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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第80章 ユニオン総会編

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1966/3940

第1937話 ユニオン総会 ――遠征隊――

 ユニオン総会の二日目にバルフレアを中心とした八大ギルドのギルドマスター達連名で行われた、暗黒大陸ことオルテア大陸への遠征隊の提案。それは当初のバルフレアの予定とは異なり、先遣隊と本隊に分けて遠征隊を出す形となっていた。そうしてそれに対する質疑応答が繰り広げられる傍ら、カイトとユリィの二人は今まで殆ど知られていない暗黒大陸に関する質問を瞬から受けていた。


「なるほどな……暗黒大陸の魔物は強いとは聞いていたが」

「ああ。それ故に超長期の居住には向いていない、というのが現代での常識だ」


 やはりどうしても、居住には魔物という存在が重要になってくる。そして暗黒大陸に存在する魔物は平均的にランクSにもなるだろう、というのが現代の推測だ。が、これで一つ疑問が出た。それをカイトが指摘する。


「と言っても……ここで一つ疑問が出ないか?」

「うん?」

「何故未踏破領域なのに、平均値が算出されているのか。誰も立ち入った事がないのに、だ」

「それは……海岸沿いがそうだから、だろう? バルフレアさんも上陸して少ししてヤバいという事で引いたそうだし」

「そうだ」


 瞬もバルフレアから暗黒大陸の話は聞いていた。あそこに生息する魔物は基本高位と言われており、まだ安全な場所とされている地帯でもランクB。最低でも壁超えというとんでもなさだ。危険地帯ともなれば、ランクSが平均となる事だってあるらしかった。そんな場所だ。超長期の居住に向くわけがなかった。


「……が、それは即ち、中がどうなっているか誰にもわからないんだ」

「だが……外周部がそうであるのに、内陸部が安全という事があり得るのか?」

「逆にそうではない、という事への確証は?」

「む……」


 カイトの反論に、瞬が反論しかねて言葉を詰まらせる。カイトの言う通り、内部を誰も知らない以上は安全である可能性だってありえるのだ。ただ単に外周部が危険で内陸部まで到達出来ないので誰もが暗黒大陸は危険と言うだけで、内陸部も危険かというのは誰も確かめられていない。というわけで、言葉を詰まらせた瞬に、カイトが今回の遠征隊をバルフレアが是が非でも行いたい告げた。


「ま、それ故の遠征隊だ……前にバルフレアが言っていたが、暗黒大陸は準備も無し、大きな支援も無く踏破可能な場所ではない。よしんば奴一人なら踏破可能でも、最悪中でもし<<死魔将(奴ら)>>が居たらどうなる?」

「あ……」

「そういうことだ。待ち受けるのは、死。ランクSの化け物達を突破したとて、その先に待ち受けているのはそんな化け物達さえ霞む様な<<死魔将(化け物)>>かもしれない。いくらなんでもバルフレア単独でなんとかなる状況じゃない」


 それで、カイトを是が非でも遠征隊に加えたかったのか。瞬はバルフレアが語っていた事を思い出し、思わず納得を得る。もし万が一、暗黒大陸に<<死魔将(しましょう)>>達の拠点があったなら。

 生半可な腕の冒険者ではまともに突破さえ出来ない領域なのに、その更に奥にランクSの魔物さえ霞む<<死魔将(しましょう)>>達。おそらくランクS相当の冒険者数百名で挑んだとて、壊滅は必須だった。が、それを確かめる為には、やるしかない。


「が……それを確かめなければならない。何時かは、誰かが。もしここに奴らの拠点があったなら、それだけで手掛かりだ」


 何時かは、誰かが。強調したカイトの言葉に、瞬はそれが自分達の役目なのだろう、と理解する。そして、実際にそうだ。並の兵士達が成し遂げられない事をしてこその冒険者。そして未知への挑戦こそが冒険者の本懐だ。であれば、これは彼らの役目だった。そしてそれはバルフレアもまた、同じ感情だった。


『……まぁ、そういうわけだ。俺達冒険者が前人未到の地に行かないで、誰が行く? 勿論、俺だって一人で行けるのなら一人で行く。それで野垂れ死んじまっても、そりゃ俺の責任だ。が、今回ばかりは話が違う……エネフィア全ての命運さえ、この遠征には掛かってる。故に必ず成功させねばならない』


 バルフレアの強い言葉に、誰もが口を閉ざす。今回ばかりは、成功させねばならない。そして撤退も許されない。そんな気概が、彼の言葉にはあった。そうして、その言葉が最終的な決め手となり、遠征隊の派遣はユニオンの総意として決定される事になるのだった。




 さて、遠征隊への様々な意見が出終わった後。ひとまず一ヶ月の間ユニオンにより遠征隊への参加を募る事となり、この議論は閉幕となっていた。そうして二日目を終えた後、カイトはバルフレアの所へと顔を出していた。


「よ」

「ああ、カイトか」

「お疲れ……流石に今は飲む気分じゃないか?」

「まぁな……サンキュ」


 カイトの投げ渡した瓶を受け取って、バルフレアが少し笑う。そんな彼であるが、今はユニオン本部の建物の屋上に腰掛けていた。そうしてバルフレアの横にカイトが腰掛けて口を開いた。


「とりあえず、ひとまずか」

「ああ……ちっ……結局、こうなったか」

「元々本隊のみ、ってのは今のまま何も問題がなかった場合、って話だったろ。こうなるのは必然だった」


 苦々しげなバルフレアの言葉に、カイトは僅かに笑ってそう告げる。冒険者としては慎重派のバルフレアだ。故に彼はいくつかの計画を立てており、その中には当然先遣隊を派遣するパターンも構築されていた。このいくつかは彼の本来の姿を知る親しい冒険者達にしか教えられていなかったが、カイトもその知っている者の一人だった。


「……それでも、本来は先遣隊は避けるべきだった」

「ま……お前が言うんなら、そうなんだろうさ。暗黒大陸に関しちゃ、お前のが良く知ってる」


 何度か言われている事であるが、カイトは暗黒大陸に渡航した事はない。そもそも彼の旅は堕龍を追う旅と、<<死魔将(しましょう)>>達との戦いの旅だ。故に文明もなく堕龍が渡った形跡もない暗黒大陸に向かう理由はなかった。よしんば漂着していたとて、当時の彼の力量では助かる見込みはなかった。


「ああ……本当にあそこは危険だ。一応、上陸して半月は居たが……」

「半月が限度だった、って事か」

「ああ」


 バルフレアは改めて、カイトの言葉に一つ頷いた。ランクEXの冒険者が万端の準備を行って、たった半月しか居座れなかった。しかも彼は『冥界の森』の踏破実績も持つのだ。それだけで暗黒大陸がどれだけの難所か察するにあまりある。と、そんな彼にカイトが問いかける。


「そういや、一つ聞きたいんだが」

「んー?」

「今回はどれぐらいを探索するつもりなんだ? 西海岸から上陸して、とは聞いてるけどさ」

「一ヶ月で可能な限り」

「そりゃ、聞いたさ。だからその目処だ」


 確かに暗黒大陸は暗黒大陸と地図で表示される様に、凡その外見さえ判明していない。が、凡その大きさは判明しているのだ。故にどの程度調査を行おうか、という目処ぐらい立っていてもおかしくはなかった。が、これにバルフレアは少し呆れる様に笑って首を振った。


「わかんね……実際、今回は想定外の所が多すぎる……何よりなぁ……」

「ん?」

「楽な所から入って見付けられるか?」

「まー、そこはあるわな」


 バルフレアの問いかけに、カイトは楽しげに笑う。今回西海岸を上陸地点として選んだのは、言うまでもなくそこが一番安全だからだ。が、逆に言えば一番安全な場所だからこそ、敵からすれば一番対処しやすい場所という事でもある。

 なにせそこさえ外せば、例えば逆に危険と言われている北側や東側に拠点を置かれると、わざわざ西から大陸を横断しなければならないのだ。一気に面倒になる。というわけで、そんな事を見抜いたカイトであるが、更に笑う。


「それにまぁ……最悪オレ達にゃ手を出せん場所に拠点を作られてる可能性もある」

「……どこだ?」

「地球」

「……」


 それは考えてなかった。バルフレアはカイトの言葉に、思わず目を瞬かせる。地球は言うまでもなく、エネフィアの管轄にはない。更に言えば、当然だが他国でもある。そこに異世界人であるエネフィアの者たちが乗り込めば、最悪は二つの異世界による戦争にも成りかねない。

 しかも、だ。この場合は暗黒大陸や数多の魔境に比べて渡航さえ難しい場所だ。もし地球にまで拠点があった場合、こちらにはどうする事も出来なかった。


「はぁ……いや、やめだ。今は目の前の遠征に注力しよ」

「そうだな……で、改めてになるが、オレは本隊での合流だ」

「そりゃ、無理は言わないさ。お前はお前の立場があるしな」


 本来、カイトもバルフレアも冒険者という立場で動ければ良いとは思っている。が、バルフレア当人でさえ一個人ではなくユニオンマスターという立場で動かねばならないのだ。

 彼が慎重派である姿勢をあまり表に出したがらないのも、それが大きかった。無論、彼の場合は大抵の事をなんとかしてしまえるだけの実力があっての事ではある。が、同時に彼がユニオンマスターとしてしか動けないのなら、本来ならカイトが冒険者としての立場であれれば良かった。なので、彼は一応の事としてその理解に頭を下げる。


「悪い」

「あっはははは。お前らしいからな」

「あははは。そう言われれば、返す言葉もないがな」


 そもそもカイトが公爵になったのは、ティナを娶る為というのが公的な理由だ。それ以外の理由として、皇国やらの組織の体面として誰かに褒美を与えねばならない、という理由があった。

 これには特にウィルの立場と彼の面子が大きかった。そこらを鑑みた結果だ。が、そこらを鑑みるのが、カイトらしさと言えば彼らしさでもあるだろう。というわけで、ひとしきり笑いあった二人であったが、それも落ち着いた頃にバルフレアが問いかける。


「で……もし地球に拠点があった場合、どうするんだ? 流石にこっち手は出せねぇぞ?」

「わかってる……しかも悪いのは、奴らが地球で動きを見せてない所だな」


 これで地球でも動きを見せてくれているのなら、まだ地球とエネフィアの共同作戦を展開する事も出来る。その場合、カイトが正体を明かして動く事になるだろうが、それでも<<死魔将(しましょう)>>の一件さえ片付けば後はどうにかなる。彼らさえ居なければ、現在の天桜学園ならバラける事はないのだ。カイトも安心して後方支援を行えた。


「……はぁ。最悪はあちらにトラブルを持ち込む事になるだけで、両世界の仲が悪化する。それは最悪の最悪パターンだ。いや、まだ最悪の最悪じゃないか」

「? じゃあお前の思う最悪ってなんだよ」

「更に別の異世界に拠点があるパターン」

「……あ」


 そういえばそうだった。前にカイトがそんな話をしていた事を、バルフレアも思い出す。ここら、どうしても二つの世界を行き来し、なおかつ今はもはや行き来できる存在になっているカイトが居るからだろう。地球とエネフィア。その二つ以外の世界があり、移動が出来ると誰しもが思っていた。


「この場合は異世界戦争勃発だ……面倒な事になる。ま、そんな類を見ない事態になってほしくはないがね」


 なってほしくないであって、あり得るかもしれない、とは考えるが。カイトはそれでも避けたい事態と思えばこそ、ため息を吐いた。と、そんな遠征隊に関する会話を少し繰り広げた二人であるが、一転バルフレアが首を振った。


「やめやめ。こんな話したって無駄だ……で、明日だけど」

「ああ、明日か……明日は確か色々な雑事だったな?」

「ああ。昨日今日でデカイ議題は終わり。明日からは小さな話だな」


 基本的に何も無い年の総会では、大きな議題は二つしかない。一つは一日目午後に行われた、新種の魔物に関する情報交換会。これは冒険者の職業柄、必ず知っておくべき事だ。なので大きな議題の一つに上げられる。

 そしてもう一つは、こちらも言うまでもなくユニオン支部の支部長選定だ。こちらはユニオンという冒険者達の後ろ盾や支援に関わってくるし、今後の活動のやりやすさにも影響してくる。

 なので何時もなら一日で大きな話題は終わる筈だったのだが、どうしても今年は重要な議題が二つ増えてしまっていた。それに合わせて日程も何時もより一日多めに取られていた。が、それも終わり明日からは細々とした会議だった。無論、それでも組織の規模から会議の日程は二日になっている。


「とりあえず、お前の所のあれだな。あっちもレイシア皇女が来るんだったな?」

「今度はエネシア大陸の代表としてな。ま、そこについちゃラエイアからの使者と変わらん」

「ま、それはそうか。それに依頼出してくれるってんなら俺達に否やは無いさ」


 カイトの言葉に、バルフレアが先程までとは一転して楽しげに笑う。そうして、この後バルフレアとカイトは暫くの間、明日の為の事前打ち合わせを行う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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