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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第81章 剣士の戦い編

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1987/3938

第1958話 剣士の戦い ――対石舟斎・2――

 神陰流(しん)の奥義<<心体合一(しんたいごういつ)>>。神陰流の二つの奥義を極めて初めて使いこなせるという最後の奥義を使用したカイト。そんな彼を前に、石舟斎は歓喜と共に改めて戦いに臨む事になる。そうして始まった戦いであるが、初手はどのようなものか見極めてやる、と石舟斎が放つ事になる。


「……」


 呼吸。違い無し。力。大幅な増大。一歩を駆け抜けながら、石舟斎は先の一撃の交わりから見えた全てを一瞬で解析する。不思議な事に、全てを極めた先にあるという<<心体合一(しんたいごういつ)>>を使ったカイトの呼吸――ここでの呼吸は意識の流れのようなもの――にそれまでとの違いは一切無かった。

 奥義を使っているのだ。何か変化が現れるはず。そう石舟斎は思っていたのに、一切の違いがない。が、変化は変化として現れている。何が起きているかは、さっぱりだった。


「はぁ!」

「ふっ」


 石舟斎の全力の剣戟に対して、やはりカイトは軽い感じで大太刀による剣戟を放つ。が、この次の瞬間。やはり轟音が鳴り響いて、石舟斎が大きく吹き飛ばされる事になった。


「あっ……ちっ」


 まだ駄目か。カイトは大きく吹き飛ばされた石舟斎を見て僅かに苦々しげに舌打ちする。やろうとすれば殺すことなぞ容易い。今の彼は一撃で凡そ全ての物を破壊してしまえる。

 それこそ彼の感覚としてはマシュマロを凹ませない様に慎重に握りしめている、という程度でしかないのだ。吹き飛ばされた石舟斎が常人であれば衝撃で死にかねないほどであっても、だ。故に、吹き飛んだ石舟斎は思わず手の震えを堪えていた。


「ぐっ……」


 なんじゃ、この馬鹿げた力は。確かに、カイトの最大の強みはその尋常ではない火力であるとは聞いている。が、それを彼は繊細なコントロールが出来るという。なのに、今はコントロールが出来ていなかった。そうして、そんなカイトが消える


「ぐっ!」


 蒼い閃光が横を通り過ぎた。石舟斎に見えたのは、それだけだ。彼ほどの才覚を持つ者が、それだけしか見えなかった。そうしてそのなにかが横を通り抜けた衝撃で、石舟斎が吹き飛ばされる。


「っ!?」


 拙い。石舟斎は<<全一同体(ぜんいつどうたい)>>を展開し見えた世界の流れから、自身がなにかとてつもない流れに押し込まれた事を理解する。あまりに強大な流れ。それは、遥か彼方から生まれていた。


「すぅ……」


 この流れから逃れる事はもはや不可能。そう判断した石舟斎は、吹き飛ばされながらも意識を集中し呼吸を整える。そうして彼の意識が加速し、遥か彼方から飛翔する一筋の光を認識する。それこそ、この莫大な流れの源流。自身を殺そうとする力だ。


(流星……としか思えんな)


 流れを読み切るべき流れを見通して、僅かな余裕を得た石舟斎は見える流れにそう思う。そうして、彼が流星と勘違いしたなにかが、遥か彼方から放たれる。


(……)


 自身が生き残れるのは、一瞬のみ。石舟斎は意識を集中させ刹那と永遠をすり替えて、コンマゼロ秒の時間を更にコマ送りにして飛翔体を認識する。


「ふっ」


 一息に、ただ普通に切り払う様に石舟斎はカイトの放った矢を切り捨てる。いくら強大な力を保有していようと、所詮これは矢だ。的確に最適な力を込めて中心の矢さえ切れれば、どれだけ強大な力があろうと問題にはならなかった。と、そうして矢を切り払った直後だ。石舟斎は、流れがまだ消えていない事を理解する。


「!?」


 まさか、これだけの威力を続けて放つつもりか。石舟斎は続く巨大な流れを見通すべく、更に意識を集中する。が、これが悪手だと気付くのは、この直後に彼を衝撃が襲いかかってからだ。


「ぐっ!?」


 してやられた。石舟斎は敢えて自身が<<(まろばし)>>にて流れを読む事を読まれた上で、カイトがこれをしていた事を理解する。カイトがしたのは、単に莫大な力を背景として衝撃波を出すという行為だ。流れを読み強大な流れを創り出しておく事で、次の一手を誤認させる事も出来た。


(何を……するつもりじゃ)


 吹き飛ばされながら、石舟斎はカイトの次の一手を考える。流石にここまで来くれば、石舟斎は<<全一同体(ぜんいつどうたい)>>や<<(まろばし)>>にてカイトの行動の先を読む事は悪手と理解した。

 当然だろう。剣術であれば自分が上でも、世界の流れに関してはカイトが上だ。カイトの方が遥かに先を行く以上、同じ土俵で戦えるわけがない。故に彼はカイトの行動の先を読むではなく、自身の行動を導く為にあくまでも自身のごく近辺のみに留める事にする。そうして<<(まろばし)>>で読む範囲を狭めた彼が地面に着地し制動を掛けると同時に、カイトは地面を蹴った。


「っ」


 慣れが見え始めた。石舟斎は自らの背後にカイトが回り込んだのを理解して、段々と彼の身のこなしが何時ものそれに近付きつつある事を理解する。そうして、直後。振り向いたカイトと石舟斎の剣戟が交わり、火花が散った。


「ぐっ!」

「……」


 吹き飛ぶ石舟斎を見ながら、カイトはこの感覚を自らの物にしつつある事を理解する。彼は本気で石舟斎を殺しには行っているが、同時に単に力技で殺すつもりは一切無い。

 それは勝利と呼べないからだ。星さえも破壊出来る彼にとって、力技での勝利は当然の道理でしかない。故にあくまでも神陰流の使い手として兄弟子を上回る事により、勝利を得る。それが、彼の望みだった。


「今なら……なんとかなるか?」


 最初より随分と吹き飛ぶ距離が減った石舟斎を見ながら、カイトは一度だけ拳を握りしめる。先に彼自身が認めていたが、まだ(しん)の奥義に彼自身が慣れていない。故にこの出力に慣れておらず、大半の技を使えていなかった。故に、彼はそろそろ一度は試してみるか、と意識を集中する。


「っ!」


 危険。石舟斎は戦場を渡り歩いた者の感覚として、カイトがなにかを使おうとしている事を理解する。そうして、彼はこれに入らせてはならない、と地面を蹴った。


「ふんっ!」

「とっ!」

「逃さん!」


 バックステップで距離を取るカイトに、石舟斎は即座に追撃を仕掛ける。流れが読め様が読めまいが変わらない。これを使わせてはならない。曲がりなりにも神陰流だからこそ、カイトが使おうとしているのが自身がまだ知らぬ最後の一つだと理解したのだ。そうして追撃を仕掛けてきた石舟斎に対して、カイトは着地と同時に腹に力を込める。


「……はっ!」

「なっ……」


 気合一閃で自らの全力の斬撃を防いだカイトに、石舟斎が思わず絶句する。とはいえ、これは驚くに値しない。カイトの力で使われてはいるものの、武蔵の蒼天一流にある<<剛体力(ごうたいりき)>>という(スキル)だ。

 それは身体を強固にするもので、本来はここからの強撃を放つ為の準備のようなものだった。が、副作用としてこの様に強固な身体を得られるのであった。


「……良し」


 使える。カイトはこの出力での(スキル)の使用が可能である事を理解し、更に上も可能だろう、と判断する。


「ふぅ……」

「っ」


 距離を取らないと拙い。石舟斎は使わせるべきではない、と理解しながらも同時に距離を取るしかない、とも理解していた。故に彼は神陰流技の奥義<<剣心一体(けんしんいったい)>>を敢えて止めず、距離を取る事にした。が、それは正解であり、同時に間違いでもあった。そうして、次の瞬間。自身の背後にカイトが回り込んでいた。


「……何?」

「……これが、神陰流の最終奥義。心技体三奥義全使用です」


 ごくり。石舟斎はカイトの告げた言葉の意味を理解して、思わず生唾を飲んだ。今までのカイトの動きが力に翻弄されていたのなら、今の彼の動きはあまりに完璧だった。先程までの振り回されている様がまるでお遊びの様でさえあった。


「……何故今になって使った」

「使えるか自信が無かったから、です。後はあの力のまま使えば多分、使えなかった」


 石舟斎には神陰流の奥義全てを理解出来る事はない。ないが、決して生半可な技量で出来ない事ぐらいはわかっている。なにせ自分が出来ていないのだ。

 故にこのカイトの言葉はおそらく真実なのだろう、と納得する。そして同時に、理解もした。これがその最後の奥義を使ったが故、完全なコントロールが出来ているのだろう、と。そうして、石舟斎が振り向いた。


「っ」


 消えた。石舟斎は振り向くと同時に消えたカイトに、即座に気配を探る。が、彼の才覚を以ってしても、それどころか<<全一同体(ぜんいつどうたい)>>を使い世界の流れを完全に我が物としても見付けられなかった。


「……こちらです」

「……どうやった?」

「<<全一同体(ぜんいつどうたい)>>を使っただけです。別に<<全一同体(ぜんいつどうたい)>>は世界の流れを読むだけではないでしょう?」

「……それは、そうじゃがな」


 それができれば苦労はしないんだが。カイトのさもこれぐらいは出来るでしょう、と言わんばかりの言葉に石舟斎は苦笑しか浮かべられなかった。<<全一同体(ぜんいつどうたい)>>の真の力は世界と疑似的に一体化してその全てを我が物とする事だ。

 世界と疑似的に一体化するので、世界の流れも理解出来るというだけである。が、やはり世界と疑似的に一体化するのは難しいし、肉体への負荷も飛躍的に増大する。なので石舟斎は肉体への負担を鑑みて敢えて程度を抑えて流れを読むだけに留めていた。


「さて……」


 来る。石舟斎はカイトが再度意識を集中させ、神陰流の三つの奥義を全て使用した事を知覚する。そうして、直後。カイトが踏み出して、左手を峰に添えて刃を上にした独特なポーズからの突きを放った。


「っ」


 速い。石舟斎はまるでレイピアの突きに似た動きを見せたカイトの刺突に対して、咄嗟に顔を傾けて回避する。が、その直後。彼の身体を衝撃が襲った。


「ぐがっ!」

「ふっ」


 石舟斎は衝撃により、肺腑の空気を吐き出した。が、これに対してカイトは一切の容赦なく地面を蹴り、更に追撃に入る。


(何が……起きたっ!)


 わからない。あの瞬間、カイトの動作は全て追っていたはずだ。石舟斎はカイトの一挙手一投足を思い出し、何が起きたかを推測する。そうして自身を襲った衝撃などから、彼は答えを見つけ出す。


(拳打か! 見事な体捌き!)


 あの独特な突き。あれの意図は初見ではわからなかったが、受けてみて理解した。突きの瞬間、片手なら間合いは広がる。なのでその為かと思っていた。が、実際は片手で突きを放つ事によりそう思わせておいて、避けられた際の第二撃として左手を用意していたのである。


(これは……)


 拳打から更に続けて地面を踏みしめ追撃に入るまでのカイトの動きを見て、石舟斎は一つの違和感を得る。カイトの動きは一連の流れがあり、ある意味では神陰流の流れによるものに思える。

 が、決してそうではない。何か一つの流派のようなものが見て取れた。それは永きに渡り武の道を歩んだ彼だからこそわかったもので、それ故にこそ彼は更に数度の斬撃で違和感の正体を理解した。


(……何かの流派の流れが……)


 幾つも合わさって、今のカイトの最適な動きを形作っている。それら全てが、石舟斎の知らぬ技の数々だ。が、これをカイトが使いこなしている、というのは些か可怪しい。故に、彼は神陰流の奥義。<<剣心一体(けんしんいったい)>>の正体を少しだけ理解する。


(数多の武芸を使いこなす……いや、最適な動きを見出だせる様になるのか!)


 ある意味、それは正しい事ではあった。が、間違いではないというに過ぎない。<<剣心一体(けんしんいったい)>>の力は全ての剣技・剣術を既知の物として、自らの物としてしまうもの。

 が、全ての剣技・剣術を使えたとて使うわけではない。その時その時使用者の最適解を割り出す必要があり、そのための<<全一同体(ぜんいつどうたい)>>でもあった。流れに身を任せる、というわけだ。


(であれば……もはや勝ちを得るには一つしかない)

「ふんっ!」

「っ!?」


 カイトの寸分の狂いの無い動きをなんとか受け流し、石舟斎は一度無理やりその場に踏みとどまる。


「……」


 流れが見えればこそ、カイトはここから先。石舟斎が自身が頼む柳生新陰流の奥義を使うつもりなのだ、と理解する。先に自身が敗れた柳生新陰流の奥義<<無刀取り(むとうどり)>>。その最適解はあるが、同時にあればこそ一度止まる必要があった。


「……分かるか」

「それが、今の私ですから」


 刀を仕舞い楽しげに笑った石舟斎に、カイトもまた笑う。そうして、石舟斎は意識を集中して自身が最も誇りとする<<無刀取り(むとうどり)>>の準備に取り掛かるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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