第1922話 ユニオン総会 ――第四幕――
ユニオン全体の方針や情報交換が行われるユニオン総会。そんな総会の最初の議題は大陸間同盟軍との関わり方だった。そんな会議の中、カイトは自分たちの身の振り方に加えて自身がエンテシア皇国公爵である事から、ギルドの動き方を知り合いのギルドから調査を行っていた。そうして調査を終えて少し。彼は改めて同盟の所へと戻っていた。
「と言う感じか」
「ふーん……まぁ、ウチが聞いた所も似たような所かなー」
カイトの言葉に、エルーシャがほぼほぼ興味なさげにそう返答する。ここはそもそも頭に関する事はランが考える事になっている。なので彼女はその結論やその考え方を聞くだけだ。とはいえ、彼女は直感に優れている。なので先の話の様に、時折有益な事を言ってくれるので、カイトとしても話をしておくのは悪い話ではなかった。
「でもま……兎にも角にも基本是々非々が一番良いんじゃない? 何が何でも協力しないといけない、って所は無いだろうし、逆に何がなんでも協力したくない、って所は少ないし」
「実際、そんな所だろうなぁ……で、セレスはどうなんだ?」
「私たちは所詮、外の者ですので……あまり安易に関わるつもりは無いです。が、降りかかる火の粉があるのであれば、振り払います」
「妥当か。それで考えれば、オレがこの判断をしているのが逆に可怪しいか」
セレスティアの返答に、カイトは少しだけ苦笑を浮かべる。実際、普通に考えればセレスティアの判断の方が正しい。なにせカイトもセレスティアもどちらもこの世界の者ではない。基本的に他世界の者が他世界の戦いに一個人の判断で関わるべきではない、というのは政治的に正しい判断だろう。
どちらが正しいか、というのがわからないからだ。そして実際、彼女らが意図的な召喚がなされたのかそれとも事故なのかはカイトにもわからない。なので彼女らの様に、一定の距離を取るというこのスタンスは正しいだろう。と、そんな事をしていると、気付けば時間が経過していたようだ。散っていた同盟のギルドマスターたちも戻ってきていた。
「……まぁ、結論としては変わらないか」
「そりゃそうだ。お前さんもわかってるだろ? 同じ様に俺達だって状況はわかってる。が、お上から頭ごなしに命令されるのが嫌ってだけだ」
「ま、そりゃそうか」
カイトは馴染みのギルドマスターの言葉に笑って頷いた。先に彼自身も言っていたが、結論として変わる事はない。実際、同盟と言っても実際は寄り合い所帯。単に万が一の際に揉めない様にしたり、とするだけのものだ。バーンタイン率いる<<暁>>の様に強固な同盟ではないのだ。
なので統一した意見を持たず、是々非々に各個が自分の判断を行う、というのが一番良い結論だった。そしてこれはよほど上下関係が明白になっていない限り、大半のギルド同盟がそうだ。故に情報収集に散ったギルドマスター達が得た所でも是々非々が趨勢として大勢を占めている、というらしかった。
「良し……では、我々の同盟としては是々非々に応ずる、という事で。異論は……無さそうですね」
「異論は無いな」
「そもそも最初の時点でそうだった、ちゃぁ、そうだったからな」
苦笑したカイトの言葉に、他のギルドマスター達も同じ顔で笑う。基本的にここで意見を出す様なギルドマスターは知恵者としてそれなりには名を馳せている。なので最初からこの結論で合致していた。というわけで、カイト達は自分達の意見をこれとして提出し、他のギルドが結論を出すのを待つ事にするのだった。
さて、カイト達が結論を出して少し。空いた時間で更に情報収集を行ったわけであるが、それもそこそこで最初の場所に戻ってユニオンとしての統一した意見を聞いていた。
『さて……それで意見を募ったわけだが。一通り見たが、大凡は予想通りか』
議論の時間が終わった事で、バルフレアが声を発する。そしてこの議題はユニオンに所属する全てのギルドが最も重要視していたものだ。なのでこの議題では大半のギルドが真面目な議論を交わしており、同じ様に結論を聞くのもかなり真剣味があった。当然だろう。この議題だけは自分達の仕事に関わるからだ。
『基本的なユニオンの方針としては、各ギルドが好きに行動してくれ、って所だ。が、当然の話として奴らに与するのはご法度。俺達は専門に関わらず、全員が裏ギルドじゃない。正規の冒険者だって事は忘れないでくれ』
結局、こうなるか。カイトはバルフレアの言葉を聞きながら、ユニオンとしての方針に納得を示す。彼とてそもそも全面的な協力が貰えるとは露とも思っていない。
が、少なくとも協力しようという姿勢がある、というだけで十分だし、何よりこの是々非々で対応してくれ、というのはわかっているだろうが常識的な判断をしろよ、という事でもある。軍事行動に加わる必要はないが、一般市民に被害が出そうな場合は率先して動けよ、というわけだ。そうして彼の結果読み上げがあった後、レヴィが口を開いた。
『では、この議題については以上となる。基本的な方針としてはユニオンマスター・バルフレアより話があった通り、是々非々で応じてくれ。が、ユニオンの方針として、奴らに与する事はご法度。発覚次第、即座の除名処分となる。また、依頼人やその近辺、もしくは任務の最中に奴らの影が見えた場合、即座に近隣のユニオン支部に報告とし、各支部の支部長はそれをユニオン本部、ないしは大陸間同盟軍司令部に連絡。追って、指示を待つ様に。この間、何か金銭面・任務達成での不利益や依頼人との交渉に不都合が生ずる場合、その旨もユニオンへ申し出ろ。依頼人との間にはユニオンが入り、不利益を被った場合はユニオンが一時的な補填を行い、別途対応を協議する』
『ただし、わかっているだろうがもし勝手な行動をして国や依頼人に不利益が出た場合、そっちは自分達の判断で動いたって事で一切の補填は無しだ。そこは何時もと変わらねぇから、気をつけろよ』
レヴィの説明に続けて、バルフレアが当然といえば当然の事を告げる。依頼の進行を停止させるのはあくまでもユニオンからの指示となる。なのでその補填は当然としてなされる物だ。
が、同時にこれは要請なのであって、各冒険者に指示に従う義務はない。が、それだと依頼を続行した方が得と考えられて、公益性を損なう場合がある。勿論、これが虚偽の報告だった場合は追徴課税に似た形で罰金が取られる事になるので、きちんと調査はされる。が、一時停止出来るぐらいは保証してくれるのであった。と、そんなまともといえばまともな対応を聞いて、瞬が小さく口を開いた。
「えらくまとも、というかなんというか……まっとうな判断をするんだな。冒険者だから、もっと自己責任論が多いかと思っていた」
「そりゃ、自己責任はある程度はあるさ。特に依頼人が奴らだった場合、とかな。それは調査が足りなかった、という事で保証もある程度になっちまう。冒険者が依頼を受ける場合の鉄則として、事前調査は行っているものとする、というのがあるからな」
「骨折り損のくたびれ儲け、か」
「ま、実際に動いちまったらそうなるがな」
瞬の言葉に、カイトは僅かに笑う。実際、これはどこまで依頼が進んだか、に応じて掛けた費用や労力が変わってくる。なので本来はそれに見合った保証がされるべきだろうが、それは流石にユニオンとしてもコストの関係から出来なかった。
「基本的に依頼人になりすました場合は悪意のある依頼として事前調査の段階でわかるもの、というのがユニオンの見解だ。奴らだからわからなかった、というのは流石に通用させられん……実際、そうなんだが」
なにせ各国内部の幹部に成りすまされて、大いにかき乱されたのだ。ひどいものだと百年単位で潜伏されてしまっていた国だってある。そんな状況が起きる相手だというのに、予め依頼人が奴らだと見抜け、というのは些か酷だろう。が、特別視出来ない以上は仕方がない事だった。と、そんな話を聞いて、瞬がふとした疑問を得た。
「……それなら依頼を仲介しているユニオンにもある程度の責任があるんじゃないのか?」
「だから、保証するんだろ? 全額じゃないのはあくまでも仲介人だからだ。が、依頼全てを精査して裏取り、なんぞユニオンが巨大組織だろうと出来るもんでもない。あくまでも仲介人。依頼を受けるか否か、ってのは冒険者の胸三寸次第だ」
「あ……そうか。そういえばそうだな」
基本的なユニオンの運営資金だが、これは冒険者達が依頼を受けるにあたって支払われる報酬の中から仲介料という形で支払われている。なのでユニオンもある程度の保証は行える様な体制を取っていた。と、そんな納得を示した瞬へと、ユリィが更に教えてくれた。
「それに……完全に自己責任論にしちゃうと、動いた方が良いって輩が居るし。それは流石に困るでしょ?」
「まぁ……それはそうだな。なら、金を払って止めさせた方が良いのか」
「そういうこと。金が払われるのなら、誰だって止まるでしょ。自分達の評判だって上がるし、次の依頼に繋げられるからね。特にこの事態だと、各国共に殊更奴らとのつながりがあるかないかを気にしてる。きちんと依頼人が奴らだった場合は止まりますよ、と言ってくれた方が貴族達としても安心なの」
「なるほどな……」
貴族や政治家達為政者達が何より困るのは、自分達が<<死魔将>>とつながってしまう事だ。各国共にその恐怖は根付いており、万が一繋がりがあった場合は即座に吊し上げを食らう事になる。
まだウルシア大陸ならまだマシだろうが、エネシア大陸なら最悪即座に民衆からの蜂起さえ喰らいかねない。公益性に対する理解がある冒険者、と示せるだけで一つ上の依頼人獲得に繋がれるのであった。
「ま、とりあえず……これで良いだろう」
ひとまず、落ち着ける所に落ち着けたか。カイトはユニオンへの協力が妥当な所で落ち着いた事に安堵を示す。ここで同盟軍が怖かったのは、勝手に独自の方針を取られる事だ。
そして同盟軍に所属する国々だって冒険者を指揮下に加えられるとは露とも思っていない。それが出来るのはカイトただ一人であり、それが出来るからこその勇者だ。なので是々非々に応じてくれる、というだけで十分なのであった。
「良いのか?」
「わからないのか? 是々非々で応ずる、って意味の本当の所が」
「……どういう事だ?」
是々非々で応ずる、の本当の意味。それを問われて、瞬が首をかしげる。これにカイトは楽しげだった。そんな彼に、ユリィが教えてくれた。
「逆に言えば、ウチは好きにやるからそっちも好きにやって良い、って事だよ」
「……だからなんなんだ?」
「貴族と懇意にしてる所が貴族からの依頼で軍に加わってもどこも非難しない、って事。それはお前らの判断だから好きにしろ。その代わり、こっちが加わらないでも文句は言うなよ、ってわけ。つまり、懇意にしてる所が共同歩調を取って動いても問題視されないわけ。ユニオンの方針には従ってるからね」
「なるほど……」
確かにこれなら、ユニオンの方針に従っている。是々非々で応じろ。つまりは依頼人の要請に応じて冒険者ギルドとして大陸間同盟軍と共同歩調を取っている、と言っても問題がないのだ。
それを快く思わないギルドや冒険者が居たとて、ユニオンの方針に従っている以上文句を言えばそれは悪いのは言った方になる。各冒険者が是々非々で応じる以上、ユニオンとしてはユニオンの指示に従って是々非々で応じたと判断するだけだからだ。揉めた場合、ユニオンが仲介に入って守る事だって出来た。そしてここまで説明されれば、瞬にも大凡理解できた。
「それにこれなら、常識的な冒険者達は大陸間同盟軍の依頼も受けられるわけか。あくまでも依頼として」
「そういうことだ。ウチもいつもどおりこれで動ける」
結局、こんな議論を交わしたのは大半のギルドが今まで通り動く為。大規模に国や同盟軍からの依頼やより強固な連携が必要になる案件が増えるので、国からの依頼を快く思わないギルドからの攻撃を避ける為だ。ユニオンとしての公式としての意見が必要なのは、それ故だった。そうして、カイトはなんとか妥当な所で終わった話に安堵して、少しだけ肩の力を抜くのだった。
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