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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第81章 剣士の戦い編

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1983/3942

第1954話 剣士の戦い ――暴食の罪――

 <<七つの大罪(セブン・シンズ)>>の『暴食の罪(グラトニー)』。決して攻撃してはならない魔物。その魔物に関する情報共有を行ったカイトであったが、その会議もある程度の終わりを見た頃にユニオンの職員により、『暴食の罪(グラトニー)』が降下を開始したという報告を受ける事になる。

 というわけで、攻略法の発見をティナを筆頭にした知恵者達に預ける事にすると、彼は武闘派の面々と共にユニオン本部の外に出ていた。


「おーおー……こりゃまた凄い」

「なんだ、こりゃ……見たことのない魔物だな……」


 外に出たカイトの古馴染み達が見たのは、『暴食の罪(グラトニー)』が生み出した無数の魔物の残骸だ。どうやら生み出された魔物には吸収能力は無いらしく、普通に倒せるらしい。そんな彼らに、カイトが告げる。


「さっき話した異世界の魔物だ。他にも宇宙に生息する魔物やらも多いな。あれとか、それだ」

「……デカイな」

「へー……宇宙にはあんなのが居るのか。殴り甲斐があるなぁ……」


 やはりさすがはカイトの古馴染み達なのだろう。誰も彼もがあの巨大な宇宙の魔物を前にしても楽しげに笑えていた。


「にしても……随分ゆっくりだな」

「雑魚なんだろ、やっぱ」

「雑魚なのに倒せないとか最悪ね」

「それ、雑魚なんかねぇ」


 やはり何度見ても、あの『暴食の罪(グラトニー)』は雑魚にしか見えない。今だって雑魚だと思いこんで戦いを挑む冒険者が何人かちらほらと見受けられ、レヴィの制止によりなんとか食い止められていた。


「肥大化と取り込んだ奴を外に吐き出すしか出来ない。本体にはほとんど戦闘能力は無い。防御力も皆無。紙装甲だ。実際、後先考えなけりゃこの場の全員なら一撃でプール程度は破壊出来る。ま、破壊のエネルギーの大半を吸収されて、後に待つのは絶望だがな」


 生半可な攻撃では決して討伐出来ない最悪の魔物。それがあれだ。カイトは改めて天を覆い尽くすほどにまで肥大化した『暴食の罪(グラトニー)』を見る。

 どうやら自身を餌にして魔物達を呼び寄せたらしい。まぁ、あれだけ巨大な魔力を溜め込んでいるのだ。魔物達にとってはまさに熟れた果実。続々と集まってきていた。


「で、カイト。どうするんだ?」

「とりあえずその前に……一旦ウチのガキ共の面倒見ておいて良いか? あっちなんとかしないとこの後が面倒になるからな」

「おいおい……その間、なにか準備は?」

「一撃デカイのぶちかます。その補佐頼むわ」

「あいよー。ま、後は適当に遊んでるから早めに帰ってこいよー」


 攻撃してはならない。そう言っている筈のカイトがデカイ一撃をぶちかます、と言ったにも関わらず、この言葉に誰も疑問は抱かなかった。何か彼が手を考えているのだろう、という信頼があったからだ。

 というわけで、カイトは一旦は古馴染み達と別れて冒険部の本陣へと向かう事にする。そうしてたどり着いた冒険部の本陣では、瞬や藤堂らを筆頭にした部長連を中心として動いている様子だった。


「天音か。会議は?」

「一旦は終わった。冒険部の幹部は?」

「集められている……一条。天音が帰ってきた。一旦こっちへ」


 藤堂の念話を受け、少し。瞬が本陣へと戻ってくる。こういう場合の基本的な冒険部の動きとしてはユニオンに従う事だが、今回はそのユニオンの指示によりギルド毎に動いていた。

 それが最適と判断された場合、そういう事もあり得る。今回は各個人の判断で動かれると困る為、暴走しやすい者が居た場合に備えて頭を押さえられる者に指示させる事にしていたのである。

 そして本来こういう場合冒険部ではソラが全体の指揮を取るのだが、彼は居ないので瞬が前線に立ちながら全体の指揮を取っているのであった。


「カイトか。戻ったのか?」

「ああ……ま、色々と決まったし、情報があった」


 一応、カイトの立場上自分が情報を提供したとは言えない。なのであくまでも解析結果から、という事にしておく事にしたようだ。そうして、彼は『暴食の罪(グラトニー)』に関する情報を冒険部幹部達に対して共有する。


「こ、攻撃してはならない……」

「嘘だろ……」

「それで、さっきからのユニオンの指示か……」


 やはりこの状況だ。逐一各人に何故攻撃してはならないか、という情報を伝えている暇はなく、ユニオンの指示だから従っている者やそれ故に従えない者などは多かった。事実、レヴィが指示しているにも関わらず『暴食の罪(グラトニー)』に攻撃しようとしている者が居る事からもそれが察せられるだろう。というわけで、そんなユニオンの指示に理解が出来たところで改めて瞬がカイトへと問いかける。


「で、カイト。冒険部としてはどうする?」

「流石に避難はあり得ない。逃げたところで逃げ場が無いからな。今ここでエネフィアを守らないと、帰還云々の前にエネフィアがおじゃんだ」


 改めて、カイトは撤退は不可能と断言する。ここで逃げたところで明日の朝には『暴食の罪(グラトニー)』と<<守護者(ガーディアン)>>達の戦いでエネフィアそのものが吹き飛ぶ。この一昼夜が全ての命運を握っていた。


「現在、ラエリア帝国軍もこちらには向かっている。戦力をかき集め、奴を削る……今はそれぐらいしか手が無い」

「削る……? だが先程、攻撃したらその分肥大化する、と言っていなかったか?」

「ああ……が、それはあくまでも本体に攻撃した場合に限る。もうわかっているだろうが……奴は自分で身を守る力がない。だから、魔物を生み出して守らせている」


 カイトは改めて『暴食の罪(グラトニー)』を見上げて、その周囲を守る様に動く肉塊で出来た鳥の様な魔物を見る。これがこの『暴食の罪(グラトニー)』の厄介な点の一つでもあった。

 吸収した魔物や人はそのまま魔力として完全に取り込まれるのではなく、『暴食の罪(グラトニー)』の一部に作り変えられ、自律型の攻撃兵器の様に使われてしまうのである。

 が、いくら『暴食の罪(グラトニー)』と言えど生み出すのには莫大なエネルギーを消費する。なので原理的には流れ弾を一発も当てず生み出し続けさせる事が出来れば、『暴食の罪(グラトニー)』を削り切る事も不可能ではなかった。

 まぁ、かつてはそれが出来ぬほどに肥大かしてしまったので夢のまた夢であったが、今ならそれも不可能な程度ではない。無論、流れ弾を一発も当てず、というのが非常に厳しい条件なのであくまでも理論的には、だ。


「だから戦力をかき集めて、一秒でも時間を稼ぐ。徹底的に周囲の魔物を叩いて叩いて叩き潰す。徹底的に奴のエネルギーを放出させる」

「なるほどな……それなら楽で良い」

「そうだな」

「ええ……そちらの方が随分とわかりやすい」


 楽しげに笑う瞬に、藤堂と神崎もまた笑う。ただあのデカイ奴を無視して、その周囲の魔物を倒すだけ。言ってしまえば今と同じ事をすれば良いだけだった。


「ああ……とはいえ、今のままだと奴が近すぎる。これから少しユニオンでの攻撃が開始される。オレもそちらに一度参加する」

「ユニオンの攻撃? なにか手があるのか?」

「さて……そこらはユニオンの指示に従うだけだ」


 一応、その手を知っているのはカイト一人ではあるが、今の彼の立場上問われたところでそう言うしかないだろう。というわけで、瞬の問いかけにカイトは肩を竦めるだけだ。そしてあまり長々と話しているわけにもいかない。なので彼は予めセットしておいたタイマーが鳴ったのを受けて、立ち上がった。


「っと……作戦開始の時間か。先輩。悪いが、引き続き全体の統率はそちらに任せる。なにかがあった場合にはティナかオレに連絡を。オレも奴を遠ざける作戦が終了次第、戻りはするが……この乱戦だ。中々に厳しくなるかもしれん」

「わかっている。もし必要なら、こちらにも連絡をくれ。必要かはわからんが……迎えには行こう」

「ああ」


 『暴食の罪(グラトニー)』の巨大さから生み出される魔物はまさに無数だ。しかも取り込んだ魔物や生命体の数はそもそもカイトが戦った時の数が引き継がれてしまっている。

 なので魔力が続く限りは生み出せると言って過言ではない。突破は厳しいだろうと思われた。というわけで、瞬の言葉にカイトは一つ頷いて後は彼らに任せる事にして、改めてユニオン本部へと戻ることにする。そうして戻ったユニオン本部前ではすでにバルフレアを中心として準備が整いつつあった。


「ああ、帰ったか」

「おう……ここらはやっぱ凄まじいな」

「ま、クオンやらが居るからな」


 やはりどうしても取り込んだ魔物に応じて生み出される魔物の力にも差が生まれてしまうらしい。なのでクオンらは被害が大きくなりそうなランクS級の魔物が素体となった魔物を率先して戦っており、ユニオン本部周辺にはそういったかなり強い魔物の遺骸が大量に山積みされていたのである。そんな現状を語ったバルフレアが、カイトへと問いかける。


「で、どうすんだ?」

「ぶっ飛ばす。エネルギーを与えず、物理攻撃で強引にな」

「……どうやって?」


 確かに、それが出来れば一番良い。バルフレアもカイトから聞いた『暴食の罪(グラトニー)』の特性を考えればそれが一番と納得できる。が、どうやればそれが出来るのか、と言われるとほとほと疑問だった。


「ん? あぁ、そりゃ……こーやって」


 しゅぼん。カイトの足元から蒼炎が上がり、彼の身を包み込む。そうして、彼はラエリアに降り立った古の魔王の姿へと変貌する。


「よし……」

「……でかっ! すげっ!」

「だろ?」


 かつての魔王の姿で、カイトが楽しげに何時もの大剣よりはるかに巨大な大剣を掲げてみせる。そんな彼にバルフレアが若干興奮気味に問いかける。


「それ、どこのだ? てか、この色味。見たことないな……なんだ、これ? 鉄に似てるけど、鉄じゃないよな?」

「とある異世界の魔界で極稀に産出される隕鉄を素材とした大剣だ。超絶レア物だぜ」

「うおー……見てみてぇ……」


 やはりさすがはカイトをして冒険バカと言わしめるバルフレアだろう。見たことも聞いた事もない素材に目を輝かせていた。


「ま、それを使って作られたこの大剣であれをぶっ叩こうとな」

「へー……っと。なら、招集掛けるか」

「ああ」


 大剣を担いだまま、カイトは古馴染み達が集まるのを待つ事にする。が、そうしてやって来たところに居たカイトに、全員が唖然となった。


「……なんかお前、ものすごい勇者からかけ離れた姿になったな」

「うるせぇよ……さて」

「で、俺達は何をすれば良いんだ?」


 さて、と大剣を構えたカイトに、古馴染みの一人が問いかける。何をするか、というのは一切聞いていないのだ。というわけで、カイトは簡潔かつ非常にわかりやすく告げた。


「オレが奴をぶっ飛ばす。全員で後はそれに勢いを乗せてくれ。とりあえず、奴をここから離さないと流れ弾が当たって面倒だ」

「ぶっ飛ばすったって……どうやって」

「こいつでぶん殴る。周囲をオレの魔力で覆い尽くして、吸収されない様にしてな」


 古馴染みの問いかけに、カイトは一つ大剣の腹を叩く。この大剣は一太刀で一千人を切り伏せる事が出来るだけの巨大さを得る事が出来るのだ。そして特殊な素材で作られ、当時とはいえカイトの出力に耐え切れる調整がされている。無機物さえ吸収する様な『暴食の罪(グラトニー)』だろうと、吸収される事なく叩くことが出来た。


「なるほど……」

「じゃ、私足場作ってあげるから、それで踏ん張りなさい」

「じゃあ、俺らは周囲のあの雑魚共をやるか」

「うっしゃ」


 カイトの方針を聞いて、古馴染み達が一つ首を慣らし手を鳴らす。相変わらずのカイトらしいぶっ飛んだ作戦だが、今はそれが一番だ。そうして全員が一瞬で支度を整える。


「おし……じゃ、ちょっとぶっ飛ばしますか」

「「「おう!」」」


 カイトの軽い言葉に、全員が楽しげに笑って頷いた。そうして、『暴食の罪(グラトニー)』の周囲を守る魔物達を牽制する者たちが一足先に飛び上がる。


「よし……」


 始まった戦闘を見ながら、カイトが僅かに足に力を入れる。そんな彼の前に道が出来上がるのは、その直後の事だ。


「おぉおおおおおおお!」


 雄叫びと共に、蒼炎を纏ったカイトが一気に加速する。そこに、無数の魔法陣が生み出される。何時かと同じ、加速の魔術だ。


『れっつごー!』

「おう!」


 カイトの脳裏に、ユリィの声が響く。どうやら遠くから――彼女はシアの撤退を支援中――彼女の支援が入ったらしい。そうして更に加速して、『暴食の罪(グラトニー)』まで100メートルのところまでたどり着いた。


「おぉおおおおおおおおお!」


 かつてと同じく、加速を乗せてカイトが大剣を振りかぶる。そうして、緩やかに降下する『暴食の罪(グラトニー)』とカイトの大剣が衝突。僅かな均衡状態が生み出される。


「ぐっ……」


 やはりこれだけの質量だ。いくらカイトの馬鹿力であっても、即座に押し切る事は出来ない。しかも今回はあまり力を出しすぎると、それを利用されて肥大化されかねない。故に一瞬の硬直が生まれるが、その次の瞬間。彼の足元に古馴染み達による足場が出来上がった。


『どうだ!』

『これならお前の馬鹿力でも耐えられるだろ!』

『やっちゃえ、カイト!』

『補佐も盛りだくさんに掛けてやる! やっちまえ!』

「おう! おぉおおおおおおおおおお!」


 三度、カイトが雄叫びを上げる。そうして一瞬の硬直から足場を得たカイトが一気に『暴食の罪(グラトニー)』の巨体を押し戻す。


「うそ……だろ……」

「あれを一人で押し戻すのかよ……」


 ゆっくりとだが動き出した『暴食の罪(グラトニー)』を見て、カイトを知らない冒険者達が頬を引き攣らせる。そうして、『リーナイト』に残る冒険者達全てが見守る中で、『暴食の罪(グラトニー)』は一気に加速した。


「おぉおおおおおお!」


 どんっ。音の壁さえ突き破り、『暴食の罪(グラトニー)』が一気に吹き飛んだ。そうして、カイトが大きく息を吐いた。


「……ふぅ。これで、一時間は制限時間を伸ばせるかな」


 流れ弾分ぐらいは稼げたかな。カイトは大剣を小さくして背負い直し、僅かに安堵を浮かべる。と、そんなところに声が響く。


『……その瞬間。待っていましたよ』

「っ!?」


 聞き覚えのある、それどころか聞き馴染みさえある声に、カイトが目を見開いた。が、その次の瞬間、彼は『リーナイト』全域を覆い尽くす様に現れた結界に囚われる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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