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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第82章 悪夢の中の再会編

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2022/3937

第1982話 七つの大罪 ――最終作戦――

 『暴食の罪(グラトニー)』討伐戦。『リーナイト』の冒険者達とラエリアの総力を上げて行われたそれは、十時間が経過した頃から冒険者達側の劣勢が如実に現れる事になる。

 そんな所に現れたのは、レヴィとシャリクが説得した事により『転移門(ゲート)』の解放を決めたエネフィア全土の腕利き達で構成された増援部隊だった。そして彼らの出現と共に、ティナ達もまた無の空間を創り出す魔術の創造に成功する。そうして、両者の出現を受けてレヴィは改めて『暴食の罪(グラトニー)』討伐戦の最終段階に入った事を明言。改めて、最終作戦の概要を説明する。


『ジュリウス、フィオ! 貴様らの所はこいつを全て覆い尽くせる無の空間を創れ! 少しでも外に飛び出れば、その時点で終わりだ! 水も漏らさぬ様を見せろ!』

『すでに各員への習得は終わらせている。予備の人員含め、何時でも大丈夫だ』

『こちらは基本予備ね。あ、それと重傷者はすぐにこちらに運び込んで。今まで開発に協力させていた奴も動けるから、人員は十分な筈よ』


 レヴィの指示に、ジュリウスとフィオの二人はこちらの手配が全て終わっている事を明言する。後に聞けば開発におよそ七時間、全員に習得させるのに残りの時間を費やしたとの事であった。


『良し! それで、その他冒険者全員に告げる! その他冒険者達は全員で魔術師共を防衛しろ! 死んでも守れと何時もなら言いたいが、今回ばかりは状況が違う! 決して死なず、護衛対象を守り抜け! 逐一誰にどこに行け、という指示は出さん! パーティを決めている時間なぞ無いからな! わかったら見えた奴全部を護衛しろ!』

『『『おう!』』』


 実にわかりやすく、手っ取り早い指示。それに無数の冒険者達が応諾の声を上げる。そうしてそれに、ジュリウスが告げる。


『冒険者各員に要請する。これより<<知の探求者達(シーカー)>>各員により『暴食の罪(グラトニー)』の討伐に必要な第一段階……完全なる無の空間へと封じ込み処置を行う。それに伴い、この『暴食の罪(グラトニー)』の外周部全域へと術者を移動させる必要がある。そこまでの護衛を頼みたい』

「<<(あかつき)>>の野郎ども! 全員、奴らを守れ! 数はウチが最大だ! ランクSのくそったれなゴミも大量に出て来るが、全部叩き潰せ!」


 ジュリウスの声に続いて、バーンタインが大音量で指示を飛ばす。それに合わせ、各地からやってきた冒険者達が一斉に動き出した。それを受け、瞬が問いかける。


『カイト。ウチはどうする?』

「ウチも基本は同じく、という所で良い。が、ウチはティナの援護が必要だ……それに、全員もう保たんだろ」

『……まぁな』


 瞬は一度自身の周囲を見回して、たしかに、と同意する。カイトに次いで魔力と体力があるのは瞬であるが、その彼でさえかなり厳しい状況だ。その他の奴らは、というともはや言わずもがな、という所で誰もが疲労困憊と言ってよかった。と、そんな所に。久方ぶりに聞く声が、耳朶を打つ。


『おーい! 皆無事か!』

「ソラ!? お前来たのか!?」

『おう! クズハさんに状況聞いてな! こっちは任せろ!』

「任せる! 先輩と共に、生き残る事に注力しろ!」

『おうさ!』


 ソラが応じるや否や、太陽にも似た輝きが地上に生まれる。そしてそれに共鳴する様に、太陽の輝きがもう一つ地上に生まれた。


「これは……弥生さんか!」

『ええ。<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>を使えば、気力と体力の回復になってくれるはずよ』

「助かる」


 カイトは自身にも降り注ぐ太陽の加護に、僅かな安らぎを得る。と、そんな彼の横。クズハとアウラはまだしも、どういうわけかレックスにまで加護が降り注いだ。


「ん? 俺まで?」

「なんでさ」

「……あ、そっか。俺からすりゃお前らと出会った後だから、世界的に見ればそっちが優先されるのか」

「あー……」


 なるほど。カイトはレックスが<<布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)>>の加護に含まれる理由を理解し、納得を浮かべる。言われている事であるが、カイトは一度過去に帰らないとならない。

 こればかりは因果律の関係で絶対だ。そしてそこに帰る際にユリィらが同行していた事はレックス自身の言葉から明白だ。これがどういう形でなされた事かはわからないが、その際に弥生も同行していたとて、不思議はなかった。とはいえ、それなら利用させてもらうだけだ。というわけで、カイトが告げる。


「じゃ、やるか」

「おう」


 どんっ。カイトとレックスから再度、神々しい闘気が吹き出した。そうしてレックスが彼方へと飛んでいき、真紅の光が道を切り開く。その背に、カイトが告げた。


「……そっちは、頼む」


 幾度となく困難に挑み、絶望の闇の中に希望という光を射して来た者。自身が最も信頼する紅き英雄。その背を、カイトは何よりも頼もしく感じていた。


「お知り合いですか?」

「ああ……ま、何時か。お前らにも紹介するよ。遠い未来なのか、それとも近い将来なのかはわかんねぇけどな」


 クズハの問いかけにカイトは一つ頷き、気合を入れる。そうして、彼はティナへと問いかけた。


「ティナ……教えてくれ。オレはどうすれば良い?」

『うむ。お主はこのままこの本陣を守れ。余もこちらに控えるが故な』

「りょーかい……で、何をするためだ?」

『余は所謂信管じゃ。全ての準備が整った後、全ての魔術を一斉に起動させる。補佐にジュリウスとジュリエットの二名が就く』


 確かに誰よりも魔術に詳しいのは、この三人だろう。何より、これだけ莫大な領域を覆い尽くさねばならないのだ。些細なズレも生じさせないため、誰かが中心として動く必要があるのは当然だろう。というわけで、カイトはティナの指示に頷き、更にその言葉の先を促す。


「それで?」

『うむ……それでお主の役目じゃが……少々、困難な事を言うが良いな?』

「オーライ。なんでも言ってくれ。この星を破壊しない限りは、最善を尽くそう」

『よう言った……作戦開始において、このデカブツをエネフィアから遠ざけよ』

「「「わーお」」」


 このデカブツをエネフィアから遠ざけろ。言ってしまえば凄い簡単な事だ。が、現在の『暴食の罪(グラトニー)』はすでに数十キロにも及ぶ超巨体だ。現在エネフィアで観測されている限り、最大の魔物だろう。

 まぁ、カイトが知る限りでも最大の魔物はこの『暴食の罪(グラトニー)』だ。それを、エネフィアから遠ざけろ。誰がどう考えても巫山戯ていた。


「正気か?」

『こんなもん、正気で言えるわけがあるまい。狂気の沙汰じゃ……が、この状況では狂気でもなければやってられん。手はお主に考えてもらいたいが、なにか良い手はあるか?』

「オーライ」


 狂気の沙汰ならどんとこいだ。カイトは楽しげに笑い、両腕の双龍紋を輝かせる。手は、考えついていた。


「ティナ。タイミングは合わせる……スタートを言ってくれ」

『うむ……にしても、思うたより多いのう』

「これでも、万単位では消し飛ばした。それでも減らなくてな。いや、減ったそばから増やされる、か」

『後でゴミ掃除する魔術開発せねばならんのう』

「その心配は無いだろ。オレが前に仕掛けた魔術で滅べば滅ぶ。まさに夢幻の如く、ってな」

『かのう』


 それなら心配は無いか。ティナはカイトの言葉を信用しておく。確かに彼の言葉が確かなのであれば、これでも全盛期よりは遥かに肥大化の速度は遅いらしいのだ。それが真実と考え、後始末は考えない事にする。無論、やらないよりやる方が良いというのは変わらない。単に費用対効果の観点というだけだ。


「……ふぅ」


 呼吸を整え、意識を集中する。そうして、彼はアイギスに連絡を入れる。


「アイギス。聞こえるか?」

『イエス』

「まずは状況を報告しろ」

『イエス。現在、シャーナ様、レイシア皇女率いる艦隊の護衛を遂行中。ホタルが抜群の働きをしてくれています。艦隊の損害は想定の七割という所。轟沈は無し。中破三隻、各艦小破という所……あの子、こういう細かい操作が得意そうですねー』

「お前よりか?」

『イエス。今回、私も任せてはみましたが……思った以上に得意そうです。なんというか……効率化? そんなの得意そうです』

「そこらは、お掃除ロボットの面目躍如か」


 元々、ホタルは戦闘用ゴーレムとして開発されているわけであるが、それでも大軍を指揮が出来るわけではない。ゴーレムはあくまでゴーレム。機械に近い。

 あくまでも機械的に動くゴーレム指揮が出来るだけで、それだって指揮とは言い難い。どちらかと言えば子機の操作だろう。が、ホタルはカイトやティナの下で艦隊の運用を補佐して来た結果、艦隊の操作が出来る様になっていたのであった。


「まぁ、そりゃ良い。今気にする事じゃない」

『イエス……それで、どうしました?』

「ああ。通信機を頼む。権限はオリジネーター。命令はトレース」

『イエス……コマンド:オリジネーター。権限……承認。命令……トレース。対象をどうぞ』

「対象は蒼より増援要請にて来る個体に限定」

『イエス……コマンド、実行承認。命令、受諾されました……何するんですか?』

「こいつをぶっ飛ばして欲しいんだと。流石にオレ一人じゃどうしようもない」


 全力全開でやれるのなら、問題はないんだろうがな。カイトはうずく腹を押さえ、わずかに笑う。休憩の最中に調べたのであるが、どうやら体内に仕込まれたなにかは取り立ててヤバいものではなかった。

 ジーンが愛用していた魔術の一部が『暴食の罪(グラトニー)』に取り込まれた際に彼の腕の中に取り込まれたらしく、それが突き刺さった際にカイトの体内に残留してしまったらしい。

 そして彼が強引に引き抜いた事により半端に機能し、変な感じが生まれてしまっていた様子だった。随分昔の魔術だったし、取り込まれた際にか変質してしまったのでカイトも変な物と認識してしまったのだった。


「……忘れないさ、お前もララも……」


 あの時は何もかもを失ってしまったのだ。遺品一つなかった。それが、遠い未来にてわずかにでも回収出来るなんて。カイトはその歓喜を胸に、わずかに笑う。そうして、彼は改めて身体に力を込める。


「全員、支援を頼む。オレがあいつをぶっ飛ばす」

「ん」

「はい」

「りょーかい」


 カイトの言葉に、アウラ達が一つ頷いた。と、そんな所に。この戦いでも有数の活躍を見せていた日向達が飛来する。


『三人共、私達の背に。カイトに追いつけないでしょう?』

『ユリィはわたしー』

『クズハは私へ』


 エドナの言葉に続けて、日向と伊勢が各々の乗り手へと背を向ける。そうしてエドナの背にアウラが、日向の背にユリィが、伊勢の背にクズハが跨った。


「良し……ティナ。こっち、何時でも行けるぞ」

『うむ……後は、外殻を構築する者たちが到達するまで待て。全てはそれからじゃ。それまでは、徹底的に敵を殲滅せよ。お主の大好きな何も考えんで良い殲滅戦じゃ。不足はあるまい?』

「当然……オレの得意分野だ」


 こちらにはこちらのするべき事が。あちらにはあちらの為すべきことがあるのだ。なら、カイトは冒険者の一人として、信じて待つだけだ。そうして、カイト達は外周へと向かう冒険者達の到達を信じて、先とは逆に『リーナイト』での戦闘に加わる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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