第1944話 ユニオン総会 ――贈り物――
ユニオン総会三日目。この日からはユニオン全体に関わりは無いものの、大陸毎に起きていた事件や懸案事項の話し合いが行われる事になっていた。
というわけでカイトは三日目の午後からエネシア大陸の議題に参加していたわけであるが、その終了後。彼はルードヴィッヒより伝言を受けている、というシェイラの求めを受けてアリスを呼んで居た。というわけで、そんなアリスが暦と共にやって来たわけであるが、そこには道中で偶然遭遇したレヴィが一緒だった。そうして、道案内を行った彼女が去った後。改めてシェイラが口を開く。
「さて……改めて。アリスちゃん。元気だった?」
「はい。シェイラさんもお久しぶりです」
シェイラの挨拶に対して、アリスもまた何時もの外向きの顔で一つ頷いた。そうして少しの挨拶を交わした後、シェイラは時間も時間なので手早く話を進める事にした。
「それで、今回来てもらった理由だけど……貴方のお父様から色々と預かっているわ」
「父さんから?」
「ええ……まずは手紙。こちらは妹ちゃんから、だそうよ。別に正規のルートでも良いけど、持っていくのならって」
「会ったんですか?」
「退任に伴ってご挨拶にね」
いくらユニオンの冒険者と言っても、支部長であった以上は支部の治安維持なども担う必要がある。なのであいさつ回りもある種必須事項と言えた為、退任にあたってルードヴィッヒ――というよりヴァイスリッター家――へ挨拶に向かう必要があったのだろう。
「退任……そういえば、この後はどうされるんですか?」
「あら……聞いてない?」
「ええ」
「そう……色々とあってローラントの奴に頼まれて神殿都市に行く事になってね。私も近くよ」
「は、はぁ……」
まぁ、アリスにもカイトと並んで知恵者としてローラントは見えたのだ。なので何か理由があるのだろう、とアリスは呆気に取られながらもその言葉を受け入れる。と、そんな事を聞いて彼女はふとソーニャの事を思い出した。
「あ……そうだ。それならソーニャは?」
「ああ、彼女も連れてくるわ。今は一旦その準備で置いてきたけれど」
「そうですか」
やはり見知った相手が増えるというのだ。元々人見知りの気があったアリスであったが、それ故にこそソーニャには懐いていたらしい。一方のソーニャの方もソーニャの方で実は案外アリスは苦手ではない。彼女もまた霊力を持つが故、感受性が強い。ソーニャの力を聞いても特に気にはしないのだ。
「あ……とりあえず手紙、ありがとうございます」
「ええ……それで、こちらが貴方のお父様から」
「ひゃ!」
どうやら思った以上に重い物だったらしい。少し大きめの小箱を渡されたアリスが思わず悲鳴を上げる。そこに、カイトが魔糸で支えを作る。
「っと……っと、中々に重いな」
「ええ……中身は盾だそうよ。小型のバックラータイプ」
「「盾?」」
告げられた中身に、カイトもアリスも声を揃えて首を傾げる。確かにアリスは盾を使えなくはないが、普段は使わない。そもそも彼女はパワータイプではないし、防ぐのは中々に難しい体躯だ。
故にカイトとしても騎士としてはどちらかといえば軽装である事などを踏まえ、盾はあまり使わせない様にしている。何故今更その盾を彼女に、と思ったのだ。これにシェイラも一つ苦笑して頷いた。
「まぁ、開けてみれば分かる、そうよ。私も盾とは聞いているけれど、梱包を開けるわけにもね」
「はぁ……」
とりあえずは開けてみるか。中身は盾という事なので、特に開けても問題はないだろう。そうして梱包を開けたわけであるが、そこにはやはり盾が入っていた。これに、アリスは小首を傾げる。
「普通の……盾ですね」
「いや……小さめの盾ではあるが……ふむ……」
これはもしかしたらすごい物を送ってきたのかもしれない。カイトはアリスが取り出した盾を見て、そう思う。見た限りは確かにシェイラの言う通り小型のバックラータイプの物で、材質は金属製。大きさは小柄なアリスの体躯にしても若干小さめだ。
が、様相などから鑑み、彼女専用に作られたと考えて間違いない。色合いは白。装飾も施されており、儀礼などでも使えそうな見た目ではあった。少女騎士用の盾。一言で言い表せば、それが最適だ。そんな盾を、カイトはじっくりと観察する。
「……ふむ……」
何か見知った力を感じる。盾を見るカイトはこの盾に仕込まれた強大な力を見抜いて、これが何なのかを考える。そうして、そんな彼はルクスが言っていた言葉を思い出す。
(あ……まさか、これ……)
そういう事なのだろうか。そうだとするのなら、凄まじい物を送ってきたのではないか。カイトはそう考え、思わず目を見開いた。そんな彼に、アリスが問いかける。
「何か……わかりますか?」
「いや、はっきりとした事は特には……が、何か凄い得も言われぬ力を感じる。この中央の部分に何かが仕込まれている……のだろう」
カイトは何かを確かめる様に、こんこんっ、と軽く指先でバックラーの中心を突っついた。
(やっぱり……若干だが古い感がある。外見こそ新品だが……ってことは……)
中に仕込まれているのは、以前にルクスが告げていたあれなのかもしれない。カイトはよほどアリスに目を掛けているらしいルードヴィッヒを思い、思わず内心で驚愕を浮かべる。
(存在している、ってのはルクスから聞いちゃいたが。まさかそれを使うとはな……初代ルーファウスが使ったと言われている盾。幼少期の彼の旅路の旅路を支えたというバックラー……その中心部のみ残っている、って話だったが……)
よく見れば、確かに中央のみ僅かに材質というか作りが違う。無論、誰も気付いていない様に、作り直されている事と修繕師の腕がよほど良かったらしく新品同然だ。が、確かに存在するつなぎ目の様な物を見抜いて、カイトはこれが再度作り直された初代の盾と理解した。
(なんだったか……竜退治の折りに使われ、そこで破損。その後少しの代替品を経て、厄災種との戦いの際に聖剣を使う様になった、だったな)
捨てるに捨てられなくて、と文献には残っていた。ルクスが楽しげに語っていた事をカイトは思い出す。そうしてそんな事を思い出しながら、カイトは少しの関心を抱いていた。
(にしても……おそらく破損した際に自己修復機能で一部に取り込んだ、という所か……凄いな。相当強い竜と戦ったのだろう、とはルクスと話してたが……これは相当強い。なるほど、確かに天才と言われたのも無理はない)
優れた武器には使用者の魔力や気などを利用して自己修復する武器は無いではない。そもそもカイトの武具もその一つだ。が、それでもやはり限度がある。
なのでこの盾はそれを超える破損を受けた事はわかったが、中心が残っていた事でなんとか自己修復しようとした形跡が見られた。が、やはり失敗したのか、修復出来なかったようだ。
とはいえ、その際になんとか修復しようとして、倒した竜の力を一部取り込んでしまったらしい。内部に相当強大な竜の力を防ぐ概念的な守護の力が備わっている様子だった。
(おそらく竜の攻撃をかなり防げるだろうな……この領域までなると、龍族の攻撃もかなり防げる。盾という事はまぁ、こちらに気を遣ってくれたんだろう)
そもそもカイトが龍族の血脈である事は知られた話だし、ルードヴィッヒその人も知らないとは思えない。ここで剣の方を渡してしまうと下手をすると要らぬ事を勘ぐられてしまい、アリスの立場が悪くなる事もありえる。が、盾はどれだけ対竜の力を持とうと盾。攻撃には転ぜられない。そんな政治的な事などを考えたカイトであったが、流石にあまりに長々と考え込む事は出来ないので考えながら口を開く。
「アリス。一度装備してみて、感覚を確かめてみろ。防具としてのサイズは良い塩梅だろうが、留め具などがあるからな」
「あ……はい。えっと……」
やはり盾を装備するのが久方ぶりだからだろう。アリスは少し手間取りながらも、カイトの指示に従って左腕に盾を身に着ける。そうして彼女が身に着けると同時。盾の中央。丁度カイトが初代ルーファウスの盾が仕込まれていると思われた辺りが、僅かに青白く発光する。
「「っ!」」
「ほぅ……」
「あら……」
唐突に迸った力にアリスと暦が驚き、カイトとシェイラの二人が僅かに身を固くして警戒感を露わにする。やはりさすがはルクスが比較対象として言われるほどの剣士という所だろう。
武具一つにしても相当な力を有していた様子だった。現代の技術で打ち直してこれであれば、最盛期はよほどだったと推測された。そんな盾を見ながら、カイトは暦を僅かにかばう様に移動してアリスに告げる。
「アリス。その中心部分に力を通してみろ」
「……大丈夫、でしょうか」
「ああ。盾から攻撃が放たれる事はあるだろうが……それでもお前の実力などから鑑みれば、シェイラさんも居る以上問題は無いだろう」
「……はい」
アリスは自身の視線にシェイラが頷いたのを見て、僅かに気合いを入れて盾に魔力を通す。すると、盾の中心から虹色に輝く蒼い半透明の盾が出現した。
「これ……は」
「重さは?」
「一切変わりません」
「そうか……凄いな。おそらく相当な強度があるだろう……ふっ!」
「きゃあ! ……あれ?」
カイトが唐突に掌底を放ち盾を攻撃したのを受けて、アリスが思わず身を固くする。が、そんな彼女は半透明の盾に攻撃が衝突するも何も感じない事を受けて、思わず困惑を浮かべていた。衝撃さえ吸収されてしまったらしい。と、そんな彼女を見て暦ががっくしと肩を落として口を開いた。
「先輩? 流石に言う前には一声掛けましょうよ……」
「ああ、悪い悪い。アリスも悪いな」
「い、いえ……」
おそらくカイトはこれも想定した上で攻撃したのだろう。アリスは良くも悪くもカイトの事を知ればこそ、そう理解していたが故に納得を示す。実際、カイトは衝撃吸収も想定内だった。初代ルーファウスの盾だ。それぐらいはあって然るべきだろう、と。と、そんな彼が感覚を確かめる様に手を握る。
「にしても……なるほど。やはり凄いな。衝撃吸収に加え、対竜種、対龍族に対する攻性防御まで備わっているか。ルードヴィッヒさん、どうやってこんなものを手に入れたのやら。ここまで凄いとは思わなかった」
「え? あ!」
ぽたぽた、とカイトの拳から滴り落ちる血を見て、アリスが思わず目を見開いた。元々これは想定していた事であったが、ここまで強いとは思わなかったらしい。幻想の盾に触れた瞬間、紫電が彼の拳を襲いかかったのだ。
「ははは。気にするな。これぐらいは想定内だ」
「そういう事じゃありません」
楽しげに笑うカイトに対して、アリスは彼の手を握り治癒の魔術を展開する。元々のカイトの能力も相まってこの程度で済んだが、生半可な竜種の攻撃なら逆に手酷いダメージを負う事になるだろう。
「ありがとう……で、見た限りだが相当強度が高いな。使用感としては?」
「殆ど使ってる印象が無いぐらいに軽いです」
「なるほどな……本当にどこでこんなものを手に入れたのやら」
カイトはあくまでも自分が勇者カイトとは別人であるから、とこれが何なのかはわからないものとしておく。その一方のアリスはこれ以上展開し続ける意味は無いだろう、と幻想の盾を消滅させる。
「はぁ……」
「腕の動かしとかに阻害感は?」
「……やはり盾を使う分、少しだけ」
「そうか……ふむ……」
これは相当に良いものだ。カイトは裏まで理解すればこそ、これはアリスが持つべき武器だろう、と判断する。なお、これはカイトも知らない事であるが、アリスがカイトの所に来た時点で渡されていてもこれは使えなかった。カイトの下での修行があればこそ、ルーファウスも今のアリスなら使えるだろうとして修繕させたのである。
「今後はそれを使って戦える様にするべきだろうな。相当に良い品だ。元々アリスは回避系だが……それは回避を主眼としながらも防御を疎かにしないで良い品だ。使わない道理はない」
「……はい」
折角父がくれたのだ。アリスとしても少しやりにくい感はあったものの、使う事にしたらしい。というわけで、アリスは新たに手に入れた盾を片手に、カイト達と共にホテルへと戻る事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




