拡充を考えていた。そしてこういう場合、カイトが相談する相手は言うまでもなくユニオンだろう。

 というわけで、ユニオンに相談していたのである。なお、ローラントが掴んだのもそれ故だ。無論、カイトも特別隠す意味はなかったので隠していなかった。とはいえ、これにキトラは僅かに怪訝な顔をする。


『別支部から、ですか?』

「ああ……まぁ、偶然だがオレが知り合った女の子でな……この子、マジですげぇの。というか、保護者の許可出ればウチで引き取る。マジで」

『はい?』

「ああ、悪い悪い。ユニオンの支部長の前でこれは言うべきじゃなかったな……とはいえ、実際それを念頭に置いているのは事実だ」


 少し笑いながらであるが、カイトは驚きを隠せないキトラへとはっきりと明言する。実際、カイトとしてはソーニャの腕を受付嬢で宝持ち腐れにするつもりは毛頭なく、ひとまず自身の専属サポーターとしながら色々と手を考えるつもりだった。そんな彼に、キトラは特に気にする事なく告げた。


『はぁ……まぁ、別支部というのでしたら、私は特に構いませんが。それでしたら、枠を一つ減らしておきますか?』

「いや、それは良いよ。色々な理由もあって、その子には基本こっちの上層部の補佐を頼みたい。現状、椿一人にすべてを任せるのも限度が出始めたからな」


 元々、カイトが受付などの事務の増員を考えたのは規模が拡大した事と、椿の負担が流石に見過ごせない領域になってきたからだ。それを少しでも減らすべく、依頼の相談窓口を増やす事にしたのである。

 とはいえ、これで十分だ、とは彼は考えていなかった。元々彼の書類仕事は椿が。給仕はカナタ・コナタの二人が担当してくれているが、それでもまだ椿の負担が多い。そこでギルドの依頼に関わる仕事についてソーニャに任せよう、と考えていたのである。


「後は、もう一人か二人居れば十分なんだが……こっちはまぁ、そちらに何とかしてもらう話でもなし」

『何か他にも?』

「基本は経理とかの情報処理だな。こちらは流石にギルドの規模が規模だから、望めるなら三人欲しい。全体の補佐は第二執務室でなんとかなるが……上の執務室用にな」

『秘書室ですね、もう……』

「オレの秘書室じゃないさ。上層部全体の補佐を行う部署、と考えれば総務部でも良いかもな」


 どこか呆れたようなキトラの言葉に、カイトは一つ笑う。とはいえ、こういう事であれば確かにキトラに言える事はなかった。


『……まぁ、そういう事でしたら、私から何か言える事は無いでしょう。わかりました。その事務員の女の子は何時?』

「一応、神殿都市の支部長交代に合わせて来る事になっている」

『……もしかして、教国の子なんですか!?』


 流石にキトラもこれで大凡を察したらしい。思わず声を大にして驚きを露わにしていた。


「そうだ……まぁ、身元については問題はない。教国に未練も無いだろう」


 ソーニャを引き取るにあたり、カイトはシェイラから保護者として情報共有、と彼女の身の上話を少しだけ聞かされていた。それによると、やはりソーニャは教国の暗部で『使用』されていたらしい。

 どの国だって暗部はある。それは教国でも変わらなかった。そしてその扱いはソーニャを見ればわかる通り決して良いものではなく、彼女自身は教国を好きではないらしい。

 ただシェイラが教国に留まるが故、彼女も教国に居るしかないだけだ。と、そんな裏はわからずとも、カイトの物言いと彼の来歴からキトラも大凡は察したらしい。若干だが顔を険しくする。


『……厄介事になりかねませんか?』

「もうなってるよ」

『あ、あはははは』


 どうやら避けられない状況に陥って、こうなったらしい。カイトの遠い目にキトラはそう理解する。そしてそれなら、ともう彼は考えない事にした。考えたって無駄だからだ。


『とはいえ、それでしたらこちらは関与しません。そちらで差配して頂ければ』

「もとより、そのつもりだ。最終的にはウチで引き取りたい、という言葉に嘘はない。彼女の才能は間違いなく有数のものだ。惜しむらくは、事務ではない、というところだが」

『なら、なおさら我々としては問題無いかと』


 カイトの言葉に、キトラは改めてソーニャについては関与しないと明言する。そうして、カイトはそれを受けてソーニャ引取の準備を整える事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初に『「ああ……まぁ、偶然だがオレが知り合った女の子でな』って話してるのに後で 『『その事務員の女の子は何時?』 「おい、なんで女の子限定だ…』 てやり取りするのはおかしいのでは?
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