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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第80章 ユニオン総会編

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1977/3940

第1948話 ユニオン総会 ――始まり――

 ラエリアの内紛に関わる様々な事案について話し合う事になっていた、ユニオン総会四日目午後の部。それはやはり内紛であった事から、かなり荒れた展開となっていた。

 そんな荒れた会議の中に巻き込まれながらも適度に呑気に話しながら会議に参加していたカイトの一方。七人衆として最後の一日を過ごしていた柳生親子はというと、源次綱と合流して戦いに備えていた。


「ふむ……これで……どうじゃ」

「ふむ……」


 意識を研ぎ澄ませ決戦に備える宗矩の横。石舟斎と源次綱は大きな戦いの前だというのに、何時もの調子を崩さなかった。そんな二人が何をしていたかというと将棋だ。軍略の勉強や相手の手を読む勉強になる、という事で源次綱も覚えたらしかった。というわけで何時もの調子の石舟斎を相手に一手指していたのであった。


「……降参だ」

「む?」

「ここから三手先で金が取られ、更にその二手先で飛車が成る。鑑みるに、そこから……数手、足りなかった」


 拍子抜けという塩梅の石舟斎に対して、源次綱は数手先まで読んだ結末を語る。これに、石舟斎は肩を落とした。


「諦めが早いのう。もう少し粘ろうとは思わぬか」

「負けが見えたのなら、疲労を次に残さぬのも肝要だ」

「む……そういう考え方もあるか」


 確かに源次綱の言う事も尤もだ。石舟斎は飛んできた源次綱の反論に納得を示す。超常的なスタミナを持つ彼らが将棋を数度打った程度で疲れるのか。そう思うかもしれないが、実際疲れる。戦いと将棋は似て非なるものなのだ。故にこの一戦は自身の敗北と受け入れた源次綱に、石舟斎は再度将棋盤を整える。


「さて……後一戦」

「……」

「どうされた? まさか先の一戦で敗戦というわけでもあるまい」

「……次が、最後の一戦か」


 石舟斎の問いかけに、源次綱は時計を見ながらそう告げる。すでに『リーナイト』には入り込んでいる。今のこの時期だ。冒険者達が世界中から来ているせいで、彼らもまた入り込む事が出来たのだ。とはいえ、だからと何かを出来るわけでもない。最後の時に備えて、各々の在り方で時間を潰すしかなかった。というわけで、そんな源次綱の言葉に石舟斎も思えば、と時計を見る。


「む……もう、そんな時間か」

「……やめておくか?」

「まさか。儂は常在戦場を心掛けておる。ここ(居間)あそこ(戦場)も変わらぬ……心、穏やかに打てる」

「そうか」


 では、最後の一戦を。源次綱は石舟斎が話しながら整えた将棋盤に手をのばす。そうして、彼らは最後の時に備えて最後の一戦に興ずる事になるのだった。




 さて、石舟斎と源次綱が最後の一戦に興じて、およそ一時間と少し。最後の勝負は終わりを迎えていた。


「……千日手か」

「その、ようじゃのう。まさか最後の一戦で勝ちを得られぬとは。いやさ残念……が、最後にかよう珍しい将棋を指せたのであれば、ま、存外悪うない戦いであった」


 お互いに優れた武芸者なのだ。数手先を読む事は当然の様に出来ており、どう足掻いても千日手に陥っていた事がわかったらしい。と、そうして笑う石舟斎が、源次綱に手を差し出した。これに、源次綱は首を傾げた。


「……?」

「握手よ。今の者たちは別れ際、こうやるのであろう? 世話になったな」

「……こちらこそ、世話になった。また相見える事があるか、ないか……それは誰にもわからんが。貴殿との戦いは非常に良い一時だった」

「こちらこそ、感謝する。まさか名にし負う渡辺綱と戦えるとは思わなんだ」


 握手を交わし、石舟斎は源次綱に改めて頭を下げる。そうしてそれを最後に、源次綱は立ち上がった。将棋盤を片付けに向かったのだ。そんな彼の背を、石舟斎は見る。


(……やはり、か)


 源次綱の背を見て、次いで石舟斎は己の手を見る。何がやはり、なのか。それは彼にしかわからない。が、彼は何かに気付いたらしい。再度源次綱の背を見る苦笑にも似た笑みが浮かんでいた。


「……ほとほと、酒呑童子は友に恵まれたらしいのう……願わくば……」


 我が子も友に恵まれます様に。石舟斎は戦いの前の最後の一瞬、無事に宗矩が生還出来る様に祈る。感じるのは、死。ここから先は帰れぬ死地だ。


(……何を、した)


 わからない。わかるのは、おそらくカイトは何か本来の彼であればしない様な事をした事だけ。そしてそれは自分に勝つ為の何かだという事も分かる。が、それでも彼がどんな秘策を打ってきたのかはわからない。


(……これは間違いなく死の匂い。閻魔様とて顔を顰める死臭よ……よほど、鍛錬を積んだのであろうな。この石舟斎が死を覚悟するほどに)


 間違いなく、今のカイトは侮れる存在ではない。そもそも侮るつもりなぞ皆無ではあったが、石舟斎は改めて自身の弟弟子が自分とは別方面での天才であると思い出す。が、それ故にこそ浮かぶのは、剣士としての獰猛な笑みだった。そんな彼に、宗矩が告げる。


「……父上」

「良い良い。わかっておるよ……お主の獲物を取ろうとは思わん。お主が儂の獲物を取らねば、じゃが」

「……ならば、結構です」


 これがもしかしたら親子の最後の会話になるかもしれないのだ。どちらもそうわかりながらも、何か特別な事を言うつもりはなかった。まるで日常の中の一コマ。そう言われても信じられるほど、雰囲気だけは普通の何気ない会話だった。


「……さて。行くか」

「はい……源次綱殿。ご支度は?」

「一切問題ない」


 宗矩の問いかけに、源次綱は一つ頷いた。今回の襲撃に参加するのは三人。内二人はここで終わりだ。故に、何があっても戻るのは源次綱ただ一人だった。故に、石舟斎が問いかける。


「のう、源次綱殿。もし儂らが生き延びた場合、後ろからばっさりと行くか?」

「それは命ぜられていない。そもそも今回は俺の判断でここに居る」

「左様で……で、もう一つ。横槍は、せぬのであろうな?」


 先程の自分達を後ろから切る事を問いかけた時よりも、石舟斎は剣呑な雰囲気で問いかける。これから起きるのは、今の自分の一生において最大最強の相手との戦いだ。親子揃ってこの相手との戦いの邪魔をするのであれば、源次綱だろうと容赦なく切り捨てるだけの気迫を滲ませていた。これに、源次綱はため息を吐いた。


「興味はない。指示もない……俺の目的はあくまでも瞬一人。奴が迂闊な事をしない様に来ただけだ」

「迂闊か……此度のあれの詳細は聞いた……有り難い」

「……有り難い?」


 流石にこの答えは想像していなかった。まさかの石舟斎の言葉に、源次綱は驚きを隠せないでいた。そんな彼の一方で、石舟斎は宗矩の手にある宝玉を見る。作戦開始が近いので取り出していたのだ。


「うむ……あれを使えば、弟弟子も本気でやるであろうな。すべての状況を整えられるというのよ。邪魔の入らぬ場に、急がねばならぬ状況……カイトとて儂にすべてを晒そう」

「ほとほと、修羅道に落ちた者は厄介だな」

「貴殿もそうであろうに」

「くっ……確かにな」


 石舟斎のツッコミに、源次綱が楽しげに笑う。そうして、三人はまるで戦いに向かうとは思えない様な気軽さで、道化師の指定した場所へと向かう事にするのだった。





 さて、彼らが出立した丁度その頃。カイトはというと、相変わらず会議に参加していた。


「ふぁー……そろそろ休憩入るかなー」

「ふぁ……まー、オレ達の関係ありそうな話は終わっちまったもんなー」


 時刻は14時を大きく回り15時に差し掛かろうかという所。丁度昼ごはんもこなれてきて、良い塩梅に眠くなるだろう頃合いだ。故に大あくびをしたユリィに、カイトもまた若干あくびをしながら同意する。

 ラエリアの議題もあるので参加する事にしていたが、アニエス大陸には当然それ以外の国もあるのだ。故にそれ以外の国の議題は殆ど関係がなく、カイトもあまり本気で関わるつもりは無い様子だった。と、そんな彼に灯里が問いかける。


「そういえば昨日も休憩あったんだって?」

「ああ。流石に下手すっと足掛け六時間とかなるからな。休憩入れんと議論に参加する奴らだろうと保たん。なので通例15時前後には休憩を一回入れて、必要なら17時頃にも休憩入れる。昨日は必要無かったから15時一回だけだけどな」

「そかー。その間、どうするの?」

「その間は好きにどうぞ、って感じかな」


 灯里の問いかけに、カイトはひとまずの予定を語る。と、そんな事を語った彼は、ふと思う事があったので瞬に告げる。


「先輩。そういう事だから別に後は参加しないで良いぞ。こっち灯里さん居るし、何か話が飛んでくる状況でも無いからな」

「良いのか?」

「流石に誰も気にしないさ。何より、ウチが今回来たのはラエリアの関係があるから、ってのは誰もがわかってるからな」

「そうか……すまん」


 そもそも瞬としても、この場に自分が居る意味は昨日以上にあるのだろうか、と思っていたらしい。カイトの言葉に今回ばかりはありがたく従わせて貰う事にする。


「あ、じゃあ私もー」

「あ、それなら私もー」

「お前らは参加しろよ……」


 灯里とユリィの二人に向けて、カイトは盛大にため息を吐いて肩を落とす。曲がりなりにも方やランクEX冒険者で、方や教師である。教師が生徒をほっぽりだしてサボタージュなぞ許される話ではなかった。


「「えー」」

「え、えーっと……やっぱり俺も居た方が……」

「あぁ、一条くんは別に良いよ。カイト、本当に必要無いんでしょ?」

「てーか、実際にゃオレも要らんからな」


 流石に瞬が気後れしたのを受けて、普通の教師モードに入ったらしい。そんな灯里の問いかけに、カイトははっきりと自分さえ必要無い事を明言する。


「それでも残るのか」

「適時バルっちが根回し手伝えー、って言ってるからね」

「それな。まー、貸し作っとくかー、程度で残ってやってるだけ」

「じゃあ私帰って良いじゃんよー」

「あのな……」


 それで良いのかダメ教師。カイトは一転して何時もの風を見せる灯里に再度のため息を吐いた。それに、瞬もまたこれが二人が単にじゃれ合っているだけなのだ、と理解する。


「そうか。それなら、お言葉に甘えさせてもらおう」

「そうしろそうしろ……どうせアニエスにせよ他大陸にせよ、他大陸の時点で大国以外の動きはさほど注視しなくて良い。無論、気にしないで良い、ってわけじゃないけどな」


 それに何より、カイトとしても瞬にそこまで大局的な視点は期待していない。無論、出来るのならそれに越したことはないが、ソラが指揮官としての道を進み始めた今、どちらかと言えば瞬にはカイトとしては前線指揮官としての役目を担って欲しい所だった。


「そうか。まぁ、もし何かがあれば通達を頼む」

「それで良い。今はな」


 今は結論を聞いて、それを基に判断をすれば良い。カイトは瞬の言葉に一つ頷いた。と、そんなこんなをしている間に、気付けば時間が経過していたらしい。


『では、これから二十分休憩とする。再開予定は15時10分。まぁ、残る議題を考えれば必要とは思えんが……丁度ラエリアやらの大国の話も終わった所だ。丁度よいタイミングだろう』


 ラエリアを筆頭にした大トラブルに見舞われた国の話し合いが終わり、レヴィが参加者一同に告げる。基本的にユニオン総会では重要な議題が先に持ってこられる形になる。なので後残す所は本当に細々とした注意事項だけになるようだ。

 が、それでもどれだけ掛かるかはわからないし、良い時間が経過している。一度休憩を挟むのは悪いアイデアではないだろう。そうして、カイト達もまた休憩に入る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 綱戦の最後とかに頼光や牛御前、金時、茨木が次元渡って来ると胸熱ですね。
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