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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第80章 ユニオン総会編

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第1912話 ユニオン総会 ――長の愚痴――

 バルフレア、ユリィの二人と共に、初代ユニオンマスターであるアレグラス・リーナイトの遺した迷宮(ダンジョン)の最深部まで到達したカイト。そんな彼は宝物庫にてバルフレアから愚痴を聞かされると、そのままの流れで酒盛りに付き合わされる事になる。そうしてそのままバルフレアの愚痴を聞くと、更にカイトが来て酒盛りをしている、という事で古馴染みのギルドマスター達がやって来てささやかながらも宴会が開かれていた。


「あー! 本当にさぁ! なんとかしてやりたいのよ! でもさぁ!」

「わかった。わかったから。大の大人の男が泣くなって」


 どうやらバルフレアは最近のストレスもあって、かなり飲んだらしい。最近も昨日も飲み会をしていただろう、と言われればそうなのであるが、あれは一応言ってしまえば職務としての宴会だ。いい加減に見える彼でも相当にストレスが溜まったようだ。

 なのでカイトとの飲み会は完全にストレス発散に飲む、という所であり、気兼ねなく飲めた。結果、最近のストレスがあって相当量飲んだらしい。もう完全に明日の朝は前後不覚に陥っているだろう、というぐらいの暴走っぷりだった。


「だってさぁ……親無くして姉弟だけとかでさぁ……でもさぁ、一応俺、立場あるユニオンマスターじゃん。だからどうにもしてやれなくてさぁ……本当は俺もなんとかしてやりたいんだよ」

「わ、わかりましたから」

「うぅ……ごめんなぁ!」


 かなり引いた様子のコロナに対して、バルフレアは泣きながら頭を下げる。これは彼と単なる飲み会をする者の中でもごく一部の者は知っている事なのであるが、どうやら本来の彼は泣き上戸らしい。

 好敵手でもあるアイゼンがバルフレアとの飲み会を好まないのは、実は意外と気を使う彼なので泣きに入ったバルフレアの世話をしてしまうから、だそうである。


「はぁ……ほら、コロナも困ってるから。とりあえず一旦は頭上げて顔拭けよ」

「うぅ……」

「……」


 色々と溜まってるんだなぁ。コロナはカイトの差し出した温かいおしぼりを受け取ったバルフレアに、そう思う。


「……お疲れ、なんですね」

「ま……色々と当人もあくが強いが、同時に周囲も周囲でアクの強い奴らばっかりだからな。それを纏めあげようとすると、色々とストレスも溜まっちまうんだろう」


 うぁー、と妙な声を上げながらおしぼりで顔を拭うバルフレアに、カイトは僅かに苦笑する。こればかりは、仕方がない側面があった。魔力とは意思の力。高位の冒険者達は死地にて研磨される。故に強い魔力を持つわけであるが、強い魔力の持ち主は同時に意思の持ち主でもある。

 高位の冒険者であればあるほど、我が強いのだ。それをまとめるのだ。心労もまた、計り知れない。勿論、その中でも頂点と言われるバルフレア自身も我の強さであれば、計り知れない。が、逆説的に言えばそれだけでないと統率が出来ない、というわけなのだろう。


「はぁ……なぁ、カイトー」

「んだよ……もういい加減愚痴なら聞かねぇぞ」

「ああ、良いって良いって……なー、学校立てたいからさー。金貸してー」

「どこに立てるんだよ、次は……」


 どうやらバルフレアは酔った挙げ句に頭を下げまくった所為か、かなり酔っているらしい。どうやらカイト達の出現に伴って冒険者向けの教育をどうするべきか、と本当に非常に悩んでいる様子で、いくつかの拠点に学校を作りたい、と述べていたのである。

 なお、『リーナイト』についてはすでにバルフレア率いる<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>が出資した養成学校がある。なので『リーナイト』でない事だけは明白だった。


「ウルシア。あそこマジひどくてさ……あそこの冒険者の質が本当にヤバいんだ。あー……でもだめだ。マギーアのクソ王。あれなんとかしないと根本的な解決になんねぇんだよ……」

「そっちは冒険者にゃどうしようも出来んだろ」

「そうなんだよー。ほんと、どうにかしないと……あの国、下手すっと五年十年後にクーデター起きるって」


 どうやらウルシア王国の現状はカイトが考えていた以上に厳しいらしい。カイトもあの大陸に連れ去られ半ば奴隷として扱われていたトリンから話は聞いてはいたが、それも三十年近く昔の事だ。想像以上なのかもしれなかった。


「で、だからお前に頼むんだよ。なんとかしてくれよ、あの国さー。あの国から来た冒険者の十人に一人ぐらいが奴隷欲しい、とか言うからさー。<<暁>>の連中とマジでヤバいの。<<暁>>とウルシア出身のギルドがいくつか戦争なってんだよ……」

「そ、そりゃ……」


 大分酒が入って朦朧としているらしいが、それでもバルフレアの言葉には重要な情報がかなりあった。それ故にこそカイトも逃げるに逃げられないらしかった。何より、この状況だ。下手に自身が勇者カイトであると暴露されても困るからだ。


「だからさー。今回の総会もかなり気ぃ遣ってるんだよ。ウルシアの連中も来るからさー」

「はぁ……で、オレにどうしろって?」

「バーンタインと今度会うだろ?」

「ああ、あっちからの要請でな。会談の前に会いに行く」


 丁度数時間前にオーグダインらも話していたが、砂漠の探索に関してカイトはバーンタインから謁見の要請を受けている。これについてはカイトも相手は八大ギルドの長だし、何より関係性としてもかなり親しい間柄だ。

 故に受け入れており、会談が始まる前に瞬と共に挨拶名目で会いに行く予定だった。なお、こちらから出向くのは一応立場上の問題だ。これについてはバーンタインがしきりに頭を下げていた。


「一応、一言揉めない様にだけ言ってくれ。それだけで良い」

「まぁ、それぐらいなら良いが……言っとくが、オレも立場上ってか色々とあって奴隷制許諾する奴はぶちのめすぞ?」

「わかってる。それはわかってる。だがそれでも、だ。流石にここで戦争されちゃ、ウチが介入しないとだめだろ? 八大同士のいざこざとか面倒は避けたいんだよ」


 そもそもウルシア大陸を除く文明がある大陸にて奴隷制度が完全撤廃されているのは、カイトが動いたから、という所が大きい。一応法律上などの問題点を指摘して更に大精霊の意向なども利用して直接的に撤廃させたのは皇国だけだが、それ以外の国もカイトや皇国との関係で奴隷制度を撤廃しなければならくなった。なので彼はそれを主導した立場として、奴隷制度を認めるわけにはいかなかった。


「わかった。それなら、万が一喧嘩になりそうな場合に見かければ抑え役には徹する。それで良いな?」

「すまん! 恩に着る!」


 若干辟易しながらも応諾したカイトに、バルフレアが再度頭を下げる。まぁ、<<暁>>は世界最大のギルドで、支部は多い。傘下も含めれば構成員は総勢数万とも言われるのだ。それが戦争となると、間違いなく相手ギルドはただではすまない。

 しかも立場が立場故に仲裁する場合は、同格と言われる八大ギルドやカリンの<<粋の花園(すいのはなぞの)>>などのかなりの格を有するギルドが間に立つ必要があるだろう。

 間違いなくユニオン全体が対処しなければならない事態になるし、最悪は国家にさえ影響が出かねない。それが、ユニオンという組織だった。


「あー……えーっと……あとなんかあったっけ。お前に頼んどく事……ウルシアの事は言ったし、<<暁>>の事は今言った」


 あれは言ったし、あれは言わなくて良いし。どうやらいくつかの懸案事項が解決された事で、バルフレアは若干安心はしたらしい。何だかんだやはり彼も心労があるのだろう。そうして、カイトはその後も暫くバルフレアの愚痴を聞いて、その日はそれだけで終わる事になるのだった。




 さて、時は進んで数時間後。カイトはバルフレアを背負いながら、<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>のギルドホームへとやって来ていた。そうしてたどり着いたギルドホームでは、レヴィが待っていた。


「お前が出迎えか」

「<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>の出迎えでも期待したか?」

「まさか……ほら、お前の所のギルドマスター。部屋に運んでやってくれ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 カイトから差し出されたバルフレアを受け取って、<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>の若い冒険者が頭を下げる。そうして彼が去った後、その場にはレヴィとカイトのみが残る事になった。


「……若いな」

「<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>若手のホープだ」


 先程レヴィと共に立っていたのは、大凡十代後半から二十代前半の若者だった。それで八大の一つである<<天翔る冒険者ヴェンチャーズ・ハイロゥ>>に入れているのだ。優秀な才能を持っていると見て間違い無いのだろう。そんな彼の背を見送りながら、カイトはしばしレヴィと話し合う。


「随分とストレスを溜め込んでいたみたいだぞ」

「わかっている……が、如何ともし難い。昨今、トラブルしか起きないからな。ユニオン内部でも、ユニオンの外でも」

「それは、道理だがな」


 おそらく寄せられている依頼はかつてより遥かに多いのだろう。それに伴ってユニオンの運営そのものも忙しくなっており、その舵取りの難しさは一年前より格段に難しくなっている筈だ。バルフレアの愚痴の多さには、そこがあったと思われた。と、そうしてそんな話をした二人であるが、ふとレヴィが苦笑した。


「……それに、だ。私がユニオンに居られる時間は限られている。いつまでもはいられん」

「……バルフレアは覚えているかね。三百年前、オレがお前を紹介した時の事を」

「さてな……が、誰だって何時かは去る。私とてそうだというだけだ」


 どこか穏やかな顔で、レヴィは夜空を見上げる。この三百年、ほぼ毎日の様に見た景色だ。が、何かが邪魔だったのか、彼女はカイトと自身に飛空術を使用。ふわりと舞い上がる。そうして移動した先は、『リーナイト』の外。草原だ。秋風が少しだけ寒かったが、酒酔いで火照った身体には気持ちよかった。


「……今更、といえば今更かもしれんが」

「んー?」

「案外、長い旅路になったものだ。ここまで長逗留するつもりはなかったのだがな」


 どこか神妙な面持ちで、レヴィは夜空を見上げながらそう呟いた。そんな彼女に、カイトが問いかける。


「今更」

「まさか……私にその様な感情を期待するな。元々、決まっていた事だ。私は数百年……短ければ百年。長くとも五百年で去る、とな」

「そうだったな。今更といえば、今更だった」


 そもそも、ユニオンにレヴィを紹介したのはカイトだ。その彼だ。レヴィの事情などは誰よりも知っていた。何故顔を隠しているのか、なども全て知っている。それ故に彼も苦笑を浮かべ、同じ様に夜空を見上げる。


「どうだった? この景色は。オレは三百年で見たのは両手の指で数えられるほどしかない」

「飲むからだ、貴様は。逗留した回数であれば、それを遥かに超えるだろうに」

「気の合うやつと合えば、飲みたくもなるさ」

「はぁ……飲みすぎるなよ。その肉体。一応は人間の物がベースだ。鯨飲馬食が出来る様には出来ていない」

「ベースは、であって大半は違うさ。そうでなければ、双龍紋の開放なぞ出来ん」


 レヴィの苦言に対して、カイトは笑いながら両手を握りしめて見せる。これは彼にとってかつての戦いの代償だ。なので苦い笑いが浮かんでいたのは、仕方がない事なのだろう。というわけで、それに呆れながらもレヴィは三度、夜空を見上げる。


「……あぁ、悪くはなかった。夜空は美しくあった。蒼天に恋い焦がれ、夕暮れを愛おしみ……改めて虚ろになって見てみれば、夜空もまた美しかった」

「……あぁ、たしかに綺麗だな」


 やはり空気汚染が無いからだろう。しかもレヴィが街から離れたおかげか、街灯などの邪魔もない。ただただ綺麗な夜空だけが広がっていた。が、そんな光景に見惚れたカイトに、レヴィは一転して首を振る。


「……いや、違うな。蒼天と夕暮れの美しさを知ればこそ、この永久の闇とそこに浮かぶ星々の煌めきを美しく感じるのだろう」


 夜空を見るレヴィの言葉がどこか嬉しそうだったのは、カイトの気の所為ではなかっただろう。そうしてそんな彼女がフードを下ろした。そんな彼女の顔を見て、カイトが笑う。


「……似てるな、やっぱ」

「仕方がない。どうしても、な。まぁ、気にする奴は貴様ぐらいしかいないだろう。マジマジとあの子の顔を見た奴なぞ、天桜にはそうはおるまい」

「……灯里さんがいるんだが」

「……そこまでヤバいか」

「地球帰って思い出した。あの人、ガチやべぇわ。オレの正体見切ってたとかまずあの人にしか出来ん」


 まさに自分の天敵。カイトは灯里の事を思い出して、盛大にため息を吐いた。


「……近寄らせるなよ」

「それでも来るのがあの人なのよね」

「「……はぁ」」


 灯里の事を思い出して、二人は盛大にため息を吐いた。そうして、二人はその後は少しだけ夜空を見ながら色々な事を語り合い、それぞれの場所に帰るのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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