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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第83章 次のステップ編

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第1999話 新たな旅 ――大地の賢人――

 『大地の賢人』なる精霊に会い、合法的に転移術の入手を試みることになったカイト達。そんな彼らはシャーナと共にラエリアの聖域へと足を踏み入れると、ひとまずは山越えに備えて休息を取ることになっていた。そんな中、カイトは『リーナイト』の一件で無茶をやった灯里の治療の手伝いと、自身の怪我の治療に努めて一日を終える。そうして、明けて翌日。彼はシャーナらと共に、山の奥に居るという『大地の賢人』を目指して移動を開始していた。


「そういえば……どこかに乗り物か何かがあるんじゃないのか?」


 一応、シャーナは元とはいえ王族だった。そしてここは聖域だ。王侯貴族が来ていたことは想像に難くない。なのでやはり普通に徒歩での移動を開始したことに瞬は疑問を得た様子だった。


「まぁ、それはあるにはある……それに乗る為に移動してる、というのが正確な所だ」

「どれぐらい遠いんだ?」

「もうすぐそこだ。そこまでは道なりに行ける」


 ここらはまだ定期的に手入れされているのか、遊歩道に近い道があった。というわけで暫くは遊歩道を歩いて移動することになるわけなのであるが、その遊歩道も五分ほど歩いた所で途切れることになった。


「……行き止まり?」

「何も……無いっすね」


 首を傾げる灯里に、ソラもまた首を傾げる。行き止まりにたどり着いたわけであるが、そこは森の中に出来た小さな空き地だ。カイトの話の通りであれば、ここになにか乗り物に近い物がなければ可怪しいわけであるが、本当に何もなかった。というわけで注目が集まったカイトであるが、そんな彼は何も言わずシャーナの一歩後ろに下がる。


「シャーナ様」

「はい……」


 カイトの要請を受けたシャーナが目を閉じて、手を空き地の傍にあった巨木に当てる。そうして、数分。唐突に風が吹いた。


「「「っ」」」


 吹き荒ぶ、というでもなく流れた風に、一同は一瞬だけ顔を顰める。とはいえ、吹いた風は本当にそれだけだ。が、その風が通り抜けた直後、唐突にアイナディスが口を開いた。


「……森が動きますよ」

「森が動く?」

「ええ……見ていればわかります」


 首を傾げる瞬に、アイナディスが一つ頷いた。そうして、彼女が告げるや否や、本当に森が動いた。


「「「……は?」」」


 嘘だろう、いくらなんでも。ここのことを知らない全員が思わず呆気にとられる。森が動いた。それは本当にそのままで、唐突に木々が樹木にはありえないぐらい活発に蠢き、張り巡らされた根が盛り上がっていくのである。そうして、誰しもが呆気にとられること暫く。いくつかの根が絡み合い輪を作り、森の鳴動は終わりを告げた。


「……な、なぁ……何が起きたんだ?」

「森が動いたのですよ。単に、それだけです」

「「「……」」」


 それだけって。笑ったアイナディスの言葉に、質問者であるソラを筆頭に全員が言葉を失った。確かに、言ってしまえば森が動いた。それだけである。が、明らかにエネフィアの一般常識と照らし合わせても普通ではなかった。というわけで、ソラがおずおずと問いかける。


「ふ、普通ここまで動かないっす……よね?」

「動く必要がないので動かないだけです。後それと豊富な魔力が必要となるので動かない、でもあります。先程吹いた風。あれには風属性の魔力が豊富に含まれていました。それを吸収し、森が動いたのです」

「じゃあ、もしかして……本気になれば、どんな森でも動けるんですか?」

「動こうと思えば、後はそこまでの元気があれば、ですが」

「「「……」」」


 どうやら本当に森は生きているらしい。一同はそれを心底理解する。と、そんなことを思う一同であったが、そんな一同の前で生み出された木々の輪が唐突に光り輝いた。


「っ……なんだ?」

「あれは……どこか別の場所……?」


 見えたのは、どこか別の場所の光景。少なくともこことは全く別と言い切れる光景がそこにはあった。それに、ティナが口を開く。


「『転移門(ゲート)』じゃ。森の知識は大地の知識でもある。森は森の外のことは知り得ぬが、その代わり魔術などであれば大半を知っておる。エルフ達は森から様々な知を学ぶ。その中には魔術もある……まさか転移術を森が使えぬとでも?」

「普通使えると思わねぇよ……」


 どうやら自分はまだまだ常識というものに囚われていたらしい。ティナの言葉にソラは思わずそうツッコんだ。とはいえ、そういうことであれば、この先が『大地の賢人』の待つ聖地への入り口ということなのだろう。というわけで、一応の危険性の確認を行うべくカイトが先行し、その次にシャーナが。その後に他の面々も続いていく。


「……本当に別の所にこれちゃったよ……」

「くくく……これが分かれば、あまり森で迂闊なことをするではないぞ? 大魔術程度なら本来なら、森はたやすく行使出来るからのう」

「逆にエルフ達が森の中で強くなるのも、森がバフを掛けてくれるからだね。気を付けないと怖いよー?」

「「「……」」」


 肝に命じておこう。どこか脅すようなティナとユリィの言葉に、天桜学園関係者一同はそう心に決める。と、そんな一同が全員移動したと共に、せり上がっていた根が再び地面に潜り込み、垂れ下がっていた幹が昇っていく。


「あ……帰り、どうするんだ?」

「帰りは帰りでまた動いてくれる……さて、行こうか」


 ここに到着したからと言って、まだ『大地の賢人』に会えるわけではない。ここはあくまでも『大地の賢人』が待つという聖地の外れ。入り口だ。というわけで、一同はカイトの号令に従って、森の中へと分け入ることになる。が、今度は一切の道は無く、本当に森に分け入るような感じだった。


「シャーナ様。大丈夫ですか?」

「何度か来ていますので……問題ありませんよ。それに、これでも身体能力は魔術で底上げできます」

「失礼しました」


 そもそもラエリアの王族――現帝室もだが――の中で王位継承を成した者は一度は絶対にこの聖地で『大地の賢人』にお目通りをしなければならない。実際、シャーナもここには来たし、シャリクもまたここに来ていた。というわけで、そんな話をしながらカイト達はただひたすらに奥へと歩いていく。


「そういや……カイト」

「なんだ?」

「どこ目指してるか、わかってんのか?」

「大体はな……まぁ、お前らがわからんでもしょうがないが」


 シャーナはまだラエリアの王族だったので全員先導することに疑問は無いが、今回やはり立場などもあって先導者はカイトだった。そんな彼の足取りはたしかで、目印も何も無い様子なのに迷いがなかった。そんな彼の肩の上のユリィが、ソラの問いかけに教えてくれた。


「カイト、一応私達ほどの精度じゃないけど森の声が聞けるからね。森が方角を基本教えてくれるし」

「後は、<<森の加護>>もあるからな」

「<<森の加護>>?」


 聞き慣れない名だ。カイトの言葉に、ソラは思わず首を傾げる。これに、アイナディスが教えてくれた。


「森の精霊から与えられる加護です。森に愛されし者の加護……その加護を得た者は、森の支援を受けられるようになります……私やユリィに次いで、森からの支援が受けられるのはカイトでしょう。無論、風の大精霊様のお力添えが無ければ、の話ですが」


 先にユリィが言っていたが、エルフ達や妖精達には森の中では森に住まう者として森の支援が受けられるという。森の声だってその一環と言える。それをもたらすのが、この<<森の加護>>らしかった。


「へー……それも、シルフィちゃんの力か?」

「いや……大昔に狩人の女の子と一緒に旅してた事あってな。その子がはぐれの森の精霊だった。その子が森に還る際に、加護貰った。オレに狩りの基本を教えてくれたのも、その子だ」


 どこか思い出すように、カイトが笑う。そんな彼に灯里がふと思い出した。どうやら聞いた事があったらしい。


「ああ、前に言ってたオカリナの子?」

「それ。オカリナくれた子」

「吹けるのか?」

「……あれだけは、必死で練習したからな」


 ソラの問いかけに、カイトは少しだけ照れくさそうに笑う。というわけで、彼は少し照れくさかったのか少し早口で話題を変えた。


「まぁ、でもあれ意外と森だと便利でな。森からの支援を全体に行き渡らせたり、森の獣達を動員出来たりする……音が鳴り響いてしまうのだけが、難点だが」

「そこら、音響魔術にも近いからねー」


 音響魔術。それは音楽魔術とも言い換えられ、一般には音楽などの音を使って奏でられる魔術らしい。が、使いこなせる者が非常に限られてしまい、滅多な事では使えないのであった。無論、音楽を数少ない苦手分野とするカイトも音響魔術だけはからっきしだった。


「そういや、音楽魔術って使いこなしたら強いんかね?」

「強いぞー。バフ・デバフ、果ては攻撃も出来るからな」

「あー……騒音、耳痛そうだもんなー」

「いや、普通に敵燃やしたり出来るぞ。しかも音だから生半可な防御じゃ防げないし」

「マジ?」

「マジ。ギリシアのオルフェウス。彼が本気でやれば、並の魔物は消し飛ぶ。更に言えばオレが割と生存に苦労する所でも動ける……まぁ、流石に当人もきつそうだったが」


 流石は神話に名を残せし音楽の名手。ソラはオルフェウスの噂に思わず頬を引き攣らせる。彼は音楽一つでランクSクラスの魔物とさえ戦えるらしかった。他にも精神高揚などの音楽の基本的な効果から、それを利用した結界の作成など神話の領域にまでなると正真正銘神業としか言い得ない事が出来るとの事であった。とまぁ、そんな感じの他愛ない事を話しながら歩く事、少し。唐突にシャーナが立ち止まって前を歩くカイトへと声を掛けた。


「あ、カイト」

「? どうしました?」

「道、間違えています。こっちです」

「?」


 きょとん。敢えて擬音を当てはめるのであれば、それが一番相応しい。そんな様子でカイトが首を傾げる。それに、シャーナもまたきょとん、と首を傾げた。


「あれ……? こっち……ですよね?」

「「はい」」


 シャーナの問いかけに、横を歩くシェリアとシェルクが一つ頷いた。彼女らもシャーナの側付きとして近くまで――最後まで立ち会ったのはハンナのみだったらしい――は向かっており、場所は把握していたそうだ。が、これにカイトが再度首を傾げる。


「はい……? 爺さん、動けないよな?」

「動けない……ね。多分。動いたら地形変わっちゃうし」


 確認するようにユリィに問いかけたカイトに、彼女もまた不思議そうに首を傾げる。どうやらユリィもカイトと同意見らしい。


「「「……」」」


 カイトとユリィ、そしてシャーナが三人揃って首を傾げる。それに、灯里が問いかけた。


「どしたのー?」

「いや……どうにもこうにもオレが来ていない三百年で不思議な事が起きてるっぽい。オレ達が前に来た時はこっちだったんだが、どうにもシャーナ様達はあっちに行ってたみたいなんだ。いや、たしかにあっちでも間違いじゃないんだが……」


 どうしたものか。灯里の問いかけにカイトは少しだけ困ったような顔をする。これに、灯里が問いかける。


「間違いじゃないんだが……なんなの?」

「話しにくくないですか?」

「話しにくい……ですか? 逆にそちらの方が話しにくい気が」

「顔を見ながらの方が話やすくないですか?」

「触れながらの方が話しやすい気が」

「まぁ……シャーナ様の場合はそうでしょうが……ですが、話す際に動いて」

「へ?」


 唐突に妙な事を言いだしたカイトに、シャーナが驚いたように首を傾げる。これに、カイトとユリィが揃って首を傾げた。


「……動きますよね?」

「……動くんですか?」

「……動いてたよな?」

「うん」

「はぁ……確かに動きますね」


 カイトの問いかけを受けたソレイユとアイナディスの二人が頷いた。尚、この際は口を挟めなかったが、この二人もカイトと同じ方角に行くものだと思っていたらしい。この二人もカイトと共に『大地の賢人』と話しており、三百年前の事ではあるが場所を覚えていたのである。というわけで、そんな二人の返答を受けて、カイトはこれは何かあるな、と理解したらしい。


「おーい! 爺さん!」

「「おじいちゃーん!」」


 カイトに続けて、ソレイユとユリィの二人が声を上げる。これに、どこかおっとりとした声が響いてきた。


『聞こえとるよー。おちびさん達も元気じゃのー』

「おーう! 久しぶりー! 元気かー!?」


 響いた声にカイトが喜色を浮かべ、更に問いかける。これに、声が楽しげに笑った。


『うむうむ。元気じゃよ……まぁ、身体なぞ無いに等しいから元気かどうかは判断に困るがのー』

「あっははははは! 違いねぇな! で、どした!? なにかあったか!?」

『うむ。少し困った事になっておってのー。すまんが、何時もの所まで来てくれんか』

「あいよ! すぐ行くよ!」


 何者かの声に、カイトは喜色を浮かべて応じる。これに、灯里が問いかける。


「今のが……『大地の賢人』様?」

「ああ」

『うむー。カイトのお姉さん。今は少し話せんが、驚かんでくれ』

「は、はぁ……」


 どうやら声を張り上げないでも、本来は聞こえているらしい。と、そんな彼の言葉に一瞬呆気にとられた灯里であったが、そこで目を見開いた。


「あれ? 私の事、知ってるんですか?」

『知っておるよ。儂はこのエネフィアに根付く精霊……エネフィアで起きる大半の事は知っておる』

「はー……」


 元々大半の事は知っている、という噂の賢者だ。なので灯里も驚きはしたものの、その程度不思議はないか、とも思ったらしい。というわけで、一同はそんな『大地の賢人』に導かれ、何時もカイトが話をするという場所に向かう事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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