第1929話 ユニオン総会 ――古馴染み――
ユニオン総会の一日目全行程を終えたカイト。そんな彼はホテルに戻って少しだけゆっくりした後、改めて本来の姿に戻ってユニオン本部へとやってくる。
それは総会の夜に行われる冒険者の中でもかなり高位の者たちばかりが集まった宴会に参加する為だった。そうして古馴染み達に出迎えられた彼は、ひとまずはソレイユに押され会議場中央へ向かったアイナディスの背を追って中央へとたどり着いてた。
「お! カイト! 来たね!」
「おう。相変わらずお前の所が居ると華やぐなー」
「あっはははは! ウチはそれが最大の特徴だからね!」
中央にたどり着いたカイトに一番最初に気付いたのは、カリンだった。まぁ、これは単に彼女が此方側を向いて飲んでいたから、というだけだ。というわけで、そんな彼女の笑い声で他の面子も彼に気が付いた。そうして、バルフレアが片手を挙げる。
「よぉ! 昨日も飲んだ気がするが、とりあえず今日も駆けつけ三杯!」
「っと! ほら」
「サンキュー」
バルフレアから投げ渡された二つの盃の片方をユリィへと手渡し、ひとまず二人は中央へと通してもらう。一応、この宴会は主催者はバルフレアになっている。名目としてはユニオンマスターが高ランクの冒険者達を招いた宴会というわけだ。
「にしても、相変わらず盛況だな」
「まな……ほら……ユリィも」
「ととと……サンキュ」
「どもー」
とりあえず到着したのだから、とバルフレアが注いだ酒をカイトとユリィが一気に飲み干す。そうして二人が一杯飲み干した所で、改めてバルフレアが口を開いた。
「で。お約束の物は?」
「あっはははは。わかってるって……ほら! てめぇら! ちょっと中央空けろ! 主役の登場だ!」
「おっと!」
「さっすがは大将! 期待してますぜぇ!」
「おらおら、てめぇら! 主役の登場だ! 場を空けな!」
改めて立ち上がったカイトの声を受けて、その場の冒険者達が声を上げる。そうして必要な分だけのスペースが空けられた所で、カイトは今回の宴会の為に持って来た酒樽やら酒瓶やらを取り出した。
「おら! どうだ! まだまだあるぜ!」
「おぉ!?」
「今年は豪勢だな!」
「さっすがぁ!」
「はい、もっともっと! ほら、皆さんご一緒にぃ!」
どうやら良い塩梅に酒が入っているからか、カイトが延々取り出す何十本もの酒にテンションが上がっているらしい。彼の古馴染みの冒険者達がやんややんやと囃し立てる。そうして、異空間から酒瓶を取り出し続けること、暫く。今回提供するつもりで持って来た全てを、カイトは床に並べてみせた。
「こんだけありゃ、いくらてめぇらでも満足だろ!」
「「「おぉおおおおお!」」」
おそらく擬音を敢えて付けるのであればどぉん、という様な感じで、カイトは世界中――この場合は地球とエネフィアの両方――から取り寄せた各種の酒を見せ付ける。割合としては半々という塩梅だろう。と、そんな彼に古馴染みの一人が問いかけた。
「すっげぇ! こんなあんのか!? 何本だ!?」
「百。樽も瓶も含めで、百本。勇者の飲めるもんなら全部飲み干してみやがれセットだ」
「「「おぉおおお……」」」
どんっ、という効果音でも付きそうなカイトの断言に、古馴染み達が思わず感嘆の声を漏らす。そんな光景の中、バルフレアは別の物に気が付いたらしい。一気に目を輝かせた。
「うぉー……すげぇ……この文字……似たのも見たこと無いな……」
やはり冒険者だからだろう。バルフレアは見たことのない言語が書かれた酒に心躍らせている様子だった。とはいえ、そんな彼はすぐに『撤去』される事になる。
「おい、バルフレア! 邪魔だ!」
「そうだそうだ! ほら、主役が見えねぇだろ!」
「あ、おい! 今蹴った奴誰だ!」
「あははは……はーい、皆さん。とりあえずこっちの瓶は一旦置いといて。急いでグラス飲み干してくださいねー」
蹴っ飛ばされ追いやられたバルフレアを笑いながら、カイトはひとまず古馴染み達に指示を出す。そんな彼の言葉に古馴染み達は一斉に酒を一気飲みして、まるで勲章の様に空のグラスを掲げてみせた。
「おら! まだまだ行けるぜ!」
「ふぅ! このために抑えてたんだから、さっさとしてよ!」
「こっちなんてこのために今日一滴も飲まず我慢してたんだからな! ほら、さっさと開けてくれ! 待ってらんねぇよ!」
「うっしゃ……じゃあ、ここは一本締めで行くかぁ!」
空になったグラスを掲げる古馴染み達に向けて、カイトが声を上げる。そうして、ユリィが浮かび上がって腕を広げた。
「さぁ、皆さんご一緒に!」
「「「よぉおおおお……!」」」
ぱんっ。ユリィの合図に合わせて、冒険者達が手を鳴らす。そしてそれに合わせて、カイトが酒樽の蓋を叩き割った。そうして、彼が声を上げる。
「さぁ、並べ並べ! 今逃すと次は来年の奴も出んぞ!」
「おっしゃ!」
「おい、並べよ! ユリィ! とりあえず整列させろ!」
「もうやってまーす! アイナー! 手伝ってー!」
やはりさすがは冒険者。目的が一致すると抜群の連携を見せるらしい。地球の酒を前にして、一気に統率の取れた動きを見せて数列に並ぶ。
「おい! 先駆けは無しだぞ!」
「ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」
「お前のちょっとだけは野郎のちょっとだけ並に信用できねぇよ!」
やはり誰も彼もが待ちわびていた、という所なのだろう。騒々しい様子で、酒が全員へと行き渡る。そうして全員に行き渡ったのを見た所で、カイトが口を開く。
「よっしゃ……全員、行き渡ったな!? アイナ達は!」
「あ、はい! 頂いてます!」
流石にこの宴会でまでアイナディスも堅苦しい事は言うつもりはないらしい。彼女も酒を入れている様子だった。そうして配膳を手伝ってくれた者たちにまで酒が行き渡ったのを見て、カイトがバルフレアを見た。
「良し……バルフレア」
「お前がやってくれよ。俺は開始でやったし」
「あいよ……じゃあ、全員……オレ達の新たな冒険に!」
「「「冒険に! そして、勇者カイトに! 乾杯!」」」
カイトの音頭と共に、冒険者達が盃を鳴らして酒を一気の飲み干していく。そうしてそこからは、先程までと同じく盛大な宴会だ。というわけで、立っていたカイトもひとまずその場に腰掛けて、近くの者たちと飲み交わす事にした。
「はぁ……あ、アイナ。改めて助かった」
「あ、いえ。お役に立てたなら何よりです」
カイトの改めての感謝に、アイナディスが笑って首を振る。ここらの礼儀正しい所が、アイナディスには高評価だった。とまぁ、それはさておき。やはり彼は久方ぶりだからか、以前の大陸間会議の時には居なかった面子などが集まり話の中心になっていた。
「ってことは、クオン達はまだなのか」
「そーそー。ま、この宴会だって明確な開始時間決まってるわけでもねぇしな。来た奴はそこで開始」
「相変わらず超が付くぐらいいい加減だよねー」
「私ら冒険者がいい加減じゃない事あった?」
「無いねー」
古馴染み達の言葉に、ユリィが楽しげに笑う。そんな彼女らの言葉に、カイトが口を挟んだ。
「おいおい。アイナをお前らと一緒にすんなよ」
「えー。絶対アイナも裏ではサボってるって」
「してません!」
「いやいや! そうやって声を荒げるあたり、案外……」
「えー! でもねぇね」
「あ、こら! ソレイユ!」
やはり何だかんだアイナディスも冒険者らしい。冒険者達の会話に普通に入れていた。
「そういえば、カイト。あんたどうなの?」
「何が」
「子供。何人か産ませた?」
「お前はオレを何だと思ってんだ!」
何時もの事と言えば何時もの事と言えるやっかみに、カイトが声を荒げる。とはいえ、やはりここらで何時もと違うのは、ここが冒険者達の集まりだという所だろう。発言者は女性冒険者だった。というわけで、そんな彼女はアイナディスへと向いた。
「いやー、だって私らをしてアイナにまで手を出すとは思わんかった。さすが性豪」
「うるせぇよ。てかなんでてめぇらまで知ってんだよ。てか、それだったらお前がガキ産んだってのが、オレにゃ心臓飛び出るぐらいびっくりだわ」
「どこで聞いたし」
「有名過ぎるわ。いくらオレが三百年留守にしようと、お前のガキが新聞載りゃわかる。実際、気付いた瞬間は紅茶吹いたけどな」
三百年も経過しようというのだ。かつては独身だった者でも結婚し子供も居る様子だった。と言っても、すでに死んだ者も居るのだから何をか言わんやだろう。
「いやー、あれが良い男でさぁ……って、そうじゃなくて。クズハちゃん居る手前、アイナに手は出さんと思ってたわ」
「というか、ソレイユにも手出したでしょ、あんた」
「吊し上げ食らう気はねぇぞー」
基本、カイトも酒を飲んでいるので酔っている。なので対応はかなりおざなりだった。
「いや、違う違う。あ、何? ソレイユー」
「何々ー?」
「アイナのあれ、言ったー?」
「どれー?」
「私……? 何かありましたっけ……」
女性冒険者の言葉に、ソレイユが首を傾げる。それに、アイナディスもまた首を傾げた。とはいえ、わからないのは当人ぐらいらしい。他は凡そ今ので理解したようだ。
「あー……あれか。」
「あれはマジで百年に一度レベルの驚愕の事件だったなー」
「あぁ、思い出した思い出した。あの後の総会でやりすぎて、何人か黒焦げなってたっけ」
「「……あ」」
どうやら周囲の声で、ソレイユとアイナディスは何事か理解したらしい。が、反応は真っ二つだ。ソレイユは非常に楽しげで、アイナディスはゆでダコの様に真っ赤になっていた。というわけで、この機を逃すまいと即座にソレイユがカイトへと駆け寄っていく。
「にぃ! ちょっとお話が!」
「ソレイユ!」
「やだねー!」
やはりさすがはランクSでも最高位の弓兵と言われるだけの事はあるソレイユだろう。身体能力もずば抜けたもので、タックル紛いの動きでカイトへの接近を阻止せんとしたアイナディスを軽やかにすり抜けていた。が、一方のアイナディスは近接戦闘の名手だ。故に、その動きはソレイユの上を行っていた。
「させません!」
「ひゃっ! あ、ねぇね! それ卑怯ー! 契約者の力はそんなものに使っちゃだめなんだよ!?」
「問題ありません!」
どうやら久方ぶりに公私混同かつ我を忘れているらしいアイナディスは、力を開放した証となる銀髪に変貌していた。が、そもそも。いたずらを思い付けばその彼女の頭の一歩先を行くのが、ソレイユである。故にアイナディスはソレイユの指先から非常に細い糸が伸びている事に気が付いた。
「ん……? これは……っ!」
「いぇい」
「任せた!」
「任せられた!」
「あはは」
カイトはソレイユの言葉に応じたユリィに楽しげに笑う。何時もの事と気にしなかったらしい。そんな彼に、ユリィが語る。
「実はね。アイナ。一回隠し子騒動起きてるの。カイトが帰った後すぐに」
「ふぇ!?」
あのアイナに、隠し子騒動。ユリィの暴露にカイトは思わず素っ頓狂な声を上げる。とはいえ、そもそも一つ彼は思い出すべきだろう。その相手がこの流れなら誰か、という事をだ。故に、ユリィが楽しげに明言する。
「あ、お相手カイトだよ?」
「オレ!? いや、普通に考えりゃこの流れはオレか」
「い、いえ! その! 私としても悪意があったとかそういうわけじゃなくてですね! ただちょっと風邪引いたと言いますか、色々と……そう! 色々とあったんです! というか、あれは検査機と医者が悪いんです! 私に罪は無いです!」
一瞬は驚いたものの物の道理を考えて当然か、と理解したカイトに対して、アイナディスが盛大に真っ赤になりしどろもどろに悪意が無い事を明言する。
どうやら事実らしいのだが、自分で暴露してしまっていた。そして三百年前に起きた隠し子騒動の際も、この様に自爆したらしかった。何だかんだ彼女はうっかり癖がある様子だった。
「あの当時のアイナディスは面白かったよなー」
「そーそー。学芸会の風紀委員長様が妊娠発覚だものねー。思いっきり慌てふためいてて」
「まー、全員その時点でカイトか、って即座に理解したけどな」
「「「そーそー」」」
「全員、オレへの信頼度なさすぎません!?」
「いや、これは高いんじゃないかな……」
どうやらアイナディスのお相手は誰か、と全員探す事はなかったらしい。この騒動はカイトを知る誰しもがアイナディスの妊娠には一瞬は驚くも、一転即座に納得もしていたらしかった。カイトならあり得る、というか絶対にやってる、と。
が、そんなカイト当人はというと、そんな古馴染み達の反応に声を荒げていた。と、そんな騒動が起きたわけであるが、少し離れた所でざわめきが上がる。
「あら? あ、皆もう始めてる? というか、何事?」
「あ、クオン! 良い所に! ささっ! とりあえず駆けつけ三杯!」
「? 珍しいわね、アイナがお酒勧めるなんて……」
真っ赤になったアイナディスに酒を勧められ、クオンが首を傾げる。そうして、クオンらが来た事により一旦はこの話題は終了になり、改めて<<熾天の剣>>の面々を加えて宴会は続いていくのだった。
お読み頂きありがとうございました。




