第1927話 ユニオン総会 ――工房にて――
ユニオン総会の裏で行われていた冒険部と<<魔術師の工房>>の会談。その冒険部側の代表者として参加していたティナよりの進言で、カイトは<<魔術師の工房>>ギルドマスターのフィオとの間で会談を持つ事になっていた。
そうして<<魔術師の工房>>の『リーナイト』における拠点の最上階にあるフィオの居室にて会談は開始されたのであるが、そこで判明したのはなんと彼女がティナの再従姉妹であるという衝撃の事実であった。そんな彼女の提案を受けて、ティナは当主として就任したエンテシア家の魔女達の事を調べる事になっていた。
「はぁ……余もエンテシアの魔女じゃと言われればなんとも反論出来ぬ事であるが。エンテシアの魔女を探さねばならぬとは……はぁ。所詮他人事と思うておったらまさかこうなるとはのう……」
今までティナにとってエンテシア家は他所だ。故にエンテシアの魔女と呼ばれる者たちについてはそういう優れた魔女達が居た、という事で一技術者としての興味はあったものの、それだけに過ぎなかった。
が、今は違う。彼女こそそのエンテシアの魔女の当主にして、彼女自身もそのエンテシアの魔女だ。否が応でも関わらざるを得なかった。というわけで、それに呆れた彼女は改めてリストを見ながらフィオへと問いかける。
「で、このエンテシア以外の者たちについては何じゃ。エンテシアの魔女についてはまぁ、余も探さねばなるまい。なにせ一族故な……ってか、待った」
「どうかして?」
「何故お主余がエンテシア家当主である事に驚かぬ」
「ああ、お祖母様が来たのよ。で、貴女の近況をね。流石に私も驚いたわ……何が一番驚いたか、と言えばお祖母様が見付かった事だけれど」
「なるほどのう。ま、リル殿であれば不思議はないか」
やはりそういう所か。ティナはフィオから語られた内容に、納得を示す。彼女についてはカイトもティナも凡そ全ての行動を許可しており、これについては皇国も同意を示している。
故に彼女が誰にカイト達の正体を教えるのか、などについては完全に彼女の裁量で行う事が出来るのだ。これは彼女の才覚と知性が到底自分達の及ばぬものであり、同時に彼女自身の性格が独特である事があっての事だった。
「とはいえ……ふむ。そうなると中々に面倒じゃのう。叔母上に話聞いておくかのう……」
エンテシアの魔女が見付からない事はティナからしても問題は問題だ。故にやるしかない、と決めたティナは同じくエンテシアの魔女にして自身の叔母であるユスティエルに話を聞く事にしたらしい。と、そんな彼女はふと、シェロウを見る。
「そういや、お主。お主は今エンテシアの魔女達が何をしておるかは知らん……な?」
『流石に私も七百年眠っておりました故。こればかりは如何ともし難いものが。とはいえ、このリストにある者の内、大半を私は見知っております。そしてその子とて、会えばわかるでしょう』
大半は。シェロウはそう述べる。これには理由が勿論あり、フィオの様に自分が知っている者の娘が居たからだ。なお、エンテシアの魔女という様に、魔女族は女性のみだ。故にティナが探すのは女性だけだ。なので母が魔女であっても男の場合はエンテシアの魔女ではない為、彼女が探す必要はなかった。無論、リストにもない。
「ふむ……であれば、お主にはそちらの探索に協力してもらうぞ」
『ええ。久方ぶりに会えるのが楽しみです』
「余は若干不安じゃがのう……」
どう考えても自分の一族がまともなはずがない。ティナはそれを思い、ため息を吐いた。とはいえ、そんな彼女は一転して気を取り直し、改めて本題に戻る。
「で、改めて。エンテシアの魔女以外の者たちは何じゃ?」
「そちらは、私の話がしたい相手。何人か貴女なら見覚えがあるのではないかしら」
「ふむ……」
フィオに言われ、ティナは改めてリストの名前を確認する。すると、エンテシアの名を冠していない魔女以外の魔女の数人に見覚えがあった。
「む……こちらは宝石魔術の大家として資料を読んだ事があるのう。こちらは……魔道具の作成でかなり名を馳せた者か。魔女ではない者も数名おるが……」
「ええ。大半が私の分野ね」
「つまり、ついでか」
「どうせ魔女を探すんだもの」
楽しげに、フィオが笑う。どうせ探す以上、ついでに情報が手に入れば儲け物。そんな考えだった。
「ま、構わんよ。数人は知っとるしな」
「あら……話が早いわね」
「伊達に余とてマクダウェル家の女ではないわ。特にエルフの装飾師になると、いくら隠者でも普通にクズハには挨拶に来おるからのう」
これは種族としての性質だった。エルフ達は基本排他的だが、同時に礼は尽くしてくれる。そして同族には普通に接してくれる。
なのでクズハと特例でカイトには普通に挨拶に来るのであった。結果、隠者であろうとマクダウェル家は掴む事が出来るのである。
「やっぱり。思った通りね」
「ま、物の道理故な……で、それは兎も角。これは依頼であろう?」
「勿論。きちんと報酬は支払うわ」
言うまでもないことであるが、ティナが当主の職務として掴まねばならないのはエンテシアの魔女達だけだ。それ以外は探す必要がない。
故に、それは依頼と見做せた。であれば、そこは八大ギルドだろうと、否、八大ギルドであればこそ、報酬を支払わねばならなかった。
「<<魔術師の工房>>への招待状……これでどうかしら」
「ほぅ……」
フィオの出した報酬に、カイトは僅かに片眉を上げる。招待状と言っても、これは別にギルドに入ったり何かする為の招待状ではない。
これはここがどこで何かを理解すれば、わかろうものだ。しかしカイトは認識の齟齬を避けるべく、一応明確にしておく事にした。
「<<魔術師の工房>>のギルドホームに入る為の招待状……で間違いは?」
「無論よ。それ以外の何かあって? 確か一つ保有していたとは思うのだけど」
「一応、確認だ」
わかってはいるだろうが、どこか試すようなフィオの言葉に、カイトもまた楽しげに笑って明言する。そうして、そんな彼が口を開く。
「ま、持っていると言ってもそれは三百年前ので、尚且つオレのじゃない。公的にもう一つ欲しいのは事実だ」
「でしょう? ウチの招待状……十分お釣りが来ると思うわ」
「<<魔術師の工房>>のギルドホームだけは、まともに入ろうとして入れるもんじゃないからな。何より、関係者以外お断りだし」
楽しげに笑うフィオに、カイトはどこか困った様に笑う。とまぁ、そういうわけらしい。なのでこの招待状はあくまでもギルドホームに入る為の鍵の様な物で、あの結界を正規の手段で通り抜ける為の物と考えれば良い。
「そも、<<魔術師の工房>>は魔術師の工房の集合体みたいなものじゃからのう。招かれねば入れんのは道理じゃな」
「だからって一般人やら依頼人やらが来る可能性は考えんかね」
「一見さんはお断りさせて頂いてるわ」
カイトとティナの会話に、フィオが楽しげに割って入る。とはいえ、<<魔術師の工房>>は基本的にティナが言う通り魔術師達の工房の集合体だ。
なので基本的にはこの様に実験やらの影響で空間が歪んでいるし、結界が外的に対応するべく張り巡らされている。が、やはり入る必要がある者は居るのだ。というわけで、それに対応するのがこの招待状なのであった。そんな三人にユリィが問いかけた。
「ま、それはともかくとしてさ……ウチの近所の<<魔術師の工房>>の拠点ってどこだっけ」
「マクダウェル領に支部は無いわ。ウチはあまり積極的に支部を出してないもの」
「まぁ、八大ギルドで支部をいくつも持ってるのは、ブラックスミスは別にして<<暁>>と<<森の小人>>ぐらいなもんだろ。前者はおっさんの方針から。後者はエルフ達やハーフリング達が依頼するのに、って必要に駆られてだ」
フィオの返答に対して、カイトは特に気にした様子はなかった。彼の言う通り、八大ギルドだからと支部をいくつも持っているわけではない。支部を持たないギルドは普通にあった。
というより、クオン率いる<<熾天の剣>>なぞその筆頭株だろう。なお、一応念の為なのだが、数えるのが面倒なほど支部を持っていないだけであって<<天翔る冒険者>>にせよ<<魔術師の工房>>にせよ、一つ二つなら支部を持っている。
「そうね……ああ、それで貴方達の近くだったら……ルッカ。リストを」
「はい」
「えっと……あぁ、リデル領ね。交易品が手に入れやすいから、置かせて貰っているわ」
ルッカから支部のリストが書かれた書類を受け取って、フィオがカイト達に近い<<魔術師の工房>>の支部について言及する。
まぁ、確かにマクダウェル領には<<暁>>の他国における最大支部もあるし、<<熾天の剣>>の拠点も一応所属はマクスウェルになっている。あまり近くに置きすぎても揉め事の要因となるだけだろう。
「そういえば。ふと思ったんだが……ここって工房なのか? それともホテルなのか? 昔はここまでぶっ飛んでなかった気がするんだが……」
「基本は工房よ。ウチ、知っての通りユニオンに薬も卸してるから……」
カイトの問いかけに対して、フィオがユニオンでは一般的に知られている事を明言する。当然であるが、冒険者が使う様な薬だ。一般的には使われない。基本的には使う必要がないからだ。
そして無いなら自分達の物は自分たちで用意するのが道理なのであるが、誰もが作れるわけがない。というわけで、基本的には一括で<<魔術師の工房>>が作ってくれるのだ。
「特例的にこの『リーナイト』にも拠点があるの。何かがあって本部に回復薬を卸せる様に、ね」
「それは知ってる……これでも三百年前には来てたからな。三百年前から何度かの改修で、工房化したわけか?」
「そうなるわね。私も覚えている限り、三百年前にはまだ普通のホテルに近かったのだけれど……勿論、それでも結界はあったそうだけどもね」
「だから、招待状を持ってた」
フィオの言葉にカイトは笑う。どうやら三百年前にはここまで工房に近い状態ではなかったらしい。というわけで、この現状に疑問を持っていたようだ。
「そうね、先々代からそう聞いてるわ……で、三百年で往来が自由になって来たから、色々としてると工房になってしまったのよ。元々は単なる薬品の精錬所だったのだけどもね」
「ま、そこらはそちらにとっちゃよくあることだろ」
カイトにしてみれば自分の所の技術者達がギルドを結成している様なものだ。故に彼としても特に驚くべき事はなかったらしい。そうして、彼らはその後暫くの間どういう形でエンテシアの魔女を探索していくか、それ以外の魔女達についてはどうするか、など様々な事を話し合う事になるのだった。
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