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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第80章 ユニオン総会編

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1949/3947

第1920話 ユニオン総会 ――第二幕――

 遂に始まったユニオン総会。その最初の議題は、シアによる大陸間同盟軍への助力の要請に関する事だった。とはいえ、これについては予めカイトが八大ギルドの過半数に根回しを行っていた事により、八大ギルドは基本的な大陸間同盟軍への助力と条件付きでの指揮系統への参加を明言する事になっていた。

 そうして、その合意の後。バルフレアの号令により、議論はユニオン全体へと波及する事になる。そんな中、カイトはひとまずは昇降機を動かしてギルド同盟の話し合いを行う事になっていた。


「ウチはそもそもマクダウェル家とは懇意にしているからな。その意味では、指揮系統に加わっても問題はない。無論、ユニオンとして決定があるのならそちらに従うが」

「私も基本は異論無いわねー。というか、私の場合、実家が実家だからその点は加味しないとどうしようもないし」


 カイトの言葉に続けて、エルーシャがため息を吐いた。実家から飛び出した彼女であるが、別に実家が嫌いなわけではない。更に言うとカイトがこう言うだろう、というのを予めランから聞いていたし、彼は元々実家からお目付け役として送られている立場だ。彼の立場などを鑑みて、エルーシャもこの意見に同意したようだ。


「ふむ……まぁ、ウチも基本は異論は無いか。俺達も出身や所属の関係で指揮系統に加えられる場合はクズハ様、アウラ様の所だろうしな」


 カイトとエルーシャの言葉に、以前コロナの一件で言葉を交わした『草原の旅人プレリー・ルパサンジェ』ギルドマスターのテインが一つ頷いた。どうやら今回タウリは来なかった様子で、三十代後半ぐらいの別のサブマスターが一緒だった。そんなテインが、今度はセレスティアへと問いかける。


「で、お嬢さんの所はどう思う?」

「私はどちらでも問題は。クズハ様とは親しくさせて頂いておりますので……」


 テインの問いかけに、セレスティアは一つ明言する。こちらはカイトの采配により、定期的にクズハが呼び出して話をしている。理由は簡単で、異世界とはいえ王族だからだ。そこに支援をしておく、というのは今後もしその異世界と協議に望める際に得になるからだ。と、そんな同盟内でも知恵者と言われる者たちの言葉に対して、純粋に利益のみで参加したギルドマスターの考えは明白だった。


「俺は基本、八大と足並み揃える方が良いと思うんだが……」

「そうねぇ……基本、八大ギルドと足並み揃えた方が、おえらいさんに睨まれないで済むでしょうし。特にカイト。あんたの所、剣姫クオンに睨まれたらヤバいんじゃない?」

「んー……まぁ、確かにそれはそうだが」


 女性ギルドマスターの問いかけに、カイトは少し考えた後に頷いた。が、一転して彼は口を開く。


「それはそうなんだが、そもそもさっき剣姫クオンが言ってただろ。クズハ様の所に加えられる……即ちマクダウェル家の指揮系統に加えられるのなら、断れる道理がないって。そういう意味で言えば、ウチも同じなんだよ。最初期の頃からマクダウェル家には支援を貰っていたからな。アルとリィルの事もあるし」

「あー……そういえばお前さん、忘れがちだがエネフィア出身者じゃないのか」


 完全にこちらに馴染んでいる様に見えるし、何よりその手腕はエネフィアの並のギルドマスター以上だ。この同盟の中でも有数と言えるだろう。なので地球人という事を忘れられていたらしかった。と、そんな一同の会話を聞いて、ランが口を開いた。


「ふむ……では、基本は是々非々で応じた方が良いですか?」

「そうだなぁ……土地土地で状況は変わってくるだろうし……事情もそれぞれだろうからな」


 ランの総括に対して、カイトは同盟としてはそれが良いだろう、と言外に告げる。やはりこればかりはどうしても人それぞれなのだ。ギルド単位なら統一した意見を持てても、同盟となるとまた話は別になった。と、そんな言葉を交わす知恵者達に、エルーシャが告げた。


「……別にそもそもで今決める必要はなくない? 同盟以外にも繋がりがある所あるなら、そっちとすり合わせを行っても良いだろうし。時間、余ってそうだし」

「「「……」」」


 エルーシャの指摘に、全員が思わず目を瞬かせる。そしてこれは確かにそうだった。知恵者達は最初から結論ありきで話をしていた向きがあるし、それ以外の者たちは結論だけ受け取る気だという者も少なくない。長々話す必要もない、と結論を急いでしまったのだろう。


「……確かにな。少し情報収集してからでも遅くはないか。どうする?」

「確かに、それが良いですね。ギルド内での意見の統一も必要でしょうし」


 エルーシャの的を射た発言に対して賛同を示したカイトの提案に、ランは一つ頷いた。というわけで、外に連絡を取ったり、はたまた懇意にしてしている同盟外のギルドに連絡を取る事となり、一旦は同盟での会議は中断となった。


「……で、ウチはどうするんだ?」

「ウチとこは、方針は決まってる。そもそも結論としてはそこまで変わらないだろう。単に即断即決を避けた、というだけで」


 とりあえず同盟としては是々非々で応ずる。可能な限り国に協力もしつつ、軍の指揮系統からは一歩引いた立場だ。これは冒険部としては妥当な結論だった。


「軍から協力を求められれば応じて、逆に軍からの要請がなければ独自に動く……そもそも、有事の際の総司令官はオレだ。指揮系統を二つに分けた方が手間だ」

「そうか。そういえば、そうなるのか」


 そもそもカイトは公爵だ。なので表向きクズハとアウラがマクダウェル家全軍を統括している事になっているが、実質は彼とティナが統率している。なので冒険部としては実質的にカイトがさらに別個で保有している戦力に等しいのだ。いちいち冒険者にはギルドマスター・カイトとして出して、軍にはマクダウェル公カイトとして出した方が手間なのである。と、そんな事を理解した瞬がふと、疑問を呈した。


「それならいっそ、完全に指揮下に加わった方が良いんじゃないのか?」

「それはそれで、面倒があるんだよねー」

「それな……前の二の舞は面倒だし」


 瞬の指摘に対して、カイトもユリィも苦笑いだ。どうやら、何かあるらしい。


「ぶっちゃけると、カイトが動き難くなるから、っていうのが一番大きい。というか、全員それが嫌だから、カイトの指揮下に入る以外嫌なわけ。まぁ、カイトとは事情やら異なるけどね」

「……すごいな」

「あっはははは……自分で同盟軍作っときながら追い出されたってのは伊達じゃねぇぜ」

「……」


 そうだった。瞬は楽しげに笑うカイトの言葉に、普通ならありえない事をしてのけた――もしくはしでかしていた――事を思い出す。


「ま……実際冒険者としちゃ、かなり致命的は致命的だな。軍の指揮系統に加わるって簡単に考えるが、実際にゃそんな簡単な話じゃない。オレが本当に好例だ」

「好例っていうか、どう考えても悪例だけどね」

「言うな。この場合は好例だ」


 やっている事はどう考えてもだめな事なのだ。なのでユリィの指摘は正しくあるし、同時にカイトの指摘もまた正しくあるだろう。というわけで、カイトは笑っていた。


「兎にも角にも、軍というか大陸間同盟の指揮下に入ると勝手ができん。それが我慢できん、ってやつはものすごい多い。喩えそれが全体の利益の為、って言われてもな」

「な、なるほど……」


 確かに好例だ。瞬はカイトの言葉に、思わず笑うしか出来なかった。そもそも彼が大陸間同盟軍を追い出されたのは、言うまでもなく軍の撤退命令を完全に無視したからだ。

 無論、今からすれば結果が全てなのであの絶望的な状況下で勝利した彼は賞賛されているし、実際当時でさえ彼の追放処分は一部軍人からの反発を生んでいた。

 が、国の関わった軍である以上命令違反を見過ごせるわけがない。特に当時はまだ発足直後。重大な命令違反を創設者の一人だから、と見過ごせるわけがなかった。


「まー、同じ様に考える奴は多いでしょ。自分の譲れない物があるから、って命令ぶっちして好き勝手行動するって冒険者」

「だろうな」


 おそらく、冒険部の中にもかなりの割合でそういう冒険者が居るだろう。瞬はカイトの背を見てきていればこそ、それを理解していた。


「それに何より、カイトが動きにくいの。ほら、さっきも言ったけど軍令とかに縛られると、即応性が無くなるの。でもカイトの最大の持ち味はフットワークの軽さ。本来、公爵が動くのにどれだけ手間が掛かると思う?」

「……よくわからんな。そもそも俺は貴族じゃない」

「あはは……でも、本来カイトが出るっていうだけでものすごい人が動くの。今だってわかるでしょ? カイトが動く、っていうだけで皇国がどれだけ護衛を何人付けて、とか無駄な事考えてるのは。ティナだって常々口酸っぱく護衛をつけろ、って言ってるし、そのためのホタルとか一葉達だしね」

「あ……」


 そうか。言われてみて、瞬も理解した。そもそもカイトは最強。護衛が不要だ。が、国として、貴族としてそれで良いわけがない。だからこそ皇国は可能な限り彼の護衛を考えるし、勿論カイトも安易な襲撃を生まない為にも護衛を付ける。

 が、それだけで手間が一つ増えている。そしてカイトもそれに合わせねばならなくなる。枷になってしまうのだ。それに対して、冒険者であれば一人で動ける。即応性の高い行動が可能となるのである。


「全部が全部、公益性を考えて動くのが良い事ばかりじゃない。ある程度自由を担保した方が、結果的に公益性を高める事だってある。それで言えば、冒険者ってのはまさにその好例だ。勿論、軍として強大な戦力を自由に動かせなくなるから、その点はデメリットだが」

「それの妥協点が、お前の下と」

「そうなるな。冒険者として好きに出来るし、同時にオレという冒険者にして公爵というトップが居る事で軍と共同する事だって出来る。勿論、オレの顔を立てて軍の命令に従う事も出来るし、軍の側がオレの顔を立てて不問に付す事も可能だ」

「……待て。そこまで全員考えてたのか?」


 先程の八大ギルドの長達の発言。それはカイトが勇者カイトだからこそ、そして自分達の好きに出来るからこその言葉だと瞬は思っていた。そして事実、カイトもそれは認めている。が、その後に語られた思惑に、瞬は驚きを隠せないで居た。これに、カイトは何を当たり前な、と頷いた。


「当たり前だ。八大の長達ってのはそれが前提にあって、笑って言ってる。単に強いだけ、デカイだけ、統率が出来るだけじゃ、八大ギルドにはなれん。政治的な判断力なんかもあってはじめて、国とさえ互角にやり取り出来るギルドになれる」

「……と、遠いな……」


 おそらくこの様子だとバーンタインもそれがわかっていたのだろう。密かに彼を目標としている瞬は、改めて垣間見えた組織の長としての彼の遠さを理解して乾いた笑いがこみ上げた。と、そんな彼にカイトが告げた。


「まぁ、それが出来ない場合の妥協案が、さっきの是々非々の対応だ。結論としちゃ、八大ギルドと同じ様な結論ってわけ」

「なるほどな……ということは、ウチは基本は……何も変わらなそうなんだが」

「変わらないさ。オレが前に立てる場合はティナが裏方から公爵軍の統率をしてくれる。逆もまた然り。オレが勇者として動かねばならない時は、ティナがソラや先輩を補佐して冒険部の統率を行う。今まで通りだ」


 そもそもがカイトが公爵である関係上、冒険部では頻繁に公爵軍とは共同作戦を行っている。そしてトップが同じである以上、今までと運用が変わるわけがなかった。勿論、これで指揮系統を一緒にしてしまうとまた話は違ってくるが、そうしない、というのが現状のユニオン全体としての意見だった。


「そうか……なら、これからどうするんだ?」

「ひとまず、縁を持つギルドに少し話は聞こうとは思う」

「結論は出ているのにか?」

「それ以外がどうするか、ってのは知っておきたい。実際、オレの役目はそこもあるからな」


 シアが表立って協力の要請を行う事になり、そしてその支援をしない方が良いというのが現状カイトの立場だ。が、折角国とは引いた立場に立てているのだ。なら、国として手に入れにくい冒険者達の考えを調べておくのは今後の役に立つだろう。そうして、カイトは昇降機を動かして、馴染みの冒険者を見付けては話をする事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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