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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第82章 悪夢の中の再会編

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2015/3938

第1975話 七つの大罪 ――真紅の英雄――

 酒呑童子の力の発露により自我を失った瞬。そんな彼であったが、リィルの制止によりなんとか正気を取り戻すと、改めてリィルと共に魔物の討伐に乗り出す事となる。というわけで彼女と共に戦いに乗り出した瞬だったが、そんな彼の前に現れたのは幾つかの魔物を合成して出来た『ドラゴン・キメラ』だった。そうして、『ドラゴン・キメラ』を酒呑童子の連撃と頼光の雷により消し飛ばした後、二人は一旦『リーナイト』の街に降下する。


「ふぅ……」

「はぁ……」


 瞬とリィルは街に着陸するとすぐに、身にまとっていた力を停止させる。瞬はそもそも自身の力を制御出来ていなかったし、リィルはリィルで先の中津国での戦いで使用した<<紅翼天翔(こうよくてんしょう)>>を展開しており、こちらもこちらで余力が無い事は事実だった。


「流石に疲れた」

「ええ……」


 合成獣(キメラ)。不可能とされた魔物を生み出す魔物。どの様にして生み出したのかは不明だが、もはや自分の常識を捨てねばならないのだろう。瞬とリィルの二人は背中合わせに腰掛け、息をつく。が、そうして少しの休息を取ろうとした所で、周囲の誰しもが言葉を失った。


「あれは……」

「うそだろ……」

「はは……こりゃ、だめか……」


 蔓延するのは諦め。今まで堪えていた最後の一線を超えたような、なにかが途絶えるような気配が蔓延する。そんな空気に、瞬とリィルが上を見た。


「……これは……」

「そんな……」


 瞬が乾いた笑いを浮かべ、リィルが思わず槍を取り落とす。見えたのは、先に倒した合成獣(キメラ)と同じく、幾つかの魔物をかけ合わせて出来たような魔物達。一体倒すのでようやくだった魔物達が、何十と落ちてきたのである。が、落ちてきた次の瞬間。次元の裂け目が出来て、一息に飲まれていった。


「……」


 クオンの<<次元斬(じげんざん)>>。誰もが今の一撃が彼女の物であると理解する。とはいえ、彼女が消し飛ばしたそばから、更に何十体と合成獣(キメラ)が落ちてくる。


『おぉおおおおおおおおお!』


 落ちてきた合成獣(キメラ)に向けて、灼熱の巨人と化したバーンタインが雄叫びを上げて殴り掛かる。その一撃で合成獣(キメラ)が消し炭になった。


『おい、てめぇら! 腑抜けてんじゃねぇ! ごちゃまぜになっただけの奴に何腰抜かしてやがる! 後数時間! 堪えきれ!』

「「「おぉおおおお!」」」


 バーンタインの叱咤に、冒険者達が再度奮起し立ち上がる。が、それに対して『暴食の罪(グラトニー)』は更に数百の合成獣(キメラ)を産み落とす。


「……行くか」

「ええ」


 本当なら少し休みたい所だが、どうやらそうも言っていられないらしい。数百のの合成獣(キメラ)を見て、瞬とリィルは再び気合を入れて立ち上がる。が、その次の瞬間だ。赤い閃光が、迸った。


「何だ?」

「赤い……閃光?」


 天高く舞い上がる赤い閃光に、瞬が思わず目を丸くする。その赤い閃光は一度小さくなるも地面から弾かれる様に飛翔し複雑奇怪な挙動を取り、一瞬にしての合成獣(キメラ)の群れを壊滅させた。


「今のを……一瞬で……?」

「うそ……だろ……?」

「まさか、叔父貴か!」


 こんな事が出来るのは、カイトしかいない。バーンタインが思わず歓喜の声を上げる。確かに、彼がこちらに到着していても不思議はない。そして今の戦闘力だ。彼ぐらいしか居なくても、不思議はない。そうして、赤い閃光が収まってその正体が露わになる。


「……誰だ?」

「あんな奴……居たのか?」


 顕わになったのは、真紅の髪を棚引かせる獅子を思わせる高貴さを持つ一人の美丈夫。どこかカイトに似た子供っぽさが滲む笑みを浮かべていたものの、決して彼ではない誰かだった。そんな彼の真横に、アルとルーファウスが現れる。


「アル。ルーファウス。知り合いか?」

『ああ、瞬……うん。彼こそ、僕らの切り札だよ』

「彼が?」


 確かにアルとルーファウスがなにかの準備をしていたというのは聞いていたが、それがこの真紅の青年だとは。瞬は想定外の存在に、思わず困惑する。

 が、同時にわかりもした。あの戦闘力だ。間違いなく、この場における切り札になりえた。とはいえ、そんなアルの言葉にはどこか歓喜というか、涙ぐんでいるような様子があった。と、そんな彼の言葉を聞いたからか、真紅の青年がこちらを向いた。


『ええ。今の僕らの仲間です』


 通信機にアルの声が響く。どうやら真紅の青年がアルに何かしらの問いかけを行い、それにアルが答えたという所なのだろう。そうして、真紅の青年が消えた。


「っと……よ」

「え? あ、はぁ……」

「固いなぁ……って、ん? お前、確かどっかで……」


 真紅の青年は瞬を見て、不思議そうに顔を顰める。それに、瞬はどこかむず痒いような顔をした。


「え、えーっと……どうかしたか?」

「……あぁ、思い出した。そうか。お前か」

「はい?」

「あぁ、こっちの話こっちの話」

「「レジディア陛下!」」


 困惑する瞬に笑う真紅の青年に向けて、アルとルーファウスの二人が慌てて飛来して跪く。そんな二人に、真紅の青年が笑う。


「陛下はやめてくれ。俺は所詮写し身。お前らと戦友だった戦士ってだけだ」

「いえ、陛下。それでも、陛下は陛下」

「我らの団長と唯一対等であらせられる方です。故に、喩え写し身だろうと陛下なのです」

「お前ら相変わらず固いなぁ」


 真紅の青年はアルとルーファウスの言葉に、少し楽しげに笑う。そんな彼だったが、唐突に上を向いた。


「はっ……カイトが本気でやったって奴が居るって言うからどんなのか見に来てやったが……なるほど。あいつが珍しく疲れたよ、なんて言うわけだ」

「「なぁっ……」」


 絶句するしか、瞬とリィルには無かった。自分達が上を向いた瞬間、真紅の青年が拳を振って拳圧だけでの合成獣(キメラ)を消し飛ばしたのだ。が、そんな拳を見ながら、真紅の青年は困った様にアルとルーファウスに問いかけた。


「……なぁ。全盛期よりどれぐらいだ?」

「半分より出ていないかと」

「長兄が言われていた北の要塞攻略の程度かと」

「かぁ……はぁ……まー、写し身だから仕方ないんだけどよ」


 今ので、全盛期の半分以下。真紅の青年の言葉に、瞬もリィルも言葉を失う。あれだけ苦労したの合成獣(キメラ)が、何百体と居た合成獣(キメラ)が一息に消し飛んだのだ。とてつもない、という言葉では到底足りない戦闘力だった。そうして、そんな彼が手を鳴らす。


「さて……で、二人共。俺のダチはどこだ?」

「団長なら、今こちらに急行中です」

「そうか……なら、ちょっとは減らしておいてやるか。あいつほっとくと全部自分で抱え込みやがるからなぁ」


 まるで楽しげに、真紅の青年は肩を回す。そうして、次の瞬間。彼が楽しげに両手を引いた。


「さて……おい」

「「はっ」」


 真紅の青年の促しに、アルとルーファウスは瞬とリィルを一歩下がらせる。そうして、それを横目に見て真紅の青年が拳を放った。


「おぉおおおおおおおおお!」


 雄叫びと共に、無数の拳打が迸る。それは数多の魔物を打ち砕き、しかし一切『暴食の罪(グラトニー)』には届かない。まさに、神業。そう言うしかない芸当だった。そうして、数秒。無数の拳打が迸った後、万を優に超えた数の魔物は、一体残らず消し飛んでいた。


「はっ……ま、これでちょっとは時間稼げるか」

「「……」」


 なんなんだ、この殲滅力と神懸かった腕前は。瞬はもはや言葉もなく、ただただ再び絶句するしかなかった。そんな二人に、アルが告げる。


「この程度で呆れてちゃ、始まらないよ。彼は……彼こそが」

「ああ……彼こそが、我らの団長と唯一対等に立つ男」

「「レックス・レジディア。究極の勇者に対する至高の英雄」」


 レックス。アルとルーファウスから自らの名を呼ばれた真紅の青年は、にかっと快活な笑みを浮かべる。その表情はどこか、カイトに似ていた。と、そんな名を聞いて、ふと瞬が気がついた。


「……レジディア?」

「……私のご先祖様です」


 どこかで聞いた名だ。そう思った瞬に対して、セレスティアが舞い降りる。が、そんな彼女はかなり疲労困憊で、イミナに支えられてなんとか立っている様子だった。

 後に聞けば自分が召喚された事を理解したレックスは、一切の状況を聞くこと無く『暴食の罪(グラトニー)』が産み落とした無数の合成獣(キメラ)を潰しに掛かったとの事だった。自分が呼ばれるほどの事態なのだから、それしかない、と思ったとの事である。そうして、イミナに支えられたセレスティアが頭を下げる。


「レックス様」

「ああ……君が、俺の巫女か?」

「いえ……御身の巫女ではありません」

「それで、そこまで疲れてるのか」


 疲労困憊という様子のセレスティアに、レックスはなるほど、と頷いた。まぁ、実際は今まで一度も成功したことのない召喚をぶっつけ本番の上に自分の対応する英雄以外の英雄を呼ぶという荒業をしたのだ。その結果、成功はしたもののこうなったのであった。とはいえ、召喚で疲労していることもまた事実。故に、彼女はその言葉に頷いた。


「はい……」

「ま……状況は大体わかってるよ。俺を呼ぶぐらいの事態だから、どんなもんかと思ったけど……ははっ……」


 『暴食の罪(グラトニー)』を見て楽しげに、獰猛な笑みをレックスは浮かべる。


「『暴食の罪(グラトニー)』か」

「……ご存知なのですか?」

「もちろんだ。あいつはカイトがな……本当に辛そうな顔で俺達に教えてくれたんだ。この世界にはまだまだ上が居て、自分じゃどうしようもない事もあるんだ、って」


 ぐぐぐぐぐ、とレックスが拳を握りしめる。そんな彼にあったのは、間違いなく悔恨だった。


「あの時、俺達がどれだけ苦しんだと思ってる……あいつが戦っているのを結果しか聞けず。俺達がどれだけあいつを支えてやりたかったと思ってる……」


 その、悔恨を晴らす機会を得られた。レックスは獰猛に笑う。そうして、先程を遥かに上回るオーラが、彼から迸った。


「……潰して、良いんだな?」

「……え?」

「だめなのか?」

「い、いえ! よろしくお願いいたします!」


 レックスの問いかけに、セレスティアは慌てて頭を下げる。まさか潰して良いのか、という問いかけが来るとは想像もしていなかったらしい。なにせ相手は『暴食の罪(グラトニー)』。勝ち目なぞ一切無いはずなのだ。なのに、彼は勝利しか見えていなかった。


「オーケイ。見てやがれ、ぶよぶよに太ったデブ野郎。そして、覚えておきやがれ。俺こそが、貴様を潰したカイトと唯一対等に立つ男だってな」


 強烈な圧と共に、レックスが再度拳を振るう。それだけで、再度生まれでていた数千の魔物達が消し飛んだ。


「……俺と戦うなら、億単位で連れてこいや」

「『暴食の罪(グラトニー)』が……怯んだ……?」

「いえ……それどころか……わずかに遠ざかっている……」


 瞬の言葉に、リィルが呆然とつぶやいた。そう。レックスの気迫に押され、『暴食の罪(グラトニー)』がわずかに遠のいていた。『暴食の罪(グラトニー)』も理解したのだ。彼はカイトと対等だ、と。そしてそれ故にこそ、『暴食の罪(グラトニー)』は焦りに駆られた。


「なにかが……生まれる?」

「おい、アル、ルー」

「「はっ!」」

「邪魔するなよ。あいつが帰ってくるまでに準備運動ぐらいはしておかないと、格好つかないからな」

「「御意! ご武運を!」」

「おう」


 なにかは知らないが、明らかに並ではない存在が生まれようとしている。誰しもがそれを理解して呆然と見守る中、レックスは単身空中へと浮かび上がる。そうして、彼は単騎『暴食の罪(グラトニー)』より生まれでた魔物との戦いを行う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 2015年から読み始めて5年の歳月が経ち初めて感想書かせていただきます。 やっとやっとのレックスの登場でカイトとレックスの邂逅が嬉しくて涙が出てきます。 様々な意見等が小説を書いている上で…
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