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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第83章 次のステップ編

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第1996話 新たな旅 ――聖地へ――

 警察機関同士の交流会にやって来ていたというエマニュエルの部下ニクラスとの再会から明けて一日。カイトは灯里が目覚めたという報告を受けると、他の面子よりかなり早くに彼女の所へと向かい説教を行っていた。

 そうして説教からいつもの馬鹿げた話に移り、暫く。灯里に頼まれていた彼女の着替え一式を手渡すと、ひとまず客室へと彼女を連れていき空腹を訴えた彼女の朝食の用意を整える事になっていた。


「はいよ。お望み通りベーコンエッグ。サニーサイドアップにマヨネーズたっぷり。食パンは厚切り二枚」

「わーい。いただきまーす」


 カイトが持ってきた朝食に、灯里が笑顔でナイフとフォークに手を伸ばす。そうして一口口にして、上機嫌に頷いた。


「うむ。美味。いやー、弟が料理上手で助かった。やっぱり二十一世紀の男は料理出来ないと駄目ねー」

「はぁ……朝早かったから、自分で用意する羽目になっちまった。つか、何時も何時も言うんだが、オレの前で平然と着替えようとすんじゃねぇよ。オレも男だぞ」

「なんか問題? 女の裸なんて今更見慣れてるでしょ」

「そういうこっちゃねー……」


 特段の問題は無い。そう言わんばかりの灯里に対して、カイトは盛大にため息を吐く。驚くべき事なのであるが、基本的に灯里は父の居ない所ではかなりズボラだ。

 いや、これについては驚くべき事ではないが、驚くべきなのはそのズボラな一環に着替えも含まれている事だろう。なんと彼女はカイトの前でも平然と裸になり、着替える。あまつさえ脱いだ下着を洗濯カゴに入れておいて、とまでのたまうのである。

 それはカイトも灯里が自身に男女関係としての好意を抱いていると気付かない――後にこれを聞いたシャーナは彼女には珍しいほどにドン引きしたとの事であった――わけであった。


「あ、見慣れてる事については否定しないんだ」

「そもそもあんたの裸も見慣れてますけどね!? 多分百回は見てるわ!」

「うーむ……それで襲われないとは。一応プロポーションには自信あるんだけど……こんなでも駄目?」

「おい……」


 どや、と胸を両腕で挟んで強調してみせる灯里に、カイトは本日何度目かになる肩を落とす。これでまだ朝早い段階である。朝一番から疲労困憊になりそうだった。


「てか、襲ってほしいのかよ」

「うーん。それはいくらカイトでも勘弁ねー。無理やりは駄目よ? 合意の無い行為は犯罪。あ、でも光里ちゃん風に言うと誘い受けの場合は襲わないと駄目よ? そっちは据え膳食わぬは男の恥の罪」

「おい……」


 どこまで本気か冗談かわからない敢えて教師モードでの灯里の言葉に、カイトは再び肩を落とす。そうして、肩を落とした彼が疲れたように顎でワンディッシュプレートを指し示す。


「はぁ……まぁ、良いわ。さっさと食え。プレートも洗う」

「ああ、そっちは良いって。流石に用意してもらっておいてそこまでしてもらうのはね」

「あんた一応けが人だからゆっくりしとけ……てーか、お粥にするべきだった……」


 朝からしおらしい灯里を見て、カイトも若干本調子ではなかったらしい。少し配慮が足りていなかった、と自省する。なお、一応食べても問題はないし、灯里は平然と食事しているので問題はないだろう。


「あぁ、そんな気を使わないで良いわよ。一応、こうなる可能性も考慮に入れておいて、リーシャちゃんから万が一に備えて脳を検査する魔術とか教わったし」

「リーシャの魔術は科学的な見地は伴わん。特に脳の損傷については魔術より科学も重要だ」

「ああ、それなら問題ないわ。リーシャちゃんとティナちゃん、後それとリルさんと一緒にそこらの対処もした魔術作ったから。今彼女が使ってる魔術、全部それなんだけど……聞いてない?」

「……」


 何やってんの、この人。カイトは各界の傑物達と共に現代の技術をも取り込んだ魔術を開発した事を聞いて、思わず言葉を失った。ということで、そんな彼に灯里が畳み掛ける。


「というか、これでもきちんと後遺症残らないように色々と準備はしてたわよ? まぁ、バックロードの見通しが甘すぎたのは、ちょっちやっちゃったかなー、って思うけど」

「……まぁ、そうだろうけど。そういう事じゃなくて、だな」

「にゃはは。わかってる。ありがと」


 こつん、と額を額に付けて、微笑みと共に灯里がカイトへと感謝を告げる。先にも言われていたが、一応カイトが何を言ってきても勝てるように理論武装はしている。

 では何故彼女が用意した手札を一枚も使わずに白旗を揚げたかというと、最終的にカイトが感情論に持ち込む事が目に見えていたからであった。

 最終的にカイトがオレがいやだ、悲しい、と言うと彼女はどうあがいても勝てないのである。惚れた弱みか、それとも家族だからか。それは彼女自身にもわからない。が、一つわかる事がある。それはこの後だ。


「っ!」

「あ、照れた」

「うるせ! てか、一応言うが、オレあんたより年上だぞ!? ハズいに決まっとろうが!」

「精神年齢変わんなそうだけど」

「うるせぇよ! 精神年齢止まったんだよ!」


 顔を真っ赤にするカイトは誰がどう見ても照れ隠しだろう。やはりどれだけ一方的に歳を重ねても、灯里はカイトにとって姉みたいなものだった。なお、そんな彼も良く額を付けて相手を恥ずかしがらせているのであるが、やはりやる側とやられる側の差という所なのだろう。というわけで、暫くはそんなバカな事をしながら灯里が朝食を食べ、カイトはそれを待って片付けを行う事になる。


「んー! ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした」

「うむ……カイトー。デザートはー?」

「ねぇよ、んなもん。急ごしらえでんなもん用意出来ると思うな」

「えー」


 一応言うが、灯里はこれでも怪我から復帰したばかりである。目覚められる所を見ると脳に負った損傷は完治しているか大丈夫なほどにはなっているのだろうが、逆にそこに全てを費やしていたのだ、とも想像に難くない。が、口は元気な様子だった。というわけで、カイトは一応自身でも彼女の様子を見ておく事にした。


「おい」

「あに?」

「ちょい来い。一応、頭に後遺症とか大丈夫かしっかり見ておく。言っとくが、今日出発だからな」

「嘘!? もうそんな日!? 何日寝てたの!?」


 色々とあった所為で、カイトもすっかり言い忘れていたらしい。唐突に今日が出発日と知らされた灯里が大いに目を見開いた。


「あー……一応途中何回か起きてたらしいけど。三日は昏睡状態だった。シャーナ様を筆頭にシェリアやシェルクに感謝しておけよ。目覚めた際に話し相手になってくれてたらしいからな」

「……マジで?」

「ホタルからの報告だ。シャーナ様が命じて、あんたが起きたら報告を出すように言ってたそうだ」

「……」


 まっずー。一応シャーナは退位しているとはいえ、女王陛下である。その彼女に相当な気を遣って貰ったのだ。一応は一般人の感覚を持つ彼女としては、相当まずい状態と言ってよかった。というわけで頬を引き攣らせ言葉を失う彼女に、カイトが告げた。


「おい。なんだよその反応」

「い、いやぁ……流石に元とはいえ女王陛下に看病してもらったのは……ねぇ……?」

「オレも一応公爵で勇者なんですがね!? オレの方は良いのかよ!?」

「あんたはカイトでしょ!? 後天的にどうなろうが私にとってはカイトはカイト! どうでも良いわ!」

「おい! 言っとくが、オレの一言で死刑だろうと性奴隷だろうとなんだろうと出来るんだぞ!?」

「やってみなさいよ!」


 売り言葉に買い言葉。何時もの事と言えば何時もの事な二人が言い合いを開始する。まぁ、カイトもこの距離感を好んでいるし、灯里もこの距離感が好きで今の関係をダラダラ続けている。というわけで、何時ものじゃれ合いを行っていたわけであるが、そこにコンコン、とノックの音が鳴り響いた。


「あ?」

「おろ?」

「お取り込み中、失礼致します」


 入ってきたのはシェリアだ。彼女は何時もの表情ながらもどこか冷たい目でカイトを見ていた。というわけで、そんな彼女がカイトへと問いかけた。


「……けが人を相手に何をなさっているのですか?」

「……はぁ。それもそうか。まぁ、こんだけ元気なら問題無いだろ。何時ものじゃれ合いだ。流せ」

「……」


 この男。本当に気付いていないらしい。シャーナとカイトの会話を聞きながらも、内心カイトの事だから気付いているのでは、と若干だが勘繰っていたシェリアであるが、本当に仲の良い姉弟のじゃれ合いを見せる灯里とカイトの二人に、彼女も心底理解した。

 というより、そうでもなければカイトが組んず解れつの馬鹿騒ぎをベッドの上で繰り広げるわけがない。普通に胸は当たっていたしなんだったら下着も若干見え隠れするほど衣服が乱れていた。


「……思う以上に、お二人は不思議な関係なのですね」

「あ? まぁ……姉だ姉だとは言うが。実姉でも義理の姉でも無いから特殊は特殊か」

「まー、一応私達血の繋がりも姉弟関係も皆無だもんねー。ぶっちゃけ、私姉だ姉だと言ってるけど単なる自称。それこそ言っちゃえばアウラさんの方が姉だもんねー」


 言われてみて、二人共これが単なる自分たちが単に言っているだけの関係性である事を認める。が、だからこそ意図的に変えようとしなければここから先に進まないし、居心地の良さで変えようとしていないのだともシェリアは気が付いた。


(……どうやら、最大の問題は灯里様なのでしょう)


 何があったかは、余人であるシェリアにはわからない。が、少なくとも彼女はカイトとシャーナの話し合いの場に同席していた為、カイトに進む意思がある事は理解している。無論、彼自身に進める気が無い事もまたわかっている。


(カイト様としては、進む気が無い。いえ……当然ですか。彼は灯里様の心に気付いていない。そして自身の感情が如何なる物かもわからない。いえ、分かれない。感情は双方向。相手から向けられる感情が非常に重要です)


 これはカイトは仕方がない、とシェリアは思う。基本的に彼は自身への好意を理解出来る人物だ。なので好意を抱かれている場合は受け入れ、そして手放さなくて良いようにしっかりと守る。

 そのために様々な魔術や力を手に入れている。その最たる例は世界さえ越えてしまう魔術だ。そこまでされれば誰もが彼の頑張りを認めざるを得ず、呆れ混じりにハーレムを許容した。シェリア自身も、その一人と言える。が、それはあくまでも自身に向けられる好意が男女の物だと分かればこそだ。


(灯里様に何があったか……それは定かではありませんが、根本的に彼女はカイト様へ好意を抱いていた。それが、男女の仲へと変貌してしまった。それが、原因ですか)


 おそらく先に家族としての意識があったのだろう。シェリアはそう思う。そしてカイトも先に家族としての意識があったのだと思われる。

 ここで普通なら歳を重ねて思春期を経て家族ではなく男女であると認識するのが、正しい形だ。が、ここで何故か灯里はそれを拒んだ。家族のままである事を望んだ。自身が女であると理解しながらも、である。


(……要らぬ世話とは思いますが……)


 やはりここで気になったというかどうしても見過ごせなかったのは、この数日の事があったからだった。シェリアはここ数日の灯里を思い出し、僅かな迷いを生む。先にカイトが言っていたが、シャーナを筆頭に三人が灯里の看病に就いた。

 これはシャーナの意向だが、同時に理由もしっかり存在していた。言うまでもなく、灯里の為だ。彼女は思考を限界以上に分割した。睡眠していたのは脳の損傷もあるが、何より分裂し過ぎた意識を統合する為に、眠らねばならなかったのだ。


(……あんな顔をされては、見過ごせないではないですか)


 シェリアは少し前。灯里が夜に起きた時の事を思い出す。


『……わたしさ……皆に嫉妬してる。羨ましいと思ってる……だめなのに……私だけは、駄目なの』

『血の繋がりがある……ですか?』

『まさか……私とカイトに血のつながりがあれば、どれだけ良かったか。ないの。全く……あははは。カイト、ほんきだと血の繋がりがあってもきにしないかもだけど……』


 思考が分裂し過ぎた後遺症でたどたどしく無意識的に話される灯里の言葉を、シェリアは反芻する。正直、自身がカイトに身を捧げたのは単なる成り行きだ。が、それでも交わりは存在し、今では自覚するほどの情も抱いている。おそらく何時かは彼女もまたカイトの子をその腹に宿すだろう。それがシャーナより後になってくれれば良いのだが、と思うばかりだ。

 その自身に嫉妬。想像した事もなかったが、同時に灯里にとってカイトはそれほどまでに心の奥底で愛おしい存在なのだ、とも理解した。そしてそれ故に、申し訳なくも思った。


(……これは、贖罪なのでしょうか)


 どうなのだろうか。シェリアは自身の感情が見えず、僅かに困惑する。が、答えは変わらない。そしてそれを言えない事も、変わらない。故に彼女は他の面々が支度を整えた事を報告し、密かに動く事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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