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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第83章 次のステップ編

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第1997話 新たな旅 ――聖域――

 天桜学園の帰還に向けて、ラエリアに存在するという『大地の賢人』と呼ばれる精霊と会うことになったカイト達。そんな彼らは『リーナイト』での一件を終わらせると、その後その一件の影響で変更になった日程の関係で改めてシャリクより発行された許可証を手にシャーナの飛空艇に乗り込んで、移動を開始することになる。

 そんな中、カイトは『リーナイト』での一件での無茶が祟り療養状態になっていた灯里への説教を終わらせると、『大地の賢人』へ向かう面子が到着したという報告を受け改めて飛空艇の艦橋に移動する。


「さて……」

「にぃー」

「あいよ。アイナも到着、と。スーリオン殿はどうだった?」


 何時もの如く自身に抱きついたソレイユを抱え、カイトはエルフ達の国から帰還したアイナディスに問いかける。それに、彼女はため息を吐いた。


「やはりあちらも頭を抱えていらっしゃいました。幸いといえば幸い、あちらは異空間かつ多くの場所と繋がる上、『転移門(ゲート)』と比べて各国使用に躊躇いが無いことがあります。まだ、増援は容易いでしょう」

「か……『転移門(ゲート)』の使用はどこの国にしても、苦渋の決断だからな……」


 そして何より、エルフ達の国だとカイトが優先的に駆けつけることが出来ることも大きい。あそこは一応統治者はスーリオンになるが、実際にはクズハが統治者だ。なのでそこらの面からも見過ごせない。というわけで、実際には他の国よりかなり心理的には余裕があったのは事実だろう。頭を抱えるだけで済んだ。


「まぁ、それは良いか。ひとまず、混乱が起きていないなら問題はないだろう」

「ええ。そもそも我々エルフは長寿ですから、あの三百年前の戦いを覚えている者も少なくない。逆にこの程度の混乱で済んでいる、と考えている者も多いぐらいです」

「なるほどね。確かに」


 もし本気で<<死魔将(しましょう)>>達が動いていた場合、この程度で済む筈がない。エルフ達の中にはこう考えている者も少なくないらしい。なので基本的にはエルフ達は今の動きが予兆に過ぎず、と考えてしっかり備えておこう、としている者が多いらしかった。そして三百年前を直に経験していればこそ、混乱も少ないらしかった。


「で、他は……カリン達は後で別口。セレス達が、ぐらいか」

「お世話になります」


 これは仕方がないことなのであるが、カリン達はやはり『リーナイト』での一件に関連して暫くの間はあちらに留まり復興の支援を行うらしい。

 特に彼女らは自身で飛空艇を持っており、移動と宿については問題無い。しかも腕についても非常に高い為、ユニオン側としても彼女らが暫く滞在してくれるのは願ったり叶ったりだった。というわけで、当初の予定とは異なりカイト達とは別に『大地の賢人』に会うことになり、ここには居ないのであった。


「良し。これで全員だな。ウチは全員揃ってるし」

「私も帰還済みー」

「っと……あっち、どうだった?」

「基本、問題無いよ。ウチがあるしね」


 カイトの問いかけにユリィは特に気にする必要もない、と明言する。やはりマクスウェルには<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>の基地とマクダウェル公爵家があるから、だろう。そして冒険者達の中でも腕利きは多い。

 他にもミカヤのように軍属や義勇軍ではなくとも、腕利きとして名を馳せた者は少なくなかった。無論、クズハ達が一切の動揺を見せないこともある。結果、住民達にも来るなら来い、という気概が共有されている所は多く、混乱は無いとのことであった。


「良し。じゃあ、ひとまずシャーナ様に挨拶して、それから向かうか。ホタル。シャーナ様の状況は?」

『問題無し。いけます』

『こちらももうすぐ出発の準備が整いますので、身だしなみには注意してくださいねー』


 カイトの問いかけに艦内のシステムを統括するホタルと、操艦を担当するアイギスが一応の注意喚起を行っておく。当然であるが、マクスウェルに帰還していないホタルは今も修理出来ていない。なので彼女は変わらずこの飛空艇のシステムと連結し、飛空艇の統括をしているとのことであった。アイギスはホタルの補佐で、何時もとは逆になっていた。というわけで、そんな彼女らに導かれながら、シャーナの所へと向かうことにするのだった。




 さて、シャーナとの謁見から数時間。昼を過ぎて夕刻が随分と近付いた頃だ。その頃になり、一同は帝都ラエリア付近の山林地帯へとたどり着いた。その光景を、一同は揃って艦橋から見下ろしていた。


「……すごいな……ここら一帯、完全に手付かずなのか……」

「ラエリアの聖域だ。大大老であろうと、ここだけは絶対に手を出さなかった大聖域。神聖王国ラエリアにして、現神聖帝国ラエリアが開祖シャマナが育った場所。飛空艇でさえ、進入禁止のエリア」

「『始祖の聖地』……我らが太祖シャマナ。その育った地です」

「シャーナ様」


 自身の解説を引き継ぐかのように告げたシャーナに、カイトは跪いて頭を下げる。それに、他の面子もまた半ば慌て気味に、半ば優雅に頭を下げる。そんな彼らに、シャーナが笑う。


「構いませんよ。頭を上げてくださって……本当の聖地はここから更に奥。あの山を更に越えた先です。カイトには、馴染み深いのかもしれませんが」

「私もそこまで訪れたことはありませんよ。せいぜい、一年で両手の指程度です」

「王族でさえ、そこまで頻繁には訪れられませんよ。私も在位の頃には年数回です」


 カイトの返答に、シャーナが楽しげに笑う。一応シャリクというかここへの立ち入りは帝室の専権事項になっている。なので本来は彼らも自由に立ち入れるわけであるが、実際にはここは開祖の聖地。彼らでさえ自由な立ち入りは出来ず、本当の意味で自由に立ち入れるのは帝王のみ――最終的な許可を出す為――だった。


「私の場合、地球へ帰還する際の助言を受け取る為、密かに立ち入っていましたので……本来は重罪ものです」

「貴方を咎める方は誰も居ないでしょう」


 カイトは大精霊の友として認識されている。故にノームの眷属であると言われている『大地の賢人』は彼にとってもまた友であり、彼の来訪については『大地の賢人』その人が一切の許可を不要にしてほしい、と同行していた時の王様に頼んでおり、流石の大大老達も『大地の賢人』の依頼とあっては断れなかったようだ。

 が、彼の場合はやはり筋を通すらしく、基本的にはラエリア側に提出して立ち入っていたのであった。まぁ、そんな彼も流石に帰還にあたっては混乱を避ける為にも申請はせず、密かに話に来ていたらしかった。と、そんな女王様と勇者の会話を繰り広げるわけであるが、当然この場には彼以外にも人は居る。なのでシャーナはなにか聞きたそうなソラの顔を見て、彼へと話を振った。


「ソラさん。何か聞きたげですね」

「え、あ、えーっと……あの一つ良いですか?」

「ええ」

「その……見た所、道とか無いみたいなんですけど……どうやって行くんですか?」


 ソラは改めてちらりと艦橋の外を見て、完全に手付かずの森林を確認する。先に瞬が述べた通り、ここは一切の開発はされていない。そもそも精霊の中でも最上位の一体がここに居る。

 故に開祖シャマナの育った地という所を抜きにしてもこの場所の開発は不可能で、そして当然人の往来が無い以上は道もない。ソラの疑問は尤もであった。そんな彼の疑問に、シャーナがどこか冗談っぽく笑う。


「歩いて、ですね」

「「「え゛」」」


 シャーナの言葉に、ソラ同様真実を知らない者たちが一斉に固まる。ここから徒歩で山を幾つか越えるというのだ。しかも手付かずということは、魔物だって居るかもしれない。一応聖地なので居ない可能性もあったが、ほぼほぼ無装備で山越えはしたくはなかった。が、そんな固まった者たちに対して、少ししてカイトが笑った。


「……シャーナ様。冗談かどうかわからない冗談はやめてあげてください。ソラ達が信じたではないですか」

「ふふ……ごめんなさいね」


 どこか苦笑するカイトの言葉に、シャーナが楽しげに笑う。どうやら彼女なりのジョークという所だったらしい。まぁ、流石に王室――現在は帝室だが――や王様に徒歩で山を一つ越えさせるのは色々と問題があるだろう。とはいえ、聖地ということでソラ達も思わず信じてしまった様子だった。というわけで、彼女に変わってカイトが説明を引き継いだ。


「まぁ、少し歩くのは事実だ。どうしても爺さん……『大地の賢人』付近は切り拓けないからな。爺さんの意向で開けた場はあるが、それだけだ。道は無い……獣道もな」

「け、獣道も……」

「精霊種の居る聖域だ。獣達は本能で精霊の居る場所と悟って近寄らんから、道が出来ないんだ……その代わり、爺さん目当てで喋りに来た神獣あたりが居る可能性はあるが」

「「「……」」」


 それ、多分並の危険動物より遥かに危険じゃないかな。一同はここが改めて聖域や聖地と呼ばれる類であることを思い出す。とはいえ、これだって稀で、出会えればラッキーだったね、ぐらいのことだ。故にカイトも居るかもしれない、程度に留めておいた。そんな彼に、気を取り直したソラが問いかける。


「え、えーっと……それでどうするんだ?」

「馬車を使えれば、良いんだろうが……それも難しくてな。まぁ、こればっかりは論ずるより見た方が早い。明日を楽しみにしておけ」

「多分、シャーナ様の冗談より冗談な様子が見れるよー」

「お、おう……」

「初見の方は皆さん、驚かれます」


 どうやら、この移動方法は秘密ということらしい。カイトとユリィの言葉についで、シャーナもまたどこかいたずらっぽく笑う。こちらは本当にすごい物らしい。一同はそう理解する。と、そうしてそんな話をしていると、ゆっくりと飛空艇が着陸の姿勢に入った。


『マスター。ご報告です』

「ん?」

『指定された着陸可能ポイントへと到着。これより着陸します』

「わかった」


 ホタルからの報告に、カイトは一同に一度頷きを送る。今までは外を見る為に立っていたが、流石に着陸するとなってはしっかりシートベルト着用が必要だった。というわけで、およそ十分ほど。一同を乗せた飛空艇が着陸した。


『マスター。完全に停止しました。降りられますが、如何しますか?』

「どうされますか? 流石に明日にはなるでしょうが……」

「一度、降りて良いですか? 久方ぶりですから……」

「では、私もお供致します」


 自身の問いかけに頷いたシャーナに、カイトもまた立ち上がる。そうしてそんな彼らに従って、一同はひとまず外に出た。


「……」


 夕暮れ時の森の中、シャーナは静かに目を閉じて木々の音に耳を澄ませる。そんな彼女を見ながら、瞬が問いかけた。


「何されてるんだ?」

「……いや、わからんが。単に目を閉じて思い馳せてる、って感じだろ」

「なにか意味があるんじゃないのか?」

「まさか。流石に遠すぎて爺さんの声も届かん。エルフ種みたく森の声が聞こえるわけでもなし。単に耳を澄ませてるだけだろ」


 どこか驚いた様子の瞬に、カイトはあっけらかんと特に意味が無いことを明らかにする。そして事実、特に意味はない。単に故郷の土に思い馳せる、というだけだった。そんな彼の返答に、瞬も思わず呆気にとられた。


「そ、そうか……」

「ああ……アイナ。森の様子はどうだ?」

「……問題ないですね。あの山の向こうまで、森は平穏である様子です」

「というより、ここら本当に変わらないねー」

「ここは変わらないからねー」


 アイナディスの言葉に続けて、ユリィとソレイユの二人が楽しげに笑う。一応ユリィがここに来るのは三百年ぶりだそうだ。ソレイユもカイトが居ないことで来れることがなくなり、同じぐらいここには来ていないらしい。


「それなら、問題は無いか……まぁ、お前らは少し好きに見て回ってみると良い。が、あまり飛空艇から離れないようにな」

「見る、と言っても何を見れば良いか……さっぱりわからん」

「確かに見る物は無いに等しいがな……飛空艇の中でも見てみるのも良いだろう」

「ああ、そちらなら少し気になった」


 カイトの言葉に、瞬はそれなら、と踵を返す。そうして、カイトを筆頭に残る者は残り、戻る者は戻ることになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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