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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第82章 悪夢の中の再会編

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1994/4204

第1965話 七つの大罪 ――戦場の再会と離別――

 『暴食の罪(グラトニー)』討伐戦の傍らで起きていたカイト達日本出身の剣士達の戦い。それが終わるか終わらないかの頃に起きたのは、源次綱による瞬への襲撃だった。そんな戦いにアル、ルーファウスと共に肩を並べたのは、冒険部の同盟相手であるセレスティアだった。そんな彼女の支援を受け一旦戦列を離れた瞬は、更にカイトの縁を頼りに増援として現れたグリムと共に、再度戦いに赴く事となる。と、その道中。瞬はグリムが鎧を身に付けていない事を訝しむ。


「そういえば……鎧は?」

「不要だ……というより、この一戦に限れば邪魔だった」

「……それもそうか」


 なにせ相手は源次綱。物凄い猛者だ。余裕を見せられる相手ではない。が、これにグリムが笑った。


「違う……まぁ、今は」


 そんな場合ではない。そんな言葉だけを残して、グリムが一瞬だけブレる。そうして一歩分前に出た彼は、おもむろに大剣を投げた。源次綱の攻撃に耐えかね、セレスティアが大剣を落としたのだ。そこに、グリムが大剣を投げて源次綱の追撃を防いだのである。


「っ」

「感謝します!」

「良い……いつもの事だからな」

「!?」


 グリムの声を聞いて、セレスティアが思わず目を見開いた。そうして思わず驚いて足を止めた彼女の大剣を手にしたのは、なんとグリムその人だった。


「グリム?」

「兄さん!?」

「「「兄さん!?」」」


 唐突に出された言葉に、周囲の――源次綱を除く――全員が目を丸くする。そうして、グリムが仮面を取った。が、顔立ちは似ていなかった。というより、そもそも種族も違う。セレスティアは一見すると普通の人間種に近い様子に見えたが、グリムはエルフ種の特徴である尖った耳を持っていた。

 まぁ、種族が違うのは当然だろう。単なる義理の兄というに過ぎないからだ。そして何より、グリムというのは単なる称号。<<死翔の翼(ししょうのつばさ)>>ギルドマスターの称号に過ぎないのだ。


「ふっ……まぁ、そういうことだ」

「あ、あの……兄さん? 何故私がここに居ると?」

「総会でお前が普通に居たからだろう。見付けた時には笑ったがな」

「……居たなら声掛けてくださいよ……」


 確かに、総会ではセレスティアはもう正体を隠す意味はないだろう、と大鎧を脱いでいた。その結果、グリムもまた気付いた、というわけであった。


「今の俺の評判の関係で、あまりお前に接触はしにくかったのでな」

「はぁ……」


 そうですか。グリムの言葉に、セレスティアはため息混じりにそんな所なのだろう、と頷いた。と、そんな彼女にグリムが告げる。


「とりあえず……セレス。お前はさっさと封印を解け。遠目に見ていたが……奴には生半可な力では通用せん」

「あ、はい!」


 源次綱を一切の予断無く見据えるグリムの言葉に、セレスティアは慌てて目を閉じる。それに、源次綱は動かない。いや、動けなかった。現状のグリムは少し前に瞬が一緒に居た頃よりはるかに強いと分かるほどの風格があったのである。そうして、セレスティアの祈りを受けた大剣から真紅の光が迸る。


「「「っ」」」


 その場の全員が、理解する。この真紅の光を湛える大剣は間違いなく、何かしらの英雄やそれに類する者が使っただろう神剣の類。そしてその光の中に、アルとルーファウスが過去を見る。


『レックス殿下』

『殿下はよせよ。俺達は皆、この戦いを戦ってる仲間だろ? この場なら誰も問題にしねぇよ』

『それでも、騎士が王太子殿下に呼び捨ては出来ません』

『真面目だな、お前らは。そこばっかり双子でそっくりだ』


 呆れたような、カイトの声が聞こえてくる。それに、真紅の青年が笑った。


『よ、ダチ公。お目覚めか?』

『おう……なんとか、なったか』

『だな……とりあえず、飲むか?』

『貰うよ』


 カイトと並ぶ真紅の青年。蒼き勇者と対をなす真紅の英雄。それこそ、かつての彼らが誇りとした存在の片割れだった。そんな過去を見る二人を、瞬が訝しがる。


「アル? ルーファウス?」

「……はぁ」

「どうやら、か」


 これは苦笑するしかない。なにせこの場には様々な過去からの因果が複雑に絡み合っているのだ。瞬と源次綱。自分達とセレスティア達。おそらく、なにかの力が働いていると察するには十分だった。そんな五人に、源次綱は己の劣勢を悟る。


「……ふむ」

「さて……異邦の剣士よ。これ以上やるのであれば、俺もお相手つかまつろう」

「……」


 どうしたものか。ついに封印の解かれた大剣を手に、源次綱は僅かに思考する。流石の彼も瞬ら四人に加え、セレスティア以上のグリムまで加わった状態で戦って勝ち目はない。と、そんな所に。唐突に瞬が口を開いた。


「引け、綱」

「……酒呑童子か」

「お前の目標はもう達成されているようなものだろう」

「……」


 くすっ。一時的に瞬の肉体の主導権を握った酒呑童子の言葉に、源次綱が僅かに笑う。どうやら正解だったらしい。そうして、彼はにらみ合いをやめて自身の背後に空間の亀裂を生み出して、最後に口を開いた。


「……子孫。一つ、助言をしておいてやる。あれがどれだけの化け物か、貴様にはわからないだろうが。あれには決して近付くな。貴様に死なれると俺が困る」

「……まさか、それを防ぐためだけに来たのか?」


 酒呑童子から肉体の主導権を返された瞬が、驚いた様子で源次綱に問いかける。これに、源次綱が笑った。


「そうだ……奴はな。かつて伝説の勇者カイトが……そこの二人の知る、そしてそこの二人の主人の勇者カイトが数十億、数百億の犠牲を払って倒した魔物だ」

「なっ……」


 源次綱の言葉に、瞬達が揃って目を見開き、天高くにいる『暴食の罪(グラトニー)』を見る。あんなただバカでかく再生力が尋常でないだけの魔物に、あのカイトが苦戦した。瞬は一部誤解――『もう一人のカイト』ではなく今のカイトと誤解している――しながらも、危機感だけは正確に認識していた。


「あれは近付けば全ての存在を食らう。決して、近付くな。戦うという事そのものが間違いだ。あれは戦って勝てる魔物ではない……仲間にも、そう伝えてやれ。遠巻きに射掛けるでもなく、戦いを避け周囲の魔物にのみ注力する。それが、生き延びる秘訣だ」

「……」


 とどのつまり、今回の源次綱の目的は自分達の作戦に巻き込まれる自分や冒険部の面々を守る為。瞬は源次綱がここに来た理由を理解して、思わず呆気に取られる。そしてそれ故にこそ、彼は思わず問いかけた。


「源次綱さん」

「ん?」

「何故、こんな事を?」


 今まで瞬は源次綱が私利私欲の為、酒呑童子を蘇らせたのだと思っていた。が、明らかにこの行動はそれには無関係だ。彼の意図が読めなかった。そんな困惑を浮かべる瞬の問いかけに、源次綱が笑った。


「私利私欲の為だ。そこに相違はない……が、貴様に死なれると俺が困るし、自棄になられても困る」

「俺を、俺達を助ける事にそれがどんな関係が?」

「……さて、な」


 何が目的か。その瞬の問いかけに対して、源次綱は僅かに笑う。そうして、そんな彼は瞬の目を一直線に見た。


「……子孫」

「……なんですか?」

「躊躇うな。敵が何があれ、決して躊躇うな。躊躇う事が慈悲ではない。躊躇わぬ事が、無慈悲である事が慈悲である事もある」

「……どういう意味ですか?」

「……後は、自分で考えろ。俺が言って良いと言われたのは、ここまでだ」


 どうやら源次綱は瞬に肩入れしつつも、あくまでも真面目に<<死魔将(しましょう)>>の意向に沿った上での事なのだろう。そうして、伝えるべき事を全て伝えられた、と源次綱は『リーナイト』から去っていく事になるのだった。




 さて、呆気にとられた瞬らに見送られ源次綱が去っていった後。瞬らは態勢の立て直しや状況の再確認を行うべく、一旦グリムとの間で話し合いを持っていた。そうして、瞬が瓦礫に座るグリムへと問いかける。


「で、グリム。あんた一体何者なんだ?」

「俺とこいつ……セレスティアはお前らの世界ともこの世界とも違う世界の出身者だ。そこの二人は、気付いている様子だがな」


 くすり、という感じでグリムが笑いセレスティアを見る。その背には彼女が背負っていた大剣があり、完全にこちらの方がしっくり来ていた。なお、では彼女はというとグリムが<<守護者(ガーディアン)>>から分捕った大剣があった。


「え?」

「……何時、気付かれた?」

「気付かないはずがない。俺の祖先は赤き英雄と黒き森の賢者だ。人並み以上に感覚は良い」


 ルーファウスの問いかけに、グリムは楽しげに笑う。なお、セレスティアは従姉妹に近い所に居るらしい。なので種族が違うが血縁関係はあったのである。そうして、そんな彼に再度ルーファウスが問いかけた。


「それで……その大剣はやはり?」

「ああ。かつて大英雄レックスが使った大剣……とされていたが。その様子だと正しいのだろう」


 アルやルーファウスにとって前世の少し前の事であっても、グリム達にしてみれば三百年も昔の事だ。すでに彼の祖先が使った大剣やカイトの使った双剣は聖遺物や神器の扱いで、どこまで本当かわからない、という所だった。そうして、そんな大剣を背負うグリムが困り顔で笑う。


「はぁ……まさか、こんな異世界で貴方達の生まれ変わりと出会えるとはな」

「偶然……ですよ。多分ね」

「そう願いたいものだ」


 が、ここまで都合の良い偶然があるのだろうか。グリムはアル達との再会に若干だが怪訝な顔を浮かべていた。と、そんな彼らに瞬が問いかける。


「どういう事なんだ?」

「あ、あぁ……」

「あぁ、ごめんね。これは瞬になら分かると思うんだけど……」


 瞬の疑念を受けて、アルがグリムとセレスティアが自身の前世で仕えていた者たちの子孫である事。そして彼らが別世界の存在である事などを語っていく。


「……なるほど。偶然といえば偶然、なのかもしれないが……確かに道理は道理……なのか?」

「そこは流石に僕にもわからないよ」

「そうか……いや、そうだな。それで、どうする?」

「「「?」」」


 瞬の唐突な問いかけに、全員が首を傾げる。が、これに瞬は道理を説いた。


「いや……そもそも戦闘中なんだが」

「「「……」」」


 それはそうだが。瞬の言葉に、全員が納得する。それに、グリムが口を開いた。


「……まぁ、出て来ている奴らは基本は雑魚だ。各個撃破で問題はないだろう」

「それはそうだが……さっきの源次綱さんの言葉が気になる」

「ふむ……」


 瞬の言葉に、グリムが少しだけ考える。彼としては別世界の存在なので、彼の事もフラットに考えられる。そして考えた結果、先の彼の言葉は一概に嘘とは言えない、が結論だった。必ず、『暴食の罪(グラトニー)』にはまだ何かがあると思われた。故に、彼が問いかけた。


「セレス。召喚は使えるか?」

「……無理、だと思います。巫女は居ますが……私の媒体がありません。(よすが)の無い召喚は失敗しかねない」

「媒体なら、これがある」


 セレスティアの否定に対して、グリムが笑って自身の背にある大剣を掲げる。が、これにセレスティアは首を振った。


「兄さん……忘れたんですか? 呼べるのは、一人につき英雄一人が限度。私は」

「伝説の勇者の巫女……だろう? 分かっている。忘れちゃいないさ」


 セレスティアの説いた道理に、グリムもまた笑う。そうして、彼が推測を説いた。


「対応する英雄以外の巫女が出来るのは、神器の開放のみ。召喚は不可能だ……が、もし。もしも、だ。この場にかの伝説の勇者が居て彼を縁と出来れば?」

「っ……」


 グリムの言葉に、セレスティアは天高くにある封印を見る。


「どうやら、お前も気付いていた様だな」

「本人からは、はぐらかされてばかり、ですが」

「そうか……そう、なのだろう?」

「「あ、あはははは……」」


 この状況で隠せるものでもないか。アルとルーファウスはそれが答えとばかりに困り顔で笑って一つ頷いた。


「そうか……やはりか。なら、どうだ?」

「……彼を出す事が出来れば、不可能ではないかもしれません。レックス様はどんな遠く離れた所からだろうと、彼の苦境には現れたと言います。なら、それを伝える事ができれば、擬似的にでも召喚が出来るかもしれません」

「なら、決まりだ……イミナは?」

「彼女なら、他を率いて彼らのギルドと共同で動いています」


 グリムの問い掛けに対して、セレスティアはイミナら他の者達の現状を語る。それに、グリムは一つのオカリナを取り出した。


「『空のオカリナ』?」

「ああ。あいつから預かったままだった……が、この為だったのだろうな」

「……わかりました」


 可能かもしれない。そんな感情が、鎌首をもたげる。そうして、グリムは告げた。


「イミナを呼べ。そこから、作戦の詳細を話す」

「はい」


 グリムの言葉に、セレスティアが急いで行動に入る。そうして、カイト救出のための作戦が動き出すことになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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