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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第83章 次のステップ編

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2033/3941

第1993話 新たな旅へ ――出立――

 <<七つの大罪(セブン・シンズ)>>に対する対策を行うべく設けられたカイトとシャリクの会談の場。その場に向かう前にシャーナへと挨拶に向かったカイトであったが、そんな彼にシャーナより投げかけられたのは自身と灯里の関係と未来についてだった。

 そんな問いかけに対してカイトは自身の正直な心を語り、シャーナもまた今はそれを良しとして終わりとなる。そうして、そんな一幕から少し。カイトはシャーナの旗艦の通信室に入ると通信機を起動して帝都ラエリアへと通信を繋いでもらう。


『……あぁ、カイト。すまないな、待たせたか』

「いえ。お時間通りかと」


 実際にはカイトの側はシャーナとの話し合いがあって少し予定より遅れてしまっていた。が、元々余裕を持って動いていたため、彼にとっても丁度良い時間と言う所であった。なので大して待った感は無く、問題もなかった。


『それで、早速で悪いが本題に入りたい』

「はい……まず皇国としての立場ですが……」


 そもそもカイトは本来は皇国貴族だ。なので今回の一件を受けて皇国の立場を伝える特使の役割も与えられており、そこの話し合いを行う必要もあったらしい。とはいえ、これは今回の一件を受けた時点で各国思惑を一致させていたので、単に皇国としての立場を露わとしただけに過ぎなかった。


『そうか……皇国も一緒か』

「はい。我が国としても、基本的にはこのまま『転移門(ゲート)』を封印せず活用するべし、というのが基本方針としました」

『皮肉なものだな』


 カイトの言葉に対して、シャリクは深くため息を吐いた。皮肉。それはエネフィアの一般的な常識としての歴史を知っていれば、こう思わざるを得なかった。


『三百年前、『転移門(ゲート)』を使われて世界中が恐慌状態に陥った。それを受けて各国は『転移門(ゲート)』を厳重に封印した……二度と、奇襲を受けないように。だが、今はその『転移門(ゲート)』を使わねばならない、か』

「仕方がない事です。今回の一件のように、一日も待てない事態が起きてしまえばレインガルドは間に合いません。いえ……エネフィアに存在するありとあらゆる艦艇が間に合わない。旧文明さえ間に合わす事は出来ないでしょう」

『はぁ……』


 カイトの指摘に対して、シャリクは深くため息を吐いた。三百年前に世界が滅びかけた最大の要因。それはティステニアの武力でも<<死魔将(しましょう)>>達の暗躍でもない。

 『転移門(ゲート)』による奇襲攻撃と、世界各地に点在した巨大移動要塞だ。その恐怖はあまりに果てしなく、どちらも終戦時に存在したものは各国厳重な警備体制の下、封印措置が取られていた。それを、解いたのだ。シャリクが頭を抱えたくなったのも無理はなかった。そしてそれ故、カイトは再度告げる。


「……仕方がない事です。あの状況では、こうするしか手が無かった」

『わかっている。わかっているからこそ、私もこれを提案した』


 カイトの言葉に対して、シャリクは一つ頷いた。だがそんな彼も、各国の言い分もまた理解できていた。


『それが、奴らの思惑の可能性が高くとも、だ』

「……はい」


 シャリクの言葉に、カイトもまた苦い顔で頷いた。当然の話であるが、カイト達には<<死魔将(しましょう)>>達の思惑はわからない。一応この数日で宗矩から話は聞いているが、彼自身それが正しいかどうかはわからない、と明言している。

 なにせ彼らは脅されて従わされたに近いのだ。自身の蘇生を対価に協力を強要された。それが、七人衆の公的な立場だった。嘘を教えられている可能性は非常に高い、というのが各国の考えだった。


『今回の一件……預言者殿が言うように『転移門(ゲート)』の封印を解除しない事にはどうしようもなかった。間に合ったのは正直幸運だったのだろう』

「……」


 間違いなく幸運だっただろう。カイトはシャリクの言葉に無言で同意する。今回の一件、流石にどう考えてもカイト達だけではどうしようもなかった。

 最後のひと押しになってくれたのは、『転移門(ゲート)』を通してやって来た世界中の冒険者達だ。そして同時に、『リーナイト』の冒険者の精神的な支えになっていたのも彼らである。

 彼らという増援が来ると知っていればこそ、最後まで誰もが戦い抜けた。間違いなく、エネフィアは『転移門(ゲート)』が無ければ敗北していた。


「ですが……奴らがかつて使った『転移門(ゲート)』の封印を解除させられた」

『ああ……我らは『転移門(ゲート)』が何個あるか知らない。まだ、残っているかもしれないのだ』

「……」


 それ故に、大陸間同盟各国は『転移門(ゲート)』の封印を嫌がった。今見付かっている『転移門(ゲート)』で全てではないかもしれないのだ。何より、『転移門(ゲート)』に関する事であれば<<死魔将(しましょう)>>達の方が詳しい。何時また奇襲を受けるかわかったものではなかった。


「今使わなければ確実に死ぬか、一年先に奇襲を受けるかもしれないか。我々はどちらかしか、選べない。なら、今の危機を何とかするしかないのは当然の判断です」

『わかっている。そして大陸間同盟各国もわかっている』


 なにせあの無数の<<守護者(ガーディアン)>>だ。これが<<死魔将(しましょう)>>達による攻撃である以上、このまま放置すればエネフィアが滅びるというのは誰もが即座に理解した。が、だからこそ誰もが頭を抱えるしかなかった。それが敵の手による物だからこそ、だ。


「はい……ですから、決して奪われないように厳重な警備を行うべきです。『転移門(ゲート)』を使わなければ守れない事は、火を見るより明らかです。ならば奪われないようにしつつ、万が一知らない場所から接続されても問題無いように『転移門(ゲート)』の警備を厳重にする事が重要かと」

『ああ……どこまで頑張れるかはわからんが、最善を尽くすしかない』

「ええ」


 少しだけ気を取り直して明言したシャリクに、カイトは一つ頷いた。『転移門(ゲート)』を使わない、というのはもう不可能だ。封印するにも時間が必要だし、開封にも当然時間が必要だ。

 使い終わって封印し、使う時に開封するなぞ綱渡りは出来なかった。使うか使わないかのどちらかで、使うしかなかった。


『……とりあえず。皇国の意見は理解した。我が国もまたそれに賛同する事を明言しよう』

「はい。基本、我が国の方針としては出入りを見張りつつ、半数を開封。残る半数は封印したままとします」

『我が国もそのつもりだ』


 改めての情報のすり合わせに、シャリクは一つ頷いて同意を明言する。確かに『転移門(ゲート)』の開封には同意したわけであるが、流石に全てを解放なぞ危険過ぎるし、何より全てを守りきるには戦力が足りなすぎた。

 とりあえずは半数程度を開封し、残りは今より更に強固に封印する。それが、各国の決定だった。そうして、カイトはその後しばらくシャリクとの間で皇国とラエリアの情報交換と認識のすり合わせ、共同体制の構築に必要な種々のやり取りを行う事になるのだった。




 シャリクとのやり取りから明けて一日。増援兼交代の人員としてやって来た者たちの支度と今回の一件で怪我を負った者たちの出立を見送ると、カイトは改めて飛空艇に乗り込んでいた。


「ふぅ……」


 飛空艇の艦橋の椅子に腰掛けて、カイトは深くため息を吐いた。流石に今回は彼も色々とあった、としか言えない。なのでここしばらくの疲れもあって少しの疲労が見え隠れしていた。と、そんな彼の上にソレイユが腰掛ける。


「にぃ、お疲れ?」

「流石にな……お前は?」

「まだマシかなー」


 どうやらソレイユは政治的なやり取りなどには関わらない為、カイトほどの疲れは無い様子だった。が、彼女も彼女でいくらカイトからの魔力供給があれど無数の矢を放っていたため、戦闘後は疲労困憊で一両日眠るほどだった。そして同じ様に眠った者が居る。


「アイナは?」

「ねぇねは復活ー。急ぎで国に戻るって。明日には合流出来るって連絡来たよー」

「ってことは、ユリィと一緒かね」


 アイナディスは本来ハイ・エルフの王族だ。なので今回の一件を受けてスーリオンの呼び出しを受けており、クズハと共にマクダウェルに戻り彼女と共に国に戻っていた。そしてその代役としてユリィも戻っており、アウラと共にクズハの抜けた穴を埋めていた。


「フロドは?」

「ナースさんナンパしてた」

「……問題無いか。まぁ、あいつについては好きにさせとけ」


 深手ではないが浅くもない怪我の筈なんだがね。カイトは元気そうなフロドに呆れたように笑う。が、ナンパ出来ている所を見れば、少なくとも安心は出来るのだろう。その点は安心だった。というわけで、そんな彼に一転ソレイユが問いかける。


「で、にぃは?」

「この通り、土手っ腹に風穴だ。一番深手だろうさ」

「……痛くない?」

「痛みは無い」


 確かめるように自身の腹を触るソレイユに、カイトは軽く笑った。一応彼の怪我についてはクズハ達と共に増援でやって来たリーシャ――現在はマクスウェルにて冒険部やその他冒険者達の治療中――の手で治療されており、ひとまずは問題無い状態にはなっていた。後は無茶をしなければ、という所だろう。


「にしても……今回は久しぶりに大人数での訪問になりそうか」

「お爺ちゃん喜ぶねー」

「お前、最後に会ったの何時だ?」

「にぃと一緒ー」


 カイトの言葉にソレイユは改めて彼の膝に座りながら答える。お爺ちゃん、というのは『大地の賢人』の事だ。一応彼は精霊かつラエリアの国父にも近いので滅多な事では会えないが、カイトと共に活動した事もある彼女は会った事があったらしい。が、それ故にこそここしばらくは会えていないらしかった。と、そんな彼女がふと思い出したかのようにカイトへと問いかけた。


「そういえば……にぃー」

「んー?」

「バルっちから遠征隊どうするー、ってお話聞いてる?」

「あー、それか」


 ソレイユの問いかけに対して、カイトはバルフレアが推し進めていた暗黒大陸への遠征隊の一件を思い出す。先の<<七つの大罪(セブン・シンズ)>>に関する話し合いでは話されていなかったが、それまでにバルフレアの要望で何回か設けていた話し合い――というより相談に近いが――の際に方針を話していた。


「一応、続行の予定は続行の予定だ。が、延期は延期だそうだ。流石に被害がでかすぎるからな」

「かー」


 やっぱりそうなったか。カイトの言葉にソレイユは納得したように頷いた。幸いな事に死者は少ないが、同時に負傷者はかなり多い。エネフィアなので各種の魔術や回復薬で地球に比べて復帰は早いが、それでも一、二ヶ月で何とかなる話ではない。なるべく急ぐように手配は行うが、どれだけ急いでも実施は初冬になるだろう、との事であった。


「ま、そこらについての最終的なジャッジは被害状況の確認が取れた後だ。とりあえず爺さんの話が終わった頃合い、帰る前に聞けば良いだろう」

「んー……じゃ、とりあえずしばらくはお暇だねー」

「まぁな。ってことでオレは少し寝る」

「私もー」

「お前な……」


 自身の上で丸くなるソレイユに、カイトは呆れたように笑う。とはいえ、どけるつもりはないらしい。そのまま彼はソレイユを小型のだきまくらにして、少しの休息を取る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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