第1980話 七つの大罪 ――要塞・撃破――
『暴食の罪』の生み出した超巨大要塞との戦い。それは<<守護者>>を駆ってさえ一気に突破が不可能な数の人型兵器と要塞各所の無数の砲台による砲撃に手こずりながらも、カイトは人型兵器の増援の合間に出来る砲撃の緩まる瞬間を利用し、なんとか要塞内部への突入に成功する。
そんな彼を要塞中央で待ち受けていたのは、未知の文明が作ったと思しき<<守護者>>と同サイズの人型兵器を『暴食の罪』が半人半蛇に改造した巨大兵器だった。
「さて……」
カイトは一点突破でわずかに乱れた呼吸を整えながら、改めて半人半蛇の機体を観察する。
(先に槍を破壊したのは、あの口からのレーザか。中々に高威力だったが……)
先の一瞬。停止する際の余波を使って振るった槍が一撃で破壊された事をカイトは思い出す。まぁ、アイギス曰くあの半人半蛇の機体はこの要塞の動力炉に直結されているか内蔵しているのだという。
であれば、この要塞の全出力が半人半蛇の機体と同義だ。この要塞の巨大さを鑑みれば、<<守護者>>の武装だろうと破壊出来るだけの火力があっても不思議はなかった。
「マスター。どうしますか?」
「潰す。それ以外何が?」
「ノー……方策は?」
「そりゃ、何時も通り」
「突っ込むのみ、ですね!」
「おうさ!」
楽しげなアイギスの返答を聞きながら、カイトは要塞の床を蹴って加速する。それに、半人半蛇の機体のフェイスガードが開いて、口腔を露わにする。そうして青白い炎が溢れ、先程槍を砕いた青白い光条が放たれた。が、直線的な光条なぞ見れば避けられる。故に彼は地面を蹴り、即座に<<守護者>>一体分だけ横にずれる。
「っ、だが!」
真横を通り過ぎた光条に、カイトはわずかに顔を顰める。どうやらこの巨大要塞の動力炉直結の威力は中々のもので、油断していれば<<守護者>>の装甲だろうと危ないかもしれなかった。そうして砲撃を回避し、カイトは更に地面を踏みしめて前へと飛び出そうとして、姿勢を崩した。
「何だ!?」
「足元! 妙な反応あり!」
「そりゃわかってる! 何が起きた!」
ずるり。まるでぬかるみに足を取られる様に崩れた姿勢を全身のバーニアを吹かして持ち直しながら、カイトは思わず声を荒げる。何が起きたかさっぱりだった。が、その原因は足元を見て、理解できた。
「手!? っ!」
拙い。カイトは地面から生えた手に気付いて、咄嗟に腹に備え付けられている魔導砲を展開。衝撃を殺さず反動で一気に天井へと激突する。
「ぐっ!」
「っ……っ! マスター! 攻撃、来ます!」
「っぅ! あいよ!」
背に走った衝撃に一瞬顔を顰めたカイトであったが、続いたアイギスの報告に逆向きに飛び跳ねる様に天井を蹴って衝撃でその場を離脱する。そうして、次の瞬間。半人半蛇の機体の口腔から光条が迸り、<<守護者>>が先程まで居た位置を貫いた。
「マスター! 前面、人型兵器顕現! 及び背後から追撃していた人型兵器も続々この部屋になだれ込んでいます!」
「めんどくせぇな、おい!」
地面に降下しながら、カイトは前面の床から這い出してくる人型兵器の群れと背後の自身が空けた穴から突入してくる人型兵器の群れを見て顔を顰める。そうして降下しながら、カイトは即座に刀を手にする。
「はぁ!」
着地と同時に一太刀で円形の斬撃を発生させ、周囲を取り囲もうとした人型兵器の群れを切り捨てる。そうして改めて立ち上がり、一度だけ周囲を見回した。
「ひのふのみのよの……」
「マスター。考えるだけ無駄です。どうせ増えます」
「だな」
何より、潰せば問題無いか。カイトはアイギスの言葉に敵の数を数えるのをやめる。彼女の言う通りどうせ考えた所で無駄だし、潰す事も変わらない。であれば、考えるより手を動かした方が遥かに良かった。というわけで、彼は刀を改めて構える。
「……ふぅ」
一度だけ、カイトは深呼吸して呼吸を整える。そうして、敵の行動を待つ事にする。数が数だ。こちらから打ち込んでどうにかなるわけでもないし、情報が足りていない。この局面を切り抜ける為にも、情報を集める必要があった。
「……」
「マスター」
「良い。言わんでもわかってる」
アイギスの言葉に、カイトは次の一手をすでに決めていた。先程の一幕を鑑みるに、こうなるのは必然だと思っていたのだ。そうして、彼がその場から飛び上がると同時。今まで<<守護者>>が居た場所に手が生えて、空を切る。
「見え見えなんだよ!」
即座に地面に着地し、生えようとしていた人型兵器の顔面を踏み抜いて、更に地面に刀を突き立てる。そうして、一息に要塞の床を消し飛ばした。
「さて……これでなんとか、かな……」
数百メートルに渡って確保された空白地の中で、カイトは改めて呼吸を整え戦略を考える。と、そんな彼に向けて、半人半蛇の機体のフェイスガードから再度青白い炎が溢れた。
(来るか? いや、さっきと違うが……)
先程はフェイスガードが開いて青白い炎がこぼれ落ちていた。が、今はフェイスガードが閉じたままだ。この差が何に起因するか。それを考える必要があった。そして、これが正解だった。
「マスター! 下方よりエネルギー反応!」
「っ!」
とんっ。<<守護者>>がカイトの動きに合わせて虚空を蹴ったと同時。その空間を青白い光が貫いて、要塞の天井を貫いて宇宙の彼方へと消えていく。そうして、回避した彼らへと無数の人型兵器の群れが殺到した。
「ちっ! 群れてくんじゃねぇよ!」
「牽制射撃開始!」
こちらに突撃してくる人型兵器に向けて、アイギスが牽制射撃をして怯ませカイトが刀を振るい両断していく。そうしてその場に足を止めた瞬間だ。<<守護者>>の真上に、青白い光が現れる。
「マスター!」
「棘!? いや、しっぽか!? っ!」
尻尾の先に灯る青白い光に、カイトは咄嗟にその場から飛び跳ねる。そうして、直後。彼らの居た場所を再度青白い閃光が通り過ぎた。
「なるほど! あいつから直結してるわけね!」
「イエス! 凡そその可能性が高いかと!」
「なら、逃がすか!」
アイギスの返答を聞きながら、カイトは虚空を蹴って左手を伸ばして、天井に引っ込もうとする機械の尻尾をひっつかむ。そうして引っ掴んだと同時に強引に引っ張って刀で尻尾を切り落とした。
「おらぁ!」
切り落とした尻尾をムチの様に使い、カイトは周囲に群がる人型兵器を牽制する。そうして一瞬動きを止めた瞬間、カイトは右手の刀を収納し拳に力を溜める。
「アイギス! 突っ込む!」
「イエス! あ、後それと、切り飛ばした尻尾の先端、再生しました!」
「そうか!」
どうせそんな事になるだろう事はカイトは想定済みだったらしい。故に彼はアイギスの報告に対して特に不思議にも思わずそのままを受け入れていた。そうして、彼は拳を突き出して一気に人型兵器の群れに突っ込んで、数十機纏めて破砕する。
「おまけだ!」
ある程度突っ込んだ後、カイトは拳に宿る白い光を球体として顕現させ、サッカーボールのボレーシュートの様に逆側に向けて蹴っ飛ばし、更に数十機の人型兵器を消し飛ばす。そうしておよそ百機の人型兵器が消し飛んだわけであるが、やはりここは要塞内部。そして壁だろうと床だろうと湧いて出てくるのだ。消し飛ばしたそばから、復活していた。
「マスター。だめですね、これ」
「みたいだな。ったく……」
アイギスの言葉に、カイトは側面の壁から生えた尻尾の光条を回避して返す刀で尻尾の先端を切り捨てる。と、切り裂いた真横から、別の尻尾が生えてきた。
「はいはい。一本じゃない、と」
「ランチャーで消し炭にしておきますねー」
「あいよ」
こちらに向けて先端に青白い光を宿して放たれる尻尾の刺突に対して、カイトが半身をずらして回避すると共にアイギスがバックパックのランチャーで半ばから破砕する。そうして回避した直後だ。今度は半人半蛇の本体側の口の部分から、青白い光条が放たれる。
「はっ!」
放たれた光条に対して、カイトは左手を突き出して障壁を展開。蒼い光が千切れ飛び、その余波で人型兵器が消し飛んでいく。
「おぉおおおおおお!」
左手で障壁を展開し、カイトは一気にそのまま押し込んでいく。が、流石にこの状況でそう簡単には進めないらしい。即座に人型兵器からの砲撃が殺到した。
「マスター!」
「無視! あの程度の攻撃なら問題無い!」
「ですが数が数です! 削られますよ!?」
「織り込み済みだ!」
発射される無数の砲撃に対してカイトはその場に立ち止まる事なく、一気に攻めきる事を選択する。あまりこの要塞の攻略に時間を掛けたくないのは事実だ。ならば、多少の損害は覚悟で一気に攻める必要もあった。
そうして、<<守護者>>の各所で無数の爆炎が上がり、細かな傷が付く。が、それでも<<守護者>>だ。生半可な攻撃なら問題無く、カイト達に一切のダメージを通さない。
「おぉおおおおおお!」
雄叫びを上げ、カイトは更に背面のフレアを強くする。そうして更に強く背後から迸る虹が彼らを後押しし、一気に半人半蛇の所までたどり着く。が、たどり着いたと同時に、半人半蛇の機体が八本の腕を一気に<<守護者>>へと突き出した。
「おぉ!」
突き出される八本の腕に対して、カイトは気合を漲らせて一瞬だけ障壁で食い止める。が、こんなものは一瞬の足止めにしかならない。故にただでさえ半人半蛇の光条により負荷が掛かっていた障壁に強大な負荷が掛かり、障壁が砕け散る。
「っ」
障壁の砕け散る反動で、カイトがわずかに顔を顰める。が、そのしかめっ面の中には笑みが浮かんでいて、これが織り込み済みである事が察せられた。そうして、彼は障壁が砕け散るのを見ながら切り上げる様にして逆袈裟懸けに刀を振り上げる。
「ちっ! 半分か!」
「マスター! 背後から敵接近!」
「背後の飛翔ユニットの噴出の向きを変えられるか!」
「イエス! どうぞ!」
以心伝心。そう言わんばかりに、アイギスはカイトの問いかけにその意図を理解。背後の噴出孔の向きと放出の形式を変更する。
「おぉおおおお!」
三度、カイトが吼える。そうして背後の噴出孔から一対の巨大な虹色のフレアが迸り、こちらに接近してきていた無数の人型兵器を消し飛ばす。そして更に、その勢いを利用してカイトは前に出る。が、その足に対して、人型兵器の腕が伸びてきた。
「マスター! 下より」
「強引に押し切る!」
「イエス! 脚部スラスターも噴射します!」
「上出来だ!」
<<守護者>>を捕らえんとする人型兵器の腕を全身から放たれる虹色の光で消し飛ばし、カイトは更に前に進む。そうして前に進んだ<<守護者>>へと、半人半蛇の機体は残る四つの腕を連打する。が、その一切をカイトは無視。一気に押し込みながら、打たれるに任せる。
「はぁ!」
ゼロ距離まで持ち込んで、カイトは思いっきり振り下ろす様に大上段から刀を振るう。その一撃により、半人半蛇の機体は肩から半ばまで両断される事となる。
「ちっ! 浅いか!?」
「というより、再生速度が高いのかと!」
「あいよ!」
なら、二撃目を叩き込んで叩き潰すのみ。カイトは二撃目を叩き込むべく、再度力を込める。と、その瞬間だ。アイギスが声を上げた。
「マスター! こちらを!」
「これは……っ!」
カイトが見たのは、切り裂かれた半人半蛇の装甲の切れ目の中に居た『暴食の罪』の肉塊に侵食された様子の女性の姿だ。目は虚ろで、意識がある様には見えない。敢えていうのなら、肉体だけを利用された生体ユニット。
そんな様子だった。彼女が、本来のパイロットだったのだろう。そう思われた。そんな女性に対して、カイトは刀を捨てて再度拳に力を溜める。
「かつて『暴食の罪』と戦った戦士として、戦友への最期の慈悲だ! 受け取れ!」
掌底を突き出す様に、カイトは女性目掛けて光を叩き込む。そうして、半人半蛇の生体ユニットにされた女性は光の中に消えて、同様にその愛機だっただろう半人半蛇の機体もまた消し飛ぶ事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




