第1943話 ユニオン総会 ――三日目を終えて――
ユニオン総会三日目。この日から各大陸毎の話し合いが行われる事になったわけであるが、そんな中カイトはウルシア大陸の会合には参加せず、本拠地のあるエネシア大陸の会議に参加する事にしていた。
というわけで昼からの会議に参加した彼は、邪神復活に関する事とブロンザイトの死去に関わるいくつかの案件に関係者の一人として関わる事になる。そうして、途中休憩を挟みながら五時間程度の会議を終えた後。彼はひとまずホテルへと帰還する前にシェイラと合流していた。
「というわけで、伝えてはおいた」
「そう。ありがとう……元気だった?」
「そりゃ、一応今回は親御さんから正式に預けられてるからな。体調管理もオレの仕事になる。問題は無いさ」
「貴方の事だから、襲わないか心配ね」
「まさか」
流石にあの時の軽薄な様子は演技だ。シェイラもわかってはいるだろうので、単なる冗談という事だろう。
「で……一応、わかっているとは思うが。アリスに変な事は言わないでくれよ。仕事なんで仕方がないとは思うだろうが……流石にあの子の才能を潰すのは教国としてもありがたい話じゃないだろう」
「言わないわ。あの子にそういう裏の事を話すのは、少し早すぎるもの」
「なら、結構だ……あ、そうだ。そういえばふと思ったんだが……」
なら問題はない。そう告げたカイトは、アリス達が来る間にふと思う事があったので問いかける。
「そういえばローラントの奴は? ランクAの冒険者でもあるのなら、特段来ても問題はないだろう」
「あいつなら来てないわ。休み終わったからまた本業」
「なるほど。二足わらじは大変か」
「ええ」
楽しげに、シェイラとカイトが笑い合う。これはカイトは知り得る事ではなかったが、ローラントは丁度休暇が終わり再びルクセリオの外に出ていたらしい。基本的に彼はルクセリオ以外での任務が多いらしく、再びテニアを探しているとの事であった。と、程々に雑談を行った所で、カイトはふと気になったので今回アリスを呼び出す理由についてを問いかける事にした。
「そういえば……ルードヴィッヒさんから伝言がある、とは聞いたんだが。何があったんだ?」
「ああ、大した事じゃないわ。あの子の剣については聞いてる?」
「ああ。一応は」
そもそも現在、カイトはアリスの師になる。なので彼女が常用する剣以外にももう一振り剣がある事は知っており、隠す必要もなかった。
「それの件で、よ。後は本人に言うべきでしょう」
「わかった」
それなら、別に気にする必要もないか。何より自身も同席して良いのであれば、さほど重要な話とは思われる。なら、特に気を張る必要はないとカイトは判断する。そうして、彼らはそれから暫くの間雑談をしながら過ごす事になるのだった。
さて、そんな二人の一方。アリスはというと、流れで暦と共にシェイラの所へと向かっていた。とはいえ、そのまま進んでは要らぬナンパを受けたりするし、何よりアリスの様な美少女が不用意に歩けば面倒が起きかねない。
現状、各地から冒険者が集まっているわけであるが、それ故に犯罪率も増加してしまっているのだ。カイトが裏道を教えていたので、そちらを通っていた。
「本当に人が居ない……なんでこんな所があるんだろ」
「カイトさんいわく、街の住人が通る為の隠し通路……だそうです。ここに居るのは元冒険者だけ、というわけではないそうですので……ユニオンが専用の道を造ったそうです」
暦の言葉にアリスが地図を見ながら告げる。暦が一緒なのは、当然安全面への配慮だ。女の子一人より当然、二人の方が何か起きにくい。そして起きた場合にも対応は出来る。基本冒険部では『リーナイト』での活動については二人一組かそれ以上での行動を義務付けていた。
「えっと……確かここを右に曲がると……」
やはりどうしても見付かりにくくしている関係上、直線的に移動出来るわけではない。なのでアリスは地図を片手に右往左往と曲がりくねった道を進んでいく。
なお、ここが絶対に冒険者に気付かれないのか、というとそうではない。一部の冒険者達はこの存在には気付いているが、人気が無いからと何か犯罪を起こす事はない。
この道の管理者が<<天翔る冒険者>>とユニオンそのものであることから、両組織への喧嘩を売る事になってしまうからだ。
流石に冒険者がユニオンに喧嘩を売っては生きていけない。どんなバカだろうと、それぐらいの分別はある。無論、それ以外にもきちんと<<天翔る冒険者>>の見回りも居る。とまぁ、それはさておき。そんな道を二人は地図を見ながら歩くわけであるが、それ故にこそ若干前方不注意だった。
「きゃっ!」
「っと」
どんっ。決してどちらも速いペースで歩いていたわけではないが、相手もまた注意が散漫になっていたらしい。唐突に現れたお互いによりバランスを崩して倒れ込む。これに、暦が慌てて相手方に駆け寄った。
「アリス! あ、ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」
やはりどうしても道を隠す関係上、そこまで一本一本の道の広さはそこまでではない。なので不注意に歩けば、曲がり角から出て来た人とぶつかってしまう事はままあった。更には悪い事に、向こうも若干不注意があったらしい。暦の言葉に起き上がって首を振る。
「いや……私こそ不注意だった。少し考え事をしていた。大丈夫か?」
「あ、はい……すいませんでした。お怪我は?」
「問題はない。これでも私とて冒険者だ……私こそすまなかったな。今の時期はこの時間帯だと人は通らんと油断していた」
アリスに手を差し出した相手は、彼女の謝罪に一つ首を振る。と、そんな二人であったが、そこで暦の異変に気が付いた。
「暦?」
「……どうした?」
「……その……えっと」
どう言えば良いのだろうか。暦はアリスのぶつかった相手の顔を見ながら、顔に盛大な困惑を浮かべていた。が、これにアリスは理由が一切推測出来なかった。
相手の顔は美女と呼んで良いだけで、それ以外に何かおかしな点は一つもない。それどころか怪我一つ、シミ一つ無いのだ。と、そんな彼女が自分の顔を見ている事に、相手が気が付いた。
「……そうか。その驚き様……私を見た事があるな?」
「……はい」
何故か困惑した様子の暦はくすりと笑う相手に一つ頷いた。が、そんな彼女の顔を見て相手は苦笑して、衝突の衝撃で脱げたフードを深くかぶり直した。
「気にするな……と言っても無理だろうが」
「え?」
相手ことレヴィは自分が預言者と言われる者である事をようやく理解し困惑する暦に、一つ笑う。
「くっ……貴様も注意力が低下していたな。まぁ、それは良いか……それで、私についてはあまり気にした所で無駄だ。何も語るまいよ」
「あ、あの……一つだけ伺って良いですか?」
「それで貴様が黙るのなら」
暦の問いかけに、レヴィが先を促す。これに、暦は一応レヴィの身を慮ったのか彼女に近付いて問いかける。
「先輩は知ってるんですか?」
「……」
ぽかん。暦の問いかけに、レヴィが目を丸くする。そうして、彼女は非常に楽しげに笑い出した。
「あ……あっははははは! 暦。お前はもう少し勉強をするべきだな」
「っっっっっ」
もしかしたら非常に常識的な事を聞いてしまったのかもしれない。楽しげに笑うレヴィに、暦は真っ青にしていた頬を朱に染める。まぁ、彼女がここまで笑ったのは理由がある。
それは如何に彼女でもどんな質問が来るか、と警戒していたからだ。だのに予想に反して来た問いかけはカイトは知っているのか、である。彼女からしてみれば拍子抜けも良い所だった。そうして、そんな彼女は肩を震わせながら告げた。
「お前も一緒にカイトに勉強も見てもらえ。私から言っておこう」
「え゛」
「ではな。確かに、質問には答えたぞ。まぁ、後は時が来れば、という所だろう」
どうやらレヴィは上機嫌らしい。案外彼女も策略家だからか、自分の想定外の行動に出る者は見ていて楽しいらしかった。そうして彼女は上機嫌に肩を震わせながら、暦とアリスに背を向けて去っていった。
「……あの今の……誰?」
上機嫌なレヴィが去っていった後。アリスが困惑気味に暦へと問いかける。やはり預言者と言われるほどに有名でも、彼女は裏方。しかも活動領域がラエリアと来る。冒険者としてまだあまり長くないアリスが知らないでも無理はないだろう。
「預言者……って呼ばれてる人……だと思う」
「預言者……ユニオン最大の知恵者?」
「うん」
なるほど。それで暦も驚いていたのか。アリスは暦が驚きを浮かべていた理由をそう推測し、内心で納得する。流石にぱっと見て思い出せないでも、名前を聞けば思い出せるほどにはアリスも物を知っている。故に彼女もまた、去っていったその背を思い出して驚きを浮かべた。
「……女の人、だったんですね」
「うん……」
レヴィが女だというのはまず誰も知らないのだ。彼女が偶然にも出歩いていて、そこで衝突したという事故がなければ到底知り得ない事だ。故に暦とアリスは若干驚きの点がズレたまま、両者驚きだけを得る。と、そんな事を考えていたら、レヴィが戻ってきた。
「……あ」
「えっと……どうされたんですか?」
戻ってきたレヴィに、アリスがおずおずと問いかける。それに、レヴィは至極当然の事を問いかけた。
「よくよく考えれば、何故貴様らがここに居る。ここは街の住人達ぐらいしか知らない道だ。今の時期は特に出入りも限られるぞ」
「え? あ、その……シェイラさん……あ、次期神殿都市の支部長に呼ばれて、そちらに行く所です。それで、その地図を……」
「ああ、それでか」
アリスの提示した地図を見て、レヴィも一つ納得を示した。そもそも彼女が考え事をしていたのも、この道は今の時期のこの時間ならば人が通らないと思えばこそだ。実際、暦とアリス以外は見回りのユニオン職員以外は誰も居ない。気になっても仕方がない。
「着いてこい。どうせ私もユニオン本部に戻る所ではあった。安全なルートを、という事で遠回りしていたのだろうが……今の時間なら気にしなくても良い」
「あ……ありがとうございます」
レヴィはそもそも冒険者として見ればランクSに匹敵する実力者で、この街の住人でもある。しかも三百年もこの街の治安維持などを行ってきたのだ。裏道は熟知しており、安全に進めるだろう。というわけで、彼女に案内された二人は予定よりかなり早くユニオン本部へと到着する。
「さぁ、着いたぞ。待ち合わせは?」
「えっと……会議場外の待合室です。受付で番号札を見せて場所を聞くように、と」
「なら、こちらだ」
アリスの提示した番号札を見て、レヴィが一つ頷いて案内を再開する。そうして歩く事十分足らず。カイト達の待つ待合室へとたどり着いた。
「あ、先輩」
「カイトさん」
「よぉ、二人共来たな……って、ん?」
「偶然、道中で遭遇したのでな。連れてきた」
「あぁ、なるほど……ありがとうございます。後はこちらで」
「そうしてくれ」
元々シェイラは教国の首都の支部長で、今度は神殿都市の支部長だ。なのでレヴィとしても見知っていたらしい。そうして、彼女に案内された暦とアリスの二人はカイトとシェイラに合流し、そこでアリスはルードヴィッヒからの伝言を聞く事になるのだった。
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