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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第82章 悪夢の中の再会編

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2002/3937

第1973話 七つの大罪 ――蟻の一穴――

 『暴食の罪(グラトニー)』の上にて無数の『暴食の罪(グラトニー)』に汚染された人型兵器との戦いを行っていたカイト。そんな彼はその途上で新たな鎧を身に纏うカナタと合流すると、彼女、ユリィの二人と共に『暴食の罪(グラトニー)』から生み出される無数の人型兵器を破壊していた。

 そうして、カイトが戦線に復帰して二時間。人型兵器ではカイト達を止められないと悟ったのか、急に『暴食の罪(グラトニー)』が大きく盛り上がった。


「……あら……次は何かしら」

「知らねぇよ……流石にもうそろそろ減ってくれ、と思うんだがな」


 なにかが這い出ようとしているのを見ながら、カイトは盛大にため息を吐いた。そうして出て来たのは、今までの飛空艇というか宇宙船とは一回りも二回りも違うサイズの超巨大飛空艇だった。サイズとしては以前のヴァルタード帝国の旗艦にも匹敵するか、それ以上だろう。


「「「……」」」


 流石にこれは大きすぎやしないか。ところどころ肉塊に汚染されながらもかつての原型を覗かせる超巨大戦艦に、三人は思わずあっけに取られる。


「ねぇ、団長さん。これ何?」

「……おそらく第百艦隊旗艦だな。基本、艦隊は百個毎に一つの軍隊となっていた。ほら、あそこ……肉塊に汚染されちゃいるが……百のマークもしっかりある。その百個艦隊の総指揮を担うのが、あれだ」

「そう……凄い規模なのね」


 やはり地球とは違い一切の関係がない他の異世界だからか、それとも『暴食の罪(グラトニー)』に汚染されてしまったからわからないのかは定かではないが、カナタにもカイトが指差した所になにかも記号らしいものがある事は理解出来た。これがおそらく、第百艦隊を表している、という事なのだろう。

 なお、後のカイト曰く、艦隊の番号を決定する会議を開く暇が無かったので再編成などでも後から後から数を追加していった形になった結果、最大で第千艦隊まで到達していたらしい。延べ数でおよそ数百億隻は動いただろう、というのが、彼の言葉だった。


「……で、カイト。あの艦首で輝いてるの、何?」

「艦首備え付けの大型魔導砲。第百だから……小惑星破壊出来るぐらいかな」

「こっち向いてない?」

「向いてるな」

「やばくない?」

「やばいな」


 笑うしかないとはこのことだ。カイトは『暴食の罪(グラトニー)』から現れた第百艦隊の旗艦の艦首砲を見て引きつった笑いを浮かべる。そして、直後。艦首に取り付けられた巨大な主砲が火を吹いた。


「「っ!」」


 閃光に飲み込まれる直前。カイトはユリィとカナタの二人を転移させ、強引に範囲外に移動させる。そうして、彼は単身真正面から閃光へと向き合った。


「はぁ!」


 ここでこの攻撃を回避するわけにはいかなかった。この超弩級戦艦がどれだけの能力を有しているかは定かではないが、本来の出力の半分もあればラエリア艦隊の包囲網に届き得る。そうなれば、そこが蟻の一穴になりかねない。が、そうして受けてみて、カイトは目を見開いた。


(閃光!? そんな事が出来るってのか!?)


 わずかにしか訪れない衝撃に、カイトは驚きを隠せなかった。この超弩級戦艦の主砲は小惑星をも一撃で破壊してしまえる。その一撃だ。小さな星をも砕けるはずの一撃のはずなのに、カイトの障壁に襲いかかった衝撃はランクA相当の魔物の一撃でしかなかった。本来のこの戦艦にはこんな機能はない。カイトはかつてを知ればこそ、驚きを隠せなかったのである。と、そんな彼にユリィの声が響いた。


「カイト! 前、来る!」

「!?」


 そういうことか。カイトは敵の意図を理解して、顔に苦味を浮かべる。が、現状どうしようもない。攻撃は受け止めてしまっているし、範囲外に出した二人の支援が入るには若干遠すぎる。故に、彼は一直線に加速した超弩級戦艦の突進を受け、大きく吹き飛ばされる事になる。


「っ! ちぃ!」


 幸いと言って良いのか、カイトは障壁を全開にして防御の姿勢を見せていた。故に巨大質量の衝突に対してはノーダメージでやり過ごす事ができたものの、その壁面を何度かバウンドして姿勢を崩すことになり、その突破を許す事となってしまった。


「つぅ……ホタル!」

『了解』


 こいつを行かせるわけにはいかない。カイトの指示に、ホタルが即座に照準を合わせる。武装は縮退砲。この超弩級戦艦だ。生半可な出力では落とし切れないと判断したのだろう。


『縮退砲……発射』


 ホタルの声に合わせて漆黒の光条が迸り、超弩級戦艦に直進する。が、漆黒の光条が直撃するかに思われた次の瞬間、漆黒の光条は不可思議な挙動を見せて、まるで滑る様に超弩級戦艦を迂回して明後日の方向に消えていった。


「なに!?」

『高重力場による回折を確認』

「重力場フィールド!? あったか、んなもん!」


 あってもおかしくはないが、記憶にない。カイトは現状を報告するホタルの言葉に笑う様に声を荒げる。が、そんなことをしている間にも、敵は遠ざかるのだ。急ぎ、追わねばならなかった。故にカイトはユリィと合流すると即座に虚空を蹴った。が、まるでそれを見越していたかの様に、超弩級戦艦の背後を侵していた肉塊が盛り上がった。


「っ」

「どうする?」

「一気に押し通る!」


 多少の攻撃であれば、この際気にしちゃいられない。ユリィの問いかけに、カイトは前面に障壁を展開して一気に押し込む姿勢を見せる。が、そうして来たのは、彼が想定していない一撃だった。


「分離!?」

「じゃない!」


 カイトに続けて、ユリィが驚きを口にする。肉塊が剥離する様に後ろに飛んだ。二人にはそう見えたが、その剥がれ落ちた肉塊を突き破って右手がドリルになった人型兵器が現れたのだ。


「はぁ!」


 現れたドリル付きの人型兵器であったが、直後に飛来したカナタにより一刀両断に切り捨てられる。そうして彼女が急降下して再飛翔を掛けるのを尻目に、カイトは更に虚空を蹴る。が、そんな彼に対して、超弩級戦艦の背面の肉塊が次々と剥離。あっという間に数十体からなる人型兵器の分隊が出来上がった。


「ちぃ!」


 なにがあっても、追わせたくないらしい。カイトは前に立ち塞がる数十体の巨大人型兵器を前に、急制動を掛けるしかなかった。これを無視しても確実に自身を追ってくるだろうし、何よりこの数十体の人型兵器を無視して進むのはいくら彼とて中々に厳しい。やるしかなかった。そうして彼が苦々しげに止まったと同時。まるでそれを嘲笑するかの様に、超弩級戦艦が急加速した。


「くっ……」

「カイト。目の前」

「わーってる」


 刀を握り直し、カイトは苛立たしげに前を見る。そうして彼が刀を手にしたと同時に、数十の人型兵器が各々に取り付けられた砲口を彼に向ける。が、それが放たれるか否かという所で、一筋の漆黒の光条が迸り、爆炎が上がった。ちょうど攻撃の直前だった事もあり、動力炉もほぼフルパワー状態だった。故に爆発はかなりの規模で、近くに居た人型兵器達は揃って衝撃に姿勢を崩していた。


『マスター。こちらより遠距離支援を行います』

「ホタルか! 上出来だ!」


 この隙を逃すまい。ホタルの縮退砲が迸ると同時に、カイトが虚空を蹴って爆発で隊列が乱れた数十の人型兵器の中へと突っ込んだ。


「はぁ!」


 一太刀に切り捨てるべく、カイトは刀を振る。そうして一体を撃破した直後、ユリィが魔糸を別の一体にからませてカイトへと投げ放つ。


「はい、トス!」

「ほらよ!」


 投げ放たれた人型兵器に向けて、カイトが刀を振るい細切れにする。そうして細切れになった瞬間、彼が手のひらをそちらに向けて魔力の光条を放った。跡形も残さない。そんな意思が見て取れた。


「はぁ!」


 二体目を消滅させ、次の一体に取り掛かる瞬間。流石に姿勢を崩していた他の人型兵器達も姿勢制御を終わらせ、改めてカイトへと砲口を向ける。そうして、数十の光条が一斉に迸った。


「ふぅ……はっ!」


 光条が放たれると同時に、カイトが気合を入れて光条を全て障壁で受け止める。そうして僅かな拮抗が生まれた瞬間。下から蒼銀が奔り、三体の人型兵器を切り裂いた。


「だめよ。団長さんだけじゃないんだから……」


 一瞬で三体を切り裂いたカナタは楽しげに、上空を旋回。そのまま急降下して、更に返す刀で三体纏めて切り捨てる。


「はぁ!」

『……』


 カナタが六体を片付けたと同時に、ホタルが再度縮退砲を発射する。そうしてカイトに注意を向けている間に瞬く間に十機が破壊されたのを受けて、人型兵器がカナタとホタルにも砲口を向け、内数機が隊列を離れ二人へと肉薄する。そして同様に、カイトにもまた数機が肉薄し肉塊から骨と肉で侵食された大剣を取り出した。


「はっ!」


 振るわれる大剣ごと、カイトは人型兵器の腕を力任せに一太刀で切り捨てる。所詮量産機の大剣だ。はるか進んだ文明の物だろうと、魔力を使う事を考えれば純粋な『緋々色金(ヒヒイロカネ)』以上の物質は存在しない。

 この加工だけはどれだけ文明が進もうと、人の手による物になってしまう。魔力が絡む物は意思の力がなければ加工出来ないのだ。そして魔力が絡むが故に、使い手の技量が大きく関わる。故に、数千年進んだ文明の量産品をエネフィアの刀がいとも簡単に切り裂く事が出来た。そうして無防備な胴体へと、ユリィが魔力の矢を編んだ。


「<<極大化>>! <<魔力の矢(マジック・アロー)>>!」


 ユリィの編んだ矢は同様に彼女の編んだ魔法陣により巨大化し、人型兵器の胴体を吹き飛ばす。そうして胴体を吹き飛ばした魔力の矢は、そのまま少し飛翔して唐突に分裂。こちらに向かっていた人型兵器へと背後から襲いかかった。それを見ながら、カイトは迫りくる人型兵器の攻撃を一息に全て弾き返し、姿勢を崩す。


「ふっ! はっ! とっ!」


 カイトは楽しげに人型兵器の攻撃を弾き返しそして弾き返した傍からユリィによる魔力の矢が人型兵器を貫いていく。そうして、二人は瞬く間に五機の人型兵器を破壊する。が、これだけやってもまだ半分も破壊していない。まだまだ残りは多かった。


「ちっ……」


 放たれる砲撃を切り捨て、カイトは一瞬だけ舌打ちする。現状、怪我をしている上にここからの事を考えればあまり無茶ばかりもしていられない。となると、どうしても守りが多くなってしまうのは仕方がない。が、守りを固めれば固めるほど、超弩級戦艦は遠ざかる。にっちもさっちもいかない状況だった。


「ユリィ。頼む」

「あいさ」

「ふぅ……<<大旋風>>!」


 一瞬だけユリィに防御を任せたカイトは、大剣に風を纏わせ竜巻を引き起こす。そうして引き起こされた巨大な竜巻により、人型兵器が姿勢を崩す。


「纏めて、消し飛びやがれ!」


 右手に魔力を溜めて、カイトは巨大な魔弾を竜巻の中心に投げ放つ。そうして極光が迸り、爆発が巻き起こる。が、その全てが竜巻に飲まれて、外には一切逃さなかった。


「これで……八割は消し飛ばしたか」


 カイトは他の人型兵器が盾になりなんとか大破は免れた人型兵器を見て、しかし行動には移らない。その代わりに動いた者が居るからだ。


「さ……終わらせましょう」


 楽しげに、竜巻の目を上から眺めるカナタが笑う。そうして彼女はまるで子供が竜巻で遊ぶ様に、竜巻の中に魔力を流し込む。


「さ、残りもこれでお終い」


 竜巻に乗って、カナタの魔力が残る人型兵器を粉微塵に打ち砕いていく。その様はさながらミキサーの様でさえあった。そうして粉々になった人型兵器の残骸を消滅させ、四人は再度包囲網へ向かった超弩級戦艦を追い掛ける。


「ちぃ! 随分と遅れを取った!」

「流石に無理ね」

「カナタの意見に同意します……ラエリア軍の通信を傍受。丁度進路上の包囲網を構築している艦隊が超弩級戦艦による攻撃で撤退を余儀なくされた模様。包囲網再構築のため、増援部隊が現在動いています」

「ちっ!」


 本来、あの超弩級戦艦は惑星間航行が可能な宇宙戦艦だ。故にいくら性能が半分に落ちていたとて、最高速度はエネフィアの飛空艇を遥かに上回る。そして当然、大気圏離脱も可能なのだ。エネフィアの飛空艇よりはるかに速い速度だった。そうして、追撃する事少し。包囲網に出来た蟻の一穴まで一分という所だ。そこで、目の前に無数の魔物の群れが居る事に気が付いた。


「ちぃ!」

「どうする!?」

「無視! 穴を塞がんと、どうしようもない!」


 ここで可能な限り魔物を討伐しておきたい所であるが、ここで討伐に時間を掛けた所で穴を塞がねば後から後から入ってくるのだ。なら、もうここの魔物は無視するしかなかった。そうして、四人は魔物の群れの中をできる限り速度を落とさず、可能な限り討伐しながら一直線に超弩級戦艦を追撃するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「……おそらく第百艦隊旗艦だな。基本、艦隊は百個毎に~その百個艦隊の総指揮を担うのが、あれだ」 →この説明では第100艦隊の旗艦なのか100個艦隊の総旗艦で数千隻の旗艦なのか判然としな…
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